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20話 悪役令嬢は~8

side ポーリン


ドオオオオオン!ドオオオオオン!


背後から途切れる事なく響く爆音。大地は揺れ空は赤く染まっている。森を抜け隣国へ向け最高速で移動中。動物や魔物もパニック状態で逃げ出している。


世界の終わりがやってくる。


まさかこんな事になるなんて、ローレンス様と結婚して優雅な貴族ライフをエンジョイする予定が・・・。

順風満帆、僅かな狂いも見逃さずここまで上手くやって来たのに・・・どこで計画が狂った?

シャロを消す事に失敗したから?

いや、アルルとか言う侍女が来てからシャロは変わった。全てはあの女が原因か?

そして演習のタイミングでドラゴン襲来・・・

流石にこれは関係ないか。


「これからどうする?」

隣を駆けるイルガが聞いてくる。


「さぁね。とりあえずはこのまま進んでザイン公国へ向かいましょう。それでも駄目ならさらにその先・・・世界の果てまで行ってみようかしら。」


「・・・そうか。」

相変わらず愛想が無いな。

まぁ私の能力とルックスがあればどんな国でも上手くやって・・・




ブンッ


景色が切り替わる。


「えっ?えっ?」

何?何でドラゴンがいる!?はるか後方にいるはず!?なぜ目の前にいる?


「まさか・・・転移したのか。」

狼狽えるイルガ。

「そんなわけないでしょ!ありえないわ!」

イルガの発言を即座に否定する。私の防壁を無効化するなんて宮廷魔術師が束になっても不可能よ。

一体誰が・・・


ガキィィン!

!?

ドラゴンの一撃を防いだのは

「シャーロット!?」

真紅の剣を頭上に掲げて凶悪な攻撃を防いでいる。


「ポーリン!早く逃げて!私の事助けようと戻って来てくれたのは嬉しいけど、ここは私が食い止めるから早く行って!」

何か勘違いをしているようだ。こっちは一刻も早く逃げたいんだが。


「う、うん。力になれなくてごめんなさい。シャロさん・・・死なないで!」

視線が交差する。

初めてシャロの目を見て話せたかも。


「うん・・・私に任せて!」

ズガガガガガガガッ

ドラゴンの一撃を弾き返し強烈な斬撃を与える。

転移の件は気になるがここにいるのは危険だ。悔しいがレベルが違い過ぎる。

一刻も早く離脱しなければ。


後方に向かって駆け出す。

騎士団の脇をすり抜けて


バチィィィン!

「痛ったー!何なの!?」

目に見えない何かに当たる。目に魔力を集めると

「嘘・・・これ壁?」

目に魔力を込めると半球ドーム型の物理障壁がドラゴンたちの城上空まで伸びている。

王国を覆っていた物とは別物だが尋常ではない魔力を感じる。

獲物を逃がさない為の檻?


「チッ。」

イルガが私から距離を取り銃を構え魔力を込めはじめる。破壊するつもりのようだ。

でも恐らく結界に弾かれるだろう。

「待って!イル・・・」


「ヴォーパル・ディザスター!」

必殺の一撃を放つ。


ズバァン!


魔力弾は結界に当たる事なく空に消えていった。

なん・・・だと!?

イルガが結界に触れようとするがさわれない。

これはまさか・・・



と、その時


ドドドドドドドドドドドドドドドド

うぉおおおおおおおおおおおおおおお


地響きと咆哮の中現れたのは

「王国騎士団!?」

黄金の光を放ち隊列を組みドラゴンの執拗な攻撃を障壁で弾いている。

魔法師から放たれるファイルボールの威力も凄まじい。騎士団ってこんなにも強かったの!?

先陣を切っているのはハーバート様とジェローム様、そのうしろに・・・ローレンス様!?

騎士団以外にも傭兵や冒険者らしき者たちも見て取れる。総力戦だ。


「ローレンス様!」

近づいて呼びかけてみる。

「君は・・・ポーリンか!?こんなところで何をしている!早く王城内へ逃げるんだ。魔術師が結界を張っている早くいけ!」

ドラゴン相手に結界なんて意味あるのかしら。

そもそもここから逃げる事なんて・・・ん?

えっ待って、ローレンス様たちはあの物理結界を越えて来たんだよね?今も続々と後方から騎馬隊がやって来ている。

結界のある場所を超え後方へ下がる者もちらほら。結界は消えてないが今なら行けるのか!?


「少しでもローレンス様のお力になればと思い駆けつけましたが・・・承知いたしました。ローレンス様どうかご無事で。」

悲しげな上目遣いでアピールしつつ

「ああ、君も気をつけるんだ。」

前進するローレンス様を見送り、


『イルガ!行くよ!』

後方へ駆け出す。

よし王城まで一旦戻って立て直しそれから・・・

バチィィィン

鼻を打った。

「痛った!何よこれ・・・やっぱ通れないじゃん!っざけんなクソ!」

鼻から突っ込んでしまい鼻血が出る。クソッ!クソッ!

結界を蹴り上げる。

バチィっと音がしたがビクともしない。

兵士が怪訝な顔をして側を通り過ぎる。通れてるし。


「何でだ・・・」

結界の向こう側でイルガが困惑している。

そうなのだこの馬鹿げた大規模結界は私だけを逃がさない為に構築されているらしい。

術者は相当イカれてる。てか、そこまでの恨みがあるのはシャロ以外考えられないんだが先程の感じだとあいつは白だ。

だとすると・・・


あの薄気味悪い侍女か。


彼女は一体何者なの?

私に何の恨みがある?


ドォーン!ドォーン!


思考は爆音にかき消される。今は生き延びる事だけを考えねば。


『イルガ、あんたは先にザイン公国へ向かいなさい。私はここを片付けてから合流するわ。』

不本意だが仕方ない。が、イルガまで付き合わせる事はない。


『死ぬつもりか?』

生き延びるのは難しいだろう。


『私がやられるわけないでしょ?早く行って。』

虚勢を張り冷静に振る舞う。


『・・・・・・』


結界を越えて私の横へ並ぶイルガ。


『ちょっとイルガ、何して・・・』


『主人を守るのが俺の役目だ。文句あるか?』

・・・まったく、今日はよく喋る。


『そうね、そうだったわね。それじゃあ騎士団と共にこの戦い必ず勝利するわよ!』


『フッ。ああ。』




side アスモデウス


「あはっ!ポーリンちゃんもようやく覚悟決めたみたいね。だから女神からは逃げられないって言ったじゃんw!」

邪神な。

クソガキが背中でキャッキャとはしゃいでいて腹が立つ。


「ふう、騎士団にも見せ場作ってあげられたし役者も揃ったね。それじゃ、そろそろ始めよっか。」

何でもいいから早く終わらせてくれ。面倒くせえ。


『女神が命じる!全軍突撃!ボッコボコに蹂躙しちゃいなさい!』

ヒルダたちドラゴンに念話が飛ぶ。


と同時にドラゴンの攻撃が激しさを増した。どうやら指示があるまで力をセーブしていたようだ。

女神(笑)のバフを上回る猛攻撃で王国の騎士たちが次々と倒れて行く。

俺には偉そうな事言っていたがやはりただの破壊神じゃねえか。


「なぁに、アス。何か言いたそうじゃん?」

気取られた!?

「い、いえ。別に。」

言えるわけねえだろカス。


ズガアアアンッ!

「グハッ」

背中に凄まじい衝撃。

「言いなよ。殴るよ?」

もう殴ってるだろ!痛覚無効を貫き精神へのダメージを負う。痛ぇ。

「・・・平和主義者のアルル様にしては少々苛烈だな、と。」


「あー、演出よ、演出。アタシのバフ効いてるから死ぬ事無いし、トカゲちゃんたちにはキャスト殺したら殺すって言ってあるから大丈夫。致命傷くらいなら女神の力で復活余裕だし。」

めちゃくちゃだなコイツ。


「さ、流石女神アルル様、感服いたしました。」

とりあえず褒めておく。


「そう?やっぱ女神って人々を助けるのが仕事じゃん?どこぞのアナウンスだけの駄女神とは違うのよ。」

いたなそう言えばそんな奴。


邪神と話している間もドラゴンたちの容赦ない攻撃が続く。

人間側も一部奮闘しているようだがやはりドラゴンとの戦力差は歴然。次々と倒れていく。

サーチ魔法で生命エネルギーを探る。ほとんどの者が虫の息だが死者はいない。ドラゴンたちはアルルの命令を守っているようだ。

今動ける者は数十人といったところか。

アルルの気にかけている子娘は・・・ドラゴン兵を処理している。

ヒルダは後方に下がり上空から遠距離魔法を放っている。

王国軍が来るまでの時間稼ぎか。


「おっ、やっとローレンス様たち上がって来たね。」

王国軍の精鋭部隊が前線を上げてヒルダに迫っている。

だがあの程度のレベルでは瞬殺だろう。


「さてさてヒルダちゃん見せ場が来たよ。ふふふ」





side ローレンス(フォルメキア第三王子)


ドゴッ!

ドラゴンの巨体が地面に叩きつけられ爆風と共に土や石が飛んでくる。

クレーターの中心部には舌をダランと垂らした巨大な竜と・・・!!?

その上に佇む制服を着た少女。


「シャーロット!!」

ドラゴンを倒したのか!?


「ローレンス様!危険です!下がって!」

空が赤く光り

ドドドドドッ!


シャーロット目掛けて火球が降り注ぐ。

周囲が眩しい光に包まれた瞬間。

ドガガガガガ!!

火球が空へ弾かれる。


「くっ!」

なんて衝撃だ!彼女は無事か!?


振り返ると宙に浮いたシャーロットの姿が。傷一つ無い彼女の体からは紅い闘気が揺らめいている。


「こ、これが君の真の姿なのか!?・・・美しい。」


「ローレンス!彼女は一体・・・」

長兄のハーバートが驚愕に顔を歪め聞いてくる。


「彼女はシャーロット・グレイス・マーチ。私の学友です!」

誇らしく答える。


「そうか、シャーロット!国王に変わり心からの謝意を!」

ハーバートが胸に拳を当て敬礼する。


「光栄です殿下。ですが・・・まだ終わっていませんので・・・。」

彼女の見つめる先には十数体のドラゴンと黒衣を纏った黒髪の女。

禍々しい魔力で気分は最悪だ。女神様の加護がなければこの場に立っている事すら難しいだろう。


「ローレンス様!」

後ろから知った声が。


「ポーリン!?なぜここにいる?早く後方へ下がるんだ!」

ポーリンが従者と共に臣下の礼をする。


「わ、私は魔術師です!何かお役に立てる事があるはず・・・ローレンス様や騎士団のお力になりたいのです!」

涙目でロッドを持つ手が震えている。

彼女が秘めた力を持っているのは知っているがやはりここは危険だ。


黒衣の女が地上に降り騎士団に近づいて来る。

カチャ・・・カチャカチャ

ポーリン同様、周りにいる兵士たちもあまりの恐ろしさに震え構えた剣の切先がカチャカチャと音を出す。

騎士団の精鋭部隊でさえこの有様だと言うのに


シャーロット・グレイス・マーチ


彼女は凛とした佇まいを崩す事なく女と対峙している。


兵士が女に剣やロッドを向ける中ハーバートがそれを制し前に進み出る。


「私の名はハーバート・フォン・ラドクリフ!フォルメキア王国の王子である!貴殿は竜国の長ヒルデガルド殿とお見受けする。なぜこのような争いを始めたのか答えていただきたい!」


「兄者!、あいつの事知っているのか!?」

隣にいる次兄ジェロームが叫ぶ。

「だまれ。」

ハーバートに制される。

 


「へえ、あなた私の事知ってるんだ。王様にでも聞いたのかしら?」


「はい、国王や元老院の連中から。まさか国の上に都市があるとは・・・。」

空に浮かぶ島を見る。あんな巨大な物が国の上空にあっただなんて信じられない。隠蔽魔法を使っていたのだろうが・・・。


「この辺りの土地は魔素が豊富でね。国を構えるには丁度いいのよ。」


「先程の私の問いに答えていただきたい。私には分からないのです。今まで数百年互いの利益の為とはいえ同盟を結び共存共栄を果たして来た竜族がなぜこの様な暴挙にでたのかが・・・。」

共存共栄?何か密約を交わしているのか?だが公表していないと言う事は国民の利益には繋がらない物なのだろう。



「あなたに言っても意味が無いわね。全ては魔王陛下の御意思によるもの。」

魔王!? 


ざわざわ


「魔王?本当にいるのか!?」

「あの女より強いよな・・・当然・・・。」

「終わりだ。何もかも。」

「早く家族を連れて逃げないと!」

兵士たちに動揺が走る。


「ふん、そう言うわけだ。魔王陛下のお言葉は何よりも優先される!お前ら虫ケラ共はただちに・・・・・・!!?ふぁっ!?陛下!?は、はい!いえ・・・そ、それはそうなのですが・・・しかし私の中ではすでに!・・・・・・ひゃい!ももも、申し訳ありません!」

何だ、様子がおかしい。



「・・・しかし・・・ですが・・・ひっぃ!!ち、違うのです!そう言うわけでは!まっ、待って!お待ち下さい!へ、陛下もう一度チャンスを!お願いします!・・・ハッ!必ずや!はい!いえ!失礼いたしました!ハッ!必ずやご期待に添えるよう・・・ハッ!ではそのように。」

随分と慌てているがまさか魔王との魔力通話か!?


「コホン・・・あー、さっきのは嘘だ!魔王陛下はいない。忘れよ!今回の件は私が考え私の意思によるもの。つまり、気まぐれだ。分かったな?」

それこそ嘘だろ。完全に魔王に言わされている。


「いやいや、今話してたの魔王じゃん。」

「絶対いるわ魔王。」

「もう終わりだよ。この国。」

逆に信憑性が増して兵士に絶望が広がってしまう。


「気まぐれで一国を滅ぼすと、そうおっしゃるのですか?」


「そうだ。お前らは納得出来んだろうが決めるのは強者側だ。諦めよ。」


ふざけるな・・・そんな事、

「そんな事許されるはずが無い!」

咆哮を上げ魔力を全開放させる。


「強者が未来を決めると言うなら戦って勝ち取るのみ!」

ヒルデガルドに向かい駆け出す。


「よく言ったローレンス!その通りだ!」

次兄ジェロームも私の後に続く


「やれやれ、俺のセリフを取るんじゃねえよ。お前らこれが最後の戦いだ!王国軍騎士団の力、見せてやろうじゃねえか!」

ハーバートの檄が飛ぶと同時に


「ライオンハート!」

精神力を向上させ攻撃力を上げるバフがポーリンから飛んでくる。

それとは別に体の奥底から湧き上がる力。


女神様の加護。


ドラゴンのブレスを掻い潜り強化された膂力で一気に距離を詰め一撃を加える。 

ザシュ!ザシュ!

ドラゴンの硬い皮を貫き血が飛び散る。


「グオオオ!」


これならイケる!


ドパアン!

イルガの放った魔法がドラゴンを撃ち落とすと騎士たちが一斉に攻撃を加える。


周りの騎士たちもドラゴン相手に善戦しているようだ。


「凄い!ドラゴンの皮膚を切り裂いたぞ!」

「力が溢れてくる!女神様のおかげだ!」

「女神様!感謝いたします!」



「奴らの裏に魔王が居ても怯むな!、こちらには女神様がついているのだ!恐れるものなどなぁい!進めえ!」

ハーバートの言葉に騎士団の士気は上がり次々とドラゴンを打ち倒していく。


いいぞ!これなら・・・ウッ!!


前方からドス黒い負のオーラを叩きつけられる。

あの女だ。竜族の長。

これだけバフが掛かっていても恐怖を感じてしまうケタ違いの化け物だ。

いくら周りのドラゴンを倒してもあの女がいる限り勝利を引き寄せる事は困難だ。


『ローレンス様!』

!?頭に響く声、シャーロット!


周りを見回すが姿は無い。気配を消しているのか?


『彼女は私に任せて下さい。殿下は周囲のドラゴンの相手をお願いします。』


『すまないな。今は君に頼るしか無さそうだ。・・・怖くはないのか?』

あれだけのオーラを浴びて正気でいられるのか?


『ええ、不思議と何も感じません・・・彼女の事は私にお任せを。』

ふっ、ははは


『そうか、では頼む。露払いは任せてくれ!』


『承知いたしました。』


凄いな、あのような傑物が身近にいたとはな・・・


この戦いが終わったら、彼女に・・・





side シャーロット


『アルル!何で無視してんのよ!答えなさいよ!アルル!』


『ふえ?シャロ様どうしました?』


『どうしたもこうしたも無いわ!早くこっち来て私を守ってよ!』


『え?今ローレンス様に良い感じの啖呵切ったばかりなのに?』


『聞いてたの!?』

羞恥で顔が赤くなる。


『あんな化け物相手するとか無理よ!それにあのヒルダとか言う吸血鬼からアルルの生命エネルギーを感じるんだけど、絶対血を上げたよね!?』


『へぇ分かるんだ。そうですよ。配下にしたので。』

ん?今、配下って言った?ん?


『意味わかんないよ!もう!アルルは私のボディガードなんだから今こそ役目を果たしなさい!』


『なんか口調が悪役令嬢に戻ってますけど・・・まぁいっか。やれやれ』


「全くしょうがないですねぇ。フーッ。」


「きゃっ!」

耳に息を吹きかけられた。

『何するの!てゆうかどこにいるの!』

声は聞こえたけど姿や気配が無い。隠密魔法?


「はい、これ持って。」

どこからとも無く現れたジョッキを渡される。冒険者などがエールを飲む時に使う大きなグラスだ。


スパッ

ドボドボドボ


何も無い空間から光り輝く赤いトマトジュースの様なものがグラスになみなみと注がれる。

え?まさかこれって・・・


「シャロ様の♪ちょっといいとこ見てみたい♪」

アルル、何言って・・・


「あっそーれ、イッキ!イッキ!イッキ!」

えー!これを飲めっていうの!?

ゴクリ


何故か分からないがこれを飲んだらもう後戻り出来ない気がする。


「イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!」

アルルのコールが続く。


ええい!ままよ!

ゴクゴク


「んー!!はああああ!おいしー!何なのこれ!?」


「何って、アタシの血だけど?」

だよね、うん、知ってた。


「うっ・・・、胸が」

胸の奥が熱くて苦しい。

細胞が書き換えられて行くような・・・


ドボドボ


「はい!おかわり!いっぱい飲んでね!」

えっ待って、それどころじゃ


「飲ーんで飲んで飲んで!飲ーんで飲んで飲んで!飲ーんで飲んで飲んで!飲んで!」

アルルの容赦無いコール

もうどうにでもなれ!

ゴクゴク、ゴクゴク


「んあああああああああ!」

あー、分かったこれ存在進化だ。

細胞レベルで下級吸血鬼から上位の存在へ生まれ変わってる。


真祖吸血鬼(セイクリッド・ヴァンピール)

眷属を作る事が出来る世界でも数体しか確認されていない超希少種。

あのヒルデガルトって言う女も恐らく


「ちょっとアルル!あの女にも血を上げたでしょ!どう言う事よ!」

アンタは私のモノなのに!


「まぁまぁ落ち着いて、血を分けた姉妹みたいなもんだから。あら、グラス空いてますね。ごめんなさい、気が付かなくて」


ドボドボ


「ちょっ、もう血はいいから!」

そんなに注いでアンタ大丈夫なの?


「ほら・・・飲みなよ。」

グラスを突き出すアルル。


「え、だってもう(進化終わってるし)」


「・・・アタシの血が飲めないって言うの?」

私を覗き込むアルルの目が妖しく光る。


ドドドドドドドドドドドドドド


「ああ!もう!飲むわよ!」

ゴクゴクゴクゴク


「けぷっ。ほら飲んだわ・・・よ。」

!!?

ははっ。何よこれ。これがアルルが見ている世界。

さっきよりも鮮明に魔力を五感で感じる。


ドラゴンたちは何故かやられた振りをしているみたい。倒れているがダメージは無い。と言っても今の私なら圧倒して勝てるだろう。だけどヒルデガルト。彼女は次元が違う。アルルの血を飲んだ影響もあるかもだけどアレはダメだ。個人で世界を容易に消し飛ばす事が出来る魔力を秘めている。

さっきまでの私が見ていたのは抑えきれず表層を流れる魔力の残滓だったのだ。


私だってアルルの血を飲んでいるのにこの違いは何なの?


私がヒルデガルドに圧倒されていると、

「なぁに、固まっちゃって、あー、ヒルダにビビっちゃった?」

ヒッ!!?

耳元でアルルの声がする。


「元が違い過ぎるからねー。シャロ様は雑魚吸血鬼からのブーストだけど、」

雑魚って言った!


「ヒルダは吸血鬼の最上位で竜人とのハーフだし、どうしても素材の差がねぇ・・・あっ・・・。」

ぐっ!悔しいがその通りだ。

私と彼女には隔絶の差がある。

あれ、相変わらずアルルの姿は見えない。

そんな、有り得ない!私の五感はヒルデガルドの本当の実力を看破出来る程研ぎ澄まされているのにアルルを知覚する事すら出来ない。

魔力の一筋すらも確認できない。

それが意味するものは・・・


「アルル・・・あなた、魔王なの?」

口に出すのも恥ずかしい。神話の世界の話。


「えっ、違うけど。ただの冒険者だよ。」

嘘だッ!


「はぐらかさないで本当の事を言って。」

本当は魔王なんでしょ!早く言いなさいよ!現にこうしてアルルと話している間ヒルデガルドは攻撃して来ない。


「ホントに冒険者なんだってば。あっ魔王は倒すけどね。」

酷く混乱する。


「アルルって勇者だったの?」

おとぎ話だと魔王を倒すのは勇者の役目だ。


「勇者って言うか姫騎士?」

何だそれ。


「分かったから、この状況なんとかして!アルルはあの女の仲間なんでしょ?今すぐ追い払って!」


「それはシャロ様の役目ですよ。これからこの国はシャロ様を中心にして回るんですから。今からそんなんじゃ先が思いやられますねぇ。」


「何言ってんの!?絶対コロされちゃう!あの女の爛々とした目見なよ!間違いなく異常者だよ。」

薄笑いを浮かべてこっちをジッと見ている。

ゾワゾワッ


「大丈夫ですよ。ヒルダにはキツく言ってありますから学園の模擬戦みたいな感じで肩の力を抜いて」

何を言って・・・


「行ってらっしゃい。」

ドンッ!!


背中に凄まじい衝撃!吹き飛ばされた私の前にはヒルダが迫る。

「アルルのバカ!やればいいんでしょ!やれば!」


ブラッドソードを発現させヒルデガルドに斬り込む。

キィィン!


容易く受け流される。

この剣だって威力は相当上がっているはず。ドラゴンの鋼の鱗を簡単に細切れ出来るくらいには、だと言うのに


キィィン キィィン キィィン


全く歯が立たない。完全に遊ばれている。


「シャーロット!」

ポーリンの声が聞こえ攻撃力を上げるバフが飛んでくる。


ありがとう。でもこの程度でどうにかなる相手じゃないんだ。

すると


「シャーロット頑張れ!」

「シャーロット殿に回復魔法を!」

「彼女を援護するんだ!」

「魔術師は彼女に能力向上の付与を!」

「シャーロット!君にこの国の未来を託す!」

騎士団から声援や援護の魔法が飛んでくる。


みんな・・・すまない。天地がひっくり返ろうと私が彼女には 勝つことは・・・


ズバァ!

私の袈裟斬りでヒルデガルドから鮮血が舞う。


えっ、うそ?


「うおおお!シャーロット様が一撃入れたぞ!」

「勝てる!この戦い勝てるぞー!」

「シャーロットちゃん!小生と結婚を前提とした御付き合いを!」

「バカヤロー!シャーロットちゃんは俺のお嫁さんにするんだ!はぁはぁ」

「シャーロット!いっけえええ!」


私の一撃を見て騎士団が盛り上がってしまう。


「ぐあああ!おのれ小娘!この私に傷を付けるとは・・・なかなかやるじゃないか。たが、まだ終わってはいないぞ!」


キィィン キィィン キィィン!

ヒルダの激しい攻撃。に見えるが雰囲気をだしているだけだ。だって殺意が全く無い。私のレベルに合わせて攻撃してくれている。

騎士団から見たら有り得ないレベルの撃ち合いに見えるだろうけど。


茶番。


「これなら避けられまい。」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


大気が震える。

ヒルデガルドが右手を上に上げると青く光る魔力の渦が現れる。渦は次第に大きくなり20メートルを超える大きさに。


「王国もろとも滅びよ!」

彼女が右手を下げると同時に渦が放たれる。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「嫌だー!死にたくねええ!」

「女神様!どうか御加護を!」

「お母ちゃあああん!うわあああん!」

「オワタ!オワタアアアwww」

阿鼻叫喚。

はぁー、馬鹿馬鹿しい。


ブラッドソードを構え

ビュン!

巨大な渦を切りつける。


スパアアン!ドカアアアン!

渦は真っ二つに割れ空中で大爆発。ド派手に散った。

そりゃそうだ。

だって魔力込められてないんだもん。

側だけ作りこんだ風船みたいなもんだからね。


「ばっ、馬鹿な、あの究極魔法を一太刀で消し飛ばしただと!」

ヒルデガルドがうろたえ叫んでいる。


「うおおおお!シャーロット様ああ!」

「女神様ありがとうございます!」

「いやシャーロットちゃんが女神様なんだよ!」

「シャーロットちゃん!結婚しよう!」

「シャーロット様の下僕になりますブヒイイン!」


「くっ、あれを破るとは・・・もう私に勝ち目は無いな。私の負けだ!」

あっさりと負けを認めるヒルデガルド。


騎士団からは大歓声。ハーバート様が雄叫びを上げる


「おい女・・・まだ名前を聞いていなかったな。名は何と言う?」


「!?・・・シャーロット・・・シャーロット・グレイス・マーチよ!」


「シャーロット・グレイス・マーチ・・・覚えたぞ。王国の騎士たちよ聞けい!今回はそこにいる姫騎士!シャーロット・グレイス・マーチの圧倒的な力の前に破れたが、我は力を付け再び戻ってくる。それまで姫騎士シャーロットとせいぜい楽しく暮らすんだな。こんな強い姫騎士の子はさぞ強い戦士となるだろう。そいつと戦うのも面白そうだ。ニヤリ。姫騎士シャーロット!また会おう。さらばだ!」

ぽわん


ヒルダはそう言うと消えてしまった。

姫騎士って何なの?子供がどうとか言う必要あった?


ぽわん ぽわん ぽわん ぽわん ぽわん

倒れていたドラゴン兵も消えていく。転移したんだろう。


「シャーロット!怪我はないか!?」

「痛い所あれば言って私が治すから!」

ローレンス様とポーリンが駆けつけてくる。心配してくれているようだ。


「大丈夫です。魔力を使いすぎて疲れていますが。」

ふふっと笑顔を見せるとポーリンに抱きしめられる。泣きじゃくるポーリンの頭を優しく撫でているとハーバート王子がやってくる。


「シャーロット、王国を救ってくれたこと、深く感謝する。君はこの国をこの国の民を救うために、命を賭け困難に立ち向かってくれた。国王に変わって礼を言おう。ありがとう!本当によくやってくれた!」

ハーバート王子が礼を言うと周りから大きな歓声が上がった。


うおおおおおおおお!!

「姫騎士シャーロット!」

「我らの姫騎士様がやってくれたぞ!」

「俺姫様と戦えて幸せです!」

「姫様良かったら俺と結婚して、ぶべら!」

「姫様!こんな奴より俺と子作りを、ぶべら!」


「お前らいい加減にしろよ、彼女は王国の英雄だぞ。んで姫さんは好きな男いるのかい?」

姫って私の事?ハーバート様も勝利で浮かれているのかな。


「いえ、私にはそんな人・・・」

なぜかアルルの顔が浮かぶ。いやいや私はローレンス様と結ばれるのが目標だったはず。

今そばにいるローレンス様に告白したら、おそらく成功するだろう。


「ふふっ今はまだいません。」

あれ?


「えっ!?シャロってローレン・・・もごもご」

ポーリンの口を手で塞ぐ。


「・・・そうか、残念だったなローレンス。だがまだこれからチャンスはあるみたいだぞ。ハッハッハー!」


「そうだな、あの竜の長じゃないがローレンスと姫さんならさぞ強い子供が産まれるぞ!俺が保証しよう!」


「な、何を言って!?兄たちが失礼な事を言ってすまないシャーロット。」

ローレンス様が真っ赤になって謝ってる。こんな顔はじめてみた。かわいい。


「ふふっ気にしていませんよ。「さぁ、皆さん、王国へ戻りましょう。」



こうして竜国ラスタとフォルメキア王国との戦いは終戦したのです。

勝利の雄叫びが鳴り響く中私は考えていました。これからの事を。

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