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第四〇話 二人きりの生活 五日目②

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。

 高橋たかはし里美さとみ:クラスメイト。『黒姫様を愛でる会』の会員。自分は過激派ではないと思っている。意外に本音では話せる友人が少ない。

 教室。

 健一は自分の席――窓際の一番後ろの席――に座っていた。

 九条会長と生徒会室で話した後に教室に来ていたが、まだ始業まで時間に多少の余裕があった。

 教室内を見回すと、だいたい半分ぐらいの生徒が揃っていた。

 玲香はまだ来ていない。

 だが、ここ数日の傾向からすればそろそろ登校してくるだろう。

 と――

 そんなことを思っていると、玲香が教室にやってきた。

 一瞬静まりかえる教室。

 皆、玲香を注目しているのがわかった。

 玲香が自分の席――窓際の一番前――に向かう際に通りかかった生徒と挨拶だけを交わしていく。

 それは、いつもと変わらない光景に見える。

 だが、挨拶をしている生徒の様子は少し違った。

 これまでは、挨拶だけは許すというにより、恐る恐る玲香に声をかけていた。もし挨拶だけでなく会話をしてしまったら、『愛でる会』に目をつけられてしまうから。

 だが、今日は違った。

 緊張感を持って話しかけているのは変わらないが、一歩踏み出す勇気が無いため、声をかけたいが、まだその勇気がでない――そう見えた。

 九条会長の通達はしっかり伝わっているようだった。

 玲香が席に着く。

 クラスメイトを見ると、互いに顔を見合わせていた。

 その時――

 一人の女子生徒が玲香の席へ歩き出した。

 女子生徒は健一の方をちらりと見て、軽く頷いて見せた。

「おはよう、神楽坂さん」

 女子生徒――高橋里美が、玲香に挨拶をした。

「おはよう、高橋さん」

 玲香が答える。

 いつもならこれで終わりだった。

 玲香もそのつもりで、高橋里美から意識を外そうとしているように見えた。

 だが――

「神楽坂さん」

 高橋里美が再度、玲香に声を掛けた。

「……なにかしら? 高橋さん」

「……昨日の英語の宿題、なんだか難しくなかった?」

 それは他愛もない世間話なのだが、高橋里美は清水の舞台から飛び降りるかのような緊張感を漂わせていた。

「……? そこまで難しかったかしら?」

「さすが、神楽坂さん! 私は難しくてなんとか終わらせはしたんだけど自信が無くて。次の休み時間に宿題見せてもらっていい?」

「ええ、別に良いけれど……」

「ありがとう! ――沙樹さき優花ゆうか!」

 と、高橋里美は後ろを向いて、様子を伺っていた友人達に声を掛けた。

 高橋里美に言われて、友人の鈴木沙樹と佐藤優花が近づいて来た。

 高橋里美が、二人に頷いて見せた。

「あ、あたしも宿題見せてもらっていいかな?」

「私も私も」

 鈴木沙樹と佐藤優花が続けて言うと、

「ええ、私は良いけれど……」

 玲香の戸惑いを残しつつ、答えた。

「やったね」

「うん」

「じゃあ、一時間目が終わったら、よろしくね。神楽坂さん」

 高橋里美が念を押すように言った。

「わかったわ……」

「それでさ――」

 高橋里美は、玲香が戸惑っていることはわかりつつも、会話を続ける。

 もそれに加わり、別の生徒も来て会話に加わっていった。

 高橋里美が口火を切ってくれたおかげで、やりやすくなったのか、鈴木沙樹と佐藤優花以外にも女子生徒が集まってきていた。

 後ろの席から見ているので玲香の表情はあまり見えないが、今の状況に戸惑いが消えていないようなのはわかった。

 これまで挨拶程度しか会話を交わしていなかったクラスメイトが普通に話しかけているのだから、戸惑わない方が嘘だろう。

 だが、戸惑いつつも、嫌がっているようには見えなかった。

 ――これが日常になればきっと慣れるよ。

 そんなことを思っていると、玲香がこちらの方に顔を向けようとしていた。

 慌てて頬杖をつき、窓の外に視線を向ける。

 しばらく玲香から突き刺さるような視線を感じたが――健一が反応せずにいたら、すぐに消えた。

 ――危ない危ない……

 せっかく、九条会長が、健一と玲香の関係を広めないでくれたのだ。

 これからの玲香の学校生活を思えば、学校ではあまり深く関わらない方がいいだろう。冴えない陰キャ男子の健一と義理の兄妹と知られて良い事なんて、ないのだから。

 ――良い天気だな……

 健一は頬杖をついたまま満足げな表情で、窓から快晴の空を眺めていた。


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