もうループしないって決めたので浴衣幼馴染とデッドエンドを楽しみます
俺、生見春斗十六歳には幼馴染がいる。
「ハルトー? 先行っちゃうよ?」
「待てよ! あとズボンだけだから!!」
「もー、しょうがないなぁ、早くしてよぉ?」
お隣同士に生まれ年齢イコール幼馴染時間、の彼女は咲花奏、同い年だ。
流行りに乗っかったのか黒髪を背中まで伸ばし前髪ぱっつんにしているその顔立ちは、俺の目から見てもお世辞じゃなくとも可愛い部類に入る。
共に成長しおねしょから初恋まで勝手知ったる仲であり、俺達は何より気が合った。
「お待たせカナデ」
「待ったぞ。もういっつも遅いんだから」
カナデは頬を膨らませながら俺に文句を言う。
玄関を出ながら見た彼女はいつもとは違い、髪を結い上げ、紺色地に百合の花柄があしらわれた浴衣を着ていた。
俺はといえば、悪友に凡庸凡庸と口を揃えて言われたおかげで、最近では冒険をやめジーンズに白Tという無難の極地ないで立ちだ。
「それどうしたの」
「えっへへー、お母さんの引っ張り出してきちゃった。かわゆ?」
言うなり彼女はその場でくるり、一回転した。
足元でパリィンと、ガラスの破片と共に日常の砕ける音がする。
「……うん、まぁまぁじゃない?」
「なっ! ひっどーい!! 乙女心のわからぬ奴め、ぷんぷん。まーいいや。早く行こ! 二年ぶりだもん」
今日は近所の神社で久しぶりに夏祭りが開催される日で、数日前からカナデはとても楽しみにしていた。
彼女の足取りは軽く、るんるんと音が文字として足裏に貼っついてるんじゃないかってくらい。
その様に、俺は何度目かの愛しさと物悲しさを感じていた。
カナデがこんなにはしゃぐのはいつぶりだろう、と詮無いことを考える。
カコンカコンという下駄が鳴らす音を聞きながら、眩しい後ろ姿を目を細めて見つつ歩いた。
神社はどこから湧いて出たのかというくらい、人で溢れていた。
いつもは疲れた顔をした大人たちも、今日ばかりは表情が明るい。
祭り会場に着いた俺達は、綿あめに射的、たこ焼きにくじ引きと遊び尽くし食べ尽くした。
「今日ははなひもあるってさ。ね、せっはくはから見ていこーよ」
たこ焼きを口に入れ、はふはふさせながらカナデが言う。
その口端についた食べかすを指で拭き取り舐めつつ、俺は頷くことで了承した。
「どこが一番見えるかな?」
「金城山の展望台とかだろうな。けど大変だぞ?」
「いいよー、歩く歩く」
「じゃ、決まりな」
俺達は、神社に程近い山にある展望台に向かって歩き始めた。
道中草が生い茂る場所を何度か通る。
「うはー、私スニーカー履いて来れば良かった! ねっ?」
「そうだな。あ! 足元とっ散らかってるから気をつけろよ?」
わかってるってー、と言いながらそれでもカナデは楽しそうに一歩一歩、落ちた建材の瓦礫に気をつけつつ足を進める。
しばらく歩き続けて、ようやく目的地である展望台に着いた。
ここはあまり人気のない山で訪れる人もいないのだろう、展望台は比較的綺麗に残ったままで俺たちを出迎えた。
「わ、やっぱ眺めいーね!」
「こっからなら、花火がよく見えそうだな」
俺達は眼下に広がるあちらこちらで煙の上がっている景色には言及せず、ひたすら花火の時間を待った。
他に来ようと思った人はいなかったのか、展望台には俺とカナデ以外誰もいない。
「カナデ。さっきは照れて言えなかったけどさ。その……きれい、だぞ?」
ひゅぅぅぅぅぅぅ、パーン!! ぱぱぱぱぱぱ
俺がカナデに声をかけたと同時に、花火の打ち上がる音がした。
「なっ。と、とととーぜんでしょ! もう、……ばか」
花火の光に反射して良くは見えないけど、カナデの頬は、桃色に染まっているようだった。
擦り切れた浴衣姿の彼女が、二重でくりっとした瞳を潤ませこっちを見ている。
これまで何度こういう雰囲気になっても、決してその先に進もうとはしなかった。
回避しながらもうずっとずっとずうっと長いこと、ひたすら未来を求めていた。
だけど、もう。
何をしても変わらない……変えられなかったから。
俺も彼女の瞳を見つめながら、そっとその頬へと手を伸ばす。
想像でしかなかった白く柔らかそうなそれは、確かな質量を持ってしっとりとそこにあって。
吸い込まれるように、目を閉じる。
そうして。
俺達は。
一回限りのキスを、した。
お読みいただきありがとうございました!
企画に企画物をぶつけるという、初めての試みをしてみました。
もとのお話は、なろうラジオの企画に出した1000文字の短編です。
ちょっとリメイクしていますので、お時間あれば読み比べていただけたら嬉しいです(*´꒳`*)
https://ncode.syosetu.com/n3877hy/
コピペは手間、って方のために↓ページ下部にもリンク貼っておきます。
ではでは。
何か琴線に触れましたら、感想、★1〜5の評価等々、何かリアクション頂けたら幸いです。
それでは、また何かのお話でお会いできたら嬉しく思います。