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第四話 二人きりの生活 一日目④

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。家事は得意ではない。玲香と義理の兄妹になったことは隠しておきたい。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。教室に入っただけで注目集めてしまう存在感の持ち主(本人に自覚なし)。黒姫様と呼ばれ崇拝もされている。

 片山かたやま嵩広たかひろ:クラスメイト。健一の数少ない友人。

 昼休み。

 特に一緒にお昼を食べる友人はいなかった。

 片山嵩広は健一の数少ない友人ではあるが、悲しいかな片山から見ればたくさんいる友人の一人である。昼休みに一緒に昼食をとる友人は別にいるのだ。

 一度、そんな昼食の集まりに誘われたことはあったが、丁重にお断りさせてもらった。

 和気藹々とした昼食の場に異物である健一がいたりしたら、気まずすぎるとしか言い様がない。

 片山は『そんなことねーだろ』と言ってくれたが、無理なものは無理だった。

 それ以来、片山は昼食を誘ってくることはなかった。

 それでいて、未だに気にせず気さくに話しかけてくれるのだから、片山は本当にいい人なんだな、と思う。


 閑話休題。

 健一は、昼食をどうするべきか悩んでいた。

 普段ならば、学食で――もちろん一人で――食べているのだが、今日はそういう訳にはいかなかった。

「…………」

 鞄に入っているある『モノ』について思いを馳せた。


 朝、自宅の玄関先で、靴を履いていると玲香がやってきて、

「どうぞ」

 と、布に包まれた物体を手渡された。

「これは?」

「お弁当。――いらなかった?」

「い、いや、そんなことないけど。――その……なんで?」

 同世代の女性から手作り弁当をもらう。

 健一からすれば、普通のことではない。健一が戸惑ってしまうことも仕方ないだろう。

 いかに義理の兄妹とは言えまだ一日目。

 そこまでの関係なのだろうか、とは思う。

 そんな健一の思いを知ってか知らずか、玲香は事もなげに言った。

「別に一人分も二人分もたいした手間じゃないから。――それに、元々母親と自分用に作っていたから、習慣で作ってしまったのよね」

 本当にたいした事とは思っていないのか、玲香はいつもの無表情だった。

 ――僕が気にしすぎかな……

 そう思うと、意識しすぎな自分がなんだか恥ずかしくなってきた。

 健一は素直に礼を言った。

「そ、そうなんだ。ありがとう、神楽坂さん」

 そんな健一を見て、玲香はわずかに表情を変えた。よく見ていなければわからないほどの小さな変化だった。

「…………健一さん、あなたって……」

「え? なに?」

 聞き返すと、玲香はまたすぐに元の表情に戻り、

「なんでもないわ。さ、早く学校に行ってくれるかしら」

「う、うん。――行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 家族であればなんてことないやり取りだが、まだ義理の妹として見れていない健一にとっては気恥ずかしかった。


 そんな訳で、今は玲香から受け取った弁当をどうするか悩んでいた。

 このまま教室で食べても、誰も健一のことなど気にもしないだろうが、なんとなく気になってしまう。

 そんな玲香本人は、自分の席で一人で食事中のようだった。ただ、健一の席からは玲香の後ろ姿しか見えないため、詳しいことはわからない。


 周囲を見ると一緒に食べるために声をかけたそうな女生徒はちらほらと見受けられるが行動に移す者はいないようだった。

 改めて教室内を見渡すと、室内で昼食をとっているのはそれほど多くない。

 大半は学食等別のところで食べているようだ。

 ――それならいいか……

 深く考えていても仕方が無いので、このままここで食べることにした。

 鞄から布に包まれた弁当箱を取り出し、開く。

 弁当箱は黒色の細長い二段式の弁当箱だった。

 両方とも蓋を開ける。

 一段目にはおかずが入っていて、主菜は卵焼きにウインナーで、副菜はひじき煮にポテトサラダだった。

 二段目は白いご飯がぎっちり詰まっていた。

 とても美味しそうだった。

 おかずの比率も主菜が多めで、がっつり食べたい男子としてはありがたい。

 ――男子の僕に合わせて、わざわざ変えてくれたのかな?

 だとすると、気を遣わせてしまったな、と思った。

 と――

 飲み物を用意していなかったことに気づいた。

 一度、弁当の蓋を閉め、教室を出ると近くの渡り廊下にある自販機でペットボトルのお茶を購入した。

 教室に戻る際、あえて前の扉から入った。席に戻る前に玲香の席の近くを通るためだ。

 あえて玲香の席の横を通り、気づかれないように横目に見る。

 予想通り、玲香は黙々と弁当を食べていた。

 黒色の細長い二段式の弁当箱で。

 中身は、まったく健一の弁当の内容と一緒だった。

 ――ちょ、ちょっと!

 健一は席に戻るなり、弁当箱を再び布で包み、急いで教室を出た。

 とりあえず人気が無いところで食べよう。

『黒姫様』とまったく同じ弁当を食べる男子生徒がいることがバレたらどうなるか想像したくはない。

 ――勘弁してよ……


 結局、屋上近くの階段の踊り場で食事をすることにした。

 屋上は普段は鍵が閉まっていて入れないので、ここに人がいることはほとんどなかった。

 学食ではなく購買でサンドイッチ等を買って食べる時はいつもここで食べていた。

 ――焦ったなぁ。

 なんだろう。どっと疲れた。

 玲香がなにを考えているのかわからなかった。

 再婚して同居していることは、秘密にする――ということにしているのに、弁当箱どころか中身まで一緒とか、これでは匂わせまくりではないか。

 ――まあ、神楽坂さんは僕と違って『別に絶対秘密にしたい、というわけではない』とか言ってたし。僕がちょっと気にしすぎなのかな。

 自分が自意識過剰だったかも知れない。

 ちんたらしているとお昼休みが終わってしまう。

 弁当の蓋に付属している箸を取り出し、健一は食べ始めた。


 玲香の手作り弁当は、とても美味しかった。

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