07話 はじめてのお使い5 ⭐︎挿絵あり
ワアアアアアアアアアアアア!
歓声が聞こえる。メイン(連合vs DFL)の前に前座の試合をやってるみたい。
knock knock
「どうぞ。」
「やっほー!ミコ!来たよー。」
入ってきたのは学院の制服を着た女の子だ。彼女がルナさんか。
「はじめまして。僕ニケって言います。よろしく。」
手を差し出す。
「ルナだよ!よろしくね!」
手を両手で掴まれる。
・・・・・・。目をジッと見てくる。値踏みされてるのか?
「君・・・」
何だろう・・・ゴクリ。
「かーわいいねえ!!」
ふぁ!?
抱きしめられて頭をわしゃわしゃされる。あっ、良い匂い。ふあぁぁ・・・
ドンッッ!
びくぅ!
ミコ姉がイラついてる。どったの?
「ミコさあ!こんな可愛いコがいるなら言ってよー!はぁはぁ。」
何だ。ヤバい感じ。
「ニケ気をつけな。そいつBL好きのショタ属性持ちだからね。」
えっ、何て?
「勝手に決めつけないでよ。私子供からお年寄りまでイケるんだから。」
何が?
「よく分からないけど、強いのは分かるよ。」
竜人ってみんなこんななの?すげー。ミコ姉とどっちが強いかな。
「私の方が強いよ。」
ミコ姉が答える。えすぱーかな?
「はあ?あんなぬるい手合わせで何が分かるの?ガチの殺し合いでもしてみる?」
ルナさんやめて。
「この試合に勝って、お使いが片付いたら遊んであげるわ。」
こうなるんだよなあ。
「いいね!なぶり殺してやるよ。あんたの命乞いする姿楽しみーw」
笑みを浮かべ見つめ合う二人。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
友達、だよね?
この最強のふたりがいれば余裕じゃね?
knock knock
「開始10分前っす。スタンバイオネシャーっす。」
スタッフが呼びに来た。そろそろか。
「てかさー、相手は虎でしょ?私いる?あれにミコが負けるとは思えないけど。」
サラッと言いおった!
ディガー・・・アル姉の下僕のホワイトタイガー。ディスペア攻略が生きがいのピュアッピュアな戦闘狂。数多の死線を超え時期八柱候補なのでは?との呼び声チラホラ。
ローズの屋敷で見かけた事あったけどオーラ凄かったな。
でもルナさんが言うように姉ちゃんより強いとは思えないんだよなあ。虎と術師のストラス、あと一人は聞いた事ない名前だったな。それなのにあの慌てよう。
「・・・・・・時間無いわ。行くよ!ニケ、あなたはバカなんだからルナと前衛で暴れなさい。私がバックアップするから。」
今バカって言ったよね?酷くない?
「分かったよ。うしろは任せたからね、お姉ちゃん。」
「ニケくん良い子良い子!ねえ、ルナお姉ちゃんて呼んでみて!」
え、別に良いけど
イチャイチャ
「る、ルナおねぇ・・・ひゃん!?」
姉の殺気。もういい加減にしてよ!
「何よミコ!邪魔しないで!」
「・・・行くよ。」
凄い圧力。
「ちぇっ。帰ったら続きしようね?」
何の?
出場者用ゲートを抜けるとそこは
ワアアアアアアアアアアアア!
うるせえええ!すげえな地鳴りみたいだ。
舞台へと進む。
舞台の中央に立つ3人。この歓声は彼らに送られてるのか。
虎とフードを被った男が二人。
あのマスクをしてるのがストラスだとするともう一人の仮面をしてるのがダイオスって奴か。
「おお!ミコかお前?見違えたな。強くなったじゃねえか。」
虎が話しかけてくる。ミコ姉とメンシキがあるんか。
「お久しぶりです。ティガーさん。今日は一つお手柔らかにお願いします。」
姉ちゃんと虎が話してる間に対戦相手を観察する。
まずはギルマスの虎。立ち上るオーラがハンパじゃねえ。
アル姉が外へ出た後も攻略を続けフロアボスを撃破して来た、まさに歴戦の戦士。ガチガチのストライカータイプだな。
ストラスも隙が無い。術師と聞いていたが剣、いや刀も使うのか。要チェックだ。
それに3人目の男。
何者だ?匂いも気配も魔力も感じない。これって異常だぞ。アル姉やミコ姉みたいにディメンションのオンミツモード展開してるって事だろ?ヤバいかも。
「ルナさん、あの仮面の男、気をつけた方が良いね。(念話)」
「ニケ君!!ダメじゃない!」
え?僕何かした?
「ルナお姉ちゃんて呼びなさい!」
ずっこけー。
「まったくもう!・・・って、あの男がどうかしたの?気配絶ってるから分かんないけど、そんなにヤバい?」
そうか匂いに敏感な僕だから異常性が際立ってるいるのか。確かに気配を断つだけなら簡単だ。説明するか?
「ごめん。気のせい。」
めんどくさいからいいや。逆に知らない方がいいかも。
レフェリーから軽く説明を受ける。
「3対3だがよ。ミコ、最初に俺とタイマンやらないか?お前がどれだけ強くなったか確かめてえ。」
いいじゃん。面白そう。僕も見たいし。
「いえ、今日は連合とギルドの対決ですのでウチは総長のニケがお相手いたします。」
はあ?
ミコ姉を睨む。何逃げて・・・
ひゃあああ!もう!すぐ圧掛けるのやめて!
「それもそうだな。すまねえ。それじゃあ坊主、ヤろうぜ。」
「坊主じゃねえ。ニケだ。舐めてっとそのモフモフの毛刈り上げんぞコラ。」
ゴッ
「ぐえっ!?」
姉に頭を殴られる。何で!?
くくっ
ん?今ダイオスに笑われた?ムカッ
「それでは、これよりDFL対亜流々連合の試合を始めます。実況は私、シロップと解説はコロシアム、オーナーの」
「ベルちゃんでお送りするでえー!みんな楽しんでってなあ!」
ワアアアアアアアアアアアア!大歓声。
ベルちゃんが解説するの!?チラリと姉を見る。
ギリギリと歯を軋ませている。殺気だだ漏れだよ。
「それでは、始め!!」
ゴオオオン。鐘がなる。
僕と虎を舞台の中央に残して4人は後ろへ下がる。
「これはどうゆう事でしょうか?いきなり大将同士が睨み合っています!」
「ええやん。まずは腹の探り合いっちゅうとこやない?」
まあ、そうなんだけど。
開始と同時に虎の魔力が爆発的に高まる。様子見なんてレベルじゃねえなこれ。
ダンッ!
虎の鋭い一撃。ディメンションで空間を把握して先読みしてこれか。
ズガガガガガガガガガガガガカガガ
チクショー、ガードの上から削られるぜ。まそうじゃキツいか。かつてアル姉はガチガチに固めたまそうで次元を裂く攻撃さえ防いだっていうけど。
【本気で固めたアタシの魔装は破れない】
だっけか?
ズガガガガガガガガガガガガカガガ
重い攻撃が続く。
アル姉と僕とじゃ魔力の質、量が違い過ぎる!固めたってそれを超えるダメージが来る。くっそ、いつまで殴ってやがる!
ドガッ
虎の顔に一発入れてやったが涼しい顔してやがる。
「その程度か?」
くそ!
「おおおおおおおおおおおお!!」
ガガガガガカガガガガガガガカガガ
魔力を限界まで上げ殴りつける。虎は仁王立ちで受けている。この虎固過ぎじゃね?
いや僕が弱いのか?ダメージが全く通らない。ショック。
「こ、これは一体何が起きているのでしょうか!?速過ぎて全然見えません!ティガー選手は立っているだけです。」
見えてないのか。
「何やこのくらいのスピード見えんかったら実況失格やで。」
ヒィィとシロップの声をマイクが拾う。
「まあ、今のは冗談やけどな。ははは。」
本当に?
「しゃあないな、解説したるわ。」
それが仕事だからね?
「今はニケくんが虎くんに攻撃するターンみたいやね。全然効いてへんけどww」
くそう!
「確かにティガー選手がダメージを受けている様子は見られません。」
くそう!
「ですが先程からニケ選手の攻撃で振動と音が鳴り止みません。凄まじい攻撃なのは確かです。ティガー選手にダメージはありませんが。」
くそう!
「ニケくんもっと拳に魔力乗っけないとダメだよー!まさかそれで全力じゃないよね?w」
ルナお姉ちゃんにあおられる。
くそう!これで全力だよバカヤロー!
攻守が変わる。また嵐のような爆撃が始まる。
「ニケ、分かった?これが怠惰で傲慢なあなたと、常に死と隣り合わせの世界に身を置く男との差よ。はぁ、やれやれだわ。弟がこんなに弱いだなんて。あなた戦闘訓練してないのバレバレ。学院で天下取って調子に乗っちゃった?社会に出たらいつまでもお山の大将じゃいられないのよ。(念話)」
ちょ!?こんな時に説教はやめて!
「チーム戦だから少し手を貸してあげる。正攻法で勝てないなら搦手よ。まず姿を消しなさい。ディメンション・モード・ステルス!・・・ほら早く。」
「いや僕使えないから!」
「さっき私の周りに張ってたでしょ。あれがステルスよ。」
ああ、隔離するやつか。はえー。
ディメンション・モード・ステルス
上空へ転移。どうだ?上手く出来た?
「はぁー、センス無いわねえ。気配漏れてるわよ。」
姉のツッコミと同時に上から強い衝撃!
ドガッ!
蹴り飛ばされ舞台に叩きつけられる。そこから一方的に殴られ蹴られ・・・ボロボロに。
あーあ、やっぱ姉ちゃんみたいに上手くはいかないなあ。
「ニケ選手が一方的にやられています。2人とも助けに入らないようですが大丈夫なんでしょうか?」
「タイマンに横入りなんてヤボやからね。死にはせんやろ。」
だせぇ・・・。
客席を見ると学院の生徒がとっぷくを来て何か必死に叫んでるけど騒音+意識が朦朧として・・・。
「総長ぜってー負けんな。気合いでぜってー勝てる。だってよ?」
姉ちゃんからの念話。ぜってー・・・か。
「・・・仕方ないわね。30%までで何とかしなさい。」
遅いよ。もうマジむり
ドゴォ!
「顔にティガー選手の蹴りが決まったようです。凄い音がしましたが大丈夫なんでしょうか?」
「おい、死んでねぇよな?」
・・・・・・。
「レフェリー!チェックしてくれ!」
ドンッ!
虎がレフェリーを呼ぶのと同時に空へ飛び上がる。
「はあああああ、ヤバかったねー!今の死線くぐった感あるよねー。」
「無いわよ。それよりステルス!今なら出来るでしょ?」
まあね。
ディメンション・モード・ステルス!
存在を断つ。
「どこだ。」
下を見る。虎が周囲をうかがっている。
「あーっと!ニケ選手が消えました!どこへ行ってしまったのでしょうか!」
「どこにも行ってへんよ。おるやんあっこに。」
ベルちゃんこっち指差さないで!また失敗か!?
「ベルには見ぬかれたわね。完にして璧とは行かなかったけど虎程度なら気取られないでしょう。それじゃあ反撃開始よ。まずは目をつぶして、回復するのに時間が掛かるからね。いい、きっちり指の根元まで入れなさい。あとは死ぬまで殴りつけるだけの簡単な作業よ。」
簡単かそれ?虎の奴すぐ反撃出来るように素早いステップを踏んでいる。腕を頭近くまで上げガードを固めてるから狙いづらい。
てかさあ、闇討ちとか僕の趣味じゃないんだよね。ステルスを解き舞台へ降りる。
「ニケ選手が現れました!今までどこに・・・って、あーっ!頭!頭に耳が生えてる!やだ、かわいい!っは!?し、失礼しました。」
「ニケくん!何それ!かわいい!」
「何普通に出て来てんのよ。バカ。」
またバカって言った!
「隠れてなくていいのか?」
「ああ、仕切り直しだ。」
構える。
ボッ
虎の必殺の拳を紙一重で避け虎のこめかみに右フックを叩き込む。
ドゴォ!
本日二度目のクロスカウンター!
ドオオオオオン
虎は舞台の端まで吹き飛び障壁に激突した。ピクリとも動かない。
場内は水を打ったように静まり返っている。
「ティガー選手気絶しているのでしょうか?動きません。」
「ワンパンで沈めるとかやるやん!こら、エキシビションマッチは連合の勝ちやなあ。」
ワアアアアアアアアアアアア!
大歓声。
「ニケくん凄いじゃん!最後の一撃魔力が乗っててヤバかったね!」
ルナお姉ちゃんに抱きしめられる。
「やっぱあんたはその方が力が出せるのね。」
「・・・まあね。」
・・・・・・。
─── side ストラス ───
ティガーが起き上がる。
「ちっ、いいパンチ打つじゃねえか。」
「ダメージは・・・既に回復しているようですね。」
ティガーを吹き飛ばすとは、信じられない。
9千層後半を一人で攻略する猛者だぞ。
「最後わざと食らったな?」
ダイオスのセリフに驚愕する。わざと受けただと?お前には見えたのか、あの刹那の駆け引きが。
「へっ、気合いの入ったいいパンチだったからよ。どんなもんか味わいたくなっただけだ。」
「そうか。」
マジで見えてたのか?心なしか嬉しそうだな。
・・・気に入らねえ。1週間前、攻略で負傷したタンク(盾役)の代わりに急遽、虎が連れてきた奴がコイツだ。
腕っ節は文句なしだが、どうにもキナ臭い。
はっ、俺が言えた義理じゃねえか。俺は俺で虎を利用して亜流々連合潰す算段だったわけだしな。
あの日コケにされた事が頭から離れねえ。金、権力、暴力を手に入れて学院の頂点に立った俺を絶望のどん底に突き落としたあのガキ、アルルだけは許せねえ。奴に復讐する事が俺の生きる糧だ。数年後、奴が外の世界から戻る時までに軍をまとめ上げぶっ潰してやる。
まずは亜流々連合だ。先代のキースは手のつけられない暴君だったからな。地下に潜って資金とコネクションの構築に全力を注いだ。そこから虎の事を知り仲間に取り入ったわけだが、コイツはとにかく強えー奴と戦えればいいってバカだ。担ぐには打って付け。しかもその実直さと強さに憧れて強者もどんどん入隊しDFLはデカくなっていった。
このダイオスって奴もその手合いだろ。コイツが強えーのは確かなんだ。俺の邪魔さえしなければどうでもいいな。精々利用させてもらうさ。クククッ。
「ほな、こっからが本番やでー。3対3のデスマッチや!用意はええか?・・・よっしゃ!気張っていけや!死合い開始や!」
ゴオオオン!
「ちょ!オーナーそれ私の役目なのにぃー!」
虎にバフを重ね掛けする。ダイオスにも掛けようとするが、
「俺はいい。自分に掛けておけ。」
既に掛けたわ。余裕だな。
連合側は竜人と総長が前衛で女が後衛か。草を放って情報を集めたがあの女は総長の姉で学院の生徒会長らしい。戦闘力は未知数だが銀狼の姉なら油断は出来ない。
ガガガガガカガガガガガガガカガガ
舞台中央に暴威が吹き荒れる。
虎とニケが再び激突するがさっきの戦いがお遊びに見える程の絶技の応酬。今回は互角の殴り合いをしているようだ。
他の二人の動きも把握している。
会長に動きなし。
竜人の女に魔力の収束。
「ルナから魔力砲来るぞ!」
後方から指示を出す。ダイオスを狙っているのか。
ズァッ
ダイオスに直撃した!
なっ!!?
目の前に会長が!ガキィィィィン
刀で防ぐ。
「あら、いい反応。それなりに腕は立つようですね。」
情報じゃ魔法科に通う魔術師ってハナシだったが剣も使うのか。
キィィィィン
剣術も優等生だな。隙が無え。・・・・・・。
「アストラル・バインド。」
高等拘束魔法で会長を縛りあげる。魔力の縄が足下から胸元まで締め付けていく。
「残念だったな。良い眺めだが、仲間の援護をしなければいけないのでね。すぐ楽にしてやる。」
この拘束を解けるのはDFLでも虎しかいない。
刀を構え心臓を一気に
キィィィィン!
貫・・・けねえ!?
カタカタッ
服の表面で止まる。魔装・・・だと!?この黒刀だって伝説級の武器に高密度の魔装と切断特化の概念術式仕込んでんだぞ!?あり得ねえ!
「どうしたの?すぐに楽にするとかなんとか言ってなかったっけ?」
くっ!
俺のSTR(力)とATK(攻撃力)じゃ、この魔装は抜けねえ!
拘束しただけで十分だ。始末は仲間に、
バチンッ!
えっ?
「こんなショボい縄で私のワガママBODYを縛れるとでも?」
あれを容易く破るだと!?
ドッ
「ぐはあっ!」
刀の柄で鳩尾を突かれる。意識が・・・
「安心して。命だけは取らないであげる。とりあえず足は貰っておくけどね。」
刀を構えたミコの目が怪しく光る。なんて殺気だ。絶対殺される。震えが止まらず歯がガチガチ音を鳴らす。この感覚。アルルに会った時以来だ。なぜ、忘れていたんだ。この絶望を。
俺は頭で無く心で理解した。あの学院に関わってはダメだったんだ。もう手遅れだが・・・。
目を瞑る。
生まれ変わったら今度はまともに生きてみてえなあ・・・
シュッ
刀が振られる。
どうした?
目を開けると・・・ !?
「ダイオス!?」
会長の刀を手で握って止めている!
いや待て
ルナと戦ってたはずじゃ?
舞台を見る。ルナが端でうずくまっている!
あの一瞬で倒したのか!?
「あの子、気を抜くなとあれ程言ったのに・・・。やってくれますね。もう正体を現しても良いんじゃないですか?」
正体?
「刀使えるようになったんだな。まさかディスペア流か?」
刀を離す。ディスペア流・・・限られた奴しか使えない幻の剣術とか言われてるアレか?
「当然。」
バババババッ
刀を振るう会長。滑らかな動きだ。速すぎて良く見えないが・・・。
ダイオスのフードと仮面が切り刻まれ床に落ちる。
現れた男に面識はないがこの二人は知り合いなのか?
「あら、随分様子が変わったんですね。」
「・・・アスモデウス様。」