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第二三話 二人きりの生活 三日目⑦

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。コーヒーはミルクと砂糖が必須。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。健一とは本当の兄妹のようになれたらいいと思っている。高橋里美のことを気にしている場合じゃなかった。

 御巫みかなぎ詩穂美しほみ:玲香の数少ない友人。お嬢様学校として名高い光華学園の生徒だが本人はお嬢様ではない。無双流という武術の使い手の恐い人。

 小林こばやし裕太ゆうた:女の子大好きのイケメン。どんなクサい台詞も堂々と言いのける男。ポジティブさが売り。

 教室で、教師と授業についての質問をしていた時、スカートのポケットに入れていたスマートフォンが震えた。

 ――なにかしら?

 継続して震えていなかったため、電話の着信ではなさそう。RINEの通知だろうか。

 ――健一さんかな……

 先程教室を出る際に、こちらを見ていたようだったが、もしかしたらなにか用があったのかもしれない。

 教師に礼を言い、話を切り上げ自席に戻り、席に着く。

 そしてポケットからスマートフォンを取り出して、通知を確認する。

 予想通り、未読メッセージが一件あった。

 ――健一さんじゃない? あら、詩穂美?

 メッセージを送ってきたのは健一ではなく、親友の御巫詩穂美だった。

 今は、光華学園という全寮制の高校に通っており、直接会うことは減ったが、電話は頻繁にしていた。

 それこそ、昨日、一昨日の夜も電話をしている。

 玲香も詩穂美も文字でのやり取りを煩わしく感じるタイプなので、RINEによるメッセージのやり取りは、ほとんどない。

 それなのになぜ、メッセージを送ってきたのか。

 なんだか、嫌な予感がした。

 RINEを立ち上げ、メッセージを確認した。

『喫茶『ソレイユ』。お義兄さん――じゃなかった、真田君とお茶してます』

「…………っ!」

 そのメッセージを見て、思わず、弾かれるように立ち上がってしまう。

 教室に残った数人がこちらを驚いたように見ていた気がしたが――どうでも良い。

 ――詩穂美ったら……昨日、電話を切る前に変なことを言っていると思ったら……

 手早く帰り支度をして、教室を出る。

 『ソレイユ』は詩穂美と中学時代に通っていた所だ。

 ここから歩いて一五分ぐらいでいける。

 校舎を出て、校門を抜けようと思った時――

 ――なにかしら……

 校門で何故か人だかりが出来ていた。

 その中心には金髪の男子生徒がいる。顔も名前も見覚えはなかった。

 金髪の男子生徒を囲むように女生徒達がいた。

 女生徒達は口々に、金髪の男子生徒に向かって言った。

「小林先輩、めげないでくださいね。応援してますから」

「そうそう。次はうまくいきますから」

 よくわからないが、金髪の男子生徒――小林先輩と呼ばれていた――を励ましているようだった。なにか悲しいことでもあったのだろうか。

 金髪の男子生徒――小林先輩とやらは、芝居がかった大仰な仕草で両手を広げてみせた。

「……そうか。そうだね。ありがとう! プリンセス達。僕は世界中の女の子を幸せにするためにこれからも頑張るよ!」

 彼の言葉に周囲が沸き立つ。

 何故あんなに盛り上がっているかはわからないが――

 ――なんだか楽しそうね……

 そんなことを思いながら校門を抜けていった。


 そして、喫茶店『ソレイユ』へ。

 店内に入る。

 ここはマスターがほぼ一人で切り盛りする喫茶店で、コーヒーが絶品でかなり気に入っていた。

「いらっしゃい。奥の席にいるよ」

 事情を知っているのか、マスターが二人がいる席を教えてくれる。

 もっとも、そんなに広い店ではないから入店した時点で二人に気づいていた。

 二人は、窓際の席にいた。

 玲香から見て手前の席に座っているのが健一で、奥の席に座っているのが詩穂美だった。

 詩穂美が視線がこちらに向いたが――すぐに健一の方に戻っていた。

 すぐに「こっちこっち」と手でも振ってくるかと思っていたので、意外だった。

 そのため、こちらに背を向けている健一は、未だ玲香に気づいていないようであった。

 二人がいる席に近づいていく最中――詩穂美の声が聞こえてきた。

「でも、一つ屋根の下で二人きりで暮らしていたら、玲香のこと女の子として気になったりするでしょ? ――つい手を出してしまいそうになったりしません?」

 とんでもないことを言う親友だった。

 すぐにでも文句を付けてやろうとしたが――なぜか躊躇してしまった。

 そして、健一の方に視線を移してしまう。

 健一がどういう回答をするのか、気になってしまったのだ。

 躊躇している内に、健一が力強く断言した。

「しませんしません。天地がひっくり返ってもそんな事あり得ません」

 それはもう、迷いなく。

「……………………」

 ――当然よね……

 健一の回答に玲香は胸中で大きく頷く。

 そう、当然のことである。

 だが。

 なんとなく――腑に落ちない気分になる。

 別に女の子として意識してほしかったわけではない。

 玲香と健一は義理とは言え兄妹だ。

 好ましいことではない。

 でも――

 でも、だ。

 ――少しは意識してくれてもいいのでは?

 そんなことを思いながら、健一の方を見ていると――詩穂美がこちらを見て笑みを見せた。

「あー、ようやく来た。遅いよ。なにしてたのよ」

 わざとらしく、手を振り、詩穂美が言った。

 ――後で覚えていなさい……

 胸中で詩穂美に毒づきながらも、それをおくびにも出さず、答える。

「……まったく……昨日、電話の切り際で変なことを言っていると思ったら、やってくれたわね(・・・・・・・・)

 様々な意味を込めて、詩穂美に言い放つ。

 そして、ようやく玲香の存在に気づいたのか、恐る恐るこちらを向く、健一。

「どうも、健一さん」

「ど、どうも、玲香さん……」

 健一の気まずそうな表情を見て、玲香は疑念を抱く。

 ――なにか、後ろめたいことがあるのかしら。まさか、詩穂美のことが気になったりしていないわよね。

 どうやら、見極める必要がありそうだ。

 義妹いもうととして当然の義務だ。

「健一さん、もう少し奥の席に行って」

「う、うん」

 健一の隣に座る。

 健一が恐る恐ると言った感じでちらちらとこちらを見ていた。

「なにかしら、健一さん」

 思わず強い視線を向けてしまう。

「いや、なんでもないです……」

 そんな健一と玲香を見て、心底楽しそうな顔をしている詩穂美が視界に写ったが気にしないことにした。


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