プロロゴス
2人だけの暖かい空間。描かれた存在。
人通りの少ない路上を猫が気怠そうに横切っていた。
その後ろを着いていく少女。猫は建物同士の間にある細道や、人が通ることを想定していないが、そこまで高くない段差を超えていく。
そこを抜けると、日が差し込まれた年季の入った図書館が存在した。
僅かに開けられた入り口からひょいと猫が姿を消し、それを追うように少女はそっとドアを引き開ける。微かな鈴の音が響き、1歩踏み込む事に木が優しくきしむ。
「やっほー」
「おはよ」
入店した少女と同じぐらいの子が本を整理していた。
レジには少し冷めたコーヒーと1冊の本が置かれており、しおりが挟まれている。
「アイ、代わりにレジやって」
「良いけど、普段来る人なんて私ぐらいでしょ?」
おちょくるような言い方にムッとし、本を入れる力が強くなる。
「ソフィーはすぐ怒る〜」
「誰が怒らせてると思ってるんだ。それに、アイが来る時間はまだ営業時間じゃないから」
「でもドア空いてたよ?」
「閉めてると猫が入れないから」
「猫は本読まないよ」
うるせぇと一蹴りし、全ての本を整理し終える。暖かな空間に先程の猫は、窓際で寝息をたてながら熟睡している。
「というか、もうお昼だったんだ」
「そうだよ、だからおはよーじゃないよ」
「それはそうかも」
ソフィアはレジに戻り、向かいの椅子にアイリスは腰掛けた。
「コーヒーいれてよ」
「私の冷めたやつなら」
「めんどくさーい」
「自分で入れろ」
ハイハイとため息混じりに言いながら席から立ち、コーヒーを入れに行くアイリス。その様子を見ながら、ソフィアは今あるコーヒーを飲み干した。
「あれ、気付いたらコーヒーが空っぽだ。」
わざとらしくカップを逆さにし、アイリスの方をチラッと見る。
「あれ、『たまたま』そこにコーヒーを入れてる。折角ならおかわりを頼んじゃおうかな」
「うわ、ずるー」
「目の前に偶然コーヒー飲みたい人が居ただけだよ」
「猫にでも入れてもらってよ」
「アイ知ってる?猫って本読まない上にコーヒー入れられないんだよ」
それじゃあ仕方ないかぁと微笑みながら、ソフィアの分も入れてあげた。次第に湯気が立ち始め、コーヒーの香りが満ちる。静かな空間に窓から差し込む優しい陽の光が、穏やかな空間として2人を包む。2人だけの特別な時間だ。
「ソフィー、今何読んでるの?」
「んー。じゃあ今日はこの話をしてあげるよ」