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「こ、こにょ結婚は政略に過ぎにゃい! ボクは君を愛することはにゃい!」

掲載日:2026/08/31


 政略による婚姻。

 婚約期間はゼロ時間。

 初対面で結婚式。


 その結婚式で、神父様の、


「あなたは新郎であるジャック・リー・ルセルを夫とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」


 という、結婚式の定型文的な問いかけによって、私は初めて旦那様のフルネームを知ったのだけど……。


 きっと旦那様も、私の名前を結婚式で知ったわよね?


 神父様が、


「あなたは新婦であるヴラスチスラヴァ・ラー・バルトゥーニェコヴァーを妻とし、病める時も健やかなる時も……」


 と、言ったとき、ものすごい形相になって……、


「何だその名は……」


 なんてボソッと言ったものね。


 まあ、仕方がないのよ。

 我がバルトゥーニェコヴァー一族のご先祖様が、長きに渡る放浪の末に、この国に定住したのは五十年ほど前。

 いろいろあって爵位をいただいたのだけど……。私たちの名前は、元は他国の家名だから、この国の人間には実に発音しづらく、また、おぼえにくいらしいのだ。


 ヴラスチスラヴァっていうのは、こちらの国での「メアリー」とか「キャシー」だののように、ご先祖様が暮らしていた国ではごく一般的な名前らしいんだけど……。


 まあ、国が異なれば、耳に馴染まない名前よねえ。


 神父様はよく間違えずに私の名前を呼べましたわねえ……なんて、感心しているうちに結婚式は終わった。


 で、初夜。

 薄い下着の上にガウンを羽織って。

 もう、なるよーになれー……の気分で、ベッドに腰掛け大人しく待機。


 なのに。


 旦那様になったはずのジャック様が……。


「ヴラスチスラヴァ・ラー・バルトゥーニェコヴァー! こ、こにょ結婚は政略に過ぎにゃい! ボクは君を愛することはにゃい!」


 寝室のドアを開けるなり、私に怒鳴りつけてきた。


 えーと。


 ……とりあえず、笑っては駄目よね?

 ……噛まずに私の名を呼べてすごい! と、褒めても駄目よね?


 引き攣りそうな頬を引き締めつつ、聞いた。


「『こにょ』は『この』で『過ぎにゃい』は『過ぎない』でよろしいでしょうか?」


 旦那様は顔を耳まで真っ赤にして床に沈み込んだ。


 えーと。


「その一、言い間違え。その二、旦那様の地域の方言。その三、緊張のあまり言葉を噛んでうまく言えなかった。その四、語尾に『にゃい』を付けるのが旦那様のマイブーム。その五、私の緊張をほぐそうと敢えて噛んでみた。その六、私の名前を間違えずに一生懸命発音し終えた途端に、気が緩んで後半のセリフを噛んでしまった。……えーと、一応、『にゃい』の理由をいくつか考えてはみましたがどれか正解しています?」


 とりあえず何か言わなきゃと思って、噛んだ理由を述べてみたんだけど。

 どうやら、傷口に塩を塗り込む行為になってしまったようだ。


「うにゃあああああああああああ!」と叫んで旦那様は大泣きした。


 あらら……。


 なんかちょっと猫みたいでかわいいわねなんて思ったり。


 とりあえず、旦那様の側にしゃがんで、頭をなでなでしてあげた。


「こ、子ども扱いするするにゃああああああああ!」

「いえ、猫扱いですわね。私、子どものときから猫を飼うことが夢でしたの」

「ふにゃああああああああああああああああああ!」


 面白いので、政略結婚だけど、旦那様を大切にすることにした。





終わり

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― 新着の感想 ―
あっ……。 これは……。 旦那様の年齢が奥様の年齢と比べたらどうであるかによって、どれも面白いパターンだ。 同い年もよし、妻が年上でもよし、妻が年下でもよし。 でも、妻が5つ上以上は王道すぎるな…
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