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第三二話 二人きりの生活 四日目④

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。

 高橋たかはし里美さとみ:クラスメイト。『黒姫様を愛でる会』の会員。自分のふとした発言でとんでもない事態になったことを後悔している。


「真田君、いいかな」

 放課後になり、宣言通りに高橋里美が健一の席にやってきた。

「わかった」

 立ち上がり、里美についていく。

 新校舎を出て、旧校舎へ向かう。

 旧校舎は少し離れた場所にある。

 旧校舎と行ってもさすがに木造というわけではなく、鉄筋コンクリートで出来ていた。

 経年劣化で壁の汚れが目立つ程度で、知らなければ旧校舎とは思わないだろう。

 そもそも新校舎ができて数年しか経っていないのだから当然か。

 旧校舎に入り、三階まで階段で上っていく。

 里美とは会話はなかった。

 緊張しまくっている健一から話しかける余裕はないし、里美も話しかけるつもりはないようだった。

 教室の目の前にまでついた。

 里美が教室の引き戸を開け、入室を促す。

 教室内は机と椅子をコの字に、並べられていた。

 その席全てに生徒が着席していた。

 十数人の生徒達から視線が自分に集まるのを感じる。

 こういう注目されることになれていない健一にとって、逃げ出したい衝動に駆られた。

 だが、耐える。

 こうなることは、わかっていたことだ。

 なけなしの勇気を振り絞った。

 じっとりと汗ばむ掌を強く握り込んだ。

「わざわざ呼び出してすまない。よく来てくれたね。真田健一君。――とりあえず、その椅子に座ると良い。疲れただろう?」

 上座に座っている男子生徒が言った。

 男子生徒は、コの字の中心にぽつんと置かれた椅子を指差していた。

 そこに座れ、ということなのだろう。

 完全にさらし者の席だ。

 男子生徒は、整った髪型に端整な顔立ちをしていた。

 かけている眼鏡のせいかとても知的な印象がある。

 ――というか、この人って…

「あの……どうして、あなたが?」

 思わず口に出てしまった。

「どうして、とは?」

 男子生徒は、両肘を机につき、両手の指を組み口元を隠した状態で言った。

「いや、その……なんで生徒会長(・・・・)がここにいるんですか?」

 男子生徒は、この南城高校の生徒会長だった。

 知り合いというわけではないがなにかと見る機会があるので、健一と言えど顔は知っていた。

「いかにも、私が生徒会長の九条くじょう隆也たかやだ。よろしく」

「……よろしくお願いします――」

 とりあえず挨拶を仕返す。

 そして――

 生徒会長の隣にいる女生徒を見た。

 この人も、健一は知っていた。

「あなたは……副会長ですよね。生徒会の」

 健一は最後に付け加えるのを忘れずに、訊いた。

「ええ、そうよ」

 キリッとした目つきで、生徒会長の隣に座っている女生徒は言った。

「あたしは、綾部あやべしずか。生徒会副会長よ。よろしくね」

 身長は一七〇センチ半ばぐらいあるだろうか。

 スタイルもかなり良く、胸から腰にかけてのしなやかな女性らしい曲線をしていた。

「よろしくです……」

 とりあえず、返事をした。

 状況が理解できない。

 ――なんで生徒会長と副会長がいるの?

 てっきり、『黒姫様を愛でる会』に呼び出されたのだと思っていたが、違うのだろうか。

 ――いや……と言うより……

「もしかして……」

「君が考えている通りだよ。私が『黒姫様を愛でる会』の会長、九条隆也だ。そして隣にいる綾部君が副会長だ」

「そうだったんですか……」

 生徒会長と副会長ががまさか『黒姫様を愛でる会』の会長であり副会長であったとは驚きだった。

『黒姫様を愛でる会』は南城高校のトップ二人に運営されているのだ。

 ――この学校、大丈夫なのかな……

 健一がそう思ってしまうのも仕方の無いことだろう。

「そうか。君は『愛でる会』についてなにも知らなかったのだな。会員でなくとも、その存在は知られていると思っていたのだが……」

「…………」

 会長の言葉に健一はなにも答えられない。

 なにしろ、本当に知らなかったのだから。

「別に有名にならなくてもいいじゃない。やりづらくなるだけよ」

「いや。私の目標は『黒姫様』を除いた全校生徒を『黒姫様を愛でる会』に入会してもらうことなのだから」

 会長の目標はあまりに壮大だった。

「ふん。そんなの無理に決まっているし、会員もそれを望むかしら?」

「望むさ。そうすることで、南城高校は平和に包まれるはずだ」

「どうだか」


「…………」

 なにやら論争している二人を見て、気勢がそがれてしまう。

 そんな健一を見て、二人は論争をやめた。

「ああ、すまない。どうも我々はこうなってしまうだよ」

 そして、九条会長がこちらを真っ直ぐに見た。

「では、本題に入らせてもらおう」

 その言葉で、教室内の空気が一変した。

「真田君。君は、『黒姫様』――神楽坂玲香さんを知っているね?」

「はい。クラスメイトですし……」

 健一は無難に答える。

「君は、昨日の放課後、『黒姫様』と一緒にいたね?」

 いきなり核心を突いた質問をしてきた。

 健一は思案する。

 どのように答えるべきか。

 ここで否定してもおそらく証拠を出してくるに違いない。

 ならば、否定することは握手かも知れない。

「……はい」

 健一の返事に、場がざわめく。


「本当に一緒にいただなんて……」

「あんなにさえない男が『黒姫様』とどうやって?」


 好き勝手言われているが事実なので特に怒りはない。

「そうか……」

 九条会長がぽつりとつぶやく。

 その表情からはなにを考えているかはわからない。

 問題は、この後、なにを言われるか、だ。

 その件について、会員全員から糾弾をされるのだろうか。

 健一は大きく唾を飲み込んだ。


「……………………」

 それから一分ほど、無言の時が続いた。

 ――ん?

 なぜか、九条会長はなにも言わなかった。

 最初は、健一にプレッシャーを与えるために、あえてそうしているのかと思ったが、隣にいる綾部副会長やその他の会員が不可解な表情で九条会長を見ているので、違うようだった。

 そもそも九条会長が変だった。

 やけに目が泳いで視線が定まらない。

 冷や汗もかいているように見える。

「会長」

 冷たい目で綾部副会長が、九条会長が見た。

「わかってるわかってる」

 九条会長が綾部副会長を制し、再びこちらを見た。

「真田君」

「はい」

「あのー、つかぬ事を訊かせていただくのだが……」

「はい」

「君は……その、あの……」

「はい…………?」

 なんだかとても言いづらそうだった。

 これがいつも堂々としている生徒会長なのだろうか。

「会長っ!」

「わ、わかってるって綾部君」

「頼むよ、会長」

「ああ」

 九条会長が覚悟を決めたのか、大きく頷いた。

「真田君。君は『黒姫様』と昨日デ、デートを……した……んですか?」

 こちらに目を合わせず、不安そうな表情の九条会長だった。

「え…………」

 質問の意味は理解は出来るが、このように訊かれるとは思わず困惑する健一だった。


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