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第二四話 二人きりの生活 三日目⑧

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。健一とは本当の兄妹のようになれたらいいと思っている?

 御巫みかなぎ詩穂美しほみ:玲香の数少ない友人。お嬢様学校として名高い光華学園の生徒だが本人はお嬢様ではない。無双流という武術の使い手の恐い人。

 一息ついて、ブラックコーヒーを飲んだ後、玲香が言った。

「まったく……いきなり校門前にいるなんて……。今度は事前に私に連絡すること。わかった?」

「はいはい、わかりましたよ」

 詩穂美がやれやれと言った感じで肩をすくめる。

「本当にわかっているのかしら……」

「酷いなぁ、わかってるって。――事前に連絡すれば(・・・・・・・)、真田君と会って良いってことだよね」

「……そういうことじゃないでしょ。まったく」

「冗談冗談」

 詩穂美はにっと笑みを見せた。

 玲香はため息をつくしかないという感じだった。

「……………………」

 健一はそんな二人の会話を黙って聞いていた。

 お互い、気を遣わない気安い会話は、紛うことなき親友なんだな、と思った。

 そういう相手が皆無と言って良い健一からすれば羨ましい限りだった。

 ――ただ、からかいのネタに僕を使うのはやめてほしいんだけど……

 それにしても――

 健一は思う。

 ――僕はいつまでここにいればいいのかな?

 親友二人が再会したのだから、異物である健一は不要だろう。

 そもそもここに自分がいることが場違いなのだ。

 二人とも街を歩けば誰もが振り返りそうな美少女である。

 詩穂美と二人きりでもかなり釣り合いがとれていなかったが、さらに玲香が加わって完全にバランス崩壊だ。

 冴えない陰キャ男子の自分がここにいていいのか、と思う。

 この『ソレイユ』が静かな雰囲気の隠れ家的な喫茶店でよかった。もっと大きな若者向けの喫茶店だったら周囲の視線に耐えられなかっただろうから。

 可能であれば、タイミングを見計らって退席をしたかった。だが、隣の席に玲香がいて、簡単には出られなかった。

 ならば、普通に玲香に帰ることを告げれば良い、と思われるかもしれないが、それを言えれば苦労しない。

 しかも、気のせいかも知れないが、玲香がそれをさせないような雰囲気を出していた。それも言い出しづらい理由の一つだった。

 なぜ玲香がそんな雰囲気を出しているのかはわからない。

 いや、そもそもそれも自分の勘違いかも知れない――

 などと思索に耽っていると――

「真田君?」

 ずっと黙っている健一を見かねてか、詩穂美が声をかけてきた。

「…………な、な、なに? 御巫さん」

 突然のことに、声をかけられどもってしまう。

 さっきまでは、緊張感を持って話していたのでなんとかなったが、心構えができていない状態に声をかけられたらこんなものだ。

「なにか、落ち着かない感じだったから」

 詩穂美は真っ直ぐこちらを見つめてきた。

 とても目を合わせていられず、目をそらした。

「べ、別に、だ、大丈夫ですよ」

「本当~?」

「本当です」

 健一としてはそう言うしかない。

「それならいいですけど。――まあ、女子二人に男子一人だとやっぱり、肩身が狭かったりします?」

「……いや、そ、そんなことないですよ……」

 そんなことありまくりなのだが、ここでそんなことを素直に言えていたら、陰キャ人生を送ってはいない。

 と――

 横から視線を感じる。

「……………………」

 今度は玲香がこちらをじぃっと見ていた。

 なにか(・・・)を見極めているように感じた。

「ど、どうしたの? 玲香さん」

「別に、気にしないで」

 気にしないは無理だろう、と思ったが口に出すわけにも行かず、

「そ、そう……?」

 と答えると、玲香は、顎に手をあて、考え込んでいた。

 ――なんだろう、凄く不安だ……


 その後は、頑張って会話に参加――適当に相づちを打っているだけなのだか――していると、玲香が「そういえば……」と話題を変えてきた。

「詩穂美、幼なじみ(・・・・)黒崎くろさき君と会っていないの?」

 詩穂美の顔色が変わった。

 これまで常に余裕を見せていた詩穂美が見せたことがない顔だった。

「…………会っていないけど? それが?」

「だって、せっかく外出許可をもらって南城高校(ここ)まで来たんだから、会った方が良くないかしら?」

「……大きなお世話よ。あの大馬鹿(・・・)に学校なんかで会おうと思わないわよ。――それにアイツはもう学校に残ってないでしょ。今日は新刊(・・)の発売日だから放課後になったら本屋に直行してるはずよ」

「……確かにそうかも知れないわね……」

「というか、なんでいきなりアイツの話なんかしてくるのよ。――なにか企んでる?」

「そんなわけないでしょ。――ただ、気になっただけよ。あなた達はとても仲が良かった(・・・・・・)から」

 玲香はそう言うと、ちらりと健一の方を見た。

 妙に意味深な視線だった。

 ――ん? どういうこと?

 なにか、健一に言いたいことがあるのだろうか。

 わけがわからず、首を傾げていると――

「……反応が悪いわね……。――私の気にしすぎかしら……」

 小声で玲香が呟いているが、よく聞き取れない。


「ウチの学校に幼なじみがいるんですか?」

 知らない名前が出たので、ようやく話す話題ができたので詩穂美に質問してみた。

「……そうよ」

「仲が良かったんですか?」

「……別に。ただ(・・)の幼なじみよ」

 幼なじみと聞いて、気づいたことがあった。

「……でも、その幼なじみが先程言っていた一緒に道場に通っていた人なんだよね? それならただの幼なじみってことはないんじゃないの」

「そうね。黒崎君とも中学は同じだったけど、私の知る限り、いつも一緒にいたじゃない」

「玲香! 余計なことを言わなくてもいいの。わたしはあんな大馬鹿(・・・)ことなんか、なんとも思っていないんだからね!」

 そんな詩穂美の台詞を聞いて、ふと思ってしまったことがある。

「これが噂に聞くツンデレ……」

 つい、口に出してしまった。

「真田君 ――それ以上言うと……わかるよね?」

 詩穂美は、低い声で圧をかけてきた。

 背筋が寒くなる。

 だから、この人恐いって。

「……じょ、冗談ですよ……」

 だが、これまでやり込められていた詩穂美から、一本取った気がして、気分は良かった。

 ――それにしても南城高校の黒崎ってどこかで……

 聞き覚えがあるような気がするが――思い出せなかった。まあ、思い出せないぐらいだからたいしたことないだろう。

 そして、玲香の方を観ると、不思議そうな表情で首を傾げながら一人呟いていた。

「ツンデレってどういう意味かしら……」


 今回出てきた、玲香の幼なじみの黒崎とは別作品『異世界少年カイト』の主人公、黒崎くろさき櫂斗かいとだったりします。

 よろしければそちらもご一読お願いします。

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― 新着の感想 ―
『異世界少年カイト』読んでみたいが、更新されてないようなのでためらう
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