仲間の見せ場を守るために実力を隠していたら追放されたので、本気を出すことにしました!~今更帰ってきてと言っても、もう遅い!武勇伝の裏には、いつも僕がいたんですけどね~
「ユーリ、お前はもうパーティに必要ない! 今日限りで抜けてもらおうか!」
勇者ガラハッドの宣告に、僕は思わず苦笑した。理由を尋ねると、返ってきたのは実にシンプルな答えだ。
「お前の回復魔法、“地味すぎる”んだよ! イリスの方が派手で頼りになる!」
「そうそう。僕らはこれから大魔王討伐に向かうんだ。足手まといは置いていくしかない.....悪く思うなよ? これもお前の為なんだ」
剣士ドルフと魔法使いイリスまでもが、当然のように頷いている。
「ユーリ様の回復魔法.......正直、地味すぎて見栄えが悪いですものね。もう少し派手な演出があってもよろしいのに」
イリスの馬鹿らしい言葉に、僕は内心でため息をつく。派手さを求めるなら、そもそも回復魔法という役割自体が向いていないのでは? そんな率直な疑問は頭の片隅に置いておくことにした。
僕はしばらく黙って三人を見つめた後、静かに荷物をまとめ始めた。
(――ようやく、演技をやめられるな.......)
実のところ、僕はパーティの和を乱さないよう、ずっと実力を抑えて振る舞っていた。本気で戦えば、勇者の見せ場を全部奪ってしまうことになる。
それに桁違いの強者がいると、それだけでそのパーティーは成長をしなくなる。
だから、地味な回復と補助に徹し、目立たないよう心掛けてきた。だが、その配慮がまさかこんな形で裏目に出るとは思わなかった。
「じゃあ、達者でな! まあ、お前一人じゃすぐ野垂れ死ぬだろうけど!」
嘲笑交じりの言葉を残し、三人は森の奥へと去っていった。僕は特に反論もせず、その背中を見送った。反論したところで、聞く耳を持つ相手でないことは長年の付き合いで分かりきっている。
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一人になった森で、僕は久しぶりに全力を出してみることにした。
「――もう、隠す必要もないか」
軽く放った魔法の一撃で、目の前の巨木が根元から消し飛んだ。パーティにいた頃には、決して見せなかった威力である。
「我ながら、ずっと抑えていたのが馬鹿らしくなるぐらいには強いな」
呟きながら森を進んでいると、不意に巨大な影が空を覆った。見上げれば、そこにいたのは伝説級とされる古代竜だった。
「小僧......随分と面白い魔力の質をしているな?」
低く響く声で語りかけてきた竜に、僕は思わず身構えた。だが、敵意は感じられない。
「随分と長い間、力を押し殺していたようだ。窮屈な生き方をしていたものだな」
「――お分かりになりますか?」
「魔力の質を見れば分かる。抑え込まれた力というのは独特の澱みを持つものだ」
「そうだな......我が眠りを妨げぬ礼儀と、抑えていた力の質......この力にも遜色ない。気に入った.....」
そんな独り言をぶつぶつと呟いていた竜はその刹那、思いもよらぬ一言を吐き出した。
「ーー我と契約せぬか?」
思いがけない申し出に、僕は少し考えた後、静かに頷いた。断る理由は、特に見当たらなかった。
「僕の力の糧となれることを期待してるよ?」
「お前の想像など、裕に超えられるわい」
古代竜との契約を経て、僕の力はさらに研ぎ澄まされていった。数日後には、以前とは比較にならないほどの力を完全に制御できるようになっていた。もはや、誰かに気を遣って抑える必要のある力ではない。
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あれからさらに数日過ぎた日のことである。
僕は偶然にも、ガラハッドたちが大型魔物と交戦する現場に行き合わせた。
物陰から様子を窺っていた僕の目に映ったのは、地に伏せる三人の姿だった。魔物の一撃を受け、ガラハッドの意識は既に朦朧としている。
(――仕方ないな)
正体を明かすわけにはいかない、そんな意思に応えるかのように僕は影に紛れたまま、静かに詠唱を紡いだ。指先に集まる魔力に、竜の気配がわずかに重なるのを感じる。
「――古竜の血脈に誓う。傷を閉じ、力を還せ。《ドラコニック・フルヒール》」
短い呪文とともに、金色を帯びた光が三人の体を包み込んだ。かつての回復魔法とは比べ物にならない密度の魔力が、裂けた傷を瞬時に塞ぎ、尽きかけていた体力ごと押し上げていく。
「な……なんだ、この、燃えるような力は......」
困惑するガラハッドをよそに、僕は気配を消したまま、静かにその場を後にした。竜の力を纏った魔法だと知られれば、正体もいずれ露見しかねない。
礼を言われる筋合いも、名乗り出るつもりもない。ただ、見捨てられなかっただけの話である。
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それから半月後、僕は立ち寄った町の酒場で聞き覚えのある声を耳にした。
「いやあ、あいつを追い出して正解だったな! 俺たちの実力だけで、ここまで順調に来られるとは思わなかったぜ!」
「本当ですね、ガラハッド様! やはり足手まといがいないとこんなにも快適なのですね!」
見れば、そこにいたのはあの日僕を追放した三人だった。随分と羽振りが良さそうな様子で、酒を酌み交わしている。
「聞きましたか? 先日の魔物討伐でも、私たちだけで完璧に立ち回れましたのよ」
「ああ。あいつの地味な回復魔法なんて、もう懐かしいくらいだ。あんなものがなくても、俺たちは十分強いってことがよく分かったよ」
「それに、あの回復魔法、大袈裟に発動する割に効果も微妙でしたものね........本当に必要だったのか、今となっては疑問ですわ」
得意げに語る三人の話を聞きながら、僕は静かにカウンターの隅に腰を下ろした。
(――随分と都合よく記憶が書き換わっているようだね)
先日の魔物討伐というのは、僕も裏で密かに見守っていた戦闘だ。実際のところ、三人は瀕死寸前まで追い込まれ、僕がこっそり放った援護魔法で命拾いしたはずである。
無論......正体は明かさずに、だが。
酒場の他の客たちも、三人の武勇伝に感心したように聞き入っている。このまま放っておけば、事実とは似ても似つかない伝説が、勝手に独り歩きしていくのだろう。それは少々看過できない話だった。
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「――随分と楽しそうな武勇伝ですね?」
僕がそう声をかけると、三人は驚いた顔でこちらを振り返った。
「お前は..…ユーリか? なんでこんなところに.....」
「僕がいなくなった後の武勇伝......興味深く聞かせていただきましたよ。特に、先日の魔物討伐の話」
「あ、ああ.......あれは俺たちの実力で――」
「本当にそうでしょうか? あの日、瀕死だった皆さんを物陰から回復魔法で救ったのは誰だったか、覚えていらっしゃいますか」
僕が静かに告げると、三人の顔から一気に血の気が引いた。
「なっ..…!? ま、まさか、あの時の光は……!」
「ええ、僕です。念のため申し上げておきますが、あなた方の実力だけでは、あの魔物には到底勝てませんでしたよ?」
「そ、それは嘘だ! 俺たちは確かに――」
「では伺いますが、あの戦闘の後、なぜ全員が原因不明の魔力切れで、丸一日動けなかったのでしょうか。あれは、僕が大量の回復魔法を使った反動ですよ」
具体的な状況を突きつけられ、ガラハッドは言葉を失った。イリスとドルフも、顔を見合わせたまま何も言えずにいる。
反論しようとしたガラハッドの目の前で、僕は軽く手をかざした。放たれた魔力の奔流が、酒場の壁一枚を綺麗に消し飛ばす。呆然とする三人を前に、僕は静かに告げた。
「これが、地味だと切り捨てられた僕の本来の力です。ちなみに......これでもまだ本気の一割程度ですが」
「い、一割……?」
震える声で問い返すガラハッドに、僕は淡々と頷いた。
「実力を隠していたのは、パーティの調和を保つためでした。ですが、その配慮を『地味だから不要』と切り捨てたのは、他ならぬ皆さんですよ」
「そ、そんな……俺たちは、知らずに……!」
「知らなかったでは済まされないこともございます。ちなみに、僕を追い出した後の武勇伝、随分と誇張されているようでしたが、これからは正確に語っていただけますか」
「わ、分かった。今後は、その、正直に……」
すっかり萎縮したガラハッドに、僕は小さく頷いた。
「今さら謝罪していただいても、僕は戻る気はありません。ただ、これだけは覚えておいてください。皆さんが誇っていた武勇伝の裏には、いつも僕の力があったということを、ね?」
酒場中の視線が、すっかり静まり返った三人に集まっていた。先ほどまで武勇伝に感心していた客たちも、今や呆れと同情の入り混じった目でガラハッドたちを見つめている。
「そ、それで、これから俺たちは、一体どうすれば……」
縋るように問いかけてきたガラハッドに、僕は静かに首を振った。
「それは、皆さんご自身で考えることですね。僕には関係のない話ですから」
言い終えると、僕は静かに酒場を後にした。呆然と立ち尽くす三人の姿を背に、僕は小さく息をついた。
「――さて、これからは誰にも遠慮せず、“本気”で生きるとしようか」
夕暮れの町並みを歩きながら、僕はふと空を見上げた。抑え込んでいた力を解き放った今、この先の人生には、どれほどの可能性が広がっているのだろうか。少なくとも、誰かの顔色を窺いながら生きる必要は、もうどこにもない。
新たな力を胸に、僕は次の目的地へと足を進めた。もう二度と、自分の力を隠す必要はない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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古代竜との今後の関係や、ユーリがこれから何を成し遂げていくのか、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




