第五〇話 二人きりの生活 七日目①
登場人物紹介
真田健一:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。玲香に告白されるも答えを先延ばしにしてしまうヘタレ。
神楽坂玲香:誕生日一日違いの義妹。戸籍上はまだ神楽坂玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。恋愛では肉食系だと判明(本人は認めず)。
日曜日だというのに、健一は早々に目が覚めてしまった。
時計を見るとまだ午前五時半過ぎだった。
正直、あまり眠れた感じがしない。
昨日の夜の玲香の告白で、心は千々に乱れてしまい、なかなか寝付けなかった。
結局、四時間も寝られていない気がする。
眠気はあるにはあるが、外も明るくなってきて、このまま布団に入っていても眠れる気がしない。
――起きよう……
正直、今日はずっと部屋にこもっていたい所だが、そういうわけにもいかない。
のそのそとベッドから這い出し、着替えを行うとリビングに向かう。
当然、朝食の支度をしている玲香がいた。
「おはよう、健一さん」
昨日、あんなことがあったというのに、至って普通だった。
「お、おはよう……玲香さん……」
健一は、そんな玲香に目を合わせることも出来ずに、その視線は泳ぎまくっていた。
完全に挙動不審だった。
玲香はそんな健一を見て、くすりと笑った。
「もうすぐ朝食できるから、もう少し待ってくれる」
「う、うん……」
健一は、流されるままにダイニングテーブルに座って待った。
「…………いただきます……」
玲香と向かい合い、朝食を食べる。
「いただきます」
玲香は至って普通の態度で朝食を食べていた。
まるで昨日のことが夢だったのでは、と思うほどだった。
だが、逆にその静けさが恐い。
健一は、下を向きながら無言で箸を動かす。
玲香の顔が見られない。
結局、玲香の方から話しかけてくることはなかった。
*
――健一さん、やたら挙動不審だったわね……
今日を期限と指定した手前、これ以上プレッシャーをかけないように努めて普通に接していた玲香だったが、あまりに落ち着きがない健一に内心苦笑していた。
だが、それは健一がこちらを意識しているからだと思うと嬉しさもあった。
玲香としても、健一がどんな答えを出してくるのか、不安は感じている。
だが、玲香は言うべきことは言ったと思っているのでただ待つだけだった。
*
朝食を終え、健一は外へ出た。
とりたてて当てがあるわけではないが、玲香がいる家でゆっくり考えることが出来るわけもない。
――どこ行くかなぁ……
あまりに近所だと玲香と会いそうなので、最寄りの駅から電車に乗る。
電車に揺られながら、玲香のことを考える。
昨日、玲香に告白された。
健一からすると、完全に想定外の出来事で、かなり混乱をしてしまったことは否めない。
同居を始めてから六日目となるが、結構仲良くなったという自覚はある。
だが、それはあくまで『家族』としての仲の良さだと思っている。
そこには、男性としての魅力は不要だ。
健一は自分が異性に好かれる魅力があると思っていなかった。
モテる努力なんてしたこともないし、そもそもアレ以来、恋愛をしようとも思っていない。
そんな自分が、女子から告白――しかも、その相手が校内一の美少女の玲香などというのは信じがたい事だった。
と――
――あれ……いつの間に僕はこんなところに……
眼前には見覚えのある校門があった。
思索に耽っている内に、気づいたら南城高校まで来てしまったようだ。
なんとなく校内に入る。
校庭の方から生徒達の声が聞こえる。
どうやら、日曜でも部活に勤しんでいるようだ。
――そう言えば、私服で来ちゃったな……
本来、土日であろうと学校に入る際は制服で来ること、という校則があったはずだ。
学生証は持っているから、追い出されはしないとは思うが、そもそも、学校に用があるわけではない。
こんなところをうろちょろしていたら、教師に怒られてしまいそうだ。
さっさと学校を出ようと思ったその時――
「おや、君は……」
突然、声を掛けられた。
それは意外な人物だった。
すらりとした金髪の美男子だった。
「あなたは……小林先輩……」
声を掛けてきたのは小林先輩だった。
南城高校でも一二を争うモテ男で、以前、校門前で御巫詩穂美をナンパをしていた。
校内にいるというのに、彼も私服姿だった。
「あの光華学園のプリンセスにお茶を誘われていた少年だね」
「さ、真田です。どうも……」
さすがに無視するのもどうかと思うので、軽く挨拶だけはした。
今日は色々考えることがある。
軽く会釈して、この場を辞そうとした時――
小林先輩は、顎に手を当てこちらを値踏みするように見て、
「真田君、といったかな。なにやら浮かない顔をしているようだね。――君さえ良ければ、話を聞かせてもらえないか?」




