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17話 悪役令嬢は〜 5



─── フォルメキア魔法学園 近郊ブナの森 西部 ───


sideフロド (学園生 ローレンス側近 王国騎士)



キィン! ドオオオン!

「くっそ!ファイアボール!」

ドオオオン!ドオオオン!

火球で燃え上がる木々。

「温いぜ!」

ズバァ!

「なっ!?ガフッ・・・」



「ふぅ、まだ脇が甘いな。それじゃ騎士団で上は狙えんぜ。」

クラスメイトで同じ騎士団員のメイジーに手を貸し引き上げる。

「がはっ、うるせえ。はぁはぁ、化け物が。森の地形変えてんじゃねえよ。」

大地は抉れ木々は燃え上がり炭化している。

「ここは魔素が豊富だからすぐ元に戻るだろ。それより俺が化け物だと?笑わせるな。化け物ならいるだろウチのクラスに。おーい、リル!こいつにヒールを頼む。」

同じチームで回復術士のリルを呼びヒールを掛けてもらう。

「・・・ローレンス様か。王族で有りながら騎士団最強だもんな。あの人には誰も勝てねぇよ。」

「・・・まぁ、ローレンス様はそうなんだが。もう1人いるのに気づかないか?」

「もう1人?・・・サクスか?」

あれも弱くはないが、ローレンス様には数段劣る。やはり気づいているのは私とローレンス様だけか。

「・・・そうだな。お前も鍛錬を怠らない様にな。」


毎月行われる魔力量測定。潜在魔力量はほぼ決まっている為何もしなければ増える事は無く徐々に減っていく。

魔力を上げる方法は1つしかない。魔力の使用だ。魔法で失われた魔力が回復する際上限が増える。ただ疲弊した程度ではリターンは少ない。数pt程度だろう。大きく上げるには限界まで魔力を使い瀕死の欠乏状態からの回復しかない。ただ欠乏状態と言うのは死の1歩手間。そこまで追い込める者はそうはいない。

ポーリン・カートライト。彼女は異常だ。ひと月で100Ptも伸ばせるやつはいない。


能ある鷹は爪を隠す。


恐らく我々同様本当の数値を隠しているのだろう。ローレンス様の見立てでは1万を超えていると言っていたが・・・測定で常に低い数値を出し実力を隠す少女。彼女は間違いなく王国最強の魔術師だ。





─── フォルメキア魔法学園近郊 ブナの森北部 ───


side ポーリン


キンッキンッ

予想通り騎士クラスのローレンス様とサクスの戦いになったわけだが・・・どういう事だ。サクスってこんなに強かったっけ?補助魔法が掛けられた気配は無い。


「うおおおおぉ!!勝つ!勝つ!」

サクスの強烈な連撃が止まらない。凄い気迫だ。何か催眠魔法で暗示でも掛けたのか?


キィィン

剣と剣が交差し鍔迫り合いに、

「サクス!腕を上げたじゃないか!」

「うるせえ!俺は絶対に勝たないといけないんだ!もし負けたら・・・うわああああああ!!」


ザシュッ

嘘でしょ!?モブキャラの癖にローレンス様に一撃入れちゃったよ。回復しないと、あら?ローレンス様が手をこっちに向けている。回復は不要って事かしら?


「凄い突きだ。変な薬使ってるんじゃないんだよな?」

「私が麻薬など使うわけがないだろう!舐めるなあああ!死ねオラアアアアッ!」

サクスが麻薬をやっていると言う疑惑は保健教諭の検査によりすぐに晴れたようだが・・・様子がおかしい。ホントはやってんじゃないの?


「素の力では厳しいな。少し魔力を使わせて貰うぞ。」

ローレンス様に魔力が宿り傷が塞がっていく。

流石ローレンス様、私に次ぐ魔力量を持っているだけの事はありますね。

心配は杞憂でしたか。サクスの剣が宙を舞う。ローレンス様の動きが先程とは段違いだ。あらあら、モブの奴まだ諦めていないの?短剣を取り出し向かっていく。無様ね。ほら足を切られた。でも浅いわね。


「その短剣では私には勝てんぞ?諦めて降参するんだな。」

お優しいのねローレンス様は。


「降参・・・だ、だめだ。そんな事したら・・・チラッ、ひいいいいいい!」

後ろの森を、と言うより後衛の二人を見たわね。二人は森の中に身を潜めているようだけど。

走りだすサクス。


「糞があああ!死ねや!おらあああああああああ!」

王子の側近が王子に一番言っちゃダメなセリフ・・・。


ドンッ!

剣の柄を鳩尾に入れられ沈むサクス。ざまああ!ローレンス様カッコいいわあ!


「気合いは素晴らしいが技術はまだまだだな。研鑽を積む事だ。」

カッケー!後はメス犬とモブの2匹を始末するだけなんだけど、あのモブ私と同等の魔力値を出してるのよね。魔力のコントロールなんてコツさえ掴めば誰でも出来る。あの数値以上は間違いなくありそう。

3000くらいかな?


『イルガ、あの黒髪の侍女が妙な動きをしたら即撃ちなさい

。』

『ああ、殺さない程度にダメージを与える。』

気配を消し木の上からアルルを狙うイルガと魔力通信を行う。この通信は寝食を共にし魔力の同調が出来る私とイルガにのみ可能な裏技だ。前世のケータイみたいな物かな。モンスターをハントする時等、連携が必要な場面で絶大な力を発揮するのだ。


『あいつ、何か妙な感じだ。隙だらけだけど・・・隙がない?いや、気のせいか。』

イルガは相手の魔力、気配を探知するのに長けている。

『はあ?盗賊のスキルでも使ってるんじゃない?いいから集中して。』

『ああ。』


スパアアアン!


『ん?今の音、撃ったの!?』

『・・・いや、侍女がメス犬の尻を叩いた。撃っていいか?』

えっ?どういう事?

『待ちなさい。こちらへの攻撃ではないのなら様子見よ。』

『何やら言い争いをしている。』

『仲間割れ?従者にも舐められてるなんて無様ね。』

『あっ。』

『どうしたの?』

『・・・キスしてる。』

『はあ!?今戦いの最中なのよ。見間違いよね?』

『あれをキス以外に何と表現すればいいんだ?』

『メス犬は年中発情期ってわけ?はっ、笑わせるわね。』

『いや、むしろあの侍女の方が主導権を握っているような・・・うわっ。すご。』

『何がすごいの!?』

『舌がうねうね。』

『・・・・・・・・・撃っていいわよ。』

パァン!




─── 少し前 ───


side シャーロット


「ちょっと!こんな後ろまで下がったらサクスの援護出来ないじゃない!」

アルルに連れられてこんなとこまで来ちゃったけど。

「ああ、あいつすぐ負けるからいいんですよ。あっ、でも軽く脅しといたから少しは時間稼いでくれるかな。」

脅した?時間稼ぎ?


「じゃあアルルが戦うの?」

「アタシがヤッたらメス犬計画が台無しですよ。」

「違うから!メス犬愛され計画でしょ!間違えないで!」

あれ?何かおかしくない?

「あはは、ごめんなさい。戦うのはシャロ様に決まっているじゃないですか。それじゃあ作戦会議を・・・」

私がローレンス様と!?

「無理よ!無理無理無理ッ!私簡単な魔法しか使えないんだから!アルルは私のボディガードでしょ!あんたが戦いなさい!」

私は絶対に嫌よ!

「だーかーらぁ、シャロ様がやらなきゃイメージアップに繋がりませんよ?駄々こねてないで行って下さい。サポートくらいはしてあげますから。」

くっ。

「・・・わかったわ。分かったから、血・・・吸わせてよ。」

「嫌ですよ。気持ち悪い。」

気持ち悪いって言った!しかも即答!


「あんたなんか雇うんじゃ無かったわ!体調悪いから帰る!」

学園に向かい歩き出す。冗談じゃないわよ!私は貴族の令嬢なのよ!ローレンス様の様な精鋭騎士と戦って勝てるわけないじゃない!私は守られる側のお姫様なん・・・


スパアアアン!


「きゃああ!」

お尻に激痛が走る。

「何すんのよ!」



「何かムカついて。」

「もうやだ!もうどうでもいい!豚と結婚するくらいなら死んでやる!」

お尻がジンジンして感覚が無いよ!


「お前さぁ、そのメス犬、いや負け犬根性なんとかしろよ。出来る女だって事あいつらに見せつけてやりゃいいだろ?」

アルルが近づいてくる。何か口調変わってない?ムカつく!

「無理だよ!だって・・・私の取り柄なんて家柄だけだし、周りに守って貰えなきゃ何も出来ないよ!」

「弱者を貶める事しか出来無ぇザコって事認めたか。自分と一切向き合って来なかった本当の弱者がお前だよ。シャーロット。」

!!・・・分かってるよ、分かってるけど今そんな事言われたって。




─── 回想 ───


私は娼婦の子だ。母は私が小さい頃、私を父に預け家を出て行った。父は母を説得しマーチ家の養女として私を迎え入れてくれた。

12歳になった日の夜。私は父から真実を告げられる。

母と過ごした日々は掛け替えの無い日々だったとか、心から愛していたとか言っていたような気がするが良く覚えていない。

が、ストンと腑に落ちた。母や姉たちが私にキツく当たる理由。

次の日から私は変わった。家でのストレスを少しづつ学園で吐き出すようになったのだ。学園でのヒエラルキーは家柄が全て。下の者には何をしても許される。権力を振りかざす快感を覚え下級貴族を痛ぶる度、取り巻きは増えていった。ムカつく奴がいれば嫌がらせをし歯向かう馬鹿は父に手を回して貰い退学させた。もはや私に逆らう奴はいないという絶頂期、あいつがやって来た。


ポーリン・カートライト。


貧乏貴族の少女。パッとしない服装と大人しい性格。私とは正反対。私が手を下すまでも無くクラスの女子に目を付けられた。毎日のように私物を隠され、ある事無い事吹聴され、それでも彼女は笑顔で登校し続けた。それだけなら私は彼女と関わる事は無かっただろう。

だが彼女は天才だった。筆記も実技もトップクラス。控えめな性格と柔らかな雰囲気も男子に受け気が付けば人気者になっていた。ローレンス殿下までたぶらかして・・・

気に入らない・・・。

素の、ありのままの自分さらけ出し、それでも受け入れられた彼女に嫉妬した。

めちゃくちゃに傷つけてやる。

私が加わった事でイジメはより苛烈になった。金で雇ったスラムの人間に襲わせたり、宮廷魔術師に死の呪いを掛けさせたり・・・。

だが彼女はそれらを振り払い、変わらず笑顔で居続けた。


聖女かと思ったら笑顔の下に憎悪を隠していたのか。そうだよね、あれだけ酷い事されたんだし・・・振り返って見ると命を狙われて当然の事をしてるな。





「私だって素直に生きたいよ!こんな境遇じゃなかったら私だって・・・もう今から足掻いたって手遅れなんだよ!」

「テメェの人生だろ?気に入らねえならテメェで切り開けばいいんじゃねえの?足掻きたいなら手伝ってやるからよ。」

「手伝うってあなた何を・・・!?」

アルルの唇から血が流れている。ワザと切った?

「ほら、決めるのはお前だぜ。どうする?」


「・・・本当、あなたっていじわるね。」

唇に噛み付く。


カプッ チュー


こ、これは吸血行為なんだからね!決してそういうアレじゃないんだからね!


ギュオオオオオオオオ

きゃあああああああああああ

何これ!?凄い!体の中から熱が迸って目がチカチカして・・・

「!?んーっ!?」

やだっ、アルルのやつ、舌を・・・

抱きしめられて身動きが取れない!


「んー!んー!やめっ!んっ、やっ、ん、んー!」

気持ちいい。前に一度舐めた時とは比べようがないほど

美味しい・・・。

顔が惚け、身体が燃えるように熱くなるが頭は冷え思考がクリアになっていく不思議な感覚。

アルルに優しく抱きしめられる。

ふぁぁ・・・こんな安心感今まで味わった事ないよ。

パンッ

遠くで音がした。


「野暮な事すんじゃねえよ。今遊んでやるよ。」

回されていた手が離れる。

あっ。


「あいつは俺がヤる。王子様と悪役令嬢?だっけか。二人は任せた。」

「えっ!?あ、う、うん。・・・あ、あの、あり・・・が」

「んだよ、早く行けよ。あー、全力はやめとけよ?壊しちまうからな、この国を。ククっ」

ゴクリッ 確かにこの力があれば・・・。

アルルの邪悪な笑み。だがなぜか、今は愛おしい。


「分かってる!抑えるから大丈夫!」

不思議と魔力のコントロールの仕方が分かる。一時的にだが全ての能力値が上がったせい?


ガガガガガガザガガガッ

また何か破裂音がする。が後ろはアルルに任せ前へ。軽く跳ねただけで地面が抉れた。森をぬけ空へ飛び出す。

茜色に染まる空。

世界ってこんな色をしてたんだ!

ビュオオオオオオ

風が気持ちいい!


あっ!凄い!ローレンス様やポーリンの魔力を感じる。視覚的には球状の渦で色や濃さが違う。アルルにはこんな感じで見えていたのか。

アルルの魔力は!?感じない。抑えているんだ。私も1000くらいに抑えて、と。

あっ、これが恋を秘める感じなのか。

「ぷっ、あはははははははは。」

やっぱり私にはよく分からないや。




─── アルルvsイルガ ───


side イルガ


パンッ

侍女の太ももを狙った弾丸は正確に目標に着弾。

したかに思えたがポトリと落ちた。

「!?」


スコープで確認する。

!!?

こっちを見た!?800メートル先にいる気配を完全に消した俺を認識したのか!?

『おい、警戒しろ。何か異常な事が起きている。』

『侍女は仕留めたの!?』

『まだだ・・・・・・』


「何がまだなんだ?」

!!?背後を取られただと!!?

素早くナイフを取り振り向き様奴を狙う。

バババババババババッ

嘘だろ!距離を取るでも弾くでも無く全て躱すのかよ!

「手癖の悪ぃガキだなおい。」

ニヤニヤ笑いやがってクソ!

「刃物かあ。あれ出来っかなあ?」

奴が持っているのは、俺のナイフ!いつの間に!?


「なんつったかな、あー、シューティングスター?」

ズアッ



な、何しやがった・・・ナイフが光ったと思ったら身体中に激痛。指1本動かねえ・・・。

「峰打ちだ。打っといて何だがやっぱ糞みてぇな技だな。ククッ」

何を言っている?俺は・・・ここで死ぬのか。

ッッッ!!?

バッ

飛び起きる。痛みが消えている!?


「何をした?」

「回復。」

「なぜ助けた。」

「暇つぶし。久しぶりの外だからなぁ。そのおもちゃ使ってみろよ。」

完全に舐められている。いやそれも当然か、力の差があり過ぎる。何者だ?

・・・・・・。


シャイニング・ウィザード!

閃光の光魔法を放ち奴の後方に移動。


アクアランス!

ガガガガガカガガ!

ハイレベルモンスターをも瞬殺する水魔法を奴の頭上から降らせる

殺すなとは言われているが、全力でいかないとこっちがヤバい。

奴の姿が霞み氷の槍は通り抜けていく。だがあれは囮。本命はこれだ!

銃に魔力を込める。


「アクア・スパイラル!!」

ドパァン!

着弾すればエリア毎爆散させる広範囲殲滅魔法だ。

ドオオオオオオオオオン!

手応え有り!ヒットしたぞ!やったか!?


煙が晴れて行く。

!!?

ノーダメージ・・・だと!?


「今の魔法さぁ、銃使う意味あんの?」

銃口から射出する事で速度が増す!・・・気がする。正直良く分からないが。

何かちょっと恥ずかしくなって来た・・・。


「くそっ!黙れ!俺がどんな武器使おうが俺の勝手だろ!」

「そうだな、男の子だったら銃のおもちゃ持ち歩きたい年頃かもな。」

あああああああああああああああ

何だよ!もお!何だよ!


クソが!!ブッコロしてやる!

ドドドドドドドドドドドドドドドド

銃に限界まで魔力をチャージする。この一発で沈めてやる!

はあああああああああああ!!


「くらえ!奥義!ヴォーパル・ディザス・・・た、あ!?」


「やっぱおもちゃだなあ。」

!!?

銃が奴の手に!?何で!?

「タメ長すぎだろ。隙だらけだったぞ。」

馬鹿な!どうやって接近した!?まるで気がつかなかったぞ!


「込める魔法で弾丸が変化するのか?俺の魔力でもいけっかな。どれ・・・」

無駄だ!ポーリン様や宮廷魔術師でも弾を打ち出す事は出来なかった。俺以外には扱う事など!

奴が銃を構え、空へ向けて、


ズゥガアアアアアアン!!

撃った!?

ブゥワアアアア

突風が!?

何て威力だ!大気が震えたぞ!


「いけんじゃん。ありゃ、当たっちまったか。いやぁ・・・うっかり、うっかり。ククッ、あとは任せた。」

ポイッと放り投げられた銃を受け取る。

当たった?何に?任せる?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

夕焼け空に暗雲が立ち込め稲妻が走る。な、何だあの巨大な雲は?





─── シャーロットvsローレンス ───


side ポーリン


メス犬がローレンス様の前にフワリと降り立つ。

「お待たせ致しました。」

スカートの裾を摘み片足を後ろに引きカーテシーのポーズをキメている。


「飛翔魔法が使えたのか?いやそれよりその魔力・・・楽しめそうだな。」

「殿下に満足していただける様頑張りますわ。」

あのメス犬の魔力、今までと別物だ。何があった?イルガとも通信出来無いし、用心が必要か。

ローレンス様の刀に魔力が宿る。凄い、あれが本気のローレンス様。

あの魔力、メス犬殺しちゃうんじゃない?あはは。


二人が刀を構え対峙する。

ん?あいつ魔術師じゃなかったっけ?あの剣は・・・赤黒く怪しい光を放つ剣を構えている。


「その剣は?」

「ブラッドソード。私の血で作った、魔剣?ですね。」

「・・・そうか。優美だな。」

「お褒めにあずかり光栄です。」


ザアアアア

風が吹いたのを合図に2人が動く。


キィーーーン

高速での打ち合い。剣戟はひとつに重なり澄んだ音を奏でる。

信じられないあのメス犬、ローレンス様とまともに打ち合いをしている。様に見える。目に魔力を集め2人を観察する。


ローレンス様の流麗な剣閃に比べてメス犬は・・・不細工な動ね。あんなデタラメな動きでよく躱せるわ。いや当たってるじゃん!

斬られた直後に治ってる!?何あの異常な回復速度・・・吸血鬼(ヴァンパイア)が治癒に長けているのは知ってるが、それが魔力で強化されているの?


キンッキンッキンッキンッ

ローレンス様の打ち込みの速度が上がる。凄いわ!まさに鬼神の如きとはこの事ね。

それなのに決定打には至らない。あのメス犬の血で作られた剣、あれが形を変えて急所への攻撃を全ていなしている。ちっ、もどかしい!

ローレンス様は嫌がるかもだけど少し援護してあげましょう。

「シャロウ・スワンプ」

メス犬の足元をぬかるみに変えた。バランス崩して切られなさい。


キンッキンッキンッキンッ

沈・・・まないだと?

・・・よく見ると僅かだが浮いている。飛翔魔法を使っているのか。小癪な。

あいつ!?今こっちを見て笑いやがった!

家柄しか取り柄の無いビッチの癖に見下しやがって!


「トワイライトミスト!」

精神干渉系最上位魔法を放つ。暗闇、混乱、怒り、恐怖、発狂・・・無様にのたうち回りやがれ!

キンッキンッキンッキンッ

はあ?何で動けるの!?障壁?いや私の魔力値は奴を遥かに超えている・・・防げるわけが無い!


「おおおおおお!!」

ローレンス様の渾身の太刀。

ガキィィン

メス犬が涼しい顔で受け止める。

奴の魔力は私たちを上回っていると言うの!?

メス犬の動きに隙が無くなって、剣術が洗練されていく。


ガキィィン!

メス犬の一撃でローレンス様の剣が弾き飛ばされた!?立ち竦むローレンス様。

「・・・ふぅ、私の負けか。なぜ動きが変わった?」

「殿下の剣を真似させていただきました。」

真似とかってレベルじゃないだろ。

「戦いの中で進化したのか。ふっ、完敗だ。」

負けを認めちゃった。


「ポーリン、どうする?続けるか?恐らく二人掛りでも勝つのは厳しいぞ。君の力を使っても、な。」

私の隠している力をローレンス様は見抜いている・・・それでも勝てないと。

冗談じゃない!こんなとこで、あんなメス犬に負けてられるか!


私はこの物語のメインヒロインなのよ!!


「殿下!私は!・・・」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

何だ急に空が暗く・・・

あの雲、積乱雲か?


「あの巨大な黒雲は何だ?」

「あれは・・・ローレンス様!ここは危険です!学園、いえ、王宮にお戻り下さい!」

メス犬の奴随分慌ててるわね。私との勝負を有耶無耶にする気?

しかしあれはまるで・・・



───────────────


side イルガ


「竜の巣だああああああ!!って、ん?あら?何これ?銃?」

アルルが何やら叫んでいる。

奴の纒う気配が変わったような・・・気のせいか。


「・・・お前は何者だ?」

「あら、名乗っていなかったかしら。アタシはアルル・ディライト。冒険者よ。あなたは?」


「・・・俺はポーリン様の従者だ。名前は、無い。」

「じゃあ、アタシがつけたげる!ポーリンの従者だからプーリ・・・」

「イルガだ!今自分で付けた!」

「ふうん、で、これはどう言う状況なの?」

空を見て言う。

「お前がやったんだろ。」

覚えてないのか?

「・・・でしょうね。はぁ・・・。アタシのシナリオからは外れるけど、いいでしょう。せっかくだし利用させてもらおうかしら。ニヤリ」

何を言っている?と言うか、何て顔だ。


「我関せずな中ボスはスルーするつもりだったんだけどなぁ。」

中ボス?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


喑雲の中から現れたのは・・・!!?

ドラゴン!?だと!?

5体のドラゴンが顕現する。その内の一体のが前へ出る。


『我らの城を撃ったのはヌシか?』

!?ポーリン様と同じ魔力の通話!?

と言うかドラゴンから吹き出す魔力がヤバい。はぁはぁ、気分が悪くなる。


『ヌシかと聞いているのだが?』

!?俺が銃を持っているから勘違いをしているのか!

「ち、違う!撃ったのはそこの・・・あっ。」

アルルが竜の前に立っている。


「コラ!あんたたち、汚い魔力たれ流さないでくれる?イルガ君苦しそうじゃん。魔力消して。」

はぁはぁ、アルルは平気なのか?


「・・・もう良い。国ごとなぎ払って・・・」

ブゥゥン・・・

な、何だ?話していたドラゴンが黒い球体に包まれる。


「プチノヴァ」(ディスペア流奥義スーパーノヴァ 限定範囲威力縮小ver)


ジュッ


アルルの呟きと共に消えた・・・。

「アタシ言ったよね?その汚ねえ魔力消せって。」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「き、貴様何をした!メサーラを何処へやった!」

後ろにいたドラゴンがアルルへ襲いかかる。


ジュッ

まただ!黒い球体に包まれた瞬間に姿が消えた!


「次話した奴も消す。魔力消さなきゃ消す。」


「まっ!待て!殺さないで!たの・・・」

ジュッ


鬼かよ。しかし本当に殺したのか?


「くっ!」

1体のドラゴンが雲に向かって逃げた。

が、

ジュッ


「トカゲにハナシは通じないか。ん?」

残り1体が地に這いつくばりながら魔力、気配を断ち震えている。

なんて光景だ・・・。

「あなたあの城の兵士よね?」

シーン


「あっ、もう話していーよ。」


「ま、魔王様と気付かず、し、失礼いたしましたあ!」

魔王!?

「あー、違うから。ただの冒険者よアタシ。」


「い、いや、しかし・・・」


「ただの、冒険者だよ?」

ドラゴンの顔を覗きこむ少女にえもいわれぬ恐怖を覚える。


「は、はひぃ!あ、あなた様は冒険者様ですぅ!」

「まあいいや。てかさあ、あんたたちが上にいるせいでこの国水不足になってんですけど?どうしてくれんのよ!」

今サラッと凄いこと言ったが、マジか!?


「ひいいい!すみませんすみません!す、すぐに他の地へ拠点を移します!」

「あんたみたいな下っ端雑魚トカゲにそんな事出来るの?」

あのドラゴンをトカゲ呼ばわり!?


「す、数日の猶予をいただければ・・・」

「はぁ、ハナシにならないわ。王様連れてきな。」

「そ、そんな!?」

「さっきは的絞ったけどあんたたちの国ごと消滅させる事だって出来るんだよ?」

空に国があるのか!?それを消滅させる!?


「す、直ぐに主を連れてまいります!」

「40秒で連れてきな!いーち、にーい、さ・・・」

「ヒィィィ!」

ドラゴンが消えた。転移したのだろう。


「あははははは、ウケるー。」

何がおかしいんだ?いかれてやがる・・・。


「おい、どう言う事だ!貴様何を企んでいる?」

「企むなんて酷いなあ。この国の為に動いてるだけなのに。それよりあなたポーリンの側に方がいいんじゃない?」

そうだ!お嬢様!・・・くそっ!魔法通信が繋がらない!シャロと交戦中か?

「貴様の顔と名前と魔力覚えたからな!」

「ストーカーかよ。早く行きなさいって。」

ちっ、ポーリン様の元へ急がないと。

足元に魔力を込め走り出す。

あのドラゴンが暴れたらヤバい!それにしてもあのアルルと言う従者・・・いや今は一刻も早くお嬢様の元へ!




─── 天空の城ラスタ 女王の間 ───


side ???


「じょ、女王陛下に直ぐに謁見を!緊急事態だ!」

「貴様!王城内に転移など懲罰房行きだぞ!」

「バカヤロー!時間が無いんだ!国が滅ぶぞ!」

扉の外が騒がしい。偵察に行った兵士が戻って来たのかしら。

ラスタ城の周囲を覆っていた結界が破られ西棟の一部が破壊されたと聞いていたが・・・


「いいわ。通しなさい。」

扉が開き勢いよく入って来る兵士。

「陛下!今すぐお逃げ下さい!ば、化け物が迫っているのです!陛下さえいれば国は再建出来ます!」

臣下の礼をとり捲し立てる。


「待て待て、慌てずに何があったか順に話してみよ。」

側近のピエミドが言うと兵士は多少落ち着きを取り戻し偵察の報告を話し出した。

結界を貫く攻撃をしたのは、我が国と王国の関係に不満がある者の仕業らしい。しかし、あの者たちを瞬殺か。

信じられない内容に場内は静まりかえる。

「そして・・・陛下を連れて来いと要求しているのです。」


「馬鹿な。あり得ん。夢でも見ていたのではないか?」

上位竜から失笑が漏れる。


「黙れ。」

私の一声で再び静寂と緊張が戻る。

「4人の気配が消えたのは事実よ。それに城の結界を破り私に正面から喧嘩を売って来るなんて少し興味が出たわ。連れて来なさい。」

「陛下!お待ちください!まずは私が行ってその者の真意を・・・」


「おっそーい!」

!?

フワリと宙に浮く女。

こいつが例の冒険者か・・・この部屋には多重結界が貼られていたはずだが。


「来ちゃった。テヘッ」

ウィンクをして舌を出す。

なるほど、面白い。


「女王を守れ!奴は特殊なスキルを使う!精神、物理、ありったけの防壁を張れ!」

近衞が私の周囲を取り囲む。


「あれ?ちょっと話しに来ただけなんだけどヤル気満々じゃん。客人に対する態度じゃないわね。」

宙にふわふわ浮きながら話すのもどうかと思うがな。


「我らの同胞を殺しておいて話し合いとは戯言をぬかすな!俺がその首・・・ゴフッ!」

女に挑もうとする兵士の頭に転移して踵蹴りをくらわせる。気絶した竜の背にフワリと座る。

「馬鹿ね。相手の力量も測れないの?全く・・・あなたちも下がりなさい。私より弱い奴が私を守る?笑わせないで。」


「あれ?女王様って人間なんだ。いや違うか吸血竜ヒルデガルド?」

鑑定か。

「人の事じろじろ見るなんて失礼ね。名乗ったらどうなの?侵略者さん?」


「侵略者とは酷いなあ。アタシはアルル、冒険者だよ。ヒルデガ、ルドさんは吸血鬼なの?」


「ヒルダでいい。竜と吸血鬼のハーフだ。もっとも進化の過程で竜の因子は減っているがな。」


「ふうん。」


「水源の話だったか?我らがこのエリアの水源を掌握しているのは国王も承知のはずだが?」


「ふうん。そうなんだ。それは別にどうでもいいんだけどさ。」

どうでもいいのか。

「ちょっと王国にちょっかい出してくれないかな。フリでいいから。」

「断る。同盟を結ぶ相手と事を構えてどうする?貴様の話は支離滅裂だ。」

「水や財産を奪う見返りに王国への安全補償してるんだっけ?それ同盟って言える?体裁も何もあったもんじゃないね。それと同じ事をアタシも言ってるわけ。滅ぼされたくないならアタシに従いなさい。」


「あの女、陛下の事何も知らないんだな。」

「ああ、久しぶりに見られるかもしれないな。アレが。」



「クフフ、腕に相当自信があるようね。でもね、アルルちゃん。喧嘩相手は選んだ方がいいわよ。」


挿絵(By みてみん)


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ぐにゃあああ


私とアルルの間の空間が歪む。ように見える程の魔力の激突。やるか?


「あはは、いいね。アタシ好みだわ。私に勝てたらご褒美に血をあげる。干からびるまでチューチューしていいよ。」

こいつ、エナジードレインを知っているのか。


「私が勝ったらあなたたちは私の下僕ね。ニヤァ」

ゾクッ。背中を冷たい汗が流れる。私が緊張しているだと?負けるなんて有り得ないが・・・


「いいだろう。それを受けるだけの価値がお前にはありそうだ。場所を変えて・・・!!?なっ!?これは!?」

王国からは大分離れているが間違いない!強大な魔力の奔流を感じる。私の為に駆けつけて下さったのですね!


偉大なる王、我が親愛なる主!


「あっ、意外と早かったね。」



「アスモデウス様!!」

「アス。」


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