16話 悪役令嬢は〜 4
─── カートライト邸 ───
シャワアアアアアアアア
シャワーを浴び湯船へ浸かる。
はへえー。
お風呂に入ると馬鹿みたいな声出ちゃう現象って何なんだろう。
この地域では水は希少でお金が掛かる。湯船に浸かるのは王族と私くらいだろう。
なぜこんな贅沢が出来るかと言うと、
「クリエイトウォーター。温度は少し高めにしよっと。」
湯船に足し湯。あっつ!
「かーっ!やっぱりアチアチがイイネ!」
私は自らの魔力を使い水を生み出す事が出来るのだ!水不足の国に水属性の最強王女爆誕!ホーッホッホッホ!
この力を使えばこの国の掌握も容易いだろう。
しないけど。だってバレたら水が不足する度に駆り出されて酷使されるのは目に見えている。そんなの絶対に嫌。
両親には一度に生み出せる水は数百リットルで魔力消費が激しいから数日に1回しか使えないと言っている。嘘だけど。実際は毎日、親のいない時は2回入ってる。
学園に合格した時にお風呂(浴槽)おねだりして大正解だったわね。
チャポン
アヒルのおもちゃを沈めて離す。
チャポン
アヒルのおもちゃを沈めて離す。
チャポン
アルルが最後に言っていた悪役令嬢と言うセリフ。
聞き間違えかしら。偶然?いや、この世界で前世の用語なんて聞いた事がない。
転生者と考えて動いた方がいいわね。しかも悪役令嬢なんてワード言う様な奴には最大限の警戒をしなければ。
私と同じイケガクプレイヤーの可能性だって・・・それは流石に無いか。
とにかく注視して私に危害を加える存在だと判断したら全力で叩き潰す。よし!
ザバア!
「あっつ!!wイルガ!バスタオル持って来てー!」
─── 朝 魔法学園 ───
登校すると私のクラスの廊下に人だかりが。まだローレンス様は来ていないはずよね?
「え?うそー、ホントに?」
「変わり過ぎじゃね?」
「やだーかわいい!」
「シャロさん雰囲気変わったよね。」
シャロ!?
教室に入る。何、だと!?
そこには落ち着いた雰囲気のシャロが。
「あっ、ポーリンおはよう!」
私に気付き手を上げる。かわいい。
ちがう!
「し、シャーロット様おはようございます。」
軽く会釈をする。
「何遠慮してるの?呼び捨てで良いって言ったじゃない。」
「えっ、でも、皆見てるし・・・。教室内は今まで通りの呼び方で・・・お願いします。」
あんたは悪役令嬢で私はメインヒロインなの。仲良くしたらルート分岐して攻略に支障が出かねないでしょバカ。それにキャラ被ってるのよ!あんたは高慢メス犬ビッチって設定でしょ!
「シャロって呼んで欲しい・・・ポーリンは私の最高の友達なんだから!」
抱き締められた。
えっ、えっ、何が起きてるの!?
きゃあああああああああああ!
生徒が黄色い声をあげる。
「こんな事ってある!?ポーリンさんを虐めてたシャーロットさんが・・・二人が抱きしめあってるなんて!」
「朝からなんて尊いの。」
「私の妄想が現実に・・・信じられない。」
「まるで姉妹の様じゃない。」
くっ!?姉妹だと!?やはりキャラが被っている!冗談じゃない!
「シャロ様、落ち着いて、ねっ?」
「シャロって呼んで!」
「わあい、私を入れたら3姉妹ですね!」
アルルも抱きついて来た!このガキ離れろ!
「えっ、あんな子いたっけ?」
「従者かな?」
「でも、何か楽しそうでいいわね。」
「俺も混ざっていいかな?はぁはぁ。」
「朝から3人でサカってんじゃねえよ!けしからん!はぁはぁ。」
えっ、アルルが皆に認識されてる!?
「どけ!何を騒いでるんだローレンス様の邪魔だ!」
!サクスの声、ローレンス様がいらっしゃったわ!
「シャロ!分かったから離れて!授業始まるわよ!」
「う、うん!私ポーリンの隣に座るから!」
くっ。腕を離せ!メス犬!
「私もポーリンさんの隣に座ろーと。」
もう片方の腕に腕を絡ませてくるアルル。
お前は使用人だろ!
「あなたは侍女なんだから、後ろで見てないと駄目よ。」
「はあい。」
何なのこいつら。
「騒がしいが何かあったのか?」
静まり返る教室内。
「おはようございます!ローレンス様!」
「君は?見ない顔だが?」
「アルルだよ!シャロ様のお側仕えをしてます。」
「そうか、よろしくたの」
「ぎゃああああああああああああ!!」
サクスが突然大声を上げる。
「どうして、ここに!うえ!?こ、声が頭に!?・・・は、はひぃ!も、もちろんです!あなた様の事もあの拷問も、け、決して誰にも、ぐっ!ブクブクブク」
どうした突然気絶したぞ!?
「サクス!どうしたサクス!」
「ローレンス様、離れてください。んー、ふむふむ」
アルルがサクスの体に手をかざすと黒い魔力が手から放出される。なんだあの禍々しい魔力は。
「んー、麻薬の過剰摂取ですね。幻覚、幻聴からの不整脈による心肺停止?って感じかな。」
えっ?麻薬?心肺停止?気絶してるだけじゃないの?
「麻薬だと!?アルルと言ったか、医療の心得があるようだが、君にサクスを救うことは出来るのか!?」
「ふふ、お任せあれ。」
黒い魔力で覆われた両手を組みサクスの胸へ振り下ろした。
「オラァ!」
ドパアアアン!
「ガハッ!!」
えっ、盛大に血を吐き出したけど、あれ単純にぶっ叩いただけよね?ダメージ与えただけじゃ・・・
「ゴホッゴホッ はぁはぁ。ゴホッ」
「ラクス!」
「息を吹き返した様ですね。もう心配いりませんよ。ニッコリ」
死にかけてない?
「ありがとう!おい、ラクスを医務室へ連れていくぞ!」
「ハッ!」
ラクスはローレンス様と従者により医務室へと連れていかれた。
わあああああああああああ
「アルルさん!凄いわ!ヒーラーなの!?ねえ!ヒーラーなんでしょ!」
「いやあ、そんな大したものじゃないよ。ふふ」
嘘くさい。
「あの黒いのは魔法なの?」
「そだよ。どこが悪いのか調べてたんだよー。」
ただの魔力の塊だろ。
「こんな有能な従者がいるだなんてシャロ様が羨ましいわ。」
有能?全部インチキじゃないか。
「俺、下半身が熱いんだけど調べてもらえないかな?」
氏ねよ。
「私も感心しました。アルルありがとう。よくやってくれました。主人として誇らしいわ。」
シャロがアルルの髪を撫でている。イライラ。
きゃあああああああああ
「尊い!尊いわ!」
「シャロ様別人じゃん!最高かよ!」
「アルルちゃんのあの満足そうな顔!たまらないわ!」
「これ半分絵画だろ。」
「ご飯お代わり持ってきてー!」
なんだこれ!?お前らが好きなのは私だろ!ふざけんな!
一晩で事態が急変してる?マズい、流れが奴らに・・・くっ。
─── 授業中 ───
side シャーロット
『危なかったですねー。何とか誤魔化せて良かった。』
アルルが念話してくる。
『ラクスが麻薬に手を染めていたなんて・・・この国にも薬が蔓延していたのね。』
『はぁ?アタシの嘘を真に受けてどうするんですか。馬鹿なんですか?』
馬鹿じゃないもん!
『嘘!?じゃあなんで倒れたの?』
『覇気を使いました。あっ、分からないか。ラクスの馬鹿が余計な事言いそうだったんで威圧して気絶させたんですよ。』
『・・・あの蘇生は?』
『気付けに殴っただけです。ちょっと強かったかな。』
・・・うん、聞かなかった事にしよう。
『それより作戦の成果は上々じゃない?』
『メス犬愛され作戦ですか?』
『・・・いじわる。そうよ。』
『つかみはまずまずですね。生徒さんも驚いたんじゃないですか?あの悪役令嬢が清楚なお嬢様に変わっていたんですから。』
悪役令嬢か。
『昨日アルルが言ってた事って本当なの?』
『ええ、恐らく。』
─── 昨晩 シャーロット私室 ───
「黒幕はポーリンですね。間違いありません。」
「ぶはあ!?ゴホッゴホッ」
紅茶吹いた!
「もう汚いなあ。」フキフキ
「何言ってるの!?彼女は私の心の友なのよ!いい加減な事言わないで!」
「どこのガキ大将ですか・・・。アタシも半信半疑だったんですけどねえ。似てるんですよ。この異世界の本に載ってる物語と、この世界が。」
異世界の本?渡されて見てみるが、異世界語で書かれているためさっぱり分からない。
所々に綺麗な絵が描かれている。
「これはどう言う話が書かれているの?」
「タイトルは【イケメン学園 ~恋の魔法を君に~】内容は学園に通う主人公の令嬢と王子様が様々な困難を乗り越えて最後は結ばれるみたいな話です。」
「なるほど、その主人公が私ってわけね。」
「んなわけねえだろ。優秀で心優しい主人公に嫌がらせしたり王子をたぶらかして道を踏み外させたりする悪役令嬢がシャロ様です。」
「私そんな事しないもん!」
「してたでしょ?嘘ばっかり言ってるとまたケツ叩きますよ。」
「ごめんなさい。」
「この本ではシャロ様はクエスト中に主人公暗殺しようとして失敗して谷から落ちて亡くなってるんですよね。」
私じゃなくて悪役令嬢ね。転落死か・・・。
「主人公は貧乏貴族の女の子なんですけど、努力家で強力な魔力持ち。ギルドのクエストや新薬の開発とかをして家を立て直します。薬学を勉強する為に学園へ行き王子と出会うみたいな流れです。」
「ふうん、そんな子あの学園にはいないわね。もぐもぐ」
このポテチってのも美味しいわね。コークに合うかも。パリッ もぐもぐ
「おバカ!」
何で!?
「ポーリンさんがいるでしょ?あの子の経歴まんまこの主人公と一緒ですよ?」
「そうなの!?やっぱり聖女様なのね。」
私の目に狂いは無かったわね。パリッ もぐもぐ
「おバカ!」
またバカって言った!?
「彼女はこのシナリオをトレースしているに過ぎないんですよ。いくら何でも類似し過ぎ。」
「たまたまでしょ?偶然よ。良い子だもの。」
「彼女授業中にシャロ様に向けて殺気放ってますけど気が付きません?」
「本当に?パリッ」
「はぁー、鈍感過ぎ。あれだけ虐められたらそうなりますよ。表面上は優等生演じてますけど中はドロッドロの恨みと野望で埋め尽くされてるって感じ。いつ命狙われてもおかしくないですよ?」
「・・・ゴクリッ・・・本当に?」
「ローレンス様から手を引いて学校を去れば済む話ですけど・・・無理ですよね?」
「分かってる事聞かないで。じゃあ、彼女とローレンス様を奪い合うって事になるのか・・・」
なんて事だ。
「そうなりますね。今はポーリンさんが優勢かな。」
「うぅ、豚と結婚するのは嫌!何とかしてよ!」
「まずはその性格を直した方がいいのでは?貴族令嬢とは思えませんね。」
「・・・ううぅぅ。」
泣きそう。
「では、明日からはアタシも姿を見せて場をかき混ぜてくのでシャロ様はそれに合わせて行動して下さい。」
「なんで?あんた目立つの嫌なんじゃないの?」
「ボディガードですからね。でも今のメインルートだとシャロ様に勝ち目は無いのでフラグ立ててルート分岐させる必要があります。モブのアタシが介入したら・・・きっと面白い事になりそう。ふふふ」
フラグ?モブ?
「全く分からないけどアルルの事信じていいんだよね?」
「アタシの言う通りにすれば逆転出来ます。」
「本当に?」
「ええ、任せてください。まずは服を脱いでもらいましょうか。」
「裸にして何するつもりよ!スケベ!変態!!」
「これに着替えてもらうだけですけど・・・」
「あっ、うん、分かった・・・」
『この服来た時は意味わからなかったけど評判は良かったわね。』
地味なのに。
『ギャップ萌えですよ。普段着飾ってる子がラフな恰好するだけでもグッと来るんですよ。』
よく分からないわ。何がいいのかしら。
『あなたに任せれば大丈夫そうね。次は何をすればいいの?』
『簡単です。人に優しく。これ行ってみましょう。』
─── 2限目 魔力測定 ───
1ヶ月ぶりの魔力測定だ。魔力量上がってるといいな。
まだ時間あるな。ローレンス様と話てこよーっと。
『シャロ様、魔術準備室までお願いします。』
アルル?
『はっ?何で?』
『魔力の測定器を運んで下さい。』
『はっ?何で?魔術科のやつが運ぶんだよアレ。』
『測定器重いから手伝ってあげて下さい』
『えっ、やだよ?』
『コラ、メス犬、さっき言った事もう忘れたんですか?』
『えー、これ作戦なの?うーん、あれ重いから私じゃ意味ないよ?』
シュン
スポッ
わアルルが現れて口に指を突っ込まれる。
「んー!んー!」
微かに血の味がする。血を舐めさせた!?
私が吸血鬼って知ってたの!?
スポンッ
「どうです?力湧いて来ました?」
「いきなり何すん・・・の・・・へ?わ、わ、わ。」
力が魔力が溢れ出す。
「やぁ、何これ、あっ、あっ、すごっ!体が軽い!」
「早く準備室へ、GO!」
命令されるのは腹立つけど、
「行けば良いんでしょ!」
ビュン
あっという間に着くと、測定器を運んでいる生徒がいる。ヒョロヒョロの眼鏡を掛けた男の子が重そうに運んでいる。
「君1人で運んでるの?」
「ん?あ、ああ。僕の仕事だから・・・えっ!?シャーロット様!?何で、」
「重そうだね、手伝ってあげる。」
測定器の下に手を入れる。軽っ!40キロはあるはずなのに軽っ!
「うわっ!シャーロット様凄い!」
「魔力が上がったせいかも。1人でも行けるけど2人で持って行こうか。」
イメージ的に。私か弱い美少女だし。
「は、はい。助かります。ありがとうございます!」
とても感謝されている。こういう感じも悪くない・・・かな。
階段を上がって通路に出る。あっ、ローレンス様。
「おい、扉を開けておけ。」
ローレンス様が駆け寄ってくる。
「私が持とう。手を離していいぞ。」
重いけど大丈夫かな?
パッ
おおー、流石ローレンス様。1人で持ってっちゃったよ。
「シャーロット、今度運ぶ時は私に言いなさい。私は騎士だからな。こう見えて力はあるぞ。」
「は、はい。ローレンス様。ありがとうございます。」
「ローレンス様、測定器の運搬は本来僕の担当なのですがシャーロット様が手伝ってくれたのです。本当に助かりました。」
あっ、それ言っちゃうんだ。いやぁ、てれてれ
「・・・最近の君は目を見張るものがあるな。私も見習わなくてわな。ふっ」
『きゃああああああ!ローレンス様に褒められちゃったわ!』
『うるっさいなあ。良かったじゃないですか。』
『すごいわ!あんたここまで読んでたの?』
『偶然ですよ。でも生徒や先生の評価を上げればローレンス様にも評判は届きます。・・・敵も生まれますけどね。』
えっ?
「シャロさんのあのあからさまな点数稼ぎってどうなのかしら?」
「ねー、露骨過ぎだわ。」
「ローレンス様を利用して一体何を企んでいるのやら。」
「あのぶりっ子、反吐が出るわね。」
私の方をチラチラ見ながらヒソヒソ悪口を言っている。
『何でいい事したのに嫌われてるの!?頭おかしいんじゃない!?』
『シャロ様もポーリンに似たような事言ってましたよね?』
あっ。止めて、傷口えぐるの止めて。
『シャロ様、落ち込むのは良いですけど授業始まってますよ?』
『あっ。うん。』
魔力を数値化する測定器の前には生徒が並んでいる。
測定された数値は先生が確認しているようだ。
「魔力量306pt前回と変わらんな。」
魔術科の教師が数値を記入していく。
【魔力測定器】
ダンジョンで発見された上級アイテム。
手を乗せると魔力量が測定される。定期的に計測され魔力が100を下回った場合退学となる。
『アルル、何か私今凄いことになってるけど大丈夫かな?』
『アタシの血でブーストかかってますからね。んー、そうだなあ。あれで測ったら20000ちょっとくらい出るかも。』
は?
『いや、駄目だよ!この国のレジェンド超えてるよ!』
『そうなの?新記録おめでとう。』
いや前回431の私が20000超えたら駄目でしょ。
歴代トップの宮廷魔術師でも16000が最高値だったはず。
大騒ぎになっちゃう!
おおー。生徒たちの感嘆の声。
「魔力量1220pt。凄いな前回より100ptも増えている。」
「ありがとうございます。」
ポーリン凄い。
『嘘ですね。あの感じだと25000くらいかな。』
『ホント!?何で分かるの?』
『密度で大体。次の子は300くらい。』
「魔力量317pt」
おお!
『えっ、じゃあポーリンは魔力量をコントロールしたって事?』
『そゆこと。簡単ですよ?例えるなら恋心を秘める感じ?』
ちょっと何言ってるかわかんない。
『どうしよう。私コントロール出来ないんだけど・・・。』
『恋心秘めた事無いんですか?』
しつこいわね。
『無いわよ。むしろ押し出していくタイプだから。』
『仕方ないなあ。アタシが魔力量コントロールするから任せて下さい。いくつくらいがいいですか?』
出来るんだ!
『えっ、じゃあ・・・700くらいで。』
『盛りすぎじゃね?』
『・・・・・・。』
『いいですけど。』
よし!
『ところで・・・アタシの魔力量気になりません?』
あっ、聞いて欲しいんだ。別に興味ないけど
『アルルの魔力量はいくつなの?』
『ホーッホッホッホ!私の魔力量は530000です。』
何なのよ。もう、疲れるわこいつ。
『すごーい。じゃあ私が測定する時頼んだわよ!』
『うぃ。』
「魔力量1437pt。前回より60pt上がってますね。」
流石ローレンス様!
『ああ、そうか、メス犬のやつローレンスに忖度したんだ。あっ、今のメス犬はポーリンの事ね。2匹いるからややこしいな。』
酷い!
『メス犬って言うの禁止!名前で呼んでよ!』
『ごめんなさい。』
『ローレンスも抑えてますね。本当は4000くらいです。』
『4千!?そんなに!?でも何で隠すのかしら?』
『メリットがありませんからね。そもそも魔力と強さはイコールじゃないし、あまり振り回されない方がいいですよ。』
そうなの?
「次は・・・シャーロットさんだね。手を測定器に。」
「はい。」
アルル頼むわよ。
「魔力量は104pt・・・ギリギリのラインだな。前回より300pt以上下がってるぞ。体調でも悪いのか?」
「は、はい・・・。」
「そうか、無理はしないように。」
『アルル!どういう事よ!』
『えー、微調整ムズいんですよ。』
もう!100pt割ったら退学なんだからね。
あっ、ポーリンが笑ってる。いや笑われてるのか。くっ。
「シャーロット様、体の体調悪いのに運ぶの手伝ってくれたのか。」
「優しくなったよねー。何かさー、最近のシャロ様ちょっといいわー。」「ねー、私も好きかも。」
!?pt下がったのに生徒たちの評価は上がっている?
『ふっ、計画通り。日頃の行いが良いと何でも良い方に取ってくれるんですよー。』
そうなの?嘘くさいけど良しとしましょう。
「さて、生徒の方の測定は終わりました。従者の方で測りたい方がいればどうぞ。」
何人かの従者が測定を行ったがポーリンやローレンス様を超える数値は出ない。
「他に測りたい方はいませんか?」
「アルルさんて、まだ測定した事ありませんよね?」
ポーリンが話しかけてきた。
「え、ええ、でもアルルはメイドだから魔力なんて無くても、」
「先生ー。アルルさんが測りたいそうですー。」
何言ってるの?
『こっちの戦力見るつもりですかねえ。』
『断ってもいいのよ。』
『いえ、受けますよ。』
『まさか、全力でやるつもり!?53万とか出しちゃだめよ!』
『冗談に決まってるじゃないですか。』
だよね。そんなデタラメな数字。
『自分でも分からないんですよね。魔力大き過ぎて。』
えっ、それって。
「それじゃ手を出して・・・・・・ん?おお、凄いな。」
どしたの?
「魔力量1220pt!」
あれ、ポーリンと同じ数字じゃない?
教室内がザワつく。あの子は何者なの!?と。
『アルル、ワザとポーリンの数値と合わせたわね。』
『ドヤァ!アタシの魔力コントロールは!』
『さっき微調整は難しいとか言ってたよね?どう言う事よ!』
『・・・どうどう、落ち着いて。悪役令嬢に戻ってますよ。スマイル、スマイル。それより、ポーリン見て下さいよ、あの顔!あははは』
ちっ。
ポーリンがアルルを真顔で見詰めている。怖っわ。あっ、私に気が付いて笑顔になった。
見ちゃいけない物見ちゃった感じ。
─── お昼休み 中庭 ───
私とアルルの周りに人集りが。
「アルルさんて、冒険者なんですか?」
「ただのメイドだよ。それよりこのお弁当シャロ様が作ったんだけど皆様もどうですか?」
上手く話題を逸らしてお弁当を勧めている。この為に早朝に叩き起こされ、イメルダと3人で弁当をつくったのだ。そんなに大量に作って誰が食べるのって思ったけど、なるほど、ここまで予想してたのか。
女も男も餌付けして胃袋を掴めば楽勝とか言ってたわね・・・。
「なにこのクマちゃん!かわいい!」
「ラリックマだよ。シャロ様が作ったんですよね?」
「え、ええ、お口に合えばいいのだけれど・・・」
アルルが握ったおにぎり?に私が加工した食材を貼り付けたのだ。味は問題ないだろう。
「シャロ様が作ったんですか!?食べるの勿体ないなあ。」
「じゃあ私が食べちゃお。もぐもぐ。美味しー!?」
「ちょっとずるいわよ!私も、もぐもぐ。んー!見た目も味もバーフェクツだわ!」
人が集まって来た。
「うまそうだな。俺も食べていい?」
「僕のライ麦パンと交換しましょうよー。」
「シャーロット様が握ったモノを食べられると聞いて。はぁはぁ」
すごい、皆笑顔で楽しそうだ。
こんな光景想像もできなかったな。
『シャロ様、渡り廊下からこっちを見てる女生徒の二人。あれってシャロ様の舎弟ですよね?』
舎弟?友達の事?
『ええ、私を裏切った最低のクズね。』
『シャロ様がそれ言うんだ。』
ぐっ。
『こっちに呼んできて下さいよ。』
『いやよ。絶対に嫌!頭を下げて懇願すれば許してあげないことも無いけど。』
『身から出た錆なんだけど、シャロ様はおバカだから言っても仕方ないか。よし、』
アルルが女生徒の元へ歩いて行く。
『ちょっとアルル!何してるの!?戻りなさい!』
『いいから、いいからアタシに任せて。』
何よ、そのウィンク。
何やら話している。あれ私の作ったハンバーガー?あっ、渡した。
二人が肩を震わせて、泣いてる?アルルに抱きついた!何してるの・・・あっこっち見てる。
会釈して走って行っちゃった。
『アルル何話してたの?』
『気になります?』
『べ、別にどうでもいいわ。』
『こっちで一緒に昼食でもどうですか?と誘いました。』
ちっ、余計なマネを。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
『・・・で、彼女たちは何て言ったの?』
『気になります?』
『気になるから早く言いなさいよ!何て言ったの!』
『めっちゃ食いついてくるじゃん。素直じゃないなあ。そう言うところが、』
『もういい!』ぷいっ
『シャーロット様を敬遠してたから合わせる顔が無いと言われました。』
!
『・・・そうでしょうね。』
『だから、シャロ様はそんな事気にしていませんよ。むしろ、ご自分のせいでお二人にご迷惑かけてしまったのでは、と悲しんでおられます。』
こいつ勝手に!
『それでハンバーガー渡して最後のひと押し!シャロ様からの伝言です。・・・ごめんね。でも、いつもあなたたちの事を想っています。ツラい事があればいつでも言って。私で良ければ全力で力になる!と。どうです?彼女たち感動して泣いてましたよ。』
・・・なんかムカつく!
『今会うのは顔ぐちゃぐちゃで恥ずかしいからまた後で挨拶に伺う、だそうです。よかったですね。』
もう彼女たちとは一生言葉を交わすことは無いだろうなって思ってたのに、アルル、あんたってやつは・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
『・・・り・・・がと。』
『え?なんて?』
『ありがとう!!って言ったのよ!バカ!』
『ふふ、どういたしまして。』
「シャーロット様どうかなさいました?泣かれているのですか?目が・・・」
あっ、
「ご、ごめんなさい。みんなと一緒に食事出来るのが嬉しくって・・・あはは。ホントやだ私ったら。」
袖で涙を拭う。
「シャーロット様、うぅ、わ、私も嬉しいてですぅ。これ使って下さい。うわああん。」
ハンカチを差し出して隣の女生徒も泣き出した。それあなたが使った方がいいんじゃない?もらい泣きかしら。
「俺たちシャロ嬢の事誤解していたのかも知れないな。憶測で悪口とか言ってすまなかった!」
男子生徒が頭を下げる。
私の悪口?お前の顔覚えたからな。何て名前だっけ?後で調べて制裁を、
『シャロ様、時計塔のとこ見て。』
え?時計塔?あっ!ポーリンだ。凄い険しい顔してこっち睨んでいる。私に気付くと姿を消した。笑顔を取り繕うの止めたのか。
『めっちゃ睨まれてるしwww殺気ダダ漏れwあれそろそろヤバいッスよ。』
ヤバいって、まさか。
『私に危害を加えようとか思ってたりするのかな。』
怖いわ。
『危害ってか殺す気満々w』
何が面白いの?
─── 午後の授業 ───
『この授業のあと魔法訓練ありますよね?』
『ええ、3人1組でチームを組んで実戦形式で魔法を使う訓練ね。試合場は学園周辺の森だけど・・・まさか』
『取りに来るでしょうね。お嬢様の首を。』
『帰る。早退するわ。』
『ダメに決まってるでしょ。イケガクだと似たようなイベントで悪役令嬢が主人公に卑怯な手(脅し)使って勝つんですけど王子に見破られて罵倒されるんですよねー。』
少し前の私ならやりかねないわね・・・。
『正々堂々勝負するわ。今なら勝てる気がする!』
アルルの血の効果で。
『アタシの血を当てにしてたらごめんなさい。もう効果はほとんど切れてるから。今の魔力量は500くらいです。』
ダメじゃん!
『後で血を吸わせてね?』
『やだよ気持ち悪い。』
気持ち悪い!?酷い!
『今、正々堂々って言ったばかりなのにアタシの血を使って勝とうだなんで・・・恥知らずの名は伊達ではありませんね。』
私そんな名前じゃないよ!
『で、でも!エナジードレインは私の能力だし・・・』
『吸うなら試合中に出場してる人の中で吸って下さい。』
『誰と組むか分からないし・・・。』
『布石は打っときました。チームメンバーは魔力量の多い人と少ない人、中央値の人がバランス良く組む様に先生が調整してます。』
『じゃあ魔力量1位のローレンス様と最下位の私がチームを組むって事!?』
『そゆこと。良かったですね、王子の首にチュパチュパしゃぶり付けますよ。』
言い方!でも王子と組めるならアピールするチャンスかも。
『ちなみに私も出ます。』
はあ?
『あんた使用人なんだから出られないわよ?』
『いやあ、人数合わせで先生に頼まれちゃいまして。』
『断りなさいよ!』
『生徒いたぶるの面白そうじゃないっすかー。』
完全にイカれてるわ、こいつ。
あれ?試合って異なる場所で同時に3試合するのよね。
『私と試合のタイミング被ったら誰が私を守るのよ。』
『ローレンスが守ってくれますから。大丈夫ですって。』
あなたボディガードよね?
ローレンス様とチームを組む事になるなんて、これは絶対に勝たなくては。
─── 魔法訓練 ───
学園の外にある建屋に移動。魔力測定や個々の特性をもとにチームが決められていく。
Aチーム
ローレンス様、ポーリン、ポーリンの従者
・・・・・・・・・。
Fチーム
アルル、私、サクス
『ちょっとアルル!どう言う事よ!話が違うじゃない!』
『やられましたねえ。教師を引き込んだのか魔法の力なやのかは分かりませんけど操作されたようです。なるほど・・・吊り橋効果とでも言うんですかね。共闘に勝るもの無しか。でもこのメンツなら命の獲り合いは無いでしょ。』
『くぅぅ、ローレンス様には悪いけど絶対に勝つわよ!アルル、血を吸うからトイレ行きましょう。』
『え、嫌ですけど。』
こいつ!
『じゃあさっきみたいに一滴ちょうだい。先っぽからピュッと出た濃いやつ舐めさせて!』
『最低ですね。この変態令嬢が。』
side ポーリン
「ローレンス様と御一緒出来て光栄です!足を引っ張らないように私頑張ります!ねっ、イルガ。」
「・・・ああ。」
このARを持った子の名前はイルガ。私の従者兼暗殺者だ。
4年前私が王国の外でレベリングをしていた際盗賊に襲われた事があった。秒で返り討ちにしたが、1人後方からしつこく魔法の矢を放つ者がいた。場所を悟らせないように移動しながら矢を射続ける敵に興味を持ち生捕りしてみたら私より若い少年ではないか。これがイルガとのファーストコンタクトであった。
話を聞くとスラム出で物心付く頃には窃盗、魔薬の売買をしていたと言う。私がのし上がる為には裏の仕事を任せられる従者が必要だ。魔力適性が高く一般教養の無い少年。丁度いい。私好みの暗殺者に調教してあげよう。ニタァ
以来私の地獄の戦闘訓練と最低限の一般知識を学び殺人マシーンは完成する。以来汚れ仕事は全て任せて来た。シャロの暗殺もイルガにやらせれば良かったわね。まさかサクスがあれほど使えないとは。
「すみません、この子愛想が無くて。」
「構わない。私も無口な方だからな。それよりそれは飛び道具か?」
ローレンス様がイルガの銃を見て言う。
王国の骨董品屋で見つけた時は驚いたものだ。私が元いた世界の武器にそっくりだったのだ。
直ぐに試し撃ちしようとしたのだが弾が無い。マガジンは外れず途方に暮れているとイルガが
「貸して。」
思えば私に意見を言ったのはあれが初めてかもしれない。
イルガに銃を貸すとスムーズに射撃準備姿勢に移行。私の殺気で飛び立つ鳥を魔力の弾丸で正確に撃ち抜いたのだ。
以来イルガは常にこの銃を持ち歩き仕事は無いかと頻繁に聞いて来るようになった。人や魔物を撃ちたくてたまらないらしい。
今回、流石に殿下の前でやらせるわけにはいかないが四肢を狙う事は許可してある。
苦痛に歪むシャロの顔を見るのが楽しみね。
「私が前衛でサクスを抑える。君とイルガ君は後衛でシャーロットとアルルを牽制して欲しい。どうかな?」
サクスとローレンス様は剣士だから当然そういう作戦になるだろう。想定内。
「了解です!イルガ頑張ろうね!」
「・・・ああ。」
ボロが出ないようにイルガにはこの単語?意外話すのを禁じている。元々何も話さないが。
さあメス犬!ショータイムよ!悲鳴の様な鳴き声を聞かせてちょうだい!
あはははははははははは!