公爵令嬢は強かにふるまう。婚約破棄はさせません!王太子妃に必ずなるわ。
フェリシア・アルドス公爵令嬢は、バルト王太子殿下をものすごく愛している。
金の髪に青い瞳のバルト王太子殿下。
「あの方の妻になれるわたくしは何て幸せなのでしょう」
だから、一生懸命、彼に相応しくあるように努力してきた。
銀の髪に青い瞳のフェリシア。
美しさに磨きをかける為に金を惜しまなかった。
共に17歳。
王立学園に通って学んでいる二人。
フェリシアはいつもバルト王太子殿下の傍にいて、いつも彼の助けになるように、いつもずっと傍に‥‥‥
バルト王太子はフェリシアに向かって、
「そんなに傍にいなくてもよいのだよ。君にだって付き合いはあるだろう?」
「わたくしは将来、王太子妃になるのです。少しでも貴方のお役に立ちたいの。だから傍にずっといたい」
「嬉しいけれども、ちょっと窮屈だな」
「だって、貴方の婚約者なのですもの。当然でしょう」
そう当然だと思っていた。
ずっと傍にいて、彼の顔を見ていたい。彼の助けになりたい。
それが、まさか酷く嫌がられているだなんて、思っていなかったのだ。
とある日、バルト王太子がベンチで可愛らしい女性と話をしている姿を見てしまった。
あの女は誰?
フェリシアはつかつかと近づいて、バルト王太子に向かって、
「この方はどなた?わたくしという婚約者がいるのに、他の女性と?」
「アリス・カルド男爵令嬢だ。ちょっと話をしていただけじゃないか」
アリスという女は桃色の髪の可愛らしい感じで。
バルト王太子に縋りついて、
「睨まれていますっ。怖いです」
「大丈夫だ。フェリシア、アリスが怖がっているじゃないか」
「ちょっと、王太子殿下に触るなんて。王太子殿下はわたくしの婚約者よ。貴方、失礼だわ」
なんて嫌な女。
なんでわたくしの王太子殿下に縋りついているの?
失礼過ぎるわ。
王太子殿下に触っていいのは、わたくしだけのはずよ。
許せなかった。
バルト王太子はフェリシアに、
「君のそういう所が好ましくない。君は王太子妃になるのだろう?もっと大らかな大人の対応をしないと。そうだろう?」
「確かにそうですわね。大人の対応、わたくしもすることに致しますわ」
一学年上にフェリシアの兄がいる。名はクラウス・アルドス
兄の協力を頼むことにした。
バルト王太子は翌日、首を捻った。
王宮から朝、フェリシアが住む王都のアルドス公爵家に馬車で寄って、彼女を迎え、共に学園に登校する。
毎朝、フェリシアの顔を見るのが苦痛で。
フェリシアがあまりにも、しつこいからだ。
重荷に感じてしまって。
それが、迎えに行ったら、兄クラウスと共に学園に登校してしまったという。
私が迎えに行ったのにいないなんてどういうことだ?
学園に行ってフェリシアの姿を探してみる。
いつも自分にべったりなフェリシアが見当たらない。
「フェリシア様?クラウス様とご一緒では?」
「確か庭で見かけましたわ」
慌ててバルト王太子が庭に行ってみたら、複数の男子生徒達と楽し気に話をするフェリシアの姿を見かけた。
「アルドス公爵令嬢、話をしてみたかったんですよ。貴方の知識は素晴らしいと聞いていましたから」
「歴史の話をしませんか?王国の歴史に対する貴方の意見を聞きたい」
「ポルト遺跡が発見されたそうですね」
フェリシアは顔を輝かせて、
「わたくし、歴史に興味ありますわ。色々と聞かせて下さいませ」
バルト王太子はフェリシアの傍に行って、
「不貞ではないのか?私以外の男子生徒と仲良くして」
フェリシアは目を見開いて、
「貴方だって、男爵令嬢と仲良く話をしていましたわ。兄に友達を紹介して貰ったのです。皆、歴史に興味あるって言っていますわ。わたくし、歴史の話を皆様としたいと思っております」
バルト王太子はショックを受けた。
ちょっとはウットオシイと思っていたが、構われないのもまた、寂しい。
それに、王太子妃はフェリシア以外考えられない。
何よりフェリシアは頭脳明晰で、美しいのだ。
名門アルドス公爵令嬢である。
ちょっと、アリス・カルド男爵令嬢に興味を持っただけだ。
本気じゃない。
そこへアリスがやって来て、腕に絡みついてきた。
「この間は楽しい時間を有難うございます。王太子殿下。私、王太子殿下の事が」
フェリシアは男子生徒達と、
「続きはあちらでお話しましょう」
行ってしまった。
慌てて、アリスの腕を振り払い、
「すまないが、私は婚約者がいる身だ」
アリスは目に涙を貯めて、
「酷い。フェリシア様に言われているんですね?」
いや、フェリシアの後を追いかけなくては。
無視して追いかけたが、校舎に入ってしまったのか、見当たらなかった。
あれからフェリシアが避けるようになった。
王太子妃教育もフェリシアは行かなくなった。
いやもう困る。本当に困る。
母である王妃に怒られた。
「アルドス公爵令嬢を怒らせましたか?こちらから頼んで婚約を結んで貰ったのです。王太子妃教育を再開するよう、貴方から頼みなさい。いいですね」
赤の薔薇の大きい花束を抱えて、アルドス公爵家に訪ねた。
フェリシアの兄のクラウスが応対した。
「フェリシアは留守です。歴史書を探しに古書店へ行きました。私の友達と一緒に」
「どこの古書店だ?私も行く」
馬車に乗り込み、古書店に走らせた。
フェリシアがいた。
数人の男子生徒達とである。
フェリシアは古書を手に取りながら、
「この本でもないわ。なかなか見つからないわね」
男子生徒の一人が、
「もう少し、探してみましょう。どうです?この後、カフェでお茶でも。勿論、みんなで」
「そうね。ちょっと疲れたわ」
フェリシアを見つけたバルト王太子。
薔薇の花束を抱えながら、
「フェリシア。悪かった。どうか、王太子妃教育を受けてくれ。私の婚約者だろう?君は」
「バルト王太子殿下。わたくしは思ったのです。王太子妃になるよりも歴史を研究したいって。婚約を解消して頂こうと」
「駄目だ。君以外、考えられない。王太子妃になるのは。だからお願いだ」
「でも、わたくしが傍にいたら嫌がったじゃありませんか」
「それは‥‥‥あまりにも君が傍にいたから、ちょっと」
「わたくしは、貴方様のお役に立ちたいから傍にいたのに」
「これからはずっと傍にいて欲しい。君は王太子妃だ。私の妻になる女性だ。他の女なんて目を向けない。だからどうか」
「仕方ありませんわね。解りましたわ。わたくし、歴史を研究したかったのですが」
安堵した。フェリシアが王太子妃教育を受けてくれる。自分の婚約者に戻ってくれる。
赤の薔薇の花束を差し出したら、嬉しそうに受け取ってくれた。
アルドス公爵家の客間にて、
クラウスが友達である令息達に礼を言っていた。
「有難う。協力してくれて。妹の王太子妃の座も安泰だ」
フェリシアもにこやかに、
「皆様のお陰ですわ。わたくしが王太子妃、後に王妃になった時に、しっかりとお返しを致しますわね」
フェリシアと一緒にいた男子生徒達は皆、嬉しそうに。
「アルドス公爵令嬢。お役に立てて嬉しいです」
「我が伯爵家のお引き立てを。先々よろしくお願いします」
「我が伯爵家も」
フェリシアはにっこりと微笑んで、
「勿論ですわ。皆様。これからも我がアルドス公爵家の為によろしくお願いしますわね」
今日もフェリシアは愛しいバルト王太子殿下の傍にいて、彼の役に立とうと努力をしている。
バルト王太子はあれから、とても優しくて。
例の男爵令嬢?
学園に姿を見せなくなったわね。わたくしの愛しいバルト王太子殿下に近づいた罪は重いのよ。
今頃、どうなったかしら?
ああ、愛しいバルト王太子殿下。一生、わたくしの事を愛して下さいませね。