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1. AD

 私が5歳のとき。黒いスーツを着た人がやってきて、大人たちと難しい話をしていた。


それから数年後。何も無いのが特徴だった故郷に工場が沢山できて、お父ちゃんたちは給料がいっぱいもらえるって喜んだ。


「お父ちゃん工場でどんなお仕事してるの?」


 私の問いに父は上機嫌で答える。


「んー?お父ちゃんたちはな、機械の人形を作ってるのさ。いわゆるアンドロイドってやつだ」


「あんどろいど?それってアニメに出てくるロボットのこと!?見たい見たーい!」


「おっ?マリー、興味があるのか?だったら明日少しだけ見せてやる」


 次の日、父に連れられ工場へと足を運んだ。

そこには立派な黒い建物が並んでいて、その全てに『TETHEUS』というロゴが刻まれていた。


「てーざーうーす?」


「違う違う、【テセウス】だ。この工場はな、テセウスっていうでーっかい会社が運営してるのさ」


 父は私を抱っこして工場へ入り、照明のスイッチに手をかけた。


「さあ、これがお父ちゃん達の仕事だ」


 暗闇がバッと照らされ、ずらりと並んだ人型の物体が姿を見せる。

それはアニメで見たものよりずっとリアルで、幼い私には人間と見間違うほど精巧なアンドロイドだった。


「すごい…」


 息を呑み、垂れ下がった手に触れようとしたその時。


「生命反応検知。所有者登録がお済みでしたらシリアルコードをお伝え下さい」


 突然動き出したアンドロイドに「きゃっ」と私は尻餅をつく。


「お怪我はございませんか?」


 そう言って差し出された手の先で、女性型アンドロイドがニコリと微笑む。

 私は感動のあまり父に言った。


「すごい…すごいすごい!お父ちゃんこの子ほしい!」 


「なにぃ!?これ高いんだぞ?」


「ほーしーいー!」


 駄々をこね、父の脚にしがみつく。


「うぅーん……」


 父は腕を組んで目を細める。

そしてしばらく考えてから尋ねた。


「なあマリー、お前誕生日が近かったよな?」


「うん!今年で8歳!」


「そうかぁ……よしわかった!お母ちゃんたちにもいままで沢山苦労をかけたしな。これはお父ちゃんからマリーと家族皆へのプレゼントだ!」


「本当に!?やったー!!!」


 喜び、大興奮する姿に父は微笑む。

そして電子端末で手続きを済ませた後、シリアルコードを彼女に伝えた。


「コード確認、たった今より所有者様へのご奉仕に務めさせていただきます。僭越ながら、まずはワタクシめの『お名前』をご登録ください」


その言葉に、父は「ほら」と私の背中をポンと叩く。


「いいの!?」


「ああ、お前が決めなさい」


 私は膝まづくアンドロイドの頬に触れてこう言った。


「【ポチ!!!】」


 父はズッコケていた。



 あれから10年。私は今、テセウスが運営する宇宙船に乗っている。


『当機はまもなく、テセウス管理工業惑星スタームへ到着いたします』


 船内にアナウンスが流れ、女学生たちはこれからの生活に胸を弾ませていた。


「もうすぐ到着なんだよね、アタシ緊張してきちゃって…」


「そりゃそうだよー、これからアンドロイドメーカーのトップ。テセウスの大学で勉強するんだから」


「アンタら緊張しすぎ、アタシなんかうるさい親から開放されて清々してるよ」


 そう、大学生活。

彼女らと同じく、私はこの春テセウス設立の名門大学

『テセウス・エンジニアカレッジ』に通うことになったのだ。


 首から下げたペンダントを開き、家族写真を眺める。


「みんな、私ここまで来たよ」


そう言って故郷に思いを馳せていたとき。


「なんですのこれ?」


「あ!ちょっと!」


 後方から伸びた手がペンダントを取り上げ、私はとっさに席を立ち上がる。

振り返ると、そこには気の品高い金髪女が立っており、こちらを見るなりクスリと笑った。


「これ、家族写真ですの?一緒に写っているのは随分古いアンドロイド…我が社の第2世代モデルですわね」


「リタ…」


【リタ・テセウス】それがこの女の名前だ。

テセウスの名が意味するように、彼女は"テセウスカンパニー代表の娘"……とされているが、数ある愛人の子の一人らしく、血縁関係は怪しいとかなんとか。


「返して」


 ペンダントに手を伸ばす。すると彼女はヒラリとかわし、私の出自についてベラベラと語り始めた。


「【マリー・ヨープ】さん、辺境の田舎惑星ニント出身。にも関わらず高等部では優秀な成績を収め、特待生で我が大学に進学した逸材。故郷ではさぞ期待の星なのでしょうねぇ?」


 リタの言葉に女学生達はヒソヒソ話を始め、その中から幾つかの言葉が聞き取れる。


「ニントってどこ?知ってる?」


「分かんない、聞いたこともないよ」


「うちの学校ってお嬢様ばっかりだと持ってた、そんなとこから来る人いるんだ」


 私は「はぁ」とため息をつき、強引にペンダントを取り返す。


「ご丁寧にどーも、自己紹介の手間が省けたわ」


「いえいえ、これから4年も同じ大学に通うんですもの、お互い仲良くしましょ?」


「ふんっ」


 席に戻り「最悪……」と肘をつく。

すると、空いていた隣の席にリタが腰掛けて来た。


「失礼」


「は?…なんで隣座るわけ?」


「いいじゃありませんの空いてるんですから。それに少々真面目な話をしたいんですの」


「話?意味わかんないんだけど…」


 居心地の悪さに席を立ち上がったとき、通りかかった男性乗務員が声をかけてくる。


「お客様、お飲み物はいかがですか?」


 彼はアンドロイドだ。瞳孔どうこうが『緑』に光りそう教えてくれる。


「いえ…私は結構です」


「いただきますわ」


 リタが手を伸ばし、グラスの脚に手をかけたそのとき。


グワンッッッ!!!


 船体が音を立てて大きく揺れた。

グラスが床へ落下し「パリンッ」と割れる。


それを見たアンドロイドは瞬時にリタの手を両手で挟むように保護した。


「お怪我はございませんか?」


「ええ、大丈夫ですわ」


「すぐに片付けを、変えをご用意いたします」


 船内がざわつく中、そう言ってアンドロイドは乗務員室へ向かった。


「今の何?すごい揺れたけど」


「それも気になりますが今のを見まして?"第5世代アンドロイド、TS-5Ⅱ"。我が社の最新モデルですわ。より人に近く、乗客最優先の行動。以前にもまして一層技術進歩していますわね」


 リタが言うように、この10年アンドロイドは飛躍的進化を続けている。

家庭用からはじまり、危険作業用、軍事作戦用にいたるまで数多くのバリエーションが生み出され【AD】と略称をつけられるほど社会に浸透した。


「ポチもすっかり旧式か……」


「何かおっしゃいまして?」


「アンタには関係ない」


『ピーンポーン』と船内にアナウンスが響く。


『ご搭乗中の皆様にご案内します。先ほどの揺れに関しまして、当機とデブリの接触により発生したものと判明しました。しかしながら航行には全く支障ございませんので、引き続き船の旅をお楽しみくださいませ』


「ほっ」と胸を撫で下ろし、移動する気が失せた私は元の席に腰掛ける。


「あらあら、田舎育ちのマリーさんには新鮮な体験だったかしら」


「うっさい」


 乗務員室の扉が開き、グラスを持ったADがこちらへ来る。


「先ほどは失礼しました。どうぞ」


「ありがとう」


 リタが再びグラスの脚に手を掛けたそのとき、私はある異変に気がついた。

ADの手、それがひどくいたんでいたのだ。

先ほどリタの手を保護したものとはまるで別物。

 

さらに視線を顔に移すと、彼の瞳孔は異常を示す『赤』に発光していた。


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