トランプの遊戯って本格的すぎるのが問題なんだよな
県立総合図書館は、デカい。
とにかくデカい。面積も広いが、4階まで全部本というのも驚異的だ。
ここの2階、読書コーナーに奏さんはいるはずなんだけど……。
ああ、あの人かな?帽子を被ってサングラスをしてる。怪しい人この上ないな。
思い切って近くと、向こうも俺に気づいたようで本を閉じた。
「はじめまして。澪でしょ?」
「あぁ、はい、奏さんですか?」
「奏でいいよ。年齢的にタメだから」
そうなんだ。確かに同じ位かも。ちょっと小柄だけど。
「じゃあ、奏。とりあえず、なんでそんな格好してるの?」
「え、あぁこれは……その」
「怪しいよ」
「いや……これ取った方がよっぽど怪しいと思うけど」
は?いやいや、どういうこと?
俺が首を傾げると、奏はため息を軽くついてサングラスを外した。
見えたのは、紅い瞳。
ついで、帽子を外す。
出てきたのは、雪のように白い髪。
……なるほど、奏は——
「アルビノ……なんだ?」
「あんまり驚かないね」
「漫画アニメラノベにはよくある設定だよ」
「いやここ三次元……」
「そうだけど。俺、アルビノの人会ってみたかったんだ」
本音だ。テレビで見たアルビノの人は、カラコンをしていたから紅い瞳は見れなかった。だから、一度紅い瞳を見たかったんだ。
奏は、訝しげな表情をして首を傾げた。
「……ホントに君は変わってるよ。アルビノは紫外線に弱いから日の下に出れないし、みんなから毛嫌いされる方が多いのに、君の目はいま凄く輝いてる」
「変わってたっていいよ、元々両親が変わってるし。俺はそのルビーみたいな目も雪原みたいな髪も好きだな。綺麗だと思うよ?」
これまた本心だ。最終使徒も学園都市最強も不憫な黒鷲も、作中で一番好きだ。分かる人はわかってくれる筈。
「ほんとに君は変。だけど……君のこと、ますます気に入った。ありがとう、澪」
紅玉の瞳が、柔らかに細められる。
奏の美形な輪郭と相まって、それは美しい笑顔となった。
「さぁ、打ち合わせをしようか」
家に帰った俺は、さっそくとパソコンに張り付いた。
奏に教えてもらった本部のバンクにアクセス、各ゲメルデの個人情報をとり、それぞれのケータイを割り出す。本部にゲメルデ申請のメールを送らなきゃいけないことになってるから、本部の受信履歴からメールアドレスと発信元の個体IDを割り出そう。
メールアドレスを持っていると結構楽だ。電話番号も割り出せるしね。
各携帯会社への侵入法は母さんが割り出し済み。会社側も、侵入されたことは分かるかもしれないけど、誰が侵入したのかは分からないだろうな。母さんが独自開発したハッキングソフトを使ってるから。
ちなみにだけど、本部へはちゃんと許可を取っている。
奏から指令が出るまでは俺は単なるバンクだ。下調べはここまで。あとは、本部にアクセスしたついでにジョーカーでも調べておこうかな。だいたい分かってるけど。
それにしても今年のゲメルデは濃いなぁ。これは面白くなりそうだ。珠里と彩芽に応援メール送っとくか。友達ってこと以上に二人とも大切な情報源だし。あー、俺って性格悪い?
さて、じゃ、これからが本番だ。父さん、どこにいるんだか知らないけど、そこまで噂が届くように頑張るよ。
……正直何で自分がジョーカーなんだかわからない。
友達にもっと適役がいるし、……まぁいいけど。
それにしても気になるのは、『神』が言ってた闇のジョーカーってのだな。ジョーカーは一人じゃないらしい。だけど、それ以降一切話を聞かないんだよな。やっぱ闇ってのが関係してんのか?
ま、余計なとこは首突っ込みたくないし、知らなくて良いなら別にいいや。俺は、情報屋として各校に張り込みするか。
ジョーカーってほんと、何やりゃいいんだ?
あいつならハッキングでもかましそうだけど……
俺は、ケータイを手に取った。情報網があるのは確かだ、俺は。
俺はこの情報網と語彙で、情報を制してやる!
そう意気込んだ時、ふとケータイが震えた。
メール送信者は知らない人。
『さぁ光あふれる一枚目のジョーカーよ、君は闇に興味はないかね?』
奏からメールが来た。
『やっほー
ちょっと知らせたい事があるんだ
今年からルール改正があって、ババヌキってのが加わったんだ
それって言うのは普通のババヌキみたいに、ジョーカーを所有校から抜き取れるってもの。
というわけで、君にはジョーカーとも連絡を取って貰いたい
メールアドレスは君も持っていると思うけど、一応彼の個人情報を添付しとくね』
ほほぅ。こりゃまた面白そうだ。
ジョーカーね……。一応メールでも送っておこう。
ああ、そうだ、明日はちょっと早起きしないと。いつもより一本早い電車に乗ると珠里と彩芽に会える。で、帰りはのんびり帰ると、朔夜に会える。この3人は抑えとかないと。
特別な情報網なんてない。俺は、自分で情報を集めないとね。その点俺は不利だ。
だけど、影の世界だったら、俺にかなう奴は多分いない。俺程マルチにムラなく極めた奴は。ああ、父さん達はプロフェッショナルだから別で。
さ、早く寝よう。メールが来たような振動を感じるけど、そんなのあとあと。もうすぐ開会のトランプの遊戯で思いっ切り暴れるために、下準備はしておかないと。
非道とか犯罪とか言われても気にしない。
こっちはこういう世界だ。
少なくとも、闇のジョーカーはそういうものだと言われた。
引き出しを開ける。
そこには、白い仮面と黒い長い布が入っていた。
——さて、本気を出そうか。
大丈夫です、違法者はいつか裁かれるんです。
しかし違法者が誰かはわかりません。