そしてまだ続いてく
翌朝。
目が覚めた俺は、それでも目を開けることなく、昨日のことを思い出した。
刹那が来て、あとalbinoの話をしていて、そのあと……ああ、寝ちゃったんだ。
ん、と寝たまま伸びをして目を開ける。
と、そこには安らかに眠る黒髪の少年がいた。
……!?
あれ?そっか、澪んちだ。
いつになく近くにある澪の顔にそっと触れて、そのまま黒髪を梳いてみた。
自分と対局の、夜色の髪。
少し羨ましい。
と同時に、いつも綺麗だなと思ってる。
ていうか、なんで俺抱きしめられてんの?
「……澪~」
控え目に呼んでみるけど、返事がない。
うーん、完全に寝てる。
どうしよう。温かいけど、このまま澪の親御さんに見つかるとまずい。
だからって起こすのも……うーん……。
まぁ、温かいし……。
いっか、二度寝しちゃおうかな。
そう思って、布団に顔をうずめる。
その時澪がちょうど、もぞりと動いた。
……澪、なんでこんないい匂いすんの?
女の子みたいに、動く度にふわりと香る匂いに顔をうずめ、俺はもう一度目を閉じた。
「うわぁぁああ!!」
叫んだ。
そりゃもう力一杯叫んださ。
目覚めた時目の前に奏の顔があったら叫ぶだろ、普通。
俺から3センチくらい先で、奏が「おはよう」と笑った。
はいはい可憐な笑顔です。で、なんでこんな至近距離に。
「澪、放して?」
「……え」
自分の体勢を見る。
あれっ?なんで俺、奏抱き締めてんの?
「ねぇねぇ、一晩抱き枕になってあげたツケ、何で支払う?」
「なぜそれで服を脱ごうとする!?」
「え?こういうのは体で支払うのが王道だよね?」
「間違ってるし!!そもそも男同士だし!!」
「男同士でもできるって、そこに」
「うわぁぁああ!!!」
目一杯叫んださ。叫びながら、本棚を指差す奏の口を塞いださ。
違う。断じて違う。同人誌をいつの間にか漁られてたなんて嘘だ。違う、別に腐男子とかそんなんじゃない!!カプ厨なだけだ!!だからNLBLGLなんでもイケるんだ!!
……あれ?なんか間違ってる?
「どうせ澪童貞でしょ?非童貞の僕がイロイロ教えてあげるんだから☆」
「あ、奏僕っ子の方が似合う」
「マジで?じゃあそうする」
……こんな奴が非童貞だなんて……っ。いいんだ、俺は非リアだから仕方ないんだ……っ!!
「だから、ね?せっかくのお休みだし、二人で」
「やらないよ?」
「うー……」
……え?本気だったの?
「奏昼食べてく?朝は食べてくっしょ?」
話題転換。なんかあのまま話してたらホモカップルが生まれそうな雰囲気だった。
「うーん、戴いて良いなら……てか澪んちの子になりたい」
帰ったら人いないし、と奏は膝を抱える。
「もうすぐ父子家庭になっちゃうかも……」
俯いて小さく呟く奏に、俺はなんて言えばいいのかわからない。
父さんは連絡とれないけどいるし、母さんは一緒にすんでる。でも奏んちは、両親ともあんまり会えないんだよね。お母さん病気なんだっけ。その医療費の為に、お父さん出張と単身赴任ばっかりなんだっけ。
全部一人でやってるの、偉いと思う。
しんみりした空気になった時
「澪、奏くん、起きてる?朝ご飯にするから手伝って」
一階か母さんの声がした。
「「はぁい」」
返事がぴったりと揃う。
「奏、いっそもう一晩泊まってっちゃえば?」
「いいの!?」
「母さんさえOKだしてくれればだけど」
俺達は笑いながら部屋を出た。
「……ジャック」
「はい、エース」
土曜日にも関わらず緊急召集されたダイヤゲメルデ達は、深刻な面持ちで会議に臨んでいた。
まさか同盟を組むこと自体を妨害されるとは思っていなかった。あまり例を見ない方法だ。
過去にはあったのかもしれない。だが自分が経験した3年間ではなかった、とダイヤエース富田浩葵は沈黙の下考える。
しかも、誰の仕業なのか分からないときた。
一番有力だったスペードバンク・佐藤澪説は、本人の否定とアリバイによって一瞬にして砕け散った。
ダイヤ王宮は行き詰まり、さっきから沈黙がかれこれ10分以上続いている。
それを破ったのが浩葵の一言だった。
呼ばれたジャックは弾かれたように顔を上げる。
「君に、事の真相を調べて貰いたいんだけど」
「はい、仰せのままにエース」
そんなジャック――西宮優希に白々しい視線をクイーン・彩芽は向けた。
「大丈夫なん?今年のトランプの遊戯は一味違うらしいで?」
「く、クイーン。そんな刺々しく言わなくても」
「ほらほらぁ、エースはなしてジャックがお気に入りなんかなぁ」
彩芽とて二人が嫌いな訳ではない。あまりにも仲がいいのでイライラしているだけだ。
それよりも、彩芽は王宮のこの空気が嫌いだった。
去年はもっと活発だったのに。周りが名をあげている人揃いなのに危機感を全く抱いていない。
正直もう勝つことは諦めている。来年があるしと。
しかし、だからといって負ける訳にもいかないのだ。
「エース、カード無くさんといてくださいね?」
「大丈夫だよ」
そう笑って、浩葵は首にかけた少し大きめのロケットペンダントから、丸めたダイヤのエースのトランプを取り出した。