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第二七話 二人きりの生活 三日目⑪

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。牛丼は並盛りで十分。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。牛丼は特盛りでちょうどいい。

 牛丼を食べ終え、店を出た。

 玲香は満足そうな表情をしている。

 ポニーテールになっていた黒髪は元に戻っていた。

 少し残念なような、そうでないような……

「玲香さん、これから……どうする?」

「どう……とは?」

 健一の問いに、玲香が訊き返した。

 ――どうする……

 健一も自問自答していた。

 玲香になにを言うべきか、考えていた。

 選択肢はいくつかある。

 ひとつはこのまま解散することだ。

 一緒に帰らず、健一が先に帰るか、もしくは玲香に先に帰ってもらう。

 二人でいることを見られることもないし、無難な選択だった。

 そしてもう一つは、ここから一緒に帰ることだ。

 自宅まではまだそれなりに距離はあり、見られる可能性は低くはない。

 ある程度、腹をくくる必要がある。

 そして最後の選択肢は――

「せっかくだから、少し寄り道して見る?」

 健一は勇気を振り絞って、提案してみた。

 完全に腹をくくり、普段なら絶対やらない選択をした。

「寄り道?」

「そう。そんな長い時間じゃないけど、どこかで遊んでいくのもいいんじゃない?」

 こんな発言をしていることが不思議だった。

 普通なら絶対に、やらない。

 だが、このまま家に帰ってしまってはダメな気がした。

「いいのよ、健一さん。これ以上気を遣わなくても大丈夫よ。――本当に、大丈夫だから」

 玲香はなにかを察したようで、遠慮をした。

 ――そうだよね……

 玲香ならそう言うと思った。

 だから、健一はこう言った。

「いやいや、気なんか遣っていないって。――僕は、寄り道大好きなんだよね。だから……付き合ってくれないかな? 義兄あにの頼みだと思ってさ」

 強引でもいいから、頼み込むこと、これが玲香の攻略法だった。

「まったく……わかったわ」

 玲香は苦笑しつつも、了承した。

「それで、どこへ行くの?」

「…………う」

 ――しまった、なにも考えていなかった。

 なので質問には質問で返すことにした。

「玲香さんが行きたいはないの?」

「ないわ」

 即答だった。

 ――くっ……

 困った健一は、絞り出すように言った。

「…………じゃあ……ゲーセンでも、行く?」

 今から行けるとこで言うとそれぐらいしか思いつかなかった。

 洒落たスポットなんて知らないし。

 すると――

「いいわよ」

 即答だった。

「いいの?」

「だって、行きたいのでしょ」

「う、うん……」

 そういうことになってしまった。


 ――まさか女子と二人でゲーセンへ行くなんて事があるとは……

 繁華街にあるゲームセンターに健一と玲香の二人は来ていた。

 それなりに大きいゲームセンターで、ビデオゲーム、メダルゲーム、クレーンゲームとバランス良く置いてあった。

 玲香がどんなゲームが好きかはわからないが、ここなら外すことはないだろう。

「なにか気になるゲームはある?」

 興味深そうにゲームセンターを眺めている玲香に質問した。

「そうね……こういう所はあまり来たことないのでわからないわ……」

「じゃあ、とりあえずクレーンゲームとかは?」

 健一は大量に並んでいるクレーンゲームを指差す。

「……あれはなにをするものなの?」

 本当に玲香はなにも知らないようだ。

「お金を入れて、クレーンを使って筐体に入っている景品を釣り上げて取るゲームだね」

「……景品?」

 玲香はクレーンゲームをいくつか見て回り、景品を確認していた。

「……あまり、興味を引くものはないわね」

「そうなんだ。――そうなると、メダルゲーム辺りにする? この店は……二階がメダルゲームコーナーみたいだね」

「わかったわ」

 階段を上りメダルゲームコーナーへ行く。

 じゃらじゃらとメダルが滑り落ちる音にゲーム機の電子音も鳴り響いている。

「なんだか……騒がしいわね」

 玲香は顔をしかめていた。

「慣れないと、そうかもね……」

 健一自身もゲームセンターに行き慣れているわけではないので、うるさいと感じるぐらいだ。

 玲香はメダルゲームに興味は引かれないようだ。

 ――やばい、せっかくゲーセンに来たのに楽しませるどころか、不愉快にさせてしまいそうだ。

 焦る健一。

 そもそも女の子と遊ぶということの経験が皆無なので、うまくエスコートができない。

「じゃ、じゃあどうしようか……」

 きょろきょろと周囲を見回す。

 後はビデオゲームコーナーだけど、玲香が好みそうなゲームはあるだろうか。

 ――なにがいいんだろう。クイズゲームはどうだろう。それなら初めてでもできるだろうし……いや、でも……

 健一が懊悩としていると、玲香が安心させるように告げた。

「健一さん。そんな焦らないで、大丈夫よ。別につまらないなんて思っていないわ。――初めてのゲームセンターだから、よくわからないところはあるけれど、新鮮でいいと思うわ」

 健一は玲香を見た。

 また、気を遣わせてしまったか、と思ったが――そうでもないようだ。

 メダルゲームコーナーの喧噪に驚いているようだが、嫌っている訳ではなさそうだ。

 相変わらず表情に乏しい玲香ではあるが、そういう機微を健一は判断できるようになってきていた。

「じゃあ、なにかメダルゲームやる? それならちょっとメダル買ってくるけど……ん? どうしたの?」

「あれはなに?」

 玲香が指し示した場所を見る。

 ビデオゲームコーナーのさらに奥のひっそりとした場所。

 あそこは――

「あれはレトロなビデオゲームコーナーかな、たぶん」

 そこにあるのは、最新のゲーム機ではなく、何十年前に稼働していたゲーム機が存在していた。

「あそこを見せてもらってもいい?」

「いいけど……玲香さんが楽しめるものはあるかな?」

 レトロゲームコーナーへ向かう。

 ずらりと過去の名作ゲームが並んでいた。

 健一が生まれる前に発売していたゲームばかりだった。

 人気ひとけは無く、先程のメダルゲームコーナーに比べれば静かなモノだった。

 玲香は筐体に映っている画面とその上にあるインストラクションカード――簡易な操作説明書――をじっくりと見て回っていた。

 そして、一つのゲーム筐体を指差した。

「これ……私でもやれるかしら?」

 玲香の言葉を聞き、そのゲームを見た。

 ――これは……

 ベルトスクロールアクションゲームの傑作『ファイ○ルファイト』だった。

 ベルトスクロールアクションゲームとは、次々と現れる敵を倒しながら、横長ベルト状のフィールドを右方向に進行してクリアを目指すゲームのことだ。

『ファ○ナルファイト』はこのジャンルの代表的なゲームだった。かつては『FF』と言えばこのゲームと言われた時期もあったとか。

 健一も知識としては知っているが、プレイしたことはなかった。

 なにしろ、生まれる前に発売されたゲームだ。

 きっかけがないと、なかなか食指は動かない。

「どうしてこのゲームを?」

 あえてこのゲームを選んだ玲香に疑問をぶつける。

「特に深い意味は無いけれど……」

 玲香は、インストラクションカードを指し、

「これなら、二人で遊べるみたいだから」

「え?」

 確かに、『ファイ○ルファイト』は二人協力プレイ可能だった。

 先程、色んなゲームのインストラクションカードを見ていたのは協力プレイが可能なゲームを探していたのか。

「対戦型のゲームはちょっと私には難しいと思うから。――これから健一さんに教わりながらできるでしょう?」

「……まあ、僕もこのゲームに詳しいわけではないけど……」

「でも、私よりは知っているでしょう?」

「……そうだね……なんとか頑張ってみるよ」

 健一は、玲香からのプレッシャーを感じつつも覚悟を決める。

「それにここなら人気ひとけも無いし、余計な気を回す必要もないでしょう?」

 さらに玲香が付け加えた。

「そうか……そうだね……」

 単に二人プレイが可能なゲームは、レトロゲームコーナーに限らずあるが、人気ひとけが無い場所、と考えるとここが適しているのは間違いない。

 玲香が頼りになりすぎて、自分が情けなくなってきた。

「やれるだけ、やってみるよ」

 健一がなけなしのプライドを振り絞って言うと、玲香がなんだか楽しそうな声で、

「頼りにしてるわよ、お義兄ちゃん(・・・・・・)

「ちょっと、それはやめてよ……」

「ふふっ」

 玲香は控えめではあるが笑っていた。

 それならば、勇気を振り絞って、ゲームセンターに誘った甲斐があったというもの。

「じゃあ、やってみようか。一ステージぐらいクリアできたらいいかなぁ」

「いいえ。やるなら完全クリアよ」

「えー、本気?」

「本気よ。もう夕食は食べたのだし、余裕はあるから」

 玲香は、夕食の支度をする必要がなくなったので、それくらいの時間はあるとの事だ。

「時間はあっても、素人同然の僕らじゃ無理だと思うけど」

「なせば成る、なさねば成らぬ何事も、よ。――さあ、やりましょう」

「う、うん……」

 二人とも筐体に並んで座った。

 その時、二人の肩がふれあう。

 一つの筐体に二人で座るのだから、当然起こりうることだった。

「ご、ごめん」

「なんで謝るの」

 どうやらこの程度のこと、玲香は気にしていないようだった。

 ――僕たちは兄妹なんだから、そうあるべきだよね……気にしない気にしない。

 心頭滅却し、健一は玲香と『ファイ○ルファイト』に臨む。

 と、その前にふと思ったことがあった。

 ――これまで『お義兄ちゃん』って呼ばれたことあったっけ? 『義兄さん』はあった気がしたけど……


 結論から言うと、『ファイ○ルファイト』はクリアすることが出来た。

 だが、クリアに貢献したのは健一ではなく――玲香だった。

 ほとんどゲームはやったことないとのことだが、天性のセンスなのか、すぐに操作に慣れ、すぐに健一よりもうまくなってしまったからだ。

 ――情けない……

 と思いつつも、クリアをして喜んでいる玲香を見ることが出来て、健一はうれしかった。

 勇気を振り絞って、玲香をゲームセンターに誘って良かった、と心底思う健一であった。



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