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第一話 前章「死神は姿を表さず、人を殺める。」


 これは少年が別世界を彷徨い、何度死んでも戦い続ける物語。


 次第に消失する心の奥には『妹への愛』ただそれだけが宿るのみ。


__________________________________________________



 夜の11時。暴風警報が発令中の屋外で、俺たち家族は、レジ袋を片手に家路を急いでいた。


 暴風がシュバアンッと、何度も俺の顔面を叩きつける。


 「暴風警報甘く見ていたな。」


 俺の呟きの後、妹のユイが声を出した。


 「お兄ちゃん!先に行っちゃうよ!」 


 妹は目の前をかけていく。俺に妹がいるなら風の悪戯など気にかけるほどでもない。


 煌々と輝く月を台風が隠していた。けれど愛らしい妹の輝きが隠れることはない。


 母親のそば、天使のように飛び跳ねる妹は光り輝いていた。


 そして地上を襲う暴風の轟音。


 前を歩いていた妹の華奢な体は、風に押されてよろけてしまう。


 両腕で転びそうになった妹を抱きしめた。


 吹き荒れる風が空を歪ませ、虚空を切り裂く。明らかに異常な環境音に紛れて俺は呟いた。


 「こんなに可愛い妹、俺が守らずに誰が守るんだよ。」


 その声は心臓の中を反響して肥大化する。俺の妹への愛情は何度も限界値を超えていた。


 「ありがとう、お兄ちゃん。あ、信号緑になっちゃうよ、ボケーっとした顔してないで、ほら、さっさと行くよ。」


 妹は前方で待つ母の方へ走って行った。俺は右手を力ませ、レジ袋を持ちあげる。肩にかけて、足に袋が擦れないようになったのを確認して、走り出す。


 「今から行く。ユイのためならお兄ちゃんは、死んでも死なんぞぉ!」


 信号待ちする母の所にたどり着いた妹。二人は和気藹々と楽しそうに会話をしている。


 「お母さん!家まで競争だよ!」


 「はいはい、わかりましたよ、ユイ。お母さんも負けてられないんだからね!ふふっ」


 典型的な仲睦まじい家族のやり取り。


 勢いを増す雨から、俺も家族のもとにズンズン走っていく。


 肩に背負い直した果物の袋がぐわんぐわんと弧を描いて振動する。二人の仲のよい様子に少し妬んで、それでも穏やかな微笑で後をついていった。


 ざんざんと吹き荒れる風はその勢いを増す。暴風を称す嵐の大群はもう目の前まで差し掛かっていた。



 「幸せだなぁ、俺。」

 


 空気を切り刻む轟音が辺りを包んだ。


 楽しかった世界が、目の前で…


 ほんの一瞬だった…意思ある突風が、俺たち家族を襲った。


 その日、幸せ者を粛清する死神が、確かにこの地に降り立った。全ては俺を混沌世界に連れ出すために。

 



 

 


  



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