ちょっと待て、いろんな意味で、みんなどうしたの!?
「おはよう珠里」
「えっ?わっ、澪!?」
「それ以外何に見えんのさ」
翌朝、駅で見かけた珠里に声をかけると、彼女は驚いた声をあげて振り返り、一瞬視線を泳がせた。
「……その、澪はいつもこの時間だったっけ?」
「いや、俺バンクだからさ、仕事で」
「え?あぁ、そうなんだ。さすが澪だね」
珠里の口元が一瞬笑う。敵校のバンクを知ることができたのが嬉しいのだろう。……甘いよ、珠里。
「椿はもう動き出してるの?」
「そうね。先手必勝、今年は負けないから」
ははぁ。要するにジョーカーをもう見つけていて、『ババヌキ』のルールを知らないって事だな。椿が他校にかなわないのは、ジョーカー探しだけだから。
……鎌かけ、成功。
「そりゃあ、こっちも頑張らなきゃな」
奪うことを。
「そうね、澪がいるんだから情報戦になりそうね」
「はは、それはどうだろ」
俺は情報を操る。情報戦になるか否かは俺次第だ。
ごめんね珠里。俺は、君の命すら奪うかも知れないよ。
「澪、これからもこの電車?」
「まぁそうかな」
「……そっか。じゃあ毎日一緒に行けるのね」
……ん?可能型?
「あ、別に情報抜き出そうとか考えてる訳じゃないからね。そういうのは私得意じゃないし。だから警戒しないで。……ってちょっとぉ、なにその疑わしげな視線!」
「いや。じゃあなんでそんなに喜んでるのかなぁと」
「……そ、そんなの私の勝手じゃない。気にしなくていいから」
気になるのが人間の心理だと思うんだけどなぁ……。
まぁいいや。プイとそっぽを向く珠里に今話しかけても無駄そうな気がする。
学校につくと、俺の席に誰かいた。
いや、違うな、隣の席だ。
内気そうな、純白の髪の……
れ?
怪しく思って近づくと、内気そうな女の子はにこりと笑った。
「佐藤君?私、すぎのかなでっていいます。よろしくね」
すぎのかなで?
……杉野奏?
いや、まさか、杉野……奏?
「あのー、まさかとは思うけど、……奏?」
「うん」
うんじゃねぇよまじかよ!!
「えへ、可愛いでしょ。澪を見張ってようと思ったんだけど、登校拒否してたから今更普通の姿で登校なんてできなくて、女装しちゃった。美少女だと男の子は仲良くしてくれるもん」
うーん、確かに白い髪と紅い目と色白の肌は、男子にモテそうだ。いやだって男に見えないし。なるほど男の娘ってこういう人を言うのか。
「澪、おはよ…っ?え、誰その子。なに、彼女?」
ポンと肩を叩かれたと思ったら爆弾発言していきやがった。三笠だ。
「ちが…」
「うんっ。澪がお世話になってます」
ちょ……ええええ!?
「おおっ、いつのまに仕留めたんだよこんな可愛い子!」
「えへへ……。私病弱でずっと入院してたんですけど、ふとした拍子に知り合って、毎日お見舞いに来てくれてたんです」
ちょっと待ったぁぁ!嘘つきすぎだろ!!
「ちがっ、奏は……」
「やだあ、みんなの前でそうって呼ばないでよ〜。かなでってよんで?」
「お前ぇええ!」
「……なーんちゃって。友達ですよただの。彼氏募集中なんです。宜しくね♪」
「なんだー、びびったー」
びびったのはこっちだ全く……。三笠も奏も……。
「でも、復帰してこれたのはよかったね、杉野」
「え、こいつのこと知ってたの?」
「だって、ずっと入院でこの席空いてただろ?」
……あ、へー、そうなんだ、ふーん、そっかー……あれ、何だろうなこの汗……。
「こんなに可愛かったんだねーよろしく杉野」
「……アルビノ、驚かないんですか?」
「ん?俺そういうとこ気にしないよ」
三笠はにっと笑う。まぁ……奏が受け入れて貰えそうなのはいいこと、だよね?
いや、良いことの筈なんだけどな……。
「澪、私全然学校のことわかんないから、よろしくね」
「……全力で舌打ちしたい気分なんだけど」
奏が、ニヤリと笑って顔を寄せてきた。
「やだなぁ、君は所詮ジョーカー。ご主人様は俺なんだよ?」
なるほどコイツ鬼だ。
「あと、かなでって呼んでね、ここでは」
「……畏まりましたご主人様……」
同い年でも、紛れもなく神って訳だ……。
それにしても、女装が板についてるな。いや見た目は元々細いし白いし、言われてみればできる筈なんだけど、その発想はなかった。今までこれで修羅場を切り抜けてきたのか……。
まあ俺も変にコソコソする必要がなくて楽なんだけどね、奏が学校にいると。そろそろ世間一般における犯罪行為、要するに闇のジョーカーの特権を使わなきゃいけなくなる。無駄なところに集中力を裂きたくないんだ。
……そういえばどうして、トランプの遊戯──闇のジョーカーは警察の目を免れていられるんだ?
奏は成績優秀で、学校を休んでいたとは思えない知識量を披露した。で、「本当は澪だって──」とか言い出すから口をふさいでおいた。
不満げな顔をされたから目で説明しといたんだけど、分かってないかな。
バンクである俺は、一応毎日『王宮』に行く。
何か情報があれば提供する為に、情報を貰ったら整理する為にだ。
まあひとまず、俺に情報はない。公開できる情報は。
公開してもいいけど、違法に取ってきた情報を利用するのは基本ルール違反だから。あ、俺は別ね。
「失礼しまーす……」
中に入ると、クイーン・里谷さんが一人いた。
「あれ?みんなは?」
「三笠君はしらないけど……先輩方はまだ授業終わってないみたい」
あぁ、たぶん三笠は食堂でパン食べて来るよ。食欲旺盛…っていうか、大食いだから。
「そういえば佐藤君、あのアルビノの子……転校生でしょ?な、仲よさそうだったけど、その……彼女なの?」
またかこの質問。
「断じて違うから。ただの友達だし、お願いだから変な噂は流すなよ」
そもそもあいつ女じゃないし!!男だし!!BLは二次元だけだし!!
「なっ、流すわけないよ!!そっか、彼女じゃないのね……あんなに可愛いのに……タイプじゃないの?」
「え!?あ、いや……ホント友達だから、そもそも異性として見てなかったというか……」
「ふぅん、そうなんだ。じゃあどんな子が好き?」
「は!?いや…その…」
なんで突然!?何、俺ガールズトーク的なにかに巻き込まれてる!?
「あ、ごめんね、答えにくいよね。じゃあ、どんな髪型の子が好き?」
「う……えっ……と……髪長くて下ろしてる子……かな……?」
「そうなんだ。突然質問してごめんね。先輩方の様子見てくる」
里谷さんが部屋を出て行く。
な、何だったんだ今の……。