トランプの遊戯って結構有名なんだぜ。
サブタイトルは澪くんからの一言にしようと思ってます。
ちょっとここで、トランプの遊戯について説明しよう。
今年も来月にまで迫り来るその行事は、誇りと生徒、学校の成績をかけた大事な行事なんだ。
各学校の別名——椿がハート、紫苑がクラブ、桔梗がスペード、柊がダイヤだ——から分かるように、トランプの遊戯はトランプカードになぞらえた競技なんだ。各学校には<エース>と呼ばれる人がいて、その名の通りエースの役目をする。チェスでいうならキングかな。そして、その下にクイーンやキングやジャックと呼ばれる人がいて、それぞれナンバーズと呼ばれる一般生徒で作った軍隊を率いてエースを守る。それから、ジョーカーと呼ばれるひとが4校で一人いるんだけど、この人はスパイで、どこの学校にも属さない。どこかの学校のエースと契約して動くか、単独で中立を守るか。契約しないでどこかを贔屓するってのは禁じられてるけど、基本フリーな人だよ。
ルールは比較的簡単で、相手校のエースが持っているカード、通称エースカードを奪えば勝ち。でも負けると、指名された生徒一人をトレードしなければいけない。勝った学校では行きたい人がトレードに出るんだけどね。あ、行きたい人がいなければ、貰うだけになるかな。
それと、それぞれの役柄は始まる前に指名されて決まるんだ。エースやキングの絵札は校内から選出する。これも一種の作戦だね。で、ジョーカーは4校長たちが決め、外に情報を漏らしちゃいけない。ジョーカーはエースとしか契約できないから、ジョーカーをどう使うかはエースの力量ってことになるけど、探し出すのはその学校全体の力量だね。そしてそれが勝負の鍵となったりする。
今年もそろそろ配役が決まる頃だから、俺たちたちばな高校在学の人たちは学校の話はなるべくしちゃいけない。いや、話術で何気なく聞き出すのも戦略だけど。俺はハッキングしてる方が性に合ってるからね。
というわけで、珠里との会話もちょっとギクシャクなんだよなー……。
「澪!ごめん、待った?」
「ん?大丈夫、大して待ってない。待ったには待ったけど」
「あんたの言い方ってちょっと嫌味よね」
そうか?
晩秋の風はちょっと冷たい。今日の珠里は、淡いピンクのワンピースに、白の薄いポンチョ。似合う人しか似合わないお姫様スタイルだが、茶髪のふわふわロングの珠里にはぴったり似合ってしまう。どこのアニメだと聞きたくなる美少女だ。
「さて、じゃあ行こっか。お店で朔夜と彩芽が待ってるはずだから」
「は?何故にその二人」
「後半部分の幹事だから」
あ、あいつらだったのか。
中学時代によく連んだ友達、朔夜と彩芽。懐かしいなー、朔夜はたちばな柊高校、彩芽はたちばな桔梗高校だけど。
……要するに全員敵同士ですよ。
しかも彩芽は去年クイーンだった気がするんですけど……。 「ん?どうしたの?」
「あっ?いや!もうすぐトランプの遊戯だなーと」
「あぁ、そういえばそうね。そろそろ当人には発表されてるね」
配役が、か。一般公表は始まってからだからな。
「んー、なにもいわれてないから俺はナンバーズかなー」
「そうね。絵札とエースは校内で決めるけど、ジョーカーには『神』から手紙がくるんでしょ?」
「らしいね」
『神』とは大会管理者とスタッフの本部のこと。スタッフは棄権の公表や反則の見極めなんかをやる、要するに裁判官兼審判だ。
「そういえば、全員敵かぁ。でも澪はナンバーズなんでしょ?だったら敵って程でもないよね。ナンバーズは独自行動禁止だし、ちょっと気が楽」
なんか、ナンバーズが下っ端だって言われた気がするけど、まぁ楽になるっていうならいいか。それにしても、自分のことを濁したこの言い方は……。
「珠里はナンバーズじゃないの?」
「うえっ?ああっ、サァドウカナ?」
「片言だよ」
「…………実はエースです……。なんでこういう時だけ鋭いのよ……」
やっぱりか。エースとは思わなかったけど、クイーンくらいにはなると思ってた。
「噂だけど、彩芽は今年もクイーンらしいよ」
「へぇ。漏らしていいの?」
「あんたがナンバーズなら、知っててもなんの役にもたたないでしょ?それにどうせ公表されるんだし。絵札が知っちゃうとまずいけどね」
まぁ、ナンバーズは、要するに旅団とか連隊を組んでる単なる兵士だからな……。知っててもなんの意味もないわな……。
「そうそう、わかんないのはジョーカーよ。全然わかんないの。それくらいは探っておかないと、ジョーカーは公表されないし」
あ、そうだった。絵札は絵札でもジョーカーはかなり特殊だからね。ちなみにジョーカーを見つけることに関しては、我らが紫苑が一番うまいよ。情報戦なら椿にも対抗できるけど、やっぱりテストの成績じゃ椿にかなわないんだな。
「……澪、ジョーカー?」
「違うって。ほんとにナンバーズだって」
疑わしそうな珠里の視線を、ひらひらと手をふって払う。
お店が見えてきた。
意識せずにも揃う足並みが、俺たちが共に過ごしてきた時間を物語っている気がした。
いつかバラバラになるなんて、全然想像できなかったけれど。