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第三一話 二人きりの生活 四日目③

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。

 高橋たかはし里美さとみ:クラスメイト。『黒姫様を愛でる会』の会員。自分のふとした発言でとんでもない事態になったことを後悔している。

 片山かたやま嵩広たかひろ:クラスメイト。健一の数少ない友人。

 昼休みになっても、特に変化はなかった。

 ――自意識過剰だったかな?

 今日も自作の弁当――冷凍食品入り――を食べながら、健一は独りごちる。

 昨日、玲香と放課後に牛丼屋とゲームセンターに行った所を、南城高校の生徒に見られていたのではないか、と警戒していたが――ここまで特になにもなかった。

 ネガティブな性格故に、最悪の事態を想定していたが、考えすぎだったようだ。

 ようやく落ち着いて昼食をとれそうだ。

 改めて、周囲を見渡す。

 教室には半分ぐらいの生徒が残っていて、思い思いに昼食を食べていた。

 窓際の一番前の席に座っている玲香を見る。

 窓際の一番後ろの席に座っている健一からは、よくは見えないが、おそらく健一が用意した弁当を食べていることだろう。

 ――そういえば、また今日もおかず交換させられたんだよなぁ……

 昨日は、玲香の弁当のおかずに肉要素が少ないとクレームを入れられて、おかず交換をさせられたので、今日はそれを踏まえて、玲香のおかずは肉メインにしていた。

 毎日食べても飽きないというハンバーグはもちろん入れて、メンチカツにささみのチーズフライにした。

 これなら文句ないだろう、と思ったら今度は、「バランスが悪い」と言われ、メンチカツとポテトサラダを交換されてしまった。


「昨日と話が違うじゃないか」

 と、玲香に抗議すると、

「そういうこともあるのよ」

 と堂々と言われてしまった。


 なんだか、玲香に良いように弄ばれているような気もするが、そんなやりとりも悪くないと思えている自分がいた。

 つい数日前は、ほぼ他人同士だったというのに。

 変われば変わるものだ、と心底思う。

 だからこそ、今も独り弁当を食べている玲香を見て、思うところがあった。

 その突出した美貌故に、人から遠巻きに見られ、勝手に崇められているという、今の状況を放っておいていいのだろうか。

 正直、自分だけが、玲香の本当の姿を独占・・していたい、という気持ちもある。

 だが、健一は義兄あになのだから、そういうこと(・・・・・・)を考えるべきではない、とも思っている。

 だが、具体的になにをすれば良いのか――と言われると難しい。

 健一自身がほとんど友人がいないぼっち人間だというのに、なにができるだろう。

 と――

「……真田君……」

「……高橋さん、どうしたの?」

 高橋里美が健一の席までやってきた。

 また、屋上近くの階段の踊り場に呼び出されて、玲香について語られるかと思ったが、なんだか、里美の表情がいつもと違った。

 ずっと伏し目がちで健一と視線を合わそうとはしない。

「今日の放課後、時間ある? ――ちょっと来てほしい所があるんだけど」

「放課後? 別に時間はあると言えばあるけど、どこへ?」

「……旧校舎三階にある教室なんだけど……」

 南城高校の旧校舎は今の校舎から少し離れた時にある。

 授業には使われていないが、補習や自習室、文化系のクラブの活動場所として使われている。

 ――あれ、でも……

「旧校舎の三階って、全部空き教室じゃなかったっけ?」

 旧校舎は三階立てだが、基本的に使い勝手のよい一階が主に使われていた。

 使いたいクラブも増えてきて今は二階も使われているが、現状三階はすべて空き教室となっていた。

「今日は特別・・に使わせてもらっているのよ」

「はあ……で、その用件は?」

「ちょっと、今は言えない(・・・・)の……。私も連れてきて欲しいと言われただけで……」

 申し訳なさそうに、里美が言う。

「………………その、連れてきて欲しいと言った人は?」

「ごめん。言えない(・・・・)の……」

 里美は先ほどまでと違い、まっすぐにこちらを見て、言った。

 そんな里美を見て、健一は察した。

「わかった。――放課後、教室に残っていればいいのかな?」

「うん。放課後また呼びにくるから」

 里美は自分の席に戻っていった。

 ――ついに来たか……

 間違いなく、待っているのは、『黒姫様を愛でる会』の呼び出しだろう。

 ――なんか、胃が痛くなってきた……

 特に困るのが、放課後まで時間がある、ということだ。

 午後の授業に集中するのはとても無理なので、まだ見ぬ『愛でる会』の面々を想像して対策を練ろう。

 ――そういえば……昨日無理矢理押しつけられたアレ(・・)があったな……

 場合によっては頼らせてもらうかも知れない。

 と――

「どうした、真田」

 腕組みしながら考え込んでいると、学食から帰ってきた片山嵩広が声をかけてきた。

「片山君……今までありがとう。君のことは忘れないよ」

「おいおい、どうしたんだよ」

 目を丸くする片山に健一は苦笑いをした。

「ごめん、冗談」

「驚いたな。真田はそういうことを言うキャラだとは思わなかった」

「そうだね、僕も驚いているよ」

「……真田、なにかあったか」

「ちょっとね……もし、すべてうまく行ったら――話すよ」

「…………そうか。頑張れよ」

「うん」

 健一は、覚悟を決めて――大きく頷いた。


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