「こ、こにょ結婚は政略に過ぎにゃい! ボクは君を愛することはにゃい!」
政略による婚姻。
婚約期間はゼロ時間。
初対面で結婚式。
その結婚式で、神父様の、
「あなたは新郎であるジャック・リー・ルセルを夫とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」
という、結婚式の定型文的な問いかけによって、私は初めて旦那様のフルネームを知ったのだけど……。
きっと旦那様も、私の名前を結婚式で知ったわよね?
神父様が、
「あなたは新婦であるヴラスチスラヴァ・ラー・バルトゥーニェコヴァーを妻とし、病める時も健やかなる時も……」
と、言ったとき、ものすごい形相になって……、
「何だその名は……」
なんてボソッと言ったものね。
まあ、仕方がないのよ。
我がバルトゥーニェコヴァー一族のご先祖様が、長きに渡る放浪の末に、この国に定住したのは五十年ほど前。
いろいろあって爵位をいただいたのだけど……。私たちの名前は、元は他国の家名だから、この国の人間には実に発音しづらく、また、おぼえにくいらしいのだ。
ヴラスチスラヴァっていうのは、こちらの国での「メアリー」とか「キャシー」だののように、ご先祖様が暮らしていた国ではごく一般的な名前らしいんだけど……。
まあ、国が異なれば、耳に馴染まない名前よねえ。
神父様はよく間違えずに私の名前を呼べましたわねえ……なんて、感心しているうちに結婚式は終わった。
で、初夜。
薄い下着の上にガウンを羽織って。
もう、なるよーになれー……の気分で、ベッドに腰掛け大人しく待機。
なのに。
旦那様になったはずのジャック様が……。
「ヴラスチスラヴァ・ラー・バルトゥーニェコヴァー! こ、こにょ結婚は政略に過ぎにゃい! ボクは君を愛することはにゃい!」
寝室のドアを開けるなり、私に怒鳴りつけてきた。
えーと。
……とりあえず、笑っては駄目よね?
……噛まずに私の名を呼べてすごい! と、褒めても駄目よね?
引き攣りそうな頬を引き締めつつ、聞いた。
「『こにょ』は『この』で『過ぎにゃい』は『過ぎない』でよろしいでしょうか?」
旦那様は顔を耳まで真っ赤にして床に沈み込んだ。
えーと。
「その一、言い間違え。その二、旦那様の地域の方言。その三、緊張のあまり言葉を噛んでうまく言えなかった。その四、語尾に『にゃい』を付けるのが旦那様のマイブーム。その五、私の緊張をほぐそうと敢えて噛んでみた。その六、私の名前を間違えずに一生懸命発音し終えた途端に、気が緩んで後半のセリフを噛んでしまった。……えーと、一応、『にゃい』の理由をいくつか考えてはみましたがどれか正解しています?」
とりあえず何か言わなきゃと思って、噛んだ理由を述べてみたんだけど。
どうやら、傷口に塩を塗り込む行為になってしまったようだ。
「うにゃあああああああああああ!」と叫んで旦那様は大泣きした。
あらら……。
なんかちょっと猫みたいでかわいいわねなんて思ったり。
とりあえず、旦那様の側にしゃがんで、頭をなでなでしてあげた。
「こ、子ども扱いするするにゃああああああああ!」
「いえ、猫扱いですわね。私、子どものときから猫を飼うことが夢でしたの」
「ふにゃああああああああああああああああああ!」
面白いので、政略結婚だけど、旦那様を大切にすることにした。
終わり




