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15話 悪役令嬢は〜 3



─── 翌朝 マーチ家別邸 シャーロット私室 ───


knock knock

「シャロ様、おはようございます。朝食の用意が出来ました。」

イメルダ(メイド)の声。もうそんな時間なのね。

「ん、今行くわ。」

さて、顔を洗って?えっ?

何でアルルが寝てるの?

すやすやと寝息を立てる少女。

ズキッ。痛っ、頭痛?珍しい。それに身体が熱いんだけど・・・。

うー、アルルに何かしたっけ?思い出せない。


「ちょっと、起きなさい。アルル。何で私の部屋で寝てるのよ。」

ゆっさゆっさ。

「ん?あっ、シャロおはよう。ふああ。あと5分経ったら起こしてね。スヤァ」

このガキ!ほっぺた引っぱたいてやる。

スースー

・・・・・・無防備で隙だらけじゃない・・・朝食の前にこの子の味見しておこうかしら。

首筋に顔を近づける。

!?

今、何か・・・既視感が。うっ、思い出そうとすると頭痛が・・・。


「おはようございます。シャロ様。」

アルルがいつの間にか起きている。

「お、おはよう。あなたが私と寝るなんて許可した覚えないんだけど・・・変な事してないでしょうね?」


「そんな・・・酷いです。忘れちゃったんですか?心細いから一緒に寝て欲しいって言ってアタシをベッドに連れ込んで、あんな恥ずかしい事を、アタシに・・・ふえぇ。」

えっ!?嘘でしょ!?全然覚えてないけど、無意識に悪い癖出ちゃった?

「そ、そうだったかしら、悪かったわね。あっ、私朝食を食べてくるから。部屋から出る時は誰にも見られないように注意して。」

「はあい、ごゆっくりー。スヤァ」

また寝るの!?こいつ、何なのよ・・・。


食堂に行くと、

「おはようございます、シャロ様。本日の朝食は御屋敷で、との事です。」

本邸で?何かしら。嫌な予感がする。


「まーた眉間にシワが寄ってますよシャロ様。スマイルスマイル、もぐもぐ」

アルル!いつの間に。って何食べてるの?

「イメルダに作ってもらったんだ。ハンバーガーって言うんだけど食べます?」

手づかみで食事するなんて、頭は良いけど、ちゃんとしたマナー教育は受けていないようね。

「遠慮するわ。」

「そうですか。イメルダ、これとっても美味しいよ。また作ってね!」

「う、うん。アルル。」

メイドと仲良いのね。イラッ。

「アルルはここで待ってなさい。」

「一緒に行きますよ。面白そうだし。」

「絶対に駄目よ。」

「・・・イメルダ、あのね、昨日の夜、」

「早く行くわよ!」

「イエス!マム!」

ああ、もう!!



─── マーチ家 本邸 食堂 ───


「おはようございます。お父様、姉様。」

「ああ。」

食堂にいるのは父サミエルとキャシー姉様の2人。と側使えのメイドが2人。

『シャロ様のお父様ってイケオジですね。』

イケオジ?

『気が散るから黙ってて。』

『はあい。』

椅子に座ると食事が運ばれて来る。

「一緒に朝食なんて何ヶ月ぶりかしら?元気そうね。」

「おかげさまで。」

「元気なのはいいけれど、はしゃいで家名に傷を付けないように。」

「はい、留意します。」

『怖っわ。シャロ様よりキツそう。こりゃモテないわ。ねえねえ、シャロ様もそう思いますよね?てか、シャロ様どうしたんです?いつもの毒舌は?借りてきた猫ちゃんみたいになっちゃってますけどwウケるーw』

『もう!本当に黙って!』

『はあい。』


「今日呼んだのは他でもない、学園長から連絡があってな。ギルドのクエストで偉業を成したそうではないか。良くやってくれた。誇らしいぞ。」

あの父様が私の事を認めてくれた?

「でだ、公爵家の令嬢として箔も付いた。今が最高のタイミングだと思うのだ。」

!?

「カスティル公爵家に嫡男アーネスト卿との婚姻協議を申し込んだ。先方はお前の事を気に入っている様だからな。ほぼ決まったと言っていいだろう。おめでとう。」

・・・・・・・・・あぁ、終わった。何もかも。

「良かったじゃない。あそこお金だけはあるからね。」

「キャシー、口を慎みなさい。」

ペロッと舌を出す姉。

姉が近くに来て耳打ちする。

「でもアーネスト様は本物の変態で奥さん何人も〇してるんだってwそれを家の力で揉み消してるらしいわ。あんたも〇されないように気をつけなさいねwあっはっはっはっはっ。」

・・・姉の声が遠くに聞こえる。結果を残しても駄目だった。

あのキモいおっさんの玩具になって使い潰されるんだ。もう、全てがどうでもいい。

それから父と姉が婚約やら結婚の持参金がどうとか話していた気がするがよく覚えていない。別邸へ戻った頃には登校時間を随分過ぎていた。自室へ。学園かあ。もう行かなくてもいいや。


「・・・お嬢様、おーい。」

はぁ、もう部屋から出たくない。死ぬまで引き篭もりたい。


「転移。」

シュン。


「皆揃っているな。では授業を初める。」

え?ここ、教室!?


「あれっ?シャーロット様、いつお見えになったのですか?」

隣の生徒が小声で話しかけてくる。


「ずっと居ましたよ?どうして?キッ」

軽く睨む。

「あっ、すみません。僕の気のせいでした。」


『アルル、あなた何してくれてるの?』

『遅刻しなくて良かったです。』

『もう、どうでもいいのよ。』

『皆勤賞狙ってたのに?』

狙ってない。

『・・・あなたも聞いてたでしょ?もう学園でどれだけ優秀な成績を納めても全てが水泡に帰すのよ。』

あっ、涙が。

机に突っ伏して涙を流す。

悔しい、どれだけ頑張っても親の敷いたレールから抜け出す事は出来ないんだ。服従か死か・・・この絶望から逃れるにはもう・・・。

うう・・・うぅ・・・


『なに泣いてるんです?そんなんじゃ愛され女子にはなれませんよ?』

『・・・そんなの、もうどうでもいいわ。皆に好かれても状況は何一つ変わらない。むしろ私の価値が上がって相手が喜ぶだけよ。』

『良い人かもしれないじゃないですか。決めつけは良くありませんよ?』

『あんないやらしい顔した豚が紳士なわけないじゃない!豚の皮を被った豚よ!』

『いやいや豚を悪く言うのは止めて下さい。あんなに可愛くて美味しい生き物めったにいませんよ?』

『あんたと話してると頭が痛くなるわ。もうどこか行って。二度と見たくない。』

『はあい。』

軽い・・・。




── お昼休み ──


生徒たちが私をチラ見しながらヒソヒソやっている。婚姻の話、もう拡がっているのか。貴族というのは退屈が耐えられない生き物なのだ。噂はあっという間に広がる。

取り巻き連中も私から距離を置いている。従者もいない。一人ぼっちだ・・・。

いたたまれなくなり外へ出てベンチに座る。居場所が何処にもない。はぁ・・・。

ぐうううう。お腹が鳴る。

そういえば朝食はほとんど手を付けていない。食堂に行こうにもお金も持っていない。いや、持っていても今は行きたくない。さらし者になるだけだ。はぁ・・・。


「シャーロット様?こんな所で昼食ですか?」

「ポーリン・・・さん。」

無様な私を笑いに来たの?

「私いつもここで食べてるんですよ。」

あっ。

「ごめんなさい。私教室に戻るから。」

「待って!あの、一緒に食べませんか?」

「遠慮するわ。私と一緒にいるとロクな事にならないわよ。」

「そ、そんな、」

「じゃあね。」

ポーリンが何か言っているが無視してその場を去る。



── 女子トイレ ──


うう・・・家に帰って引き篭もりたい。


『ポーリンさんがせっかく誘ってくれたのに何で断っちゃったんですか?』

アルル!?

『主を置いてどこ行ってたのよ!家に帰るから早く転移して!』

『えー、二度とツラ見せるなって言ったのシャロ様なのに。』

『良いから早く!』

『はいはい。あっ、その前に手は洗ってくださいね。』

シャー パシャパシャ キュッ フキフキ。

『洗ったわよ。』

シュン。


ビュー

風が・・・。

ここって学園の屋上?

『ちょっと、私は家にって、』

「はい、お弁当。」

バスケットを渡される。

「何よ、これ。」

「お弁当、アタシとイメルダの合作ですよ。早く開けて開けて。」

・・・。バスケットを開ける。

これって。朝アルルが食べてたやつじゃない。確か、

「ハンバーガーですよ。早く食べて食べて!」

うえ!?手で食べるの?

無言でうなづいてる。はぁ。

「・・・いただきます。」

パクッ・・・

!?

「んん!?」

何この味!

「バーベキュー味だよ。」

何よそれ。よく分からないけど牛肉とチーズとトマト、野菜がソースと混ざりあって・・・すごく美味しい!

「ねえ、どう?美味しい?美味しいよね!」

ちょ、顔近い。

「・・・ま、まぁまぁね。」

「やった!ポテトも食べて!」

これは芋?揚げてあるのか。

パクッ

わっ!?

美味しっ!芋を揚げただけなのに・・・塩が効いてて美味っ!

「コーク飲んで!コーク!」

何この濁った水。泡が湧いてるけど大丈夫なのかしら。

アルルがキラキラした目で見つめてくる。わかったわよ!

ごくごく

んー!?何これ!甘くてスパイシーで喉がシュワシュワして不思議な味。癖になりそう。

けぷっ、あっ、げっぷしちゃった。はしたない。

「今の一連の流れを繰り返すのがこの料理の作法なの!私のマネしてやってみて!」

あんたも食べるんだ。


「ハンバーガーを食べる。」

もぐもぐ

「ポテトをつまむ。」

もぐもぐ

「コークで流し込む。」

ごくごく・・・けぷっ

「最っ高!!」

美味い!このコークとか言うの癖になるわね。げっぷが出るのがいただけないけど。食べたら少し元気出た。


「ごちそうさま。美味しかったわ。」

「帰ったらイメルダにも言ってあげて下さい、喜びますよ。」

「そうね、帰ったら、ね。もう授業が始まるから行くわよ。」

「おっ?・・・いってらっしゃい。アタシはお昼寝してますね。」

「はあ?あんたも来るのよ。」

「だってさっき、」

「アルルは!・・・私のボディガードなんだから、一緒にいてくれないと、困る・・・」

「あはっ、りょーかい。」


諦めるのはやる事を全てやった後だ。



授業を受けていると

『あっ、言うの忘れてた。シャロ様を置き去りにした冒険者を拷問して首謀者割り出しましたよ。』

ガタンッ!

「シャーロットさん?どうしました?」

あっ、思わず立っちゃった。

「・・・いえ、何でもありません。」


『どういう事よ!いつの間に調べたの!?』

『どうどう、落ち着いて。昨日の夜少しね。』

ああ、こいつに常識なんて通用しないんだった。

『爪剥いだ程度である事ない事ペラペラペラペラ。』

つ、爪!?

うっ、想像しちゃった・・・

『そんな事したら報復でまた、』

『大丈夫ですよ。次お嬢様に手を出したら終わりなき苦痛を与え続けるって釘刺しときましたから。あっ、実際に刺しましたけどね。あはは』

何が面白いの?


『そ、それで首謀者は誰だったの?』

『サクス・ダウセット伯爵です。』

!?

『ローレンス様のご友人ね・・・』

それで今日は休んでいるのか・・・。

『おや、知ってましたか。友人として王子の未来を案じての凶行だったようですね。あの恥知らずのメス犬が王子の周りをうろつくだけで反吐がでる!だそうです。相当嫌われてますね。』

そんなに!?

『さ、サクス伯爵本人に聞いたの?あなた話し盛ってない?』

『本人拷問して聞いたから間違いないです。』

『ご、拷問!?拷問したの!?伯爵を!?死罪確定よ!』

『大丈夫大丈夫、バラしたら一族郎党根絶やしにするって釘刺しといたから。実際刺しましたけど、あはははは』

だから何が面白いの?ゾッとするわ。

『あと、サクスのやつ、ローレンスと恋仲だったようですね。彼氏を恥知らずなメス犬に寝取られるんじゃないかって妄想に捕らわれていたようです。』

へっ恋仲?・・・また恥知らずなメス犬って言った!

『ローレンス様は男性の方が好きなの?』

『両方いけるクチみたいです。学園に入ってからはサクスだけみたいですけど。まあ、サクスの奴がローレンスに近づく生徒を脅したり消したりしていたという背景もありますが。』

とんでもないやつね。


『それじゃあ私とアーネスト卿との婚礼にも関係しているんじゃ・・・』

ローレンス様から遠ざける為に画策していたとしたら。

『それは無いですね。シャーロット様を殺そうとした事は認めましたがマーチ家やカスティル家とは連絡は取っていないそうです。』

『本当かしら。怪しいわ。』

『目をくり抜いたり家族を脅しの材料に使って追い込んでからの証言なので嘘は言ってないかと。』

あなた本当に何してるの!?

『アルル、まさかあなたサクス様殺してないわよね?』

『体はピンピンしてますよ。ただ精神はかなり疲弊してるからアタシやシャロ様の顔見たらショック死しちゃうかもwあはははは』

笑えないんだけど?それに私は関係ないから!


『整理すると私とローレンス殿下の恋仲を邪魔する者は排除出来たが早急に何らかの手を打たないとアーネスト卿との結婚が決まってしまい取り返しがつかなくなる、と。』

『大体合ってますね。』

薬草の一件で私の好感度は上がっているがローレンス様を振り向かせるにはまだまだ足りない。どうしたら・・・時間はかかりそうだけど、なるしかないのか。

愛され女子に。


『アルル、あの計画を進めましょう。まずは何をすればいいの?』

『あの計画って、恥知らずなメス犬シャーロット愛され女子化計画の事ですか?』

はぁ・・・・・・。

『それよ。どうしたら皆に好かれる様になれる?お願い、教えて。』

『あらら、すっかり汐らしくなっちゃって。』

もうなりふり構っていられないわ。

『そうですね、まずはポーリンさんに謝罪するところから始めましょうか。』

謝罪?

『今更謝ってどうなるって言うの。許してくれるわけないじゃない。』

あれだけ酷い事して許してくれるやつがいるなら、それはもう・・・




─── 放課後 魔法準備室 ───


「シャーロット様の心からの謝罪受け入れました。これまでの事は忘れましょう。」


聖女様・・・。


「あなた、それでいいの?私あなたに酷い事ばかりしてきたのに・・・。」

「こんな日が来るのを待っていたんです。だから私嬉しくて、シャーロット様が反省してるならそれでいいんです。また初めからやり直しましょう。」

ポーリンさん・・・あなた天使なの?

「ポーリンさん・・・うぅ、うわああああん、わたし、わたし、うわああああん。」

感極まって抱きついてしまった。ポーリンさんが私の頭を優しく撫でてくれ。私はこんな天使にあんな酷い事を・・・。

「ごめんなさい!馬鹿な事してごめんなさい。うわああああん!」

「うん、思いっきり泣いていいんですよ。スッキリしますからね。」

「あ、ありがとう。」

あっ、ポーリンさんの髪いい匂い。くんかくんか。やだ、ドキドキして来ちゃった。こんな時に私ったら・・・。でも、いいよね?ちょっとチクッとするけど痛くないから。少しだけなら、味見していいよね!

細い首に牙を突き立てて


スパァン!

「きゃあ!」お尻痛った!

「何どさくさに紛れて吸血しようとしてるんですか。やはり性格は直ぐには変えられませんね。あー、シャロ様みたいな人なんて言ったかな。ここまで出かかってるんですけどねえ・・・。」

アルル!

「アルルさん、いつから!?」

「ずっと廊下に居ましたよ。不穏な空気を感じて駆けつけました。この人ポーリンさんの血を吸おうとしてましたよ?」

何バラしてんの!?

「シャロ様そうなんですか?」

せっかく仲直り出来そうだったのにアルルのやつ!いや悪いのは私か。

「言ってくれれば・・・私の血で良ければ・・・」

顔を真っ赤にしてうつむいている。か、可愛い!これが愛され女子なのね!

「甘やかしちゃ駄目ですよ。この人すぐ調子に乗るから。」

「そんな事ないわ。私と数日しか過ごしてないあなたに何が分かるの?」

「えっ?シャーロット様とアルルさんて付き合い長いんじゃ・・・」

「会ったの2日前だよね。気に入られてメイドになったんだけどシャロ様ったら夜な夜な私の部屋に侵入して、」

「わあああああああああ!」

アルルの口を手で塞ぐ。

『変な嘘付かないで!』

『えー、ホントの事・・・あっそうか、記憶が。』

アルルの部屋になんか行ってない。行ってないのに何でこんなドキドキしてるのよ!?


「ふふっ。2人とも仲がいいんですね。雰囲気は違うけどまるで姉妹みたい。」

「だってさシャロ。アタシの事アルル姉様って呼んでいいよ。」

「私が姉に決まってるでしょ!あんたまだ子供なんだから。」

「どこが?」

「どこがって、い、色々よ・・・」

「胸とか?」

「む、胸!?」

「どうやったら大きくなるの?」

「知らないわよ。」

「シャロのおっぱい触っていい?」

「駄目に決まってるでしょ!」

「アタシなら別にかまわないけど。触って良いよ。ほれ」

胸を押し当ててくる。

「止めなさい!女の子がはしたない!コラ!近づくなー!」

「あははははは、もう、止めて。シャーロット様のそんな姿、ぷっ、あははははは。」

ポーリンが笑ってる。この子こんな顔で笑うんだ・・・。うっ罪悪感が。

「笑って貰えて良かったですね、シャロ様。」ニコッ

こいつ、ワザと・・・。

『礼は言わないわよ。ああいう破廉恥なのは私嫌いなの。』

『シャロ様ってムッツリスケベですよね。すまし顔してるけど頭の中はいやらしい事でいっぱい。』

なっ!?何を言ってるのこの子!?


『今夜も可愛がってあげるからアタシの部屋ノックして下さいね。』


ドキドキドキドキドキドキ

心臓が必要以上に脈打っている。なんで!?

今夜もって、私アルルの部屋に行った事なんか・・・ズキッ 頭が痛い。


「シャーロット様?どうかしましたか?」

ポーリンが心配そうに見ている。

「い、いえ、何でもないわ。それより、私たち、と、友達って事でいいのかしら?」

言っちゃった!

「もちろんですよ!シャーロット様は友達です!」

パァァァァァ

その笑顔はまるで暗雲に光が差したかのような神々しさで・・・。


「私の事はシャロって呼んで。敬語はいらないから。」

「え、そんな。私の憧れの人を呼び捨てなんて。」

憧れですって!?

「シャロ様嬉しそうwww」

「アルルは黙ってて!私の事友達って認めてくれるなら、お願いポーリン。」

「・・・ずるいなあ。そんな言い方されたら断れない。・・・うん、わかったよ、シャロ。これからも宜しくね。やー、照れちゃう。」

真っ赤になって手で顔を覆っている。可愛いなあ。


ポーリンみたいな子になれたら、きっとローレンス様だって私の事見直してくれるかもしれない。上手く行けば選んでくれるかもしれない!・・・そうなれば・・・いいな。




side ポーリン


なーんて事考えてそうねシャロのやつ。選ばれるわけないでしょ?あはははは。ローレンスは私に惚れてるんだから、何をやっても無駄よ。私の事散々イジメておいて今更手のひら返しなんて許すわけないでしょ?あの屈辱は絶対に忘れないからなシャーロット。


1週間ほど前サクスの取り巻きにシャロがローレンスを狙っていると言う噂を流した。サクスの奴、数日後に行われるギルドとの合同授業を利用して知り合いの冒険者をシャロのパーティに潜り込ませ暗殺を画策していたようだけど失敗。小娘一人始末出来ないなんて呆れるわ。

しかもシャロが上級クエストを達成すると言う奇跡が起こってしまう。腹立たしい。

やはりゲームの様に思い通りには行かないなあ。


しかしピンチはチャンス、とは良く言ったものだ。私はそれを利用した。シャロが大量の薬草を薬品局へ送ったと聞き、局の知り合いへ連絡。こう言う時の為に横の繋がりを作っておいて大正解。局の人間を誘導、学園長、マーチ家へと今回のクエストの功績が伝えられていった。シャロの政略結婚を望んでいたマーチ家としてはこのチャンスを逃すはずがない。しかも相手はカスティル家の変態アーネスト!笑いが止まらない。回避する為に色々やってるみたいだけど大丈夫、私が絶対に成功させてあげる。あはははは。ローレンス様の事は私に任せてあんたはあの豚と死ぬまで子作りしてな。あははははは。

ヤバい。笑いが止まらない。顔を手で覆いかくす。


!?

アルルがこっちを見て笑っている。背中を汗が伝う。何よ、その見透かしたような目は。

「どうかしました?」

「シャロ様をよろしくね。」ニコッ

「こちらこそ。」

気のせいか。

最近シャロの従者として登校している女。常に気配を消している。学園で気づいているのは私くらいか?恐らく盗賊のスキルだろうが、かなりの手練だ。

シャロがカスティル家に嫁いだ際は拾ってやっても良いかもしれない。可愛い顔してるし。


「そういえばポーリンさんはギルドのクエスト何を選んだんですか?」

「私は鉱石の採集だったんですけどモンスターに阻まれてしまって。逃げ帰って来ちゃいました。」てへっ

「へー、でもポーリンさんならこの辺りに驚異になる様な敵はいないはずなんだけどなあ。ま、いっか。」

!!?

「わ、私の事買いかぶりすぎですよー。」

マジで何者だ?


私と同じ転生者か?


警戒レベルを引き上げる必要があるな。




─── 回想 ───


前世、私は16歳で命を失った。病弱だった私は小学校を卒業してから家と病院を行ったり来たり。私の治療費を稼ぐため両親は共働きで帰ってくるのは深夜だったり。

可哀想に思ったからなのかどうかは知らないが誕生日の日にゲーム機を買ってくれたんだ。ソフトは友達が持って来てくれた。好んでプレイしていたのは恋愛シミュレーションゲーム。中でも中世の魔法学園を舞台にした【イケメン学園 ~恋の魔法を君に~】通称イケガクにハマり朝から晩までプレイし、ノートに攻略記録をつける程ののめり込みようだった。学校生活や恋愛の雰囲気を少しでも体験したかったのかもしれない。ゲームをやっている間は現実の辛さを忘れる事が出来たからね。


入退院を繰り返していたが自宅でイケガクをプレイ中に吐血。コントローラーやゲーム機には血がベッタリと付き紅く染まっていたという。仕事から帰ってきた母親がすぐに救急車を呼び病院へ運ばれるも意識が回復する事は無く16年の短い生涯を終える。イケガク14周目メインヒーロールート攻略を目前にした悲劇であった。


そして何故かゲームによく似た設定の世界観やキャラが出てくるこの国の貴族に転生したのである。絶大な魔力を持って⋯。

これはきっと神様が与えてくれた第2の人生なんだわ!舞台の幕が開きスポットライトが今私に当てられている!


そう解釈した私は幼い頃から将来を見据え魔力の研究に没頭する。私の家は吹けば飛ばされるような弱小貴族、奇しくもイケガク主人公と似たような境遇に置かれてしまった。これはもう魔法学園で王子を攻略するしかないじゃない!

目標が出来た私は近所の同年代のガキが棒きれで遊ぶのを尻目に魔力の研鑽をひたすら積み重ねる。現代知識も手伝って晴れて王国一の難関校に合格。あとは王子を射止めるだけ・・・



と言う所で出てきたのがこの女シャーロット・グレイス・マーチだ。ゲームでも必ず出てくる脇役の意地悪生徒。私の魔力があれば雑魚悪魔のシャロなんてワンパン余裕だったけど、攻略をシンプルかつ確実にする為あえて嫌がらせを受けていたのだ!

入学する前、いえ、前世からあんたの攻略パターンは何十通りも想定しているんだから。残念だったわね!ホーッホッホッホ!

あらやだこれじゃ、あの女みたい。

シャーロットあんたみたいな意地悪キャラをなんて呼ぶか知ってる?主人公の邪魔をして最後には消えて行く。


「それじゃあ、シャロ様帰りましょうか。」

「ええ、ポーリンまた明日。」

シャロが手を振っている。

「ごきげんようシャロ、アルル。」ニコッ

シャロ、あなたの絶望する姿を想像したら笑いが込み上げて・・・くふふ、いけない、爽やかな笑顔を貼り付け手を振る。


あなたみたいなキャラをね、プレイヤーはこう呼ぶの。


「あっ、ポーリンさん見てたら思い出した。」



悪役令嬢よ。

「悪役令嬢だ。」



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