08話 はじめてのお使い6
「アスモデウス!?・・・さ・・・ま?」
ストラスが素っ頓狂な声を上げる。
アスモデウス。
元八柱でアル様に付き従いディスペア攻略に尽力したメンバーの一人。短い間だが私やニケ、オフィーリア様を含めた5人で旅をした事もある。当時は兄のように慕っていた・・・気がする。
「お噂は兼ねがね。例のダンジョンを攻略したそうですね。遅ればせながら、おめでとうございます。」
Lose Yourselfだったかな?アル様を魔王にした伝説のダンジョンだ。オフィーリア様が苦々しい顔で話してたっけ。どうやら誰にでも入れる場所ではないらしい。
「ああ。」
一言、そう言うとストラスにヒールを掛けている。必要か?そいつ?
「本来は平伏しなければならないのですが、今は戦闘中。ご容赦を。」
「ああ。」
一言。まだクールキャラ続けているんですか?オフィーリア様から聞いてますよ、性根はゲス野郎だって。
「こいつは俺が抑える。下がってろ。」
回復して立ち上がったストラスはコクっと頷くと後方へ下がる。
あの反応、アスの事知らなかったようね。
「仲間にも言ってないんですね。そもそも仲間でも無いか。何で後略なんてアル様みたいなマネ、」
ゴウッ
鋭い突きを刀の鞘で逸らす。
「エリアだぜ?お喋りしてる暇あんのか?」
ビキビキッ
ああん!?
殺意を込めた威圧。涼しい顔で流される。
飛び退き抜刀の構えを取り銀狼の闘気を身体に流す。未熟なニケは変身しないとダメなようだけど私は人型でも銀狼の闘気を引き出す事が可能だ。
30%。私のステータスが一気に跳ね上がる。
ビリビリと大気が振動。鋭くなった五感にディメンションを乗せアスを見る。気配を絶っているようだが姿は見えている。ステルスとは違うのか?まあ見えているなら関係ないか。
Dimension mode STEALTH
存在を断ちアスの側面へ。銀狼の膂力で放たれる神速の抜刀術。胴体を真っ二つにしてあげる。魔神なら死にはしないわよね?
スパンッ
鮮血が舞う。
なっ!?切り飛ばされたのは・・・私の腕、だと!?
ボトッ ・・・カラン
両腕が光の泡となって消える。血が大量に吹き出し足元に血溜まりを作る。
何が起きた!?刃がアスの胴を捉えた瞬間に腕が飛ばされていた。
「呆けてる場合か?」
ズゴッ!
「があっ!」
顔を正面から蹴られる。両腕でガードしようとしたが間に合わなかった。いや、そもそも腕が無いから意味無いか。
血を撒き散らしながら舞台の端まで吹き飛び障壁に叩きつけられる。
ドンッ ドテッ
ルナの上に落ちる。
「ぐえっ。」
衝撃でルナが目を覚ましたようだ。
「ちょっと!何なのよ。って、ミコ腕どうしちゃったの!?ちょっ!血が着くからこっち向けんな!」
イライラ。
Reconstruction(再構成)
腕を再生する。
シーン
会場が静寂に包まれる。
虎とニケも戦闘を止めアスを見てポカーンとしてる。
「す、すみません。あまりに衝撃的で怒涛の展開に・・・実況するの忘れて・・・ました。」
「はえー、ダイオスっちゅうのはアスモデウスの変装やったんか!こら、たまげたなあ!なかなか気の利いたサプライズやんけ!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアア
会場が轟音に包まれる。
ベルの奴絶対知ってたろ。
イライラ。
「あの・・・解説のベルさん。アスモデウスとおっしゃいましたが。今舞台に立っている方が八柱のアスモデウス様と言う事でよろしいのでしょうか?」
「せやでー、雰囲気変わっとるけど間違いないわ。あと、元、八柱な。」
「皆様!大変な事が起きています!な、なんと!かつて魔王様に使えし八人の王の一人、暴虐のアスモデウスがこのコロシアムの舞台に降臨しています!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアア
「ホンマえらいこっちゃでー。それより・・・血まみれの舞台何とかせえや!これディスペア全域にLIVE配信されとるんやぞ!ポップコーン片手に楽しんでたお茶の間凍りついとるわ!」
むしろスプラッター映画みたいでウケてるんじゃない?
コロシアムの職員が浄化魔法を使って血を消している。
「ルナ、ニケ、本来の姿に戻っていいわよ。(念話)」
「姉ちゃん、何でアスがここに。姉ちゃんは知ってたの?」
「ええ、と言ってもオフィーリア様から少し聞いていただけだけど。」
アスがダイオスと言う偽名を使って冒険者の真似事をしてるってね。
「アルル様の隣に立つには自分もディスペアを制す必要がある。なんて事考えたんでしょうけど・・・馬鹿ねぇ。アルル様にはそんな事どうでもいいのに。」
ただそばにいてくれるだけで、他には何もいらないのに。
そう言って寂しそうに笑ってたのが印象に残っている。
「マジでアス様なの?前に屋敷で見た時とは別人ね。ゴクリ・・・ストラスとアス様ってどんな関係なのかしら。なかなか、絵になってるじゃない・・・。はぁはぁ。」
スパアアアン
発情している竜人の頭をはたく。
「何すんのよ!メス犬!」
「妄想は家に帰ってからにしな。本気でやらないと死ぬよ。」
汗が止まらない。完全に舐めていた。ここまでとはね。
「・・・分かったよ。」
ルナが竜の姿に戻っていく。
「アスとヤるの、何かやだなあ。」
別に私だってノリノリじゃないわよ。イライラする場面は多々あるけど・・・。
「mission(お使い)を成功させるためよ。それに、試したくない?今自分たちがこの世界でどれだけ通用するのか。強者との差を。」
「それは・・・うん、試してみたい!強くなった僕をアスに見せてやる!」
狼に戻っていく。素直な子。私も狼の因子を上げる。連合側の圧力が上がって行く。
ワアアアアアアアアアアアア
盛り上がってるし。
「これは凄い!ルナ選手はドラゴンにニケ選手は狼に変身しました!」
「これや!これ!絵面サイコーやんけ!」
「姉ちゃん、作戦は?」
「ぶっちゃけ、アス以外はザコよ。私がアスを抑えてるから、その間に他の二人を始末して。」
「オッケー。それじゃあ私が虎とやるわ。ニケくんはマスク男ね。」
「うん。速攻倒して姉ちゃんの援護に向かうよ。」
「行くよ!」
それぞれの相手に向かい走る。
!?
アスが消えた!?
ドゴオオオン
「きゃああああ!」
ルナ!アスの打撃を受けて空高く打ち上げられた!?速すぎて目で追えなかった。ルナはワンパンでノビてる。
どうする!?
「ニケ!二人でアスを叩く!」
奴を倒すのが1番手っ取り早い。
転移してニケの背に乗る。合一化する為魔装を張り一体の獣となる。
「全力でアスに突っ込んで!後は私がヤる!」
「りょーかい!」
一足で音速を超えアスに到達。
「シューティング・スター!!」
神速のスピードから放たれる神速の突き。
ドッ
ッ!!?
また刀身を掴まれた!?コイツ完全に視えてやがる!
刀を離しニケの背を蹴り後方へ。直後ニケ
が吹き飛ぶ。虎の攻撃を食らった!
ビュッ
アスの投げた刀が飛んでくる。くっ、柄を掴む。アイツ余裕じゃない。イライラ。
「バカみたいに真っ直ぐ突っ込んでどうする?頭を使え。(念話)」
バカっつった?今私のコト、バカって・・・
殺す・・・。
そのスカしたツラぁボコボコにしてやるよ!
「シューティング・スきゃううんっ!?」
ドテッ ズザザザザザザー
盛大にすっ転ぶ。
何!?足に何かが、あっ、縄が巻き付いている!あのシャバ僧の仕業かああああ!!
「どうしたのでしょうか!連合チーム精彩を欠いています!」
「ミコちゃんのパンツ見えたあああああ!」
見えるわけねえだろ!魔装で鉄壁のガードしてんだからよお!イライラ。
「ふふっ。」
アスの奴、今笑った?私コケにされるの心底嫌いなんだ・・・。
バチンッ 縄をちぎる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
銀狼の因子を100%まで上げる。五感はあり得ないほど研ぎ澄まされ第六感(直感)を獲得。精神が安定していく。
本気でヤルなんていつ以来だ?
ビュオンッ
飛んできた捕縛の魔法を刀で弾く。ストラス、うっとおしい奴ね。女の子にモテないわよ。
ドオン!ドドドドドドドドッ!ドゴオオオン!
虎とニケの戦いが再開され、衝撃波が響く。
「ルナ、あんたいつまで寝てるの。」
殺気。
「はにゃ!?」
「ニケの援護よろしくね。」
「それはいいけど、その気配何なの!?ホントにミコ?」
「ええ。あっちは頼んだよ。」
「うん!任せて!」
ガキィィィィィン
アスがルナに放った不可視の攻撃を弾く。
ルナが驚いている。
「行って。」
「う、うん。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「二度はやらせないから。」
「・・・・・・。」
─── side ニケ ───
ゴッ!
「ぐはっ、クソガキが!」
「ガキじゃねえ。ニケだ。」
ティガーの顔を前脚でぶん殴る。
ビーストモードだと殴る、噛み付くが基本攻撃となる。バリエーションは減るが
ズバァ!
「ぐああ!」
威力は絶大だ。虎の魔装を容易くぶち抜きダメージを与える。
「悪りぃけどよ。ザコと遊んでる暇ねンだわ。」
このモードに変わって気付いたがアスの気配が尋常じゃねえ。
「ザコか・・・へっ、DFLトップの俺をザコ呼ばわりする奴なんてお前くらいだぞ。」
「アスがトップじゃねえのか?」
「ちっ、奴の正体知ってたらギルドになんて入れて無えよ。」
そりゃそうか。
「この戦いが終わったら頼んでみてもいいかもな。」
虎の闘気が噴出する。空間を捻じ曲げる様な密度。
「ニケくん!離れて!(念話)」
ルナさんが上空から魔力砲を放つ。
ドオオオオオン
虎に直撃!こりゃ死んだかな?
!!
爆炎の中から虎が突進してくる。効いて無いのか!?
「パンツアアアアアアアア!!」
がああ!
肩で受けたが吹き飛ばされる。くっ!意識が一瞬途切れたぞ。マウントを取られる。
転移!・・・出来ねえ!結界!?ストラスか?
ドガガガガガッ!
腹を執拗に殴られる。骨折れてるじゃん。くっそ!
「私の事忘れてんじゃねえよ!死ねオラアアアアッ!」
ガキィィィィン
「なっ!?」
ルナさんの爪が虎の背に弾かれ砕け散る。魔装密度ヤバッ。
ドガガガガガッ!
また腹かよ!こいつ俺が胃腸弱いの知ってんのか!?
「がふっ!」
銀狼モードでも回復が追いつかねえ。内蔵ぐちゃぐちゃ・・・地味にやべぇ。
ルナさんも虎への攻撃を続けているがまるで効いてないな。
「ティガー選手の猛攻!ニケ選手身動きが取れません。」
「ボロボロやん。降参した方がええんちゃう?死ぬで。」
さんせー、そうしよう。
「お姉ちゃん、僕もうダメ。降参するね。(念話)」
「今忙しいから。あっ、降参したら後で死ぬまで痛ぶるからね?マジで。」
プツッ、ツーツー。切られた。
ああ・・・どっちにしても死ぬのか。
「ニケを離せよ!この虎野郎が!」
ビターン! ビターン!
尻尾を鞭の様にしならせて打ち付けている。
虎の背中から血が噴き出ているぞ。それでも腹を殴るのを止めない虎の執念すご。
「オラオラッ!肉がえぐれてテメェの恥ずかしい所丸見えだぞ!はぁはぁ、ほらぁ!すっごい事になってるよ、えっぐぅ・・・恥ずかしいねえ。はぁはぁ。」
それ背骨じゃない?てか何興奮してんの?
だが若干、虎の攻撃が緩んだ。チャンス!
右腕に噛み付く。降り解こうとするが絶対に離さないぜ!噛みちぎる勢いで食らいつく。
「形勢が逆転しました!ティガー選手ピンチです!」
「だからグロいねん。スタッフさん、モザイク頼むでー。」
ドガガッ!
たまらず虎は立ち上がり僕を床に叩きつける。けどさあ、離さないよ?噛みちぎってやる!
「ガルルルルルル!」
左腕で頭を殴られるが体勢が悪いせいか大して効かないな。
バチーン!バチーン!
「あっはははははは!何これ気持ちいい!」
ルナさんのテンションがおかしな事になっている。
ストラスから虎に強化魔法がガンガン飛んでくるがカンケーないね。
ぶちん。ぺっ。右腕は光の泡となり消える。
「ティガー選手の右腕が、噛みちぎられました。うっ・・・。」
「きっついなぁ。配信見たら、ほぼモザイクやんけ。エンタメ考えて戦わんと。ショーなんやから。」
知らないよ。
「ガルルルルルルル。」
回復する時間は与えない。ルナさんに一瞬気を取られている隙に首筋に食らいつく!
左手が顔に伸びて来て
グガッ!
目があああ。右目を潰された。けど離すかよ!勝機は今しか無え!
ルナさんも虎の左腕に噛み付く。虎は諦めずもがいているが勝負あったな。力を込める。ブチブチブチ・・・
「そこまでだ。ティガーを離してもらおう。」
!!?
声のする方を見る。
そんな・・・姉ちゃん!
アスに腕を掴まれブランと揺れる姉。死んではいないが脈は弱い。
ざわざわ・・・
場内がざわめく。
「ミコ!!」
ルナが虎の左腕から口を離し叫ぶ。
「お前も離さないと首をへし折る。」
くそっ。あの目はマジでやる目だ。
虎の首から口を離すと虎は崩れ落ちる。すかさずストラスが駆け寄り回復魔法をかけている。
「離したぞ。」
僕がそう言うと、無言でミコ姉を放り投げる。ルナさんが人型に戻り受け止めてくれた。
「これは・・・突如現れたアスモデウス選手、ミコ選手を倒したようです・・・ティガー選手の戦いに気を取られていたせいか、その様子を確認する事は私には出来ませんでした。解説のベルさん一体何が起きたのでしょうか?」
「はあ?知らんがな。奴ら断絶術式使うて存在を消してさらに障壁で中と外分断しとったからな。何があったかなんて戦った二人にしか分からんよ。しかし戦う姿一切見せんとか最悪やな。B級戦士とモンスターの対決の方がよっぽど見応えあるわ。」
だろうね。途中から完全に気配が消えてたし。
「どうする?降参するか?」
アスが聞いてくる。
「ニケくん。ムカつくけど降参した方が良い。アイツ異常だわ。ミコのこんな姿・・・。」
僕もそうしたいんだけどねえ。学院の子たちも見てるし、何より姉に殺される。
「こーさん?しねえよ。」
試してみたい。アスにどこまで喰らいつけるか。
人型に戻り、姉ちゃんと同じ様に狼の因子を上げて行く。ダメージは秒で回復しディメンションを使用している時と似た全能感に満たされる。この状態になれる事は姉ちゃんには秘密だ。ルミ姉に稽古を付けてもらい会得したこの力で8年後テッペンを目指す。
あらゆるステータスがビーストモード時をも超え跳ね上がる。その目でアスを見る・・・。
「・・・そうか。おい審判、疲れたから俺は帰る。後はそこの二人に任せる。」
そう言ってアスは姿を消した。
「何と言う事でしょう!?アス選手退場してしまいました!審判がティガー選手とストラス選手に駆け寄ります!・・・・・・あー!降参!降参です!何と言う幕切れ!勝者は亜流々連合!亜流々連合の勝利です!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアア
場内の大歓声。
遠くで鐘が鳴りアナウンスが流れるのをボーっと聞いている。
「ニケ!私たちの勝利だぞ!まあ棚ぼたと言うやつだが勝ちは勝ちだ!」
ルナに抱きしめられる。
「あ、ああ、ルナさんのおかげだよ。ありがとう。」
そうだろう、そうだろうと興奮している。
それからインタビューやら何やらを受けた後ようやく解放された。
─── コロシアム 医務室 ───
今、医務室で眠る姉の側に座ってる。ルナさんは虎、ストラスと飲みに出かけたみたい。いつの間に仲良くなったんだ?
ガタガタッ
さっきの事を思い出すと体が震える。
アレはなんだ?あれがアス?
極限まで上げた感覚で見たアスは別人だった。
絶望。
山の頂上に立ち浮かれていた。が、霧が晴れたら周りにはさらに高い山脈が広がっていた・・・みたいな?
「姉ちゃん・・・世界って広いのな。魔王になるなんて言ってた自分を殴りたい。」
掛け布団を直して話しかける。
「何か目が覚めたわ。もう夢見るのは止めるよ。今まで、わがまま言ってごめん。」
「そう、やっと守護獣(eliminator)の自覚が芽生えたのね。」
!!?姉ちゃん!
「いつから起きてたの!?」
「ちょっと前あんたが語り始めた時よ。」
うわあああああああああああ!!
そう言う所が嫌なんだよ!寝たフリしててよ!
「勝った・・・のよね?」
「うん、アスが途中で疲れたから帰るって言って抜けたからね。」
「良かったあ。」
「アスとヤッてたら負けてたよ・・・。」
「あんたも気が付いたのね。誇りなさい。アイツの強さに気づけただけでも大したものよ。」
!褒められると素直に嬉しい。
「姉ちゃん分かっててよくアスに挑戦出来たね・・・」
あんな化け物に。
「アイツ倒さないとmissionが達成出来ない
じゃない。主人の為に全力を尽くすのが私たちeliminatorの役目なんだから当然の流れよ。」
それはそうなんだろうけどさ。絶対の敗北が分かってて挑むとか、カッケーじゃん。
「アイツ暇潰しでディスペア攻略してるそうよ。それでたまたま虎と出会ったとか言ってたわ。」
暇潰しか。余裕でクリア出来そう。苦戦するのシス様くらいじゃないの?
「だから、事情話して引いてくれるように誘導したのよ。」
マジかよ。よく聞いてくれたな。
「あんたが降参しなくて良かったわー。」
あっぶねえ!期せずして最良の選択してた!
knock knock
「失礼するでー。おっミコちゃん、もう起きたんか?流石やね。」
ベルちゃんだ。ようやく会えた。
着物を着ていて何か大人っぽい。
ビクッ
姉ちゃんから凄まじい殺気。
「何やねん!見舞いに来た可憐な少女に殺気当てんなや!」
「あんた、何でそんな格好してんのよ。」
「なんでって、そらウチ裏の顔役やし、面が割れると面倒やねん。」
そうなんだ。本当はどんな感じなんだろ。
「それより用があってここまで来たんやろ?」
あっ、そうか。
「ベルちゃんこれ。」
バッグから書類を取って渡す。
「おおきにー。ありがとなー。」
パッと書類が消えた。
「あれ見ないの?」
「ホルンに送ったんや。面倒くさいから全部任せてんねん。」
えっ、じゃあ来なくても良かったんじゃ・・・。
「銀狼姉弟が会いにくるっちゅう連絡受けてな。どうせ来てもらうならコロシアムのイベントに絡ませてみては?って思いついたんや。どやウチ天才やろ?イシシッ」
ヤバッ!
「それよりニケくんカッコ良かったよー。」
肩をなでられ頬をスリスリしてくる。ベルちゃん逃げて!
「ご褒美あげちゃおうかな?ウチ来るぅ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「やってくれんじゃん。ベルちゃんよお?」
指をバキバキやって臨戦態勢のミコ姉。
「なにー?ミコちゃん治ったんなら早よ帰り。そのベッド今からウチらが使うから。あっ何なら3人で、ゴハァ!」
腹パンされ吹っ飛ぶベルちゃん。
もう、暴走する姉を止めるの大変なんだから。でもベルちゃんなら大丈夫かな。
今日はこっちで休んで明日オフィーリアに会いに行こう。
ああ、違う。オフィーリア・・・さま、か。
姉の寝ていたベッドに滑り込む。
僕もミコやアスみたいに変わらなきゃ。
8年後ディスペアの勢力図は今と大きく変わっているはず。牙を研がなくては。守護獣としてオフィーリア様やアル様の配下として。
ふわぁ。いろいろあって疲れたよ。宿屋に行く前に一眠り。姉が宿屋まで抱っこで運んでくれる事に期待しよう。
ドスッ ドスッ ドスッ ガタンッガタンッ ガタンッ
ベルちゃんが殴られる度に室内が振動する。これが何とも心地良いんだ。
はじめてのおつかい初夏の大冒険スペシャルこれにておしまい。
おやすみー。
僕は秒で眠りに落ちる。
スヤァ・・・
「ニケ!てめえ何寝てんだ!」
ドスッ
「ぎゃっ!」
腹パンらめぇ!涙目になる。
もうやだこの姉・・・。
しょげないでよベイベー♪