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別にバカじゃねーし。

 「その存在を知られずに」

それくらい簡単だ。

みんな、俺のことは何一つ知らない。上辺しか見てない。

それに気付いていないんだから、人間っていうのは不思議だ。

俺の両親のこと。俺が何故プログラミングがうまいのかということ。俺がなぜ、英語の点数が悪いのかということ。

全部親の仕事のせいだ。厳重に管理されたデータバンクなどに侵入するためプログラムにウイルスを忍ばせるから得意なプログラミング。毎回98点以上とかいうアスターとは思えない成績を隠すためにあえて間違えまくる英語のテスト。

 別に嫌じゃない。奏さんにも言ったけど、俺は両親のこと尊敬してる。ただ、それ故俺を全部知ってて俺の全部を見せられる人がいないってだけ。

まぁ知られてちゃ困るけどね。それが父さんに習った技術なんだから。

リビングに戻ると、母さんに「おめでとう」と言われた。

「あんたなら私を越えられるわ。闇のジョーカーは、私たち影の人間の名誉職よ」



「珠里」

「なぁに、お父さん」

スーツ姿のお父さんが、書斎の前を通りかかった私に声をかけた。

お父さんはいつだってスーツ姿。自慢じゃないけど、お父さんはカミーリジャの校長なんだ。

 「お前、エースになったんだったな」

「うん。それがどうかしたの?」

「……今回のトランプの遊戯は、一味違うぞ。いつもに増して凶悪だ」

「え……?」

「<2枚目のジョーカー>。この単語を聞いたら警戒しなさい」

「凶悪……えっ?どういうこと?」

私が話についていけずオロオロしていると

「……佐藤澪……。奏のやつめ、全部知ってたな……」

お父さんが、低い声で不穏に呟いた。

澪?奏?なんなの?澪がどうしたの?奏って誰なの?



「彩芽!」

同窓会から帰るなり、怒鳴られた。

怒鳴ったのはウチのお姉ちゃんで、桔梗の卒業生ゆうのもあって何かと口うるさい奴や。

 「何なん?ウチなんも悪いことしてへんよ」

「違う違う。あんたクイーンなんでしょ?ちょっと警告があるの」

「はぁ?」

お姉ちゃんは流暢な関東弁を使いこなす。現役ん時はエースやっとったし、適応力もハンパないんや。

で、エース卒業生の警告とならば、クイーンたるもの無視しちゃあかん。

「二枚目のジョーカー。この言葉に聞き覚えは?」

「……や、知らんけど」

「二枚目のジョーカーっていうのは、詳しいことは分かってないけど、とにかく何でもアリなの。ジョーカーなんてかわいいモンじゃない。二枚目のジョーカーが参戦するとならば、もはやミステリー小説状態よ。人殺しだって公式に許されてるんだから」

……は?なにそれ、そんなの犯罪じゃ……。いや、ちゃう、二枚目のジョーカーって、法律からも外されるほど徹底的に「ジョーカー」なんや……。

「気を付けなさいよ。闇のジョーカーが狙うのは大概、命じゃなくて心。立ち直れないほど滅多切りされるから」

「……ん、注意する。にしても、そんなんやったら契約しちゃえばこっちのもんなんとちゃうの?」

最強なんやから契約すればええやん、と言うと、お姉ちゃんは首を横に振った。

「無理。二枚目のジョーカーは契約できないし、そもそも誰なのか見つけられない。『神』の息がかかってるからね」

神——大会管理委員会……。『神』が介入してしもうたらたしかに分からへん。見つけられへんやろな。

二枚目のジョーカー……『神』が介入しとるなんて、一体何なんや、そいつは。

犯罪者なん?一般生徒なん?それとも、外部の何か……?



翌日。

昇降口には、『トランプの遊戯まであと23日!!スペードに勝利を』というカウントダウンポスターが貼ってある。

あぁ、今日の朝礼で、四校一斉に絵札(ゲメルデ)が発表だっけ。

アスターは去年負けてる。カミーリジャにエースカードを取られ、ついでに成績一位を取られた。今年はその子を奪還しないといけないんだ。

……俺的にはどうでもいいんだけど。だって殺される訳じゃないしさ、頭の良いカミーリジャに行けてよかったじゃんみたいな。俺って冷徹かな?

俺が冷徹かは取りあえず置いといて、さっさとホールに向かわないとね。発表に遅れる訳にはいかない。

「よぉ澪!」

「うぉっ!?」

いだ……。思いっきり叩かれた背中が痛い。

「三笠……。もうちょっと軽く叩いてよ」

「わりぃわりぃ、走って来たから」

クラスメイトの三笠光輝。超眩しい名前だ。見た目は全然眩しくないんだけど。

 「お前さ、なんかゲメルデになった?俺実はよ、今年ジャックなんだ」

「それ公表していいの?俺、ジョーカーかもよ?」

「どうせ今日発表だしさ、今年のジョーカーはシュテッヒパルメから出たらしいし、お前な訳ないだろ」

「いいのかジョーカー、そんな情報流れてて……」

俺もジョーカーだけどね、一応。

というか、その情報が確かならやっばりジョーカーはアイツかな。

「今年は事前の噂が多いな。やけに流れ出てる。警戒しとくべきかな」

「そういや今年のバンクは誰?」

「あー、あれだろ、とってきた情報を溜めとく人だろ、今年はなんとだな」

各学校にいる、情報管理者。作るか作らないかは自由だけど、便利だから大概作るね。誰だか調べといて、始まったらバンク潜り込もっと。

「実は決まってなくって、誰かひとり推してくれって言われて。じゃあってお前のこと紹介したらあっさり決まっちゃったんだよ。というわけでよろしく」

……は?俺?

「そっかー、それは光栄だな。喜んで引き受けるよ」

にっこり笑顔を顔に貼り付ける。内心は「よっしゃー超楽!情報は人を制す!」。

「よかったぁ……。断られたらどうしようかと思った」

「どうするつもりだったの?」

「諦める」

「え、候補俺だけ!?」

「お前のハッキング能力だけは本物だよ。ホントなんで英語苦手なんだよ」

得意だよ。某魔法学校物語、原典で読んだよ。

「いやぁ、日本人なんだし日本語できればいいっしょ〜」

「海外サイトいけねーじゃん、それじゃ」

「そこは電子辞書に頼る」

ははははは、と笑いあって廊下を進む。

……俺、演劇部とか向いてるかな。



噂通り、クラブのクイーンは彩芽、ハートのエースは珠里だった。

バンクに任命された俺は、王宮に呼び出された。

王宮っていうのは、まぁ、エースとゲメルデの部屋のこと。生徒会室みたいなものだ。

王宮にいたのは、エース村上夏樹先輩、キング友田龍也先輩、クイーン里谷真優、ジャック三笠光輝。里谷さんは紅一点だ。

俺が部屋に入ると、優しげな微笑みで村上先輩が迎えてくれた。

「バンクを引き受けてくれてありがとう。僕が今年度エース、村上だよ。今日は一応顔合わせとして呼んだんだ。自己紹介してくれる?」

促され、俺は軽い自己紹介をする。

「私はクイーン里谷真優。噂はかねがね、一緒に仕事できて嬉しいです。よろしくお願いします、佐藤君」

「オレがキング友田龍也。ヘマすんなよ、バンク!」

「俺は自己紹介する必要ないよな。よろしく、澪!」

それぞれが名乗った。校内の有名人ばかりだな。村上先輩は将棋で実績を残す天才、友田先輩は自転車のオリンピック選考選手、里谷さんは情報分野成績ナンバー2で某英語試験900点台を保持している。あ、情報分野成績ナンバー1は俺ね。

「じゃあ僕達は作戦会議に入るけど、君はどうする?」

それは帰っていいってことか?それならばさっさと。

「俺は用事があるんで……」

「そうか、じゃあいいよ。これからよろしくね」

村上先輩に会釈して、王宮のドアを静かに閉める。これから、学校の隣の図書館で奏さんと待ち合わせだからね!神には失礼のないようにしないと、ね。










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