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03話 はじめてのお使い


パキッ

森の中を歩く。

日差しが木々の隙間を縫うように差している。こんな鬱蒼とした森を散歩するなんていつ以来だろう。ふっと昔(と言っても何年も経っていないけど)を思い出す。あの奇跡の日々を。



幼い頃冒険者の少年と旅をした。


少年は数多の死線を潜り抜けこの世界の王となる。

御伽噺のような話だが真実だ。

癒しと破壊。コロコロと表情を変えるあの方の本当の素顔は一体・・・


「お姉ちゃーん!」

私を呼ぶ声がする。


「ここだよー。こっここっこー。」

巨木の上ではしゃいでいる弟がいる。


「もう、遊んでないで早く行くよ。」


「さくてきだよ、さくてき。」

飛び降りてくる。


挿絵(By みてみん)


「周囲10キロは安全だよ。」

わかってる。私が既にディメンションで探索済よ。それにここで私たちをおそってくる魔物なんていないから。


「そう、ありがとう。でも、あんまりはしゃいでるとアル様にもらった服破けちゃうよ。」


「大丈夫だよ。魔力でガードしてるし。」


「魔装っていうのよ。学校で習わなかった?」


「習わなかったよー。知らなーい。」

寝てたわね。


3ヶ月前、私たちは8295層アビスの街にあるキプロス学院に入学した。魔力への造詣を深める事と一般常識を覚え他者とコミュニケーションを円滑に取れるようになる事が目的だ。


「ちゃんと授業受けないとダメじゃない。」


「僕より弱いやつから何を教わるの?」


「あのねぇ、調子に乗ってると痛い目に合うわよ。」


挿絵(By みてみん)


「ミコ姉、オフィーリアみたい。」


「オフィーリア様ね。私たちは彼女を守る守護獣なんだから呼び捨てはダメよ。」


「えー、アル姉はオフィーリアって呼んでたじゃん。」

ザワッ


「ニケ、今後二度と魔王様のことアル姉・・・なんて気安く呼ばないで。」

はぁはぁ、恐ろしい。


「なんで?魔王になってもアル姉はアルね、わっぷ!」

手で口を塞ぐ。それ以上はいけない!


「彼はこの世界の王なのよ。親戚のお姉ちゃんみたいに呼んじゃダメ!」


幼少期ほんの僅かな間だが魔王になる前の少年と旅をした。気さくな方で私たちの事を家族のように可愛がってくれた。ニケにはその時の記憶が強く残っているのだろう。今冷静に考えると心底恐ろしいが。


シス様とアル様がディスペアの頂点を決めた伝説の決闘から早5年が経った。あの日を境にディスペアはより混沌を極める事になる。アル様は直後に元の世界へ戻り、5年たった今もまだ帰って来ていない。


アル様が旅立たれてから3年後にシス様が声明を発表。

10年後に新たな魔王を決めるトーナメントを開催すると宣言。アル様と話し合った末の決定らしいのだがディスペア中に大混乱を巻き起こしたのは言うまでも無い。

しかも参加資格はディスペアの魔物は元より異界の転生者や勇者、魔王、さらには使徒など、全ての者に与えられると言い出した事でさらにカオスな状況に。アル様も参加を確約しているらしいのだが、

それって事実上神との戦い、ハルマゲドンだよ・・・。

残された期間は8年。もちろん私たちは参加せずオフィーリア様のサポートに回るつもりだ。


「じゃあ僕も次のトーナメントで優勝して魔王になる!それならいいよね。」

おバカ!


「殺されるよ。あんたこの前ローズマリー様の屋敷にいるメイドさんにも負けたよね?」


「あいつ強いんだもん。僕の鼻でも匂いが追えないなんて意味わかんないよ。」

魔力とは違い匂いを消すのは至難の技だ。おそらく空間を断絶しているんだろう。

メイド一人でその強さだ。それ以外にもあの屋敷には化け物が揃っている。


「あの屋敷の方々を倒せるくらいにはなって貰わないとね。オフィーリア様の守護獣として恥ずかしいわ。」


「ミコ姉なら勝てるの?戦ってるとこ見たことないけど?」


「私は・・・」

ディメンションをオフィーリア様から教えて貰い独学で応用する事まで可能になったが、


「状況次第ね。フフ」

オフィーリア様を守る為なら死んでも勝ちを拾わなければならない。


「どっちだよ。」

ビュンッ

ニケが拾った木の棒を振る。


私たちが、今いるのはミラージュ・ダンジョンの1層 の大森林。

シャンテル郊外の森に作られたこのダンジョンは全5層。作ったのはシス様で最下層にはシス様の居城が建てられている。


2年前トーナメントの発表をした後

「10年待てぬ者は3740階層シャンテルにあるミラージュ・ダンジョンへ来るといい。相手をしてやるぞ?では諸君最下層で会おう!ハーっハッハッハ!」

そう言って念話は切れた。

アル様の思い出のダンジョンを再現したらしいのだがその規模、攻略難度はこのディスペアを容易に超える。

数万を超える魔物、冒険者、軍隊などが攻略に望んだがまだ1層もクリア出来ていない。1層もだ・・・。

その理由はエリアが広大過ぎる事と魔物が強すぎるせいか。



私たちがなぜそんな極悪ダンジョンに来たかと言うと

「あれじゃない?オフィーリア様のお城。」

緑の中に大きな城が見える。

新たな城。完成していたのね。

オフィーリア様からお使いを頼まれてくれないかというメッセージを受けやって来たのだ。

転移で来ることも可能だがニケがどうしてもと言うので歩いて来たけど、大きいなあ。

今私たちが住んでる旧オフィーリア城の倍はあるんじゃない?


城門が空き兵士が中へ案内してくれる。この兵士はローズマリー様の召喚兵でミラージュダンジョン全域に配備されている。これが攻略を困難にしている要因のひとつ。

ディスペア9千階層高レベルモンスターに匹敵する兵士。それが1層から出て来るなんてデタラメだ。

ガチガチの装備に高密度の魔装を展開していて全く隙が無い。しかもこれらの兵士が数千単位で完全に統率されて襲ってくるのだ。勝てるわけが無い。


「こいつら強そうだなあ。でも本気出せばワンチャン勝てるかな?」


「ニケ黙りなさい!」

上から目線で何言ってんのよ。ワンチャンもネコチャンも勝てないわよ!


ザッ

兵士たちが割れ奥の階段からオフィーリア様が降りてくる。


「お帰りぃ!ミコ、ニケ!」


「お姉ちゃん!」

あっ、もう!

ニケがオフィーリア様に抱きつく。


「二人とも元気にしてたぁ?」


「うん!お姉ちゃんも元気そうだね!」


「オフィーリア様、ご無沙汰しております。」

片膝を付き頭を下げる。


「ミコ、そんな畏まらなくてもいいのよぉ。」


「ミコ姉、最近うるさいんだよ。」

ギンッ

威圧。


「わっ!何だよ!?」


「はぁ、二人とも向こうで話しましょうか。」


広い客間に通される。

内装はローズマリー様の屋敷と違い落ち着いていて質素な印象を受ける。


品の良い上質のソファに座るオフィーリア様。ニケがオフィーリア様の隣に座る。アンタ何様なの?何許可なく座ってるのよ!しかも隣に!

ギンッ(威圧


「ひゃう!?ミコ姉!それやめてよ!」


「ミコ座って。ニケを睨んじゃだめよ?」

くっ!ニケのやつニヤニヤしやがって!


「承知いたしました・・・。失礼します。」

ソファに座る。


オフィーリア様を観察する。以前と変わりないようだがオーラは別物だ。8年後に向けて相当な修練をしているのだろう。

メイドさんが用意してくれた紅茶とお菓子を秒で食べ始めるニケ。遠慮って言葉知らないの?


「2年振りねぇ。大人っぽくなって驚いちゃった。制服似合ってるよぉ。」


「ありがとうございます。オフィーリア様もお変わりなくお美しい。」


「ミコ、もっと楽にしていいのよぉ。私たち家族なんだから。」


「いえ、オフィーリア様は私たちの主様ですので。」


「・・・ニケ、お姉ちゃんどうしちゃったのぉ?」

「もぐもぐ、魔王様とアル姉の戦いの後からこんなだよー。もぐもぐ」

オフィーリア様とニケがひそひそと話しをしている。



「学院生活はどう?他の子たちと上手くやれてる?」


「はい、親しい友人も出来、充実した学院生活を・・・」


「ウソだー!お姉ちゃんボッチじゃん。みんなに怖がられてて誰も近づけないんだよ。ウケるー!お昼なんていつも転移して家で・・・」


!?オラァ!ギンッ!威圧(強め


「わああああ!?もう!やめて!!」


「ミコ。」

くっ!


「し、失礼しました。」


「はぁ、ニケは友達出来たのぉ?」


「ソーチョーになってシャテーたくさん出来たよ。もぐもぐ」


「早朝?射程?」


「こぶしで語り合った友達の事だよー。」


「そ、そうなんだ。」 


「四代目亜流々連合のソーチョー決める時にヤリあったんだ。よわよわでつまんなかったけどねー。」


「よく分からないけど凄いじゃない!頑張ったね。」

暴力で従えてるだけですから!あっ!頭を撫でられている。イライラ。


「わ、私も生徒会長として学院を支配してます!」

くっ、張り合ってしまった。


「えー、ミコ姉何もしてないじゃん。全部副会長に丸投げじゃんw」

こいつ!!威あ

ッッッ!!? オフィーリア様から冷気が!まずい!

カチャ

すまし顔で紅茶をいただく。美味しい。


「はぁー。一緒に暮らせていたら少しは違ったのかしら。」

オフィーリア様はアル様の代理でローズマリー様とシャンテルの統治を行っている。私たちが学院寮に入ったのをきっかけに今は別れて暮らしているが。卒業したら戻るつもりだ。


「オフィーリア様、失礼ですが本日呼ばれた要件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、ええ、そうね。これをアビスの街にいるベルゼビュートに渡して来て貰いたいのよ。」

分厚い封筒を渡される。


「シャンテルの都市開発に関係するものなんだけど溜まっちゃって・・・」


「転移すればすぐじゃん。」


「そうなんだけどねぇ。ほらぁ、私アイツ苦手だし・・・。」

以前、顔も見たくないと言ってた気がする。


「いつもは部下に頼むんだけどねぇ。あなたたちもベルゼビュートとは一度会っておいた方がいいんじゃないかなって。」


ベルゼビュート

使徒フルット・フルーリがディスペアで使っている名だ。アビスの街を掌握しているのが彼で姉妹都市となったシャンテルの開発にも絡んでいる重要人物である。


「はあ。オフィーリア様がそう言うなら。」

確かに強者には顔を売っておいた方がいいだろう。


「ベルちゃんちなら知ってるよ。もぐもぐ。何回か遊びに行ったし。」

へえーそうなんだ。ん?

何・・・だと!?


「あ、あんたベルゼビュート様とどこで会ったの!?何でそんな大事な事をお姉ちゃんに言わないの!」


「もぐもぐ。言ったじゃん、一緒に遊んで来たって。」

ああ、ベルちゃんて子がニケのクラスメイトに居たっけ。・・・!!


「ちょっと!?あんたベルゼビュート様と遊んでるの!?言いなさいよ!」


「だから言ってただろ!バカ!」

ザワザワ・・・ズワッ


「はあ?今何つった?てめぇ!アタシの事舐めてっとケツに」

「ミコ!」


「ひゃい!すみません!」

しょんぼり。


「はぁー。アイツまだ学院通ってるのねぇ。何留してんのよ。」

ベルゼビュートと同じ学院に通っていたなんて・・・て言うかクラスの奴らからそんな話聞いた事、あっ、・・・私友達いないんだった・・・。

ズウウウン・・・


「そういう訳なんだけど頼まれてくれないかなぁ?」

小首を傾げる仕草がかわいい。


「オッケー!いいよね?お姉ちゃん。もぐもぐ」


「ええ、主に頼られるのは従者にとって至上の喜び。是非私たちをお使い下さい。」


「もう!言い方!」


その後、学院での話や昔話をして、

「オフィーリア様、そろそろ。」


「あら、もうこんな時間なのね。ベルゼビュートからも書類を貰うはずだから受け取って来てねぇ。続きはその時話しましょう。」


「承知いたしました。ニケ!行くよ!」


「もぐもぐ、ん、分かった、もぐもぐ。」

オフィーリア様から受け取った書類をニケの持つInfinityバッグに仕舞う。

オフィーリア様が城門まで送ってくれた。


「急がなくてもいいからねぇ。気を付けていってらしゃい!」

手を降ってくれている。


「うん!行ってきまーす!」

「行ってまいります。」


「さっさと渡して帰って来るわよ。」

「えー、少し遊ぶくらいいいでしょ?」

「ダメよ。」

「ブーブー!」


こうして私たちのFirst missionが始まったのです。いかに簡単な任務と言えど失敗は許されません。優秀さをアピールするチャンスです!完璧にこなしてみせましょう!


転移!



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