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【第9話】

「それじゃ、またご贔屓にしてくれや」



 そう告げて、ユーリカは【DOF】の調合道具を乗せた台車を押してユーシアたちの部屋から去った。


 ユーシアも安く【DOF】が手に入って満足である。リヴもまた高濃度の【DOF】を調合してもらい、どこか安堵している様子だった。ユーシアはともかく、リヴは濃度の高い【DOF】を使用しているので在庫が不安だったのだろう。

 希釈タイプの粗悪品はユーリカの手によって回収され、自分が【DOF】を調合する際に改造して使用するとか何とか言っていた。液体だから使い道はあるだろう。どの程度の粗悪品なのか不明だが、【DOF】の調合が本業であるユーリカならば上手く使ってくれるはずである。


 それにしても、



「まさかねぇ、ラインバーツ少佐に奥さんと子供がいたなんてね」


「シア先輩はいないのにですね」


「うるさいな。革命戦争が始まってから別れちゃっただけだよ」



 ユーシアはしみじみと呟く。


 ヘルエスト・ラインバーツが辿ってきた過去と似通っていた。革命戦争に参加して大量の【OD】を屠り、終戦したら家族が殺されて、自暴自棄のまま【DOF】へ手を出して自らもまた【OD】に堕ちる。奇しくもユーシアが辿ってきた状況と同じだ。

 もしかしたら、革命戦争に参加していた他の連中も同じような運命を辿っているかもしれない。今はまだヘルエストしか会えていないが、そのうち会ったら会ったで嫌なものだ。



「嫌ですか、かつての仲間が【OD】になっているのは」


「まあ嫌だね、会いたくなかったよ」



 リヴに問われ、ユーシアは即座に「会いたくなかった」と否定的な言葉を返す。



「革命戦争時代の俺を知ってるからね。『白い死神』なんて英雄みたいに持て囃してきたら、本当にそういう訳じゃないからさ」



 すでに革命戦争を終結させた英雄の姿はなく、今あるのは理不尽に殺戮を繰り返す【OD】に堕ちてしまったユーシア・レゾナントールだけである。過去ばかり見られるのも面倒極まりない。

 かと言って、今の姿ばかりを見られるのも面倒だ。何を言われるか分かったものではない。だから出来れば会いたくなかったし、こうして戦線を一緒にする肉壁に使う予定がなかったら背後から友軍誤射をしていたところだ。永遠の眠りをくれてやり、その口が何かを言う前に黙らせてやる所存である。


 リヴはソファに寝そべりながら、



「そういうもんですか」


「そういうものだよ」



 ユーシアは真っ黒な煙草の箱を取り出し、



「窓開ければ煙草が吸えるかな」


「大人しく喫煙所に行ってくださいよ」


「えー、やだよ。面倒臭いじゃん」


「面倒くさがらないでくださいよ。スプリンクラーが作動して部屋が水浸しになったらキレますよ僕は」


「はいはい分かったっての」



 相棒から力いっぱいに拒否されたので、ユーシアは外に喫煙所を探しに出かけるのだった。

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