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第一七話 二人きりの生活 三日目①

登場人物紹介

 真田さなだ健一けんいち:主人公。陰キャ男子。玲香とは義理の兄妹。未だ食器も洗わせてもらえない。翌日の弁当作りはさせてもらえそう。

 神楽坂かぐらざか玲香れいか:誕生日一日違いの義妹。実際は真田玲香。黒姫様と密かに呼ばれている。健一とは本当の兄妹のようになれたらいいと思っている。義兄相手なら頼れるようになってきた。詩穂美がなにかしそうで不安になっている。

 御巫みかなぎ詩穂美しほみ:玲香の数少ない友人。健一に興味津々。

 高橋たかはし里美さとみ:クラスメイト。『黒姫様を愛でる会』の会員。自分は過激派ではないと思っている。

 健一はカーテンの隙間からわずかに差し込む光を感じ、目を覚ました。

 枕元にあるスマートフォンを手に持ち、時間を確認する。

 時刻は五時五五分を指していた。

 アラームの時間は六時を設定していたのだが、アラームが鳴る前に起きられたようだった。

 ベッドから出てカーテンを開ける。

 今日も天気は良好のようだ。

 そのまましばらく太陽光を浴びていると目が覚めてきた。

 まだ少々眠気はある。

 正直、二度寝したい。

 だが、そういうわけには行かない。

 健一は手早く制服に着替え、準備を整える。

 ――変われば変わるもんだよな……

 これまで惰眠を貪っていた時間に起きているということに、感慨深い気分になった。

 基本はギリギリまで寝たい派だったというのに。

 おそらく、ここまで早起きしなくても問題ないだろうとは思うが、これからやることは初めての事なので、かなり余裕を持たせていた。

 弁当作りのことである。

 正直、自分の弁当を作るだけだったら、ここまで慎重に行動はしないが、今日の弁当作りは玲香の分も用意するので失敗だけはしたくなかった。

 もっとも、弁当作り(・・・・)と言ってもおかずはオール冷凍食品にするつもりなので、さすがに失敗はしないとは思ってはいるが、念のためである。

 自分は割と慎重派なのだ。

 部屋を出て、階段を降り、リビングに行く。

 さすがにこの時間なら玲香も起きていないのではないか。

 そんなことを思っていると――

「おはよう」

「…………おはよう」

 昨日同様、制服にピンクのエプロンをした玲香がキッチンにいた。

 もちろん髪型はポニーテールだ。

「もう起きていたんだ」

 正直、この時間ならまだ起きていないのかと思っていたがそんなことはなかったようだ。

「そうね。この時間にはいつも起きているわ」

「凄いね」

「こういうのは習慣だから」

 玲香は特に誇るわけでもなく、淡々と言った。

 その表情を見る限り、謙遜ではなく、本心で言っているようだ。

 それは、こういったことを特別と思わないぐらいに続けてきた者だけが言えることなのだろう。

「やっぱり凄いね。玲香さんは」

「そうかしら? それなら今までやって来なかった早起きが出来ている健一さんも凄いと思うわよ」

「それはいくらなんでも言い過ぎだって。玲香さんと比べるようなことじゃないから」

「まあ、それはそうね」

「…………そうだね……」

 別に『そんなことない』と言われたかったわけではないがこうもはっきりと言われると複雑な気分になってしまう。

「これからお弁当を作るのでしょう? よろしく頼むわね」

 玲香はそう言うと朝食の準備に戻った。

 そうだった。

 そもそも早起きしたのは弁当作りのためなのだから。

 さあ、弁当作りを始めるとしよう。


「……こんな感じかな」

 健一は二人分の弁当を作り終えると一息をついた。

 弁当は、ダイニングテーブルに蓋を開けたままおいて粗熱をとっているところだ。

 弁当作りについては特にアクシデントはなかった。

 おかずは冷凍庫にある冷凍食品を数種類チョイスするだけだからだ。

 逆に、結構種類があるので選ぶのは少し迷ったぐらいだ。

 自分の分は問題ない。

 適当・・に好きなおかずを投入して終わりにした。

 だが、玲香の方はそうはいかない。

 同じ献立にしてはいけないし、バランス無視の組み合わせにするのも良くないだろう。

 弁当箱の容器的に入れられるのは三種類程度か。

 そうなると主菜二種類、副菜一種類あたりだろう。

 ――よし、決めた。

 主菜は、牛肉コロッケとだし巻き卵にして、副菜はきんぴらごぼうにすることにした。

 今回選んだ冷凍食品の良いところはすべて自然解凍可能ということ。

 電子レンジを使う必要すら無い。

 特にきんぴらごぼうについては、容器付きなのでこちらとしてはありがたい。

 その他の二種類については、弁当用のそのまま捨てられる容器があるので問題はない。

 最後に二段式のもう一つの箱に炊きたてのご飯を詰めて完成だった。

 時間にして、三〇分も掛からずに作ることが出来た。

 初めての弁当作りにしては悪くないのではないか。

 などと、まともに料理をしていない癖に調子に乗っていると――

「完成したのね」

 玲香が完成した二人分の弁当をのぞき込んできた。

「どうかな? なにか問題ある?」

 健一が質問すると、玲香がこちらをジト目で見てきた。

「…………」

「え? え? なにか問題あった?」

 健一が訊く。

 気のせいではなく、玲香が機嫌は良くないようだった。

「…………ずるいわ」

「なにがずるいの?」

「だって、なんで私のお弁当(・・・・・)にハンバーグが入っていないの?」

「へ?」

「他にも一口カツに唐揚げも入っているし。それに比べて私のお弁当の方はコロッケにだし巻き卵にきんぴらごぼうよね。――肉要素が少なめなのはなぜかしら?」

 確かに健一の弁当のおかずのは玲香の言うとおりだった。

 だが、それについては釈明をさせて欲しかった。

「な、何故と言われても。僕の弁当については深く考えて無くて好きなおかずを突っ込んだだけだから。むしろ、玲香さんのお弁当については結構バランスを考えて献立を決めたぐらいだよ。――ハンバーグについても、昨日の夕食もハンバーグだったし、さすがにそれはないよな、と思ったわけで」

「その気遣いは不要よ。ハンバーグに飽きるなどと言うことは私にはあり得ないから」

「そうなんだ……」

「そもそも、何故私と健一さんで弁当の献立を変えているの?」

 痛いところを突かれる。

 だが、本当の理由――高橋里美に疑われないため――を言えるはずもない。

「さっきも言ったように、自分の分は適当で良いかな、と思ったからだよ」

 健一としてはそう言うしかなかった。

 正直、苦しい言い訳だ。

 これ以上追求されるとボロが出そうだ。

 玲香は何かを言いたげな表情でこちらを見ている。

 だが、それ以上追求する気はないようで、軽く嘆息をして、

「……色々考えてくれたのはありがたいけれど。それなら、私にどんなおかずが好きか訊いてくれても良かったのに」

「そうだね……ごめん。――じゃあ、僕の弁当とおかずを交換する?」

 どう考えてもこのまま納得してくれる気がしないので、おかずの交換を提案してみた。

「そうね。そうしてくれるとありがたいわ。――じゃあ、そのハンバーグとコロッケを交換しましょう」

「え?」

「あと、だし巻き卵と一口カツも交換するわね。――ついでに唐揚げときんぴらごぼうも交換することにしましょうか」

 あれよあれよという内に、弁当おかずが完全に入れ替わってしまった。

「……なにこれ……」

 健一が絶句している中、玲香は満足げに弁当箱を見つめて、

「では、これで良しと言うことで」

「……良くは……ないかなぁ……」

「あら。でもそれならバランス(・・・・)とれてるわよ」

 からかい気味に、玲香。

 それを言われてはこちらは反論する言葉を持たない。

「…………だね」

 予定外の出来事はあったが、弁当箱とおかずを変更するという当初の目的は果たせた。

 これで今日のお昼は落ち着いて食事が出来そうだ。

「朝食の準備も出来たので、食べましょうか」

 玲香は、ダイニングテーブルに朝食を並べながら言った。

「そうだね。僕はなにしたらいい?」

「じゃあ、お味噌汁をよそってくれるかしら」

「了解」

 玲香の指示に従い、味噌汁を装いにキッチンに向かった。

 こちらの手伝いの申し出を素直に受け入れてくれる玲香に、感慨深くなる。

 昨日、強引にでも手伝いを申し出ておいて良かった。

「健一さん、どうしたの?」

 ぼうっとしているのを見てか、玲香が声をかけてくる。

「大丈夫。すぐやるから」

 慌てて健一は二人分の味噌汁をよそうのだった。


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