表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/66

第三八話 二人きりの生活 四日目⑩

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。

 教室で色々と考えていたら結構帰宅が遅くなってしまった。

 家に入り、リビングに顔を出す。

 台所では玲香が夕食の支度をしていた。

 セーラー服の上にピンクのエプロン姿だった。

 髪型はいつものように邪魔にならないようにポニーテールにしていた。

 健一からすると既に日常の風景ではあるが、『愛でる会』の面々が見たら血涙でも出そうな光景だな、と思ってしまった。

 ――少し毒されているかな……

「ただいま……」

 玲香の顔色を伺いながら帰宅の挨拶をする。

 学校でのことがあり、少々気まずい。

 だが、玲香は至って普通の態度だった

「もう夕飯、出来ているから」

「う、うん、ちょっと待って」

 と、健一はリビングを出て自室に入る。

 鞄を置き、制服の上を脱いで、リビングに戻った。

 ――さて……どうなるかな……

 夕食の前に気を引き締める健一だった。


 いつものようにダイニングテーブルで向かい

 今日の夕食はレバニラ炒めだった。

 ――レバニラか……

 レバーは独特の食感や臭みもあってあまり好きではなかった。

 とはいえ、食べられないほど嫌いというわけではないので、普通に食してみる。

 レバーとニラ、そしてもやしを一緒に箸でつかんで口に持って行き、咀嚼する。

「美味しい……」

 思わず口に出た。

 そして茶碗を持ち、ご飯も食べる。

 とても米に合う味付けだった。

「僕はあんまりレバーとか得意じゃないんだけど、このレバニラ炒めは臭みとかなくて美味しいね」

 臭みがないからか、独特の食感もほとんど気にならない。

 美味しくて箸が止まらない。

 玲香はそんな健一を見て、

「レバーは下処理をしっかりしておけば臭みは出ないものよ。特別なことはしていないわ」

 と、下処理について説明した。

 まずレバーをしっかり水洗いをして牛乳に二〇分から三〇分ほど浸ける。牛乳にはレバーの臭みを吸収する成分が含まれるからだそうだ。

「なるほど……」

 確かに特別なことはしていないのかも知れない。

 だが、手間は掛けている。

 かつて玲香は手を抜くところは抜く、と言っていたがそれは逆に言えば手を抜いてはいけない所は手を抜かない、ということだろう。

「ありがとう。玲香さん」

 健一が感謝の言葉を述べると、

「別に。普通のことしかしていないから。――せっかくの食材だから少しでも美味しく食べたいでしょ? そのための手間は惜しくはないわ」

 そう言うと、玲香はレバニラ炒めをとても美味しそうに食べていた。

 手間を掛けるのも自分が美味しく食べるため、ということか。

 玲香らしいな、と思った。


 それにしても――

 ――なにも言ってこないな……

 健一は玲香の様子をうかがいながら、独りごちる。

 さすがに食事時に向かい合っていたら、学校でのことを訊いてくるかと思ったが、玲香はそんなそぶりすら見せなかった。

 まるで放課後の教室でのことがなかったかのようだ。

 詩穂美が、健一に間違ってRINEをしただなんて、明らかに嘘くさいことを信じているとは思えない。

 おそらく、なにか(・・・)があったことは察しているだろう。

 玲香としては気にはなっているだろうが、健一があまり言いたがらないようなので、スルーしてくれているのだろう。

 健一は胸中で玲香に謝罪した。

 ――ごめん、玲香さん。でも、このことは、玲香さんにとって悪い事じゃないから……

 明日になれば玲香の学校生活は変わるはずだから。

 今は好物になったレバニラ炒めを食すことに集中することにした。


       *


 夕食後、残った家事や入浴を終わらせて自室で落ち着いた後、詩穂美に電話を掛けた。

「詩穂美……あなた、私になにか言うことあるわよね」

『南城高校へ行けなかったことはごめんって。連絡し忘れちゃって……』

「そうなの? ――健一さんの所に、急遽来れなくなったってRINEが届いたって言ってたわよ」

『…………あ、そうだそうだ。RINEは送ってたんだった。そうか、間違えて真田君の所に送っちゃってたんだね。最近RINEのIDを交換してたから、送り先、間違っちゃったかもなー』

 先程と違う説明をし出す詩穂美。

 どうやら二人で口裏すら合わせていないようだった。

 これで誤魔化せると思っているのだろうか。

 玲香は嘆息した。

「……あくまで説明する気はない、と」

『なに言っているのよ。今説明したじゃない』

「……わかったわよ。――まったく健一さんにしても詩穂美にしても怪しいんだから」

『そんなことないって。あ、そういえば、今日は宿題が残っていたんだった。じゃ、またねー』

 と逃げるように電話を切られてしまった。

 詩穂美から聞き出せるかと思ったが、話す気はなさそうだ。

 ――むう……

 玲香は釈然としなかった。

 明らかに健一の様子はおかしかった。

 そして、それに詩穂美も関わっているように思えた。

 思えば、今日は気になることが多かった気がする。

 まず、昼休みに深刻そうな表情で、健一と高橋里美が話していた。

 そして、放課後になると、また高橋里美が健一の元に来て、そのまま二人でどこかへ行ってしまっていた。

 これも無関係とは思えない。

 だがどのように関係しているかは想像もつかなかった。

 正直、健一を問い詰めたかった。

 放課後の教室で会った時もそうだし、自宅に帰って夕食を共にした時もそうだった。

 だが、できなかった。

 健一を見ていればなにかを誤魔化そうとしていることは一目瞭然だった。

 だが、不思議なことにそこに後ろめたさのようなものはあまり感じない。

 そして、気になるのは玲香の方を見る、健一の眼。

 とても優しげな眼差しをしていた。

 まるで()を見る、()のようだった。

 義兄けんいちにそんな顔をされては、玲香としても追求できるわけもなかった。

 ――とりあえずまた明日考えましょう……

 懊悩とした気持ちを抱えながら、玲香は眠りに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ