19話 悪役令嬢は〜 7
フォルメキア王国 城門前
side フロド(騎士団員見習い)
王城前の広場に騎士団、宮廷魔法士団、獣戦士団等、王国の最高戦力が揃っている。それにギルドからはDランクからSランクパーティまでもが王都を警戒しているとか。
一体何が始まるんだ。他国との戦争だってこれ程の顔ぶれは揃わないぞ。
手にジワリと汗が・・・。
演習で異変を感じ王城に戻ってみればこの騒ぎだ。ローレンス様は近衛兵と一緒に王城に入ったようだが、本当に戦争が始まるのか。
少しすると奥から騎馬に乗った一団が現れる。
!!?あれはハーバート様!?だと。ローレンス様の兄にして時期国王候補筆頭のハーバート様が甲冑を着て騎馬隊を率いている。後ろには次兄にして騎士団副団長のジェローム様。
周囲がざわつき出す。
それも当然だ。ハーバート様は今まで戦闘に関わった事は無い。魔物討伐や武術の大会には次兄のジェローム様が出ていたからな。政治に関する事はハーバート様、武力に関する争い事はジェローム様と棲み分けが出来ていたはずだが。
「ハーバート様が話される!全員傾注!」
拡声魔法が広場に響くとザワついていた周囲が一瞬で静まり返った。
「あー、あー、後ろの方聞こえてる?オーケー。いやあ、こんな事態になるなんてね。ここにいる者の大半は何で招集されたかも分かってないだろ?私も少し前に聞かされたばかりなんだ。」
ブルルッ
馬の嘶きが響く。
皆息を飲んで耳を傾けている。
「これよりドラゴンの討伐・・・いや、ドラゴンとの戦争を始める!!」
静寂。
ん?今何と?
次第に周囲がざわつき出す。
「ドラゴンって言ったか?」
「ドラゴンてあの魔竜の事だよな?」
「シスガウ山脈のフォレストドラゴンか!?」
「おいおい確かギルドの討伐ランクSSだったはずだぞ。」
「死にに行く様なもんだべ。」
「いや奴ら個体数は少ない。これだけの戦力で挑めば。」
様々な推測憶測が飛び交う。
「黙れ!まだハーバート様の話の途中だ!」
再びの静寂。
「君たちの不安はもっともだ。詳細を説明しよう。ほれ向こうのブナの森林の上に雷雲が出来てるだろ?あそこからドラゴンが攻めてくる。カテゴリーは古代竜、難度はトリプルS、を軽く超えるそうだ。それが数百匹だと。笑うしかねえよな。」
「エンシェントドラゴンだって!?」
「有り得ない!神話の魔物だぞ!」
「嘘だっっ!!」
「ちょっとトイレ行ってくる。長くなるけど気にしなくていいからな!」
「ファアアアw完全にオワタ。」
混乱。
「お前ら黙って話を、」
「あー、もういいよ、そりゃこうなるわな。斥候の話だとドラゴンに交渉を持ち掛けたが決裂。理由は不明だがこの国を滅ぼす事にしたそうだ。何らかの逆鱗に触れちまったらしい。俺も信じちゃいなかったけどよーアレ見ちまうとな。」
巨大な雷雲。あの中からドラゴンが・・・
「そんな訳だから逃げたい奴は逃げていいぞ。出来る限り遠くへな。奴ら王国ごと吹き飛ばすつもりらしいからな。」
逃げる?そんな事考えた事も無かった。
愛する者の姿が頭を過ぎる。
「まったく、ドラゴンと戦争なんてイカれてるよなあ・・・だがよー、まだ結末は決まったわけじゃねえ!信じられないだろうが女神様から啓示があった。前へ進む者には加護を与えると。」
ハーバート様の体から金色の光が・・・本当なのか?
「まぁそう言うわけだ。まだ負けは決まってねえ。勝ち目も薄いがな。ククク。」
ざわ・・・ざわ・・・
「お前らが研鑽してきた日々はこの日の為にあった!国を、家族を守る為戦って戦って戦い抜け!下を向く暇があるなら生き残る為に最善を尽くそうじゃねえか!」
!?ハーバート様から金色の魔力が立ち上る。ローレンス様を上回っている!?
「奴らを倒したあかつきには報奨金をたんまり出そう。税金免除の上重役にだって付けてやる!それに英雄の称号を与える事を約束しよう!嘘じゃねえぞ?この戦いが終わった後俺は王位を継承する事になったからなあ。」
おおおおおおおおおおおお!!
と歓声が上がる。
「それじゃあ始めようか!神話の戦いを!」
ピィーと指笛を吹くと空に飛竜が現れ地上に降りてくる。獣戦士団が用意したのだろう。
ハーバート様は馬から飛竜に乗り移り空へ上がると
「全軍前進!!」
掛け声と共に騎士たちからハーバート様と同じ光が溢れ出す。
女神の加護・・・
おおおおおおおおおおおお!
地鳴りを上げ隊列が動き出した。
「お、おいフロド!」
肩を掴まれる。騎士団員でクラスメイトのメイジーに呼び止められる。
「お前、行くのか?」
「ああ。」
「ハーバート様の話が本当だとしても勝ち目なんて・・・」
「それでも、俺は騎士団に入る時この国を守ると誓ったんだ。他に道はない。」
「・・・そうか。」
肩を掴んでいた手が離される。
前を見ると暗闇の先に稲妻を纏った雲。この世の地獄だな。
ドオオオオオン!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ビュオオオオオオ
何だ!?前方の森が明るく光り突風が・・・次の瞬間空を覆う赤い光。あれは魔力?なのか。
ドゴオオオオオン
ドオオオオン
!?
「障壁じゃ!あの赤い光は対魔障壁じゃ!これ程の規模、純度、ワシは生まれてこの方見た事が無いぞ!神の奇跡じゃ!」
宮廷魔法士たちが声を張り上げ歓喜している。
ドドドドドドドドドドドドドド
振動や爆風が障壁を超え街へと入ってくるが被害は軽微だ。
あれも女神様のお力なのだろうか。どうか我等の国をお守り下さい。
side シャーロット
さっきからチマチマチマチマ撃ち込んで来てうっとおしい。
来ないならこっちから乗り込んで・・・
パアアアアアアアアアアアアン
雷雲が弾け飛んだ。
島。空に浮かぶ巨大な島。
あの無数の影は
ドラゴン!?
血が沸き立つ。
「はああああ、あんなに沢山・・・。私のモノを壊そうとした罰、受けてもらうわよ。ぐっちゃぐちゃにしてあげる。あはぁ」
あれ??アルルの血を飲んでから何かおかしい。
私に気づいたドラゴンが近づいてくる。
一瞬で距離を詰めシッポを鞭のようにしならせ私の顔に向けて、
ドンッ
ドラゴンの尻尾を掴む(正確には尻尾に指を食い込ませる。)
「女の子の顔狙うなんてあなた最低ね。」
「馬鹿な!止められた!?はああああぐあああああああああ。」
尻尾を持って振り回す。
ブチンッ。
あっ切れちゃった。本体はどっかに飛んでった。
それをきっかけにドラゴン共が押し寄せてくる。
ドゴォォン
グチャ グチャ
はぁぁん。ドラゴン潰すの楽しいー。眼球に腕を突っ込みかき回す。それでも怯まず攻撃してくるのは本能か。いいね、いいね。酷く興奮してきた。
大地が血に染まりドラゴンの肉片が至る所に飛び散っている。
もっと私を楽しませて!
「あはははははははははははは」
side アスモデウス
「なんだ、あの頭のイカれた女は、まるでア・・・ハッ!?」
「まるで、何?」
背中にメスガキ乗せてるの忘れてた!
今ビーストモードで待機中なのだ!
「ねえ、まるで?何?」
高まる圧に全身の毛穴から汗が吹き出す。
「ま!まるでヒルダのようだな・・・と!」
緊張し過ぎて声が裏返ってしまった。
「ふふ、あはははは。だってさヒルダ。」
「ヒィィ!!」後ろを振り返るとヒルダが(吸血)鬼の形相でこちらを睨んでいる。
気配は無かったはずだ!いつの間に!
「ヒィィだってウケるー。部下にビビってどおすんの?あはははは。」
「ちっ、ちが。」
落ち着け殺気を出すな。落ち着くんだ。
「アルル陛下。私は陛下の血を頂いた時から陛下の忠実な下僕でございます。こんなクズの下に付く気はございません。」
クズ!?
「クズだって!あっはははははは!お腹痛い。アス人望無さすぎー。」
落ち着け!俺落ち着けー!
「でもさあ・・・アスはアタシの下僕1号なんだ。つまりアンタの先輩って事。あんまりチョーシ乗ったら、だめだよ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
すげぇ威圧。背中越しでもヤバいくらい感じる。こいつ上下関係は気にしない風なくせに実はめちゃくちゃ気にするって言う厄介な性格か?注意しなくては。
「ももも、申し訳ございません!陛下の仰る通りでございます!以後気をつけます!」
「うん、奴隷同士仲良くやってね。」
チラリとヒルダを盗み見る。
下唇を噛み、真っ赤に充血した目で俺を睨んでいる。
ヒィィ!完全に恨まれてんじゃねえか!
「でもアス鋭いじゃん。あの子とヒルダは同じ吸血鬼でルーツは一緒だからね。って、あれ?アタシの血を上げた事で称号変わってるなあ。えーと、淫魔の眷属・・・」
ぷっ、アルの称号。淫魔なのか。ヤバい。笑ったら終わりだ耐えろ。
「陛下の眷属なんて私光栄です!はぁはぁ」
なぜ興奮する?
「でもちょっとトカゲちゃんたち弱いよねえ。メス犬に血を上げすぎたかなあ。これじゃアタシのシナリオとズレちゃうなあ。」
無双する小娘を見てアルが呟く。どうせロクでもないストーリーなんだろ。
「アスゥ、アンタ復活した肩慣らしにあの子とやってみる?しばらく抑えてくれればいいから」
はあ?面倒くせえな。まあこいつらと別行動出来んならアリか。
「別に構いませんが」
「陛下!」
「んー?」
「部下の失態は上司の失態。私に任せて頂けないでしょうか。それにヴァンパイアの血を引く彼女に興味があります。」
「・・・クレイジーサイコレズ。」ボソッ
ズガアアン!
ぎゃあ!?
アルルに頭を殴られたのか。瞬間意識が飛んだ。
ギロリと睨まれる。
チッ。
ヒエッ
アルの後ろからヒルダが凄い顔でこっちを、
「ん?どうしたの?」
アルが後ろを向くと
ニッコリ
一瞬で顔を変えやがった。クソが!
「じゃあ、シャロ様の事お願いね。あの娘アタシのご主人様だからコロしちゃダメよ?」
「「は?」」
主人?いやさっきメス犬とか言ってたなかったか?眷属が主人?
「ま、またまた御冗談を。ははは」
「マジだから。」
真顔で言いやがった。
「し、失礼いたしました!陛下の主様とはつゆ知らず。し、シャロ?様には不快な思いをさせ無いよう丁重にお相手させていただきます!」
どうすんだそれ。
「頼んだよ。じゃあお前たち行こっか。」
竜たちの咆哮上げ王都へ向かう。
ヒルダの奴大丈夫だろうか。
はっ、なぜ俺がバーサーカーの心配など。バカバカしい。
・・・。
side シャーロット
ザシュッ
ドラゴンの心臓をブラッドソードで貫く。
竜の鱗って鋼の様に硬いと聞いていたけど綿みたいに柔らかいじゃない。噂って何でも誇張されるのね。
抜いた剣に付いていた血を舐める。
「まっず!」
舌を出してぺっぺと吐く。
「魔獣の血は美味しくないでしょう?」
!?
ザァァ
風が血の臭いをさらって行く。
振り返ると背後にドレスを着た女。艶やかな黒髪が風になびいている。気配をまるで感じなかった。
「あなたこいつらの仲間?」
グチャ
足元のドラゴンの頭を踏みつけながら尋ねる。
「違うわ。ただの通りすがりの村人・・・!」
シュッ
ブラッドソードの刀身を伸ばし女の首を狙うが避けられた。
「なわけないでしょ。そんなドス黒いオーラ放つ村人はいないわ。」
「ふふ、私が村人だったらどうするの?」
「本当にそうなら良かったのに。残念。」
仕掛けて来ないな。値踏み、観察されているような・・・。
「よく分からないわね。でも陛下の言葉は絶対。」
女が何か呟く。
陛下?あの女の主人かしら。
「始めましょうか。」
ゆらりと伸びた左手に真紅の剣が握られている。
「それって・・・」
キィィィィン
剣と剣が交差する。
鍔迫り合いとなり女と目が合う。
「あなたと同じモノよ。お揃いね。」ニヤッ
ヴァンパイアか!
ドンッ
女を弾き飛ばし距離を取る。強者だが今の私なら倒せるだろう。
ドオオオオオン!
ドオオオオン!
上空に爆音が鳴り響く。
障壁の外周にドラゴンが群がっている。
障壁を崩すべく攻撃を仕掛けるが突破出来そうな様子はない。
あの程度の魔獣如きが私の障壁を破ろうなんて、
ドパアアアアアアアアアアアン!!
黒い灰となって消える障壁。
「はえ?」
ウソウソウソッ!?障壁が破られた!?
爆炎の渦が王国の上空に真っ直ぐ伸びている。
!!?
ブシュッ
右腕を深く切られた。
「よそ見してる暇なんてないわよ?」
キンッキンッキンッ
「クッ。」
猛攻を凌ぎながら考える。
あの障壁はこの女でも破る事は出来なかっただろう。それを容易く。
さっき言ってた陛下と言うやつか?
とにかく時間が無い。あれらを止める事は騎士団では難しいだろう。この女を速攻で片付けてドラゴン供を止める!
こんな時に・・・アルルの奴なにしてんのよ!
少し前
side アスモデウス
王都に乗り込むのはいいがこの結界は厄介だな。
王国全体を包み込む特大の障壁。さっきからドラゴンたちが攻撃しているが破れそうな気配はない。
「不甲斐ないわねえ。死ぬ気でやらないとアタシがコロすわよ?」
ブルッ
竜たちの攻撃が勢いを増す。
仲間を威圧してどうすんだ・・・いや仲間ではないが。
障壁にダメージはない。
「この程度も消せないなんてヤル気あるのかなあ。」
また威圧。あっ一匹気絶した。
「クッソ使えないわね!アスゥ、あんた先輩なんだから手本見せてあげなよ。」
何の先輩だよ。テメェが・・・
「障壁消せなかったらアタシがあんた消すから。頑張って!」ニコッ
!!?
「ハッ!やらさせていただきます!」
クソがっ!
口の先に魔力を収束。最大限の魔力を込め、王都に当たらぬように角度を取り範囲を固定し(当てたら消されるのは目に見えている)放つ!
「カタストロフカノン!」
ズオッ!!
ドパアアアアアアアアアアアン!!
崩れ落ちる障壁。ふぅ、俺の技に掛かればこの程度・・・
「ぷぷっ、今のってあんたの必殺技だよね?必死過ぎてウケるー、アタシが大切な下僕を消すわけないでしょ?馬鹿ねぇ、ふふふ。」
「こ、これは一本取られましたな。はっはっは。」
はああ!?いや消すだろ。躊躇なく。最近ヤッたばかりだよな?思い出して腹たって来た。大切な下僕ってワードもムカつく。
竜たちが王国の上空を飛んでいく。
王都に入るとすぐに王国の騎士団と交戦状態となる。空を飛んでいるのは魔獣の軍隊か?
「アス、もっと上まで上がって。全体見ながら的確に指示出さなきゃだから。」
軍師気取りかよ。高度を上げる。
「イケガクであったんだよね。抗争イベ。」
何言ってんだコイツ。
「悪役令嬢が他校の生徒たぶらかして訓練中の生徒を襲わせるってやつ。」
「はあ。」
「それをドラゴンで再現してるわけなんだけど・・・えっ、あーうんその集団。そう、ヒルダの方に誘導してね。軽くちょっかい出しながら。大丈夫アタシのバフ掛かってるから死なないよ多分。いいね、そうそうそんな感じ。」
竜たちに指示を出しているようだ。
「ヒルダ、もう少しで場面整うから揃ったら死なない程度に削っちゃって・・・うん、そう言う演出だから。はーい。ふぅ、監督も楽じゃないね。」
大変そうには見えないが?
「ローレンス様は・・・もうすぐ本隊と合流しそうね。回復して女神のバフを強めに掛けてと・・・あはっ、めっちゃ驚いてるw」
お前は女神じゃなくて邪神な。
「あとはポーリンちゃんか。さて、どこかな〜、ってもう国外に出てるよ、逃げ足早っ!あらあら一丁前に魔法障壁なんて張っちゃってアタシから逃げられると思ってるのかな?。ふふ、女神に通じるわけないでしょ。はーい、最前線に強制転移〜。あはははは!」
女神はそんな事しねえよ・・・。
「ヨシ!役者は揃ったね。さぁ感動のフィナーレに向けて加速してくよ!」
・・・ろくでもない結末しか見えねえ。