第二八話 二人きりの生活 三日目⑫
登場人物紹介
真田健一:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。ゲームは好きだが得意ではない。
神楽坂玲香:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。ゲームはほとんど経験は無いが才能があることが判明。
御巫詩穂美:玲香の数少ない友人。お嬢様学校として名高い光華学園の生徒だが本人はお嬢様ではない。無双流という武術の使い手の恐い人。幼なじみは別作品の『異世界少年カイト』の主人公、黒崎櫂斗。
『だから謝っているじゃない。許してよ、玲香』
「……あなたの謝罪は心がこもっていないからダメよ」
夜。
玲香は自室で今日も詩穂美と通話をしていた。
話題は当然今日のことだ。
「まったくいきなり南城高校に来るなんて。嫌な予感はしていたけれど……」
『ダメ元で出した外出届けが問題なく受理されたからね。これは行くしかないって思ったのよ』
「……自重して欲しかったわ……」
『嫌よ。私も真田君と話してみたかったし。――顔写真は見せてもらっていたからね。校門前で待っていれば来ると思ってたから』
「あなたに見せるんじゃなかったわね……」
母の再婚が決まり、初めて全員で顔合わせした際に撮った写真を詩穂美になにげなく見せてしまったのだ。
詩穂美の行動力を舐めていた。
「もう来るなとは言わないけれど、今度は事前に私に連絡するのよ。健一さんに迷惑をかけてしまったわ」
『ちょっと待ってよ。私、なにもしてないって。ただ楽しくお話してただけじゃないの』
「あなたは楽しかったでしょうね……」
『ひどいこと言うね、玲香。――まあ、確かにすこーし、からかったかなーと思う部分はあるけど』
「あなたね……」
呆れ声の玲香。
『まあまあ。でもさ、わたしだって言いたいことあるんだけど』
「なによ」
『なんで櫂斗のこと話題に出したのよ。真田君にツンデレとか思われたじゃない』
「それは悪かったわ……」
未だにツンデレについてはよくわかっていないが、この件に関しては玲香が全面的に悪かったと思ってるので素直に謝る。
そもそも、あえて詩穂美の幼なじみの黒崎櫂斗の名前を出したのは、健一の反応を確かめるためだった。
詩穂美に仲の良い幼なじみがいるとわかったら、どう反応するのか、知りたかったからだ。
なぜ、そんなことをしてしまったのか。
義兄だから、気になったのか。
それとも、健一だから気になったのか。
自分でも、よくわからない。
初めての経験だった。
――そんな詮索をするから……
そうして、健一に絡んでいった結果、彼を傷つけた。
健一本人はそう感じていないようだが――それが逆に玲香の胸を苦しくさせていた。
そんなこともあり、テンションが落ちまくっていた玲香を、健一は、励ましてくれた。
牛丼屋で食べた特盛り牛丼は美味しかった。これから、家で牛丼を作る時も紅ショウガを常備してしまいそうだ。
ゲームセンターで二人でやったゲームも、とても楽しかった。
何気に玲香の方がゲームが上手かった時の、健一の複雑そうな表情は見物だった。
健一の決してスマートではないが、懸命なエスコートが玲香の心を打った。
普段は頼りなくて放っておけないが――いざというときには頑張ってくれそうなお義兄ちゃん。
初日の夜、健一のことをそう感じていたが、その印象は間違っていなかった。
――同い年なのにね……
玲香は苦笑する。
健一とは、クラスメイトとして、一年と少し過ごしてきた。
だが、そんな一年よりも、この数日間の方が濃密だった。
一緒に食事や掃除をし、何気ない会話をして、過ごす――
それにより、健一のことを知ることが出来たし、玲香のことを知ってもらえた。
それはとてもうれしいことだった。
そこに、無理に理由をつける必要は、無いのかもしれない――
『どうしたの、玲香。もしかして寝落ちした?』
「……大丈夫よ。少し、考え事していただけだから」
『もしかして、真田君のこと考えてた?』
「…………ノーコメントよ」
玲香の言葉に、詩穂美は笑った。
『それは答えていることと同じなんだよね……』
「…………切るわよ。おやすみ」
『はいはい、おやすみない、玲香』
通話を終え、玲香はそのままベッドに寝転がり、天井を見上げた。
真田家の二階奥にあるこの部屋で暮らすようになって三日。
少しずつではあるが、馴染んできている気がした。
視線を健一の部屋の方に向けた。
今日は色々あり、良いことばかりではなかったが、義兄である健一のことをより知ることが出来た。
――明日の朝食はなににしようかしら……
お昼の弁当はまた健一が作ってくれるそうなので、どうするつもりなのかが楽しみだった。
また、強引におかずを交換してみて、どんなリアクションをするのか見るのも良い。
そんなこと考えているうちに眠くなってきた。
本当は明日の授業の予習をしようかと思ったが、やめた。
今日は、そういう日ではない気がした。
玲香は部屋の電気を消し、布団に入り寝る体勢を作った。
自然にまぶたが閉じて、玲香はすぐに眠りに落ちた。
夢は見なかった。




