写真の中でなら想いだってかなうけどさ。
郵便局の近くのスタバに居座って、俺達は同窓会のお知らせハガキを作っていた。
ただ、クラスの半分はもう一組の幹事がやってくれるそうだ。
「こんなかんじか?」
「うーん…なんかフォントがイマイチよね……。あ、これってどんなの?」
「さぁ、打ってみないと分かんないけど……。こんな感じ」
「あ、これいいじゃない」
珠里がパソコンをのぞき込むと、俺の真ん前で髪が動き、ふわっと良い香りが舞い上がる。……優しい花の香り……。
「よし、じゃあこれで打ち直して貰える?」
「ん。………っと、どう?」
「良い!じゃ、これで完成ね!!」
「うん、いいんじゃない?」
ツールバーの<ファイル>から、<保存>を選び、その後photoshopとillustraterを閉じる。
高かったよ二つとも……。まぁ使う機会があるし、珠里に頼られるのも悪くないけど。
「さて!プリクラ取りに行こ!!」
「あ、覚えてたんだ」
「当たり前じゃない。私彼氏作ったことないからさ、撮って友達に自慢させてもらう。澪、結構王子様顔だしね。……オタクなのが玉に傷だけど」
草食系っていうの?こーゆーの、と珠里は笑う。
……リア充死ねとか、コイツの前では絶対言えない……。
プリクラは、何故かカップルコースで撮ることになった。
フレームや背景を選んで、色々なポーズをとる。
……まぁ、美少女だけど珠里は幼なじみな訳で。そうすると、抱きつくくらいはなんともない。
……まぁ、もしキスプリ撮ったら大変なことにな——
「ねぇ、最後キスプリ撮らない?」
——るってぇぇええ!
「いや、それは……」
「……わかった、じゃあいいよ。横向いて」
[いくよー、3、2……]
プリ機の音声がカウントダウンを始め
[1]
「——っ!?!?!?」
カシャッ
それは、ほぼ同時だった。
「珠里!?今っ、今……!」
慌てふためく俺の前には、ほんのり赤くなって得意げに笑う珠里。
「……結構、勇気がいるね、キス」
そうじゃないだろ!?
「やらないってさっき……!」
「だって、澪の顔に『別に良い』ってかいてあったもん」
……幼なじみのこういう点が不利だ……。
仲良かった分、表情で大概本音が分かるようになってしまった……。
「嫌、だった?」
不安そうに尋ねてくるその上目遣いがなんとも、……小悪魔だ、こいつは。
「いいよ……。撮っちゃったんだしプラスに考えよう」
珠里は満足げに笑い、落書きを始める。
「ねぇほんとに恋人っぽく落書きしていい?」
「いいよ。あ、こっちのにイニシャルいれた」
「じゃあ大好きって入れちゃおっと」
「やっぱ今日って再会の記念日?」
「……ってことにしとこう」
いたずらっ子の頃に戻ったような瞳で珠里はどんどんスタンプや文字を入れていく。俺も負けず劣らずのスピードでガンガン6枚を仕上げていく。画面に反射する俺も、珠里と同じ表情をしていた。
結局、俺史上一番凝った落書きが俺史上最速で出来上がった。
「できた?」
「できたよ。携帯送信でいい?」
「ん」
打ちなれた自分のメールアドレスを打ち込む。ネット上で何かに登録するときは、必ずメアドが必要だし、ログインでも使うからな。ログインIDは覚えにくいから覚えてない。
「これfacebookにアップしようかなー」
「え、やってんの?」
「ん?そうだよ。ちなみにブログもやってる」
「マジか。あとでアカウント教えて」
「え、澪もやって……あぁ澪がやってない訳ないか」
「なんだそれ」
俺、隠れオタクとして頑張ってたんだけど、なんでこんなに当たり前のようにオタクにされてるんだ……?
「紫苑高校の人ならパソコン詳しくて当然だよね」
そういうことか。
俺達の高校はたちばな高校って言うんだけど、その中でも4つに別れてる。珠里が行ってるのが、本家本元の名門校、たちばな椿高校。俺んとこが4校で一番レベルが低いたちばな紫苑高校。他にたちばな柊高校とたちばな桔梗高校がある。で、4校それぞれ特色があり、椿高校が頭脳派の天才系なのに対し、俺んとこはパソコン(ソフト、ハード両方)や電気工学が盛んなんだ。
「全員がハッカーって訳じゃないけどね……」
「そうなの!?」
これもよくある反応だ。
俺達4校は、ある行事以外では直接接触はしない。その行事のために、学校内の普段の情報なんかもなるべく流さないようにしている。これは伝統で、別に校則に載っている訳じゃないけど、暗黙のルールになってるんだ。
だから、互いのことはあんまり知らない。変なレッテルも、よくあること。
「中にはパソコン全然ダメだけどはんたづけが凄く上手いひととかいるよ」
「へぇ……全然知らなかった。知ってちゃまずいけど」
そう、知ってちゃまずい。これが、俺達4校の伝統。
今年ももうすぐやってくる。
——トランプの遊戯。