25話 キプロス学院の劣等生 入学編
─── 工業都市アビス 西部 バルキエル地区 歓楽街ベルコア ───
「おい、てめえ、ガキの癖に調子乗ってんじゃねえぞ!オルァ!」
ドガッ
「あうっ!」
腹を蹴られる。クッソ!しぬほど痛いんですけど!?
「ちょっとー、あんま目立たないようにやってよねえ。この街そこら中に監視カメラあるんだから。」
女が周囲を見渡しながら男に注意する。
ここは路地裏で人通りは少ないがカメラは至る所に設置されている。すぐ警備員が来てくれるはずだ。
ドガッ
「ふぁっ!」
また蹴られた。
「んなこたぁわーってるよ、だからジャミング魔法掛けてあんだろが。」
・・・完全にオワタ。
「ふぇぇ。」
クッソ!痛え!
「軽くけっただけだろ泣いてんじゃねえよ。おい、お前あれ持ってたよな。貸してくれ。」
仲間の女が文句を言いつつ男に紙袋を渡す。
「ほら、これ着ろよ。」
渡された紙袋の中にはメイド服。
「なにそれ?あんたそんな趣味があったの?ウケるw」
「ちげーよ。けど、こいつが着たら面白えだろ?」
面白くねえよ!
「普通にキモいよ。完全にあんたの趣味っしょw」
「そうだよ!私の服に変な汚れつくじゃん!気持ち悪い!」
変な汚れ?フヒッ
「う、うるせえ。上下関係わからせるにはこれが良いんだよ!ほら、早く着ろ!」
意味不明・・・くっ、男に睨まれ仕方なく服を脱ぐ。
シュルシュル、ゴソゴソ
「ふえぇ。」
「へぇ、似合ってんじゃん。」
「あはっ、やっぱあんたそっちの気が・・・えっ、ちょっと、何?こいつ、スカート・・・ふくらんで来てんだけどw」
くっ!
「し、仕方ないだろ!こんな大勢の前でこんな服着せられて罵られて・・・興奮しないわけないだろ!」
正論を言ってやる。
「変態じゃねえか!」
ドカッ
「あう!」
脇腹を蹴られ、すっ転ぶ。
あはははははっ
嘲笑
「あたしのバイトの制服汚すんじゃねえよ!」
パァン!
なんで!?
メイド服の持ち主に頬を叩かれる。
「ふ、ふえぇ・・・。」
情けない。僕はこんな事をしにここへ来たわけじゃない。街の様子を見に来ただけなのに・・・こんな事ならステファン(執事)連れて来れば良かったか?
いや、それだとストリートガールをナンパ出来ないし・・・クッソ!なんで僕がこんな底辺のカス共に!クッソ!
その時
「ちょっと、あなたたち何してるの!」
小動物が駆け寄ってくる。獣人か?
「怪我してるね。今、治してあげるから。」
獣人がお腹に手をかざすと
パァァァァ
お腹が光り痛みが引いていく。
あっ、凄い!完全に痛みが消えた!ヒール?だよね?でも詠唱してなかったような。
「あ、ありがとう、ございます。」
「気にしないで。それより、」
キッとアイツらを睨む。
「弱いものいじめなんて恥ずかしくないの?」
そうだ!もっと言ってくれ。ん?僕は弱くはないぞ。まだ本気出してないだけだ。
「何だてめぇ?最初に因縁つけてきたのはそいつだぜ。」
うっ・・・。
「・・・そうなの?」
「ち、ちがッ・・・その、そこの女性に肩がぶつかったから、危ないから前見て歩いてねって言っただけで・・・」
「嘘つくんじゃねえよ!私に向かって、端を歩けよクソビッチ!って言っただろ!」
くっ、ビッチのやつ!
まさか仲間がいるとは思わなかったからな。
獣人の冷ややかな視線。クソッ!
「だ、だからって暴力奮っていいわけないだろ・・・」
「この野郎!いい度胸してんなあ!」
ヒェッ
「やめなさい!お巡りさんに相談するから。あなたも一緒に来て。」
ポリスメンはあかん。
「はあ?知らねえよ、そいつは今日から俺の下僕だ。何したっていいんだよ。」
下僕じゃねえし!いいわけねぇだろ!
「いいわけないでしょ!」
ああ・・・この小動物飼いたい。忠犬みを感じる。
「めんどくせえな。我が瞳、我が息吹、汝の心を捕え操らん、チャーム!」
これは魅了の魔法!?ヤバいぞ!
パァァァン
レジストした!?
「ん?何?早く交番いくよ。」
「弾かれた・・・だと!?」
「精神防壁?いいわ、私に任せて。凍てつく氷よ、汝を覆え、フリーズ!」
攻撃魔法!?こんな街中でぶっ放つとか頭おかC。
パァァァン
またレジスト!?いや、無効化・・・した、のか?
放たれた魔法は消えてしまった。
「えっ!?そんな、嘘・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「こいつ、何かやべえ・・・おい、行くぞ!」
「待って!私の制服は?」
「知らねえよ。てめえで何とかしな!」
男と連れの女は逃げてしまった。
「あいつら信じらんない!おい!あたしの制服返せよ!」
女が詰め寄る。
「えっ?やだよ。」
このメイド服いい匂いがするし。
「ちょっ!?なんで立ってんだよ!?キモッ!お前もう、○ねよ!」
涙目で逃げてった。ざまぁw
小動物がジト目で僕を見ている。気まずい。
「はぁ、絡まれたのはあなたにも原因がありそうね。とりあえず交番で報告して・・・って、ちょっと!」
ダッシュで逃げる僕。冗談じゃない、こんな事が外部に知られたらどうなるか・・・そんな事になればアイツらより先に父さんに○される。
てかスカートって走りづれぇ!股がスースーする。女の子ってよくこんなのはいて外出られるな。防御力0だぞ。
人通りの多いメインストリートに入る。視線をビンビン感じる。ちゃんと着こなせているかな、似合ってるかな。
いや、何を考えてるんだ僕は・・・。
「ねえ、君、メイド服着てるけどお店の人?」
イケメンに声を掛けられる。
「ふぁっ!?ち、違います。これは、趣味で・・・」
「ふぅん、良かったらちょっと飲み行こうよ。奢るからさ。」
えっ!?これナンパ?
「いや、ちょっと友人と待ち合わせしてて・・・」
「マジで?じゃあ友達来るまでそこのバーで待ってようよ。」
近くのバーを指差す。
これアカンやつや。
「ごめんなさい、私未成年なので・・・。」
「ふぅん・・・いいじゃん。」ボソッ
何が!?
「ちょっとだけだから行こっ!お願い!」
腕を捕まれる。力、強っ!
何とかイケメンの手を振りほどきダッシュで逃げる。
はぁはぁ、何なんだ、あれ。もし飲みに行ってたら・・・はぁはぁ。
ニヤァ
遡る事3ヶ月前
─── シャンテル 都心部 Dispair HD 本社ビル 社長室 ───
side ミコ
「ええ、それで構いません。御社の製品はそのクオリティの高さから、顧客からの信頼、満足度ともに優れた評価を頂いておりますので・・・ふふっ、はい・・・はい。・・・えっ?・・・あー、えーっと、今は少し仕事が立て込んでいまして中々プライベートの時間を取るのが難しくて・・・ええ、誘って頂いて恐縮なのですが・・・はい、そうですね。機会があれば是非。はい、では、今後ともお付き合いの程よろしくお願い申し上げます。はい、それでは失礼いたします。」
取引先企業の社長からの通話を切る。
はあー、あの男〇したいわぁ。うちのダンジョン来ないかしら。私が直に相手してあげるんだけどな。
『ミコ社長、この後シッダール不動産のシュミット社長が14時に新社屋の件でご来社されます。』
『ええ、了解したわ。』
はぁー、あのジジイ何かに付けて私に会いに来るのよね。メールで済む話をわざわざ・・・。
こいつら、私がミラージュの王狼だと知ったらどんな顔するだろう。
私がダンジョンボスなのを知ってるのはごく一部の者たちだけだ。言う必要もない、デメリットしかないからね。
でも知らないせいで言いよってくる馬鹿は後を絶たない。
美し過ぎるのも考えものね。なんて。
はぁー・・・ヤバい、最近ため息ばっかりついてるな。
『ミコ社長、オフィーリア会長から外線1番にお電話です。』
オフィーリア様!?・・・なぜ電話?
『オフィーリア様。お待たせいたしました。』
すぐ念話で返す。
『あら、今大丈夫なの?忙しいならぁ後でも構わないのだけど。』
『会長をお待たせする程の用など私にはございません。何なりとお申し付け下さい。』
『もう、言い方ぁ。じゃあ、ちょっと会いに行ってもいいかなぁ。シス様に頼み事されちゃってぇ。でも、私よりミコの方が向いてるかなって。』
魔王様絡みの、案件!?ゴクリ
『し、承知いたしました。すぐにオフィーリア様の元へ転移・・・』
『あっ、私がそっちへ行ってもいいかなぁ。確か最上階が私の部屋になってたよねぇ?』
最上階はペントハウスになっている。
『ハッ、お待ちしております。』
最上階へ転移。
『ミコ社長、受付にオフィーリア会長がいらっしゃっています。』
受付!?
なぜ部屋に直接転移しない?あの方無駄に律儀なんだよなぁ・・・これは不敬か。
『今行くわ。それと午後からの予定は全てキャンセルね。上手く誤魔化しておいて。』
鏡で身なりを確認、よし。
1Fへ転移すると受付嬢とオフィーリア様が楽しそうに談笑している。
イラッ
『おい、貴様・・・誰と話しているか分かっているのか?頭が高いぞ。』
威圧。
受付嬢が、慌ててカウンターから出て片膝を付き頭を垂れる。
その前に出て私も臣下の礼をする。
「もう!ミコ!それはお城だけでいいから!こんなところ見られたら・・・」
周りを気にする素振り。
「結界は張られていますのでご心配なく。それに主に頭を下げるのは従者として当然の行い。それをこの者は・・・」
後ろで震えている受付嬢をさらに威圧する。
『ミコ止めて。』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
『し、失礼しました!』
オフィーリア様の圧を感じ覇気を収める。
ポンッ
エレベーターに乗る。
外の景色が見えるエレベーターで最上階へ上がっていく。
「凄いわね。ここの開発が始まって何年だったかしらぁ。あの森林地帯がここまで発展するなんて。」
ガラス越しの景色を見ながらオフィーリア様が囁く。
確かに凄まじい変化だ。ここまで文明が発展したんだ、そりゃ、天使に目を付けられてもおかしくないよね。
2年前のあの日ベルゼビュートからの忠告を受け臨戦態勢を取っていたのだが・・・結局、天使が襲来する事は無かった。
ベルに詰め寄っても知らないの一点張り。
だが実際、天使たちがdispairに入り込んでいるのは間違いないだろう。
そもそもアイツは天使側じゃないの?
こっちでこれだけ派手にやりたい放題やって、天界に戻れるの?いや戻る必要がないのか・・・
ポンッ
エレベーターが最上階へ着く。
ガチャ
「オフィーリア様どうぞ。」
「ありがとう。わぁ、凄い眺望ねぇ。」
ここからだとミラージュダンジョンの入口付近も見える。相変わらず人がゴミの様にひしめき合っているわね。オフィーリア様の視力なら私よりも鮮明に見えているだろう。いやあんなもの見たくもないか。
工業エリアではゴーレムとスケルトン数千体が24時間休みなくフル稼働している。重機もあるが魔物の方が使い勝手がいいそうだ。
あの魔物たちはMirage Wolfの幹部の1人ディアブロ(元フロアボス)の配下で、主の命令にしか従わないが指示さえ与えれば永遠に働き続ける最高の奴隷なのだ。
ディアブロは私の縄張りにちょっかい出してきたから返り討ちにして配下にしたのだけれど、ふふっ、良い拾い物をしたわね。
オフィーリア様がソファに座る。
座り心地はどうだろうか。気に入らなければすぐにでも代わりの物を用意しなければ。オフィーリア様はミッドセンチュリーよりアール・デコの方が・・・
「ふぅ、ミコも座りなさい。」
オフィーリア様に促されソファに座ると、
knock knock
「失礼いたします。お飲み物をお持ちいたしますのでどうぞお選びください。」
給仕係がメニュー表をお渡しする。
「あらあら、そんな気を使わなくても大丈夫なのにぃ。ありがとう。それじゃぁダージリンティー頂こうかしらぁ。ミコは?」
「では、同じ物を。」
ダージリンティーは私の好きな紅茶だ。気を使ってくれている。
「あっ、砂糖もお願いね。この子甘くして飲むのが好きだから。ふふっ。」
オフィーリア様!それ今言います!?私のイメージ!
「か、かしこまりました。少々お待ちください。」
会釈して出ていく。
くっ!恥ずかしい。
少しして紅茶とパンケーキ、パフェなどのスイーツが運ばれてくる。もちろん一流のパティシエが作る最高の品を用意した。
アフターヌーンティーを楽しみながら雑談をしていると、
「ふふっ。すっかり社長が板に付いたわね。あなたがミラージュの1層を任せて貰いたいって言った時はぁどうなる事かと思ったけど・・・任せてよかったわ。」
オフィーリア様・・・。
「会社も作ってぇ軌道に乗せて、ここまで大きくするなんてねぇ。今度会った時言おうって決めてたの。あなたは私の誇りよぉ。お礼を言わせて、ありがとう、ミコ。」
「あらあら、どうしたの?」
えっ?
気づくと涙が止めどなく頬を流れていた。主に褒められてこんなになるなんて私ってやっぱりイヌ科なんだなぁ。
オフィーリア様に抱きしめてもらいハンカチで涙を拭って貰う。
色々溜まっていたストレスがすっかり吹き飛んでしまった。
「取り乱してしまい申し訳ございません。」
「いいのよ。それくらい。頼りにしてるわよミコ。」
ああ、心が満たされていく。
「あの、それで今日いらっしゃったのは、どのようなご要件で・・・。」
「ああ、そうそう!一つはあなたを労いに、もう一つはね。シス様からお願いされたんだけどぉ・・・」
ゴクリ
「知り合いの子をキプロス学院に通わせてあげたいみたいなのよ。」
へ?何だそれ。
「失礼ですが、その方とシス様の関係性をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「うーん、私も良く知らないんだけど友達とか言ってたかなぁ。なんでも旅の途中で仲良くなったとか。」
友達!?一気にミッションのハードルが跳ね上がる。
「そうですか。でもなぜキプロスに?卒業した私が言うのもなんですが、あの学院は少々・・・特殊と言うか癖が強いと言うか・・・」
一般人向きでは無いだろう。生徒も向上心むき出し、選民意識丸出しな奴しかいない。あくまでイメージだけど。近年その傾向はより強くなっている気がする。
「シス様が言うには、彼女に世界を見せてやりたいんだってぇ。それで世界中から一流の人材が集まるキプロスへ、って事なんだけどぉ。私は学院の事良く知らないし、何よりあのエリアを仕切ってるのってアイツでしょ。」
ああ、なるほと。関わりたくないですよね。私もです。
さっきまで満たされていた幸せゲージが半分まで減ってしまう。
「でね、丁度入学試験を控えた時期だし、受験させてあげたいのよ。」
「キプロスの偏差値は80を超えますが・・・裏金を使いますか?」
多額の寄付金を払い裏口入学する生徒も多い。
能力か金が必要になるわけだが私に相談するって事は裏口か?
「普通に受験するからぁ大丈夫よぉ。ミコには手続きとか保護者の代わりをして欲しいんだぁ。」
見守れば良いって事かな?かなり優秀な方のようだ。しかし、あの学院は特殊だからなぁ。
「あの・・・学院内で何かあった場合の責任は・・・」
私の首が飛ぶのは容認出来ません。
「それも問題無いかなぁ。私も会ったけど、素敵な子よぉ。」
いや、素敵なのは良い事ですが、学院でやっていけるのですか?もしイジメなどがあってそれがシス様に知られたら・・・学院、いやこのエリア毎・・・ぶるっ
「私は1人で行かせるのは反対です。」
私が護衛として傍にいたいが、会社の運営とオフィーリア様を守護る役目の3役をこなすのは難しい。いや、待て1人暇人が・・・
「実際会えば分かるかなぁ。今呼ぶね。」
念話を飛ばされた様だがここに転移は出来ませんよ?関係者以外を阻む結界を私自ら張っていますので。
knock knock
!?
オフィーリア様の前に立ち、即応体制を取る。
「失礼します。」
モフモフの小動物が入って来る。
えっ?待って・・・
「きゃわわああ!!!」
─────────────────
現在
side ???
クッソ!あの後何人もの男に声を掛けられた。こんな事なら最初のイケメンと・・・クソッ!
マンションが近い。もうあの小動物巻けたかな。さて、早く戻ってこの服をオカズに・・・
「君、なんで逃げるのさ。今後の事も考えてお巡りさんに相談しなきゃ。」
!?まだいたのか、この小動物!
ダッ
走り出すが、
スカッスカッ
あれ?地面が、無い?
てか、体が浮いてる!?
「はぁ・・・このまま連れてくから。」
その後近くの交番に連れて行かれたっぷりしぼられた。
「相手は隠蔽系の魔法使ってるなあ。防犯カメラに顔が映ってれば認識システムで追えるんだが。残念だったな。」
いや、別に。どうせ二度と会わないし。
「とりあえず今回は注意と言う形にしておくが、もう変な輩には近寄らん事だな。その・・・コスプレ?も場所は選ぶ事だ。じゃあ、暗いから帰り道気を付けるんだぞ?」
YES!実家に連絡されなければ問題は無い。ラッキー
「あざっしたー!」
ふぅ、あの小動物、よけいな事を。
夜中でも大通りは明るいな。飲食店などがライトアップされて眩しいくらいだ。
いい匂いがする。めっちゃ腹減ってきた。
ファストフードのチェーン店に入る。
うっま!手の込んだ料理もいいけどたまにこう言うの食べたくなるよね。
スマホでマップを見る。僕は最近こっちに来たばかりなので土地勘が無い。大通りから回って行くとマンションまで距離あるな。疲れてるし近道しよ。
マップを便りに進んでいく。側道に入るとライトの数が減り薄暗くなってきた。そうなると何となく不安になり足早に。
早くマンション帰ってしこ・・・
「お疲れ様。結構かかったね。」
「びゃあああ!」
大声を出してしまった。
「うわ、びっくりした。ごめんね、急に声なんてかけて。」
「さっきの小動物!なんで!?」
まだここに居たのか。ストーカー?
「小動物?私、チャムだよ。君は?」
チャム、名前もかわいい。
「ダリル・・・」
あっ、普通に本名言っちゃった。
「よろしくね。ダリル君。」
そう言ってウィンクする。かわいい。
「チャム・・・さん、途中でいなくなるから帰ったかと思ったよ。」
一応、さん付けしてみる。獣人は年齢が分かりづらいからな。子供みたいな外見でもBBAの可能性がある。
「うん、帰るつもりだったんだけどね・・・」
チラッと後ろを見ると、
暗がりから男が、
「よお、逃げられると思ったか?」
さっきのチンピラ!後ろから4人程現れる。仲間を連れて戻ってきやがった!
「先輩こいつらです。すんません、よろしく頼んます。」
「何これ、お前こんなのにやられたの?」
先輩と呼ばれたガタイの良いガチムチ男が訝しげにチャムを見る。
「いや、この犬、俺の魔法を無効化しやがったんすよ。」
犬、なのか?
「ふうん。子犬をいじめるのは気が引けるが・・・」
男が手を前に出す。
パァン!
うわ、チャムの前で火花が舞う。
「ありゃ、ホントだわ。すげえな。」
「マジかよ、先輩の無詠唱魔法を弾きやがった!」
「あなたたち、何でこの子付け狙うの?」
「そいつじゃねえ!お前だ。舐められたままじゃ、この街には居られねえからな。」
どんな街だよ。居ていいよ別に。
「はぁ、バカみたい。帰ろっか。」
チャムがそう言うと
ブンッ
景色が一瞬で変わる。転移した?
転移ってランクAの魔術師じゃないと使えないはず・・・。
しかもここってウチのマンションじゃん!
何で知ってんだよ!?ストーカーかな?いや絶対ストーカーだよ!怖っ!
「じゃあね、あいつら、しつこそうだから気を付けて。」
「ちょっ、まっ・・・」
ブンッ
消えてしまった。お前ストーカーじゃないのかよ?・・・何だったんだ。
放心状態のままエントランスを抜けエレベーターへ。
何て1日だ。この街でこれから3年過ごすのか。不安しかない。
ポーン
玄関扉を開けると
「ダリル様お帰りなさいませ。」
従者のステファンが頭を下げている。
「ああ、ただいま。」
「・・・失礼ですが、外へ出る時は、TPOに合わせた服装を・・・」
あっ!
「!?分かってるよ!これは・・・その、色々あって・・・疲れた!シャワー浴びたら寝る!」
ダダダダッ (階段を駆け上がる音)
バタンッ
シャワーッ
全くあのチンピラ共、どうしてやろうか。
父様に言って傭兵を雇ってもらおうか・・・
ステファンも腕は立つが、平和主義者で面倒なんだよなあ。
よし、父様に連絡しよう。
バスローブを着て自室へ。
スマホを起動させる。
「もしもし、父様ですか?ダリルですけど・・・」
「・・・どうした、何か厄介事か?」
うっ、父様鋭い。
「ええ、じつは~」
チンピラに絡まれた経緯を僕に非が無い様に脚色して伝える。
「それで、ですね、また街で絡まれる可能性がありまして、出来れば父様の私兵を僕に貸していただけないかと・・・。」
「・・・私の兵を使って仕返しをすると?」
やばば
「い、いえっ、話し合いで解決出来なかった場合の護衛としてですね!」
「ダメだ。自分で何とかしなさい。ステファンに頼るのもダメだ。」
「そ、そんな、アイツら頭がイカレてるんですよ!僕が殺されてもいいんですか!?」
「その程度の火の粉も払えない様ではウチの事業を継承するのは無理だ。お前が死ぬようならランディ(次男)に継がせよう。そう言うわけだから安心して逝くといい。もう、くだらない事で連絡してくるなよ?」
プツッ ツーツー
クッソじじい!○ねよ!はぁ~つっかえ!
ベッドにダイブしてグーパンで何度も殴る。クッソ!クッソ!
兄より優秀な弟なんているわけねえだろ!(ウチにはいるが・・・)
こうなったら冒険者に護衛を依頼して、でも高くつくよなぁ。それよりは闇サイトで募集した方が・・・いや弱みを握られたら延々たかられる・・・。
クソ、ダメだ、疲れて頭が回らない。
よし!一発抜いて寝よ。
バスローブを脱ぎメイド服を着用する。
はぁーいい匂い。これは捗るぞ。
『あっ・・・取り込み中のところ悪いんだけど、さっきの女の子から取った服返してもらうね。』
えっ!?頭に声が?あの犬、チャムの声!?
パッと服が消える。
ファッ!?
素っ裸やんけ!
『私が洗って返しておくから心配しないでね。おやすみなさい。』
はあ?
どゆこと?
「おい!チャム!それ俺のだぞ!返せよ!」
正確には俺のじゃないが。
・・・。
返事は無い。
怖っ!何だよ!もう!せっかく、くそ!楽しみにしてたのに・・・くそ!何だよ!もう!
これじゃあイライラして寝られないよ!
ネトゲしよ。
FPS(一人称視点のシューティングゲーム)で今お気にのゲームをプレイ。
「クッソ!斜線塞ぐんじゃねえよ!クソタンク!」
「前線でダウンすんな!起こせねえだろ!」
「味方がクソ!」
「砂いらねえから!」
「ラグいんだよ!クソゲーじゃねえか!」
「はぁっ!?今の当たってねえだろ!」
余計ストレス溜まったわクソが!
トゥルルル
スマホが鳴る。
見るとmiddle school時代の友人からだ。
「・・・んだよ。マティフ、こんな時間に、・・・えっ、ニュース?待って今見るよ。・・・うっそ、マジで?パーティ全滅?はー、あいつらマジで行ったのかよ。」
PCでローカルニュースを見るとミラージュに挑んだ期待のルーキー全滅の文字。8人全員の死亡を確認とある。
1人知り合いの名前が乗っている。僕たちの学校は進学校だが、あいつは何故か冒険者を目指していて、その腕っぷしの強さからいくつものチームからスカウトが来ていたっけ。
僕たちはあいつとその取り巻きに度々金を毟り取られ暴力を振るわれていた。
卒業式の時、ニュースに出ているチームに入ってミラージュを攻略するとか息巻いていたのを覚えている。
「ちょっと強いからって調子に乗ってさあ、すっげームカつく奴だったけど、いざこうなると・・・・・・最高にスカッとするな!YES!ざまぁwwww」
気分爽快だはwww
「ミラージュは無いわなぁ。あんな地獄、自殺志願者だって全力で逃げるぞ?www」
マティフも大爆笑。
その後もボロクソ言い合って最後に互いの近況を少し話して通話を切った。
はぁ、久しぶりに笑ったわー。
人生何があるか分からないものだね。今日は色々あって酷く疲れたけどいい夢が見られそうだ。
数日後
今日はキプロス学院の入学式。
僕は今日からキプロス学院生となるのだ!
はぁー、すんごい優越感!
説明しよう!キプロス学院とは
工業都市アビスにある魔術学院だ。
剣術、魔術、学術に分けられたカリキュラムはどれも世界最高峰と唄われ、数多くの偉人を生み出している。
剣術科では剣術以外にも武術、護身術、銃火器の取り扱い等を学ぶ事が可能。卒業後は軍需産業へ進む者が多い。
魔術科は治癒、精神、攻防魔法全般、結界術等、多岐に渡る。卒業後の進路も幅広い。魔法に長けた者は迷わずここへ行く。
そして僕が行くのが、近年爆発的な人気で合格率1%、超難関の学術科だ。
法律、経営、理工学、医学などに別れていて、魔法を使えなくても先端技術を学ぶ事で
大金を稼ぐ事が出来るとあって倍率は上がり続けている。世界の名だたる企業のほとんどをこの学院の卒業生が経営している。その為、学術科を優秀な成績で卒業すればコネを使い一流企業へのスムーズな就職が可能となるのである。
まぁ、僕の場合は親が会社を経営してるから就職先はもう決まってるんだけどね。キプロス出とけば箔が付くから行っとけって事なんだろうけど・・・
3年間で帝王学を学ばなければならないのがダルいけど、なんとかなるだろ。素敵な出会いもあるかもだし。すでに何人か気になる子がいるんだよね。芸能関係の子も多数在籍しているから期待出来るわ。
「スーツ良くお似合いですよ。」
ステファンが笑顔で言う。当たり前だろ。でもスカートも僕なら似合いそうだな。この間の一件でどうやら新たな扉が開いてしまったらしい。
「そうか、別に普通だろ。」
キプロスは服の縛りはない。基本何でもOKだ。多種多様な亜人が集まる学院ではそうせざるを得ないのだろう。
リムジンの後部座席に乗り込む。
ステファンがハンドルを握り魔力を送り込むと車が動き出す。
この車はミラージュファントム社製の超高級カーだ。父様に借りているだけだが、これで学院に乗りつけたら目立つだろうな。ふふふ。
ファーストインパクトは大事だからね。
がっつりマウント取ってやる!
シュオオオオオオオオオオオオオ
ん?徒歩で通学する生徒が空を指差して何やら騒いでいる。
何だろ?
窓を開けて空を見る。
「ちょっ!?あれって!?」
「あ、あれは・・・FT-40ですよ!凄い速度だ!あのスピードで衝撃波が起きていない!?魔法で空気抵抗を抑えているのか!素晴らしい!」
珍しくステファンが興奮している。
ニュースで見たことがあるぞ。FT-40・・・フロックス(世界最大の軍需企業)が開発したスタークルーザーとか言う最新鋭の飛空挺だ。
左右と後方に3機の戦闘機が並んで飛んでいる。護衛してんのか?
キプロス学院まで一直線で飛んで行ったぞ。学院の関係者?だよな。
「マジかよ・・・」
クソッ!俺より目立つんじゃねえよ!
学院が近づいて来ると正門ゲートの前は車列がズラッと並び大渋滞が起きていた。
何だよ、どいつもこいつも高そうな車乗りやがって!どうせお前ら全員裏口入学だろ!(僕もだが)
道開けろや!クソが!
「これでは時間内に付きませんね。降りて歩いて行く方が早いかと。」
ええー・・・クッソ面倒くせえ。
仕方なく車から降りて徒歩で正門をくぐる。クソ!徒歩ってなんだよ!クソ!
すでに生徒たちは受付会場前に集まっており
案の定、さっきの飛空挺の話しで持ち切りとなっていた。
「朝から凄えもん見たわ。」
「あれスタークルーザーだよな?カッケー。」
「うっわ、販売価格8千億ギルだって!w」
「あれ売ってんのかよ!ww」
「いや、金あっても買えないからwそれなりの身分とコネが無いとね。」
「動かすのにランクAの魔法師が20人必要・・・って大規模術式かよ!w」
「俺魔法師目指そうかな。給料良さそうだし。」
「燃費えっぐw」
「誰のだろ?学院長?」
「先輩たちも初めて見たって言ってたから違うんじゃない?」
「いやいや、フロックスの社長しかいないだろ。」
だよな。一般市民が手に入れられる代物じゃあない。まずう動かすのが無理だし。
軍需企業の一端を担う者として興味が湧くなぁ。
近くで見てみたいわ。
キャーかわいい!
何だ?
受付から少し離れたとこで歓声があがる。
あの人集りは・・・キャーキャー騒がしい。
「どこから来たの?」
「冒険者なのに学術科って珍しいよね。」
「耳触らせて!お願い!」
「ずるい私もモフりたい!」
モフ・・・?
中心にいる子と目が合う。ピコッと耳が動く。
パッと目を逸らす。
チャムやんけ!!
ドキドキ
あいつ何でここにいんだよ!お前僕の幻覚じゃなかったのかよ!
「おい。」
グイッ。
腕を掴まれる。
ビクッ!?ふぇ、何!?
「ちょっとアンタ、話あるから付き合ってよ。」
かわいい眼鏡女子がそこにいた。
えっ?ちょっ、これって・・・告白イベ!?
校舎脇の人気のない場所へ連れて行かれる。
ドキドキ。
ぐえっ
ネクタイを握られ睨まれる。
あっこれ、告白じゃないわ。
「同級生だったなんてね。この前は世話になったなあ。」
眼鏡を取る女の子。
この前って・・・あっ、この子、メイド服の子だ!
「そ、そっちが先に蹴ってきたんだろ。」
「ちっ、それは今はいいから。それよりどうやって私の部屋に入ったの?施錠されてたはずよ。」
部屋?・・・あっ。
「メイド服の事?あれはチャムが、」
「チャム?」
するとそこへ
「ダリル君?やっぱりそうだ!あっ、取り込み中か、ごめん。」
チャム!
ピンポンパンポーン
スピーカーから音が鳴る。
「お知らせいたします。9時よりキプロスアリーナにて入学式が挙行されます。生徒、関係者の方は案内に従い移動をお願いします。繰り返します。9時より〜」
「ちっ、この話はまた今度な。」
女の子はチャムを睨みつけて行ってしまった。ここの生徒だったのか。あのチンピラ共と接点が生まれてしまったじゃないか!クソ!
「ダリル君てキプロスの生徒だったんだね。私も今日から学院に通うんだ。改めまして、私はチャムだよ!これからよろしくね!」
ニコッと笑い手を伸ばす。
かわいい・・・。
「・・・うん、よろしく・・・。」
握手する。
!?
フワッフワッやんけ!
「じゃあ体育館行こっか。」
「うん。」
チャムの後を付いて行く。
この可愛らしい小動物を見ているとなぜか言いようの無い不安に襲われる。
フッと漂う気配が、なんて言うか、邪悪・・・なんだよなぁ。
「私、学校通うの初めてだから楽しみだよ。」ニコッ
チャムが僕に無邪気な笑顔を見せる。こんな子が悪い奴なワケないか。考え過ぎだ。
僕も笑顔を返す・・・が、
不安が消える事は無かった。




