10 職員
ユースケの下の名前がサンタマリアの方だったのには驚いたが、それ以上にさっきまで元気だったアシモがぴくりとも動かなくなっていたのがショックだった。
あたし
「ひどい…」
伊藤
「仲間なんだろ。最悪だよ。」
職員
「シッ。そんな事言うと君達もこのアシモみたいになるぞ。」
メガネをかけているこの職員は、こういう状況に慣れているようだった。他の職員はもう壊れたアシモの撤去(もうガラクタのように扱われていた)に取り掛かっている。
あたし
「だって…悪い事してないのに。」
職員
「俺達だって辛いよ。量産型アシモだって仕事仲間だ。それが目の前で壊されるんだから。時には、人間も。」
あたし
「…」
職員
「でもオリジナルの言うことは絶対なんだ。じゃなきゃ俺も今みたいに…。」
伊藤
「…」
職員
「じゃあな。しっかり仕事しろよ。」
伊藤
「くそっ。アシモめ。会ったら即ぶっ壊してやる。」
あたし
「ちょっと。そんなこと言ってオリジナルに知られたらあたし達もやばいよ。」
伊藤
「大丈夫だよ。俺達の心は読まれないし。今の内にオリジナル壊す道具探しとこうぜ。」
あたし
「そっか忘れてた。ほうきとか使えな…!!!…い、伊藤君!!」
伊藤
「なに?ほうきはさすがに無理でしょ。」
あたし
「だだだ黙って伊藤君!!!」伊藤
「意外と頑丈そうだからな。折れちゃうよ。」
あたし
「伊藤、後ろ後ろー」
伊藤
「後ろ?」
振り返った瞬間、伊藤君は固まった。そこには他のアシモより一回り大きいアシモがいた。その周りには量産アシモが五体くらい取り巻いている。
パッと見ただけでボスだと分かる。ボスと言うことは
あたし伊藤
「オリジナル!!!」
サーッと血の気が引いた。確実に今の会話を聞かれていた。心が読めないから大丈夫とかもう意味ない。もう死ぬんだ。壊すとか特A級の反逆者じゃん。死刑じゃん。死ぬ前に一目でもいいから荒木飛呂彦に会いたかったな。てか承太郎に会いたかったな。
ガッ!と両腕を捕らえられた。痛い。けど怖くて抵抗なんかできない。
伊藤君の方をみたら同じ様にされていた。伊藤君もまた抵抗していなかった。
オリジナル
「おい、お前ら。誰を、壊すって?」
声が怖いよマジ。足が震える。
オリジナル
「答えろ。」
伊藤
「ななななんのことですか?」
オリジナル
「俺には心が読めるんだ。抵抗しても無駄だぞ。」
オリジナル
「…」
オリジナル
「…ん?反抗心がない?おまえ達何も考えてないのか?」
あたし
「ははははい。反逆なんてこれっぽっちも!!」
もしかして、た、助かったのかな。
オリジナル
「口ではあんなに言っておきながらか?気味が悪い。おい、とりあえず捕らえとけ。奴隷にでもしろ。」
量産アシモ
「はい!」
あたし伊藤
「いっいたたたた。」
職員
「ちょっと待って下さい!」
オリジナル
「なんだ、お前は。」
あたし
「あ、さっきの」
職員
「その二人はアシモ様に逆らおうなんて思ってないようですが、それでも連れていくんですか?」
量産アシモ
「こら!人間職員のくせにアシモ様に意見するな!」
伊藤
「ちょ、そんなこといったら職員さんまで…」
職員
「しかも今日入社したばかりです。しばらく様子見、という訳にはいかないですか?」
オリジナル
「おまえ、自分の立場分かってるのか?」
職員
「う…」
オリジナル
「捕えろ。」
量産アシモが職員に飛び掛かり、羽交い締めにした。
職員
「離せ!やめろ!」
抵抗虚しく、私たち三人は鍵付きの小部屋に閉じ込められてしまった。天井に近い壁に小さな窓があるだけだ。あたし
「ごめんなさい、あたし達のせいで…」
職員
「いいんだよ。俺達は一生職員を辞められないんだ。だったらいっそ奴隷を選ぶよ。」
伊藤
「いや、まだ諦めないで下さい。」
あたし
「そうですよ。即処刑にならなかったんだからまだチャンスはあります。」
伊藤
「何たって俺達には栗間さんがいるもんな。」
職員
「クリマサン?」
あたし
「外にいるもう一人の仲間です。仲間っていうかリーダーみたいな。」
職員
「じゃあ君達は本気でオリジナルを壊すつもりなの?」
伊藤
「はい。そのために入社したんです。」
職員
「信じられない…けど、もしオリジナルが消えたら日本は平和を取り戻せる!」
あたし『栗間さん、聞こえますか栗間さん!』
伊藤『俺達捕まっちゃったんですよ、どうすればいいですか栗間さん!』
必死に栗間さんに話し掛けるが応答がない。
あたし
「おかしいなぁ。いつもならすぐ応えてくれるのに。」
伊藤
「栗間さんの身になにかあったのかも…」
あたし
「あわわ大変。どうしよう…」
そのころ栗間さんは自殺した科学者の事を調べに図書館にいき、そこでふと目についたサザエさんを熟読していた。