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第四五話 二人きりの生活 六日目②

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。一番自信があった最初のプランで失敗してしまう。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。健一に大食いキャラだと思われていて不満。

「それにしても……この店、結構高かったんじゃないの?」

 ビュッフェでの食事も一段落したところで、玲香が言った。

 行き先が食べ放題ということに、安直ではないかと文句を言っていた玲香だが、実際に食べ放題が始まると、黙々と食べていた。

 食べ放題の制限時間は二時間で、今は一時間ほど経っていた。

 健一は始まって三〇分ぐらいでほぼ脱落しているのだが、玲香はまだ食べられそうだった。

「正直……値段は安くはないかな。色んな種類の料理が食べられるから。金額は――」

 と、値段を言うと、玲香は驚いた表情を見せた。

「そんなに高いの? さすがに贅沢しすぎじゃないかしら?」

 確かにこの店は値段が高かった。

 焼肉は和牛の様々な部位が食べられるし、海鮮であれば、マグロのトロの刺身はもちろん、蟹だって食べ放題だ。生け簀には車エビやサザエもあり、これらも自席で焼いて食べることが出来た。

 寿司も職人が握った物が置いてあるし、揚げ物もフライも天ぷらも様々な種類があった。

 そうなると、値段が高くなるのも仕方ないだろう。

「親からもらった生活費が結構余ったし、少しは散財してもいいかなと思ってさ。そもそも生活費に余裕があるのは、玲香さんが節約してくれたことが大きいし」

 これは本当にそうだった。健一としてはせっかくだから贅沢に行こうと思っていたが玲香がそれに頷かなかった。結局贅沢したと言えるのは、初日のピザを注文した時ぐらいなものだ。

 それでいて、日々の食事はとても満足いく物だった。

 それもこれも、玲香のおかげだった。元々、父親と二人暮らしでまともに手料理など食べて来なかった健一にとっては、彼女の料理はなによりのごちそうだった。

「だから、玲香さんは少しは贅沢して良いと思うよ。――なにもしてない僕についてはちょっとそのおこぼれをもらう、ということでお願いします」

 と、健一はおどけるように両手を合わせ、玲香にお願いする素振りを見せた。

「…………………はぁ……まったく……」

 そんな健一を見て、玲香は嘆息した。

「じゃあ、遠慮なく食べさせてもらうわよ」

「どうぞどうぞ。僕はもう食べられないけど」

 お腹をさすりながら言うと――

「ダメよ」

 玲香が首を振った。

「え」

「私だけに食べさせるのはずるいわ。まだまだいけるわよね、お義兄ちゃん(・・・・・・)

「……くっ……」

 義兄として期待されると、反論できなくなってしまうのが健一だった。

「……………………出来る限り頑張ります……」

「よろしい」

 玲香は小さく笑みを見せ、食事を再開した。

 ――さて、僕ももうひと頑張りするか……

 正直、腹八分目で終わらせるつもりだったが、無理しない程度に頑張ることにしようか。


 ――もう無理……

 頑張ろうとはしたが、健一は一〇分もしたら限界が来てしまった。

 玲香は「情けないわね……」と言ってはいたが、それ以上食べさせるようなことはしなかった。

 以降は、玲香の食べっぷりを見守っていた。

 食事の時の玲香は本当に楽しそうだ。

 実際、表情にはあまり出ていないが、今の健一ならそれが理解できた。

 そして、残り三〇分になった頃、ようやく満足したのか今は、デザートを食していた。

 この店は、なんでもあるだけあってデザートも豊富だった。

 玲香は、ショートケーキを美味しそうに食べていた。

 食い放題であれだけ食べていたというのに、まったく苦しそうではなかった。

 そもそも開始時点から一定のペースで食べ続けていた気がする。無理をしていないというか、二時間という制限時間を考慮し、予め計画を立てて食べていたと思われる。

 食べることにかけては、玲香は本気(・・)なのだろう。

 そんな玲香を健一は見ているだけで幸せな気分になった。

 無邪気な妹を微笑ましく思う兄の気分、というのはこういうものなのだろうか。

 そんな健一の視線に気づいたのか、玲香がこちらを見た。

 ハッした表情を見せ、誰に言うともなくつぶやく。

「しまった。食べるのに夢中になってしまったわ。なにをやっているのよ、私……」

 小声だったので、健一にはほとんど聞こえなかった。

「どうしたの? なにか言った?」

「なんでもないわ」

 と、玲香はフォークを手に取り、ケーキを食べきるのだった。


 残り一〇分を切った頃。

 二人はコーヒーを飲みながら、今後の話をした。

 玲香はいつも通り、ブラックコーヒーを口にした。

「それで、この後はどうするの?」

「大丈夫。ちゃんと次も考えているから」

 健一は得意げな表情を浮かべ、ミルクたっぷりのコーヒーを一口飲んだ。

 ――うん、やはりコーヒーにミルクは必要だ。

「本当に?」

 健一がやけに自信満々なのが不安なのか怪訝な表情を浮かべる玲香。

「心配しないで。次も予約はばっちりしてあるから……」

 サムズアップを見せる健一に、玲香は嘆息した。

「そういう意味じゃないだけど……」

 そんな玲香のつぶやきは健一には届かなかった。

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