14話 悪役令嬢は〜 2
─── フォルメキア魔法学園 正門 ───
「シャーロット様ごきげんよう。」
「ああ。」
「シャーロット様おはようございます!」
「・・・はよぅ。」
「おはようございます。シャーロット様、気持ちのいい朝ですね。」
「ああ。」
登校する生徒たちが挨拶をしてくる。コイツらの中に裏切り者が・・・。
スパァン!
「きゃん!?な、何!?」
お尻を叩かれた!?ジンジンする。
『シャロ様朝っぱらからそんな眉間にシワ寄せてどうするんですか?リラックスリラックス。』
アルルから念話が飛んでくる。
『わ、分かってるわよ。でも命狙われてるのよ。気を張っていないと不安で不安で。』
『何の為に私がいるんですか?警備は任せて下さい。学園の敷地内の生物はアリンコからドラゴンまで全て把握出来てますから。』
どうやって!?魔法かな?てか、ドラゴンいたらマズイから。
『それと、ちゃんと挨拶してください。お友達を朝から不快な思いにさせてどうするんです?』
『こっちは疑心暗鬼で挨拶どころじゃないわよ。それにコイツらは私の肩書きに挨拶してるだけで私が挨拶したところで・・・』
スパァン!
「きゃふっ!?」
痛ったーい!
『言い訳したらまた叩きますから。』
何なのよ!ボディガードが依頼人にダメージ負わせるなんて聞いた事ないわ!
「シャーロット様おはようございます。」
「お、おはよう。」
「シャーロット様ごきげんよう。」
「ごきげんよう。」
お尻が痛くてたまらない。仕方なく挨拶をしていく。
『いいですね。笑顔を忘れずに。』
くっ、こうか?
『あははは、酷い顔!あっ、違った。素敵な笑顔ですよ。その調子!』
このガキ!
アルルの奴後ろを付いてきてるのに表情とか分かるのか。
今彼女は私の侍女と言う設定だ。この学園では最大二人まで従者の帯同が許可されている。常に対象者を監視出来る為警備兵を連れている生徒も多い。
まさかアルルが冒険者だなんて誰も思わないだろう。
─── 昨夜 ───
『凄いホントに聞こえるわ。』
通路を隔てた客室からアルルの声が聞こえる。念話と言う魔力を使った通信手段らしい。
『何かあればこれでアタシを呼んで。』
『アルル来て!』
「今は呼ばなくてもいいから。」
わっ、アルルが現れた。転移魔法だ。任意の場所に自由に移動出来る超高等魔法。王国の宮廷魔術師でも魔法陣の描かれた特定の場所しか飛べないらしいがこの子は行った所なら何処でも飛べるとか。アルルの場合魔法では無く魔力による空間転移と言っていたがデタラメだ。
ダイニングルームにて。
「でも命を狙われるって貴族も大変ね。心当たりは?もぐもぐ」
食事を取りながら今後の話をする。
「あり過ぎて絞りこめないわ。」
取り巻きの連中だって何を考えているか・・・
「あはは、シャロって、もぐもぐ、性格キツそうだもんねー。もぐもぐ」
「ち、違うわ!・・・学園には王国第3王子のローレンス様が在席しているのだけれど、殿下と私が懇意にしているのを妬んでいる生徒が多いって事よ。私の性格は関係ないわ!」
「そうなの?もぐもぐ、その、もぐもぐ、ローレンス様ともぐもぐ、結婚するの?」
「けっ、結婚!?それは、まあ、そうなるでしょうね。私の事気に入ってくれてるみたいだし、私だって出来る事なら」
「あははっ、顔真っ赤になってるよ。もぐもぐ、シャロかわいい、もぐもぐ」
か、かわいい!?
「からかわないで!ていうか話すか、食べるかどっちかにしてくれない?明日から私の侍女になるんだから主に恥かかせないでよね。」
「ごめんごめん、もぐもぐ、ここのご飯美味しくって。もぐもぐ」
こいつ、不安しか無いわ。
「侍女って言っても護衛が主な仕事だからアルルは私の後ろに黙って付いて来るだけでいいのよ。」
「はーい、もぐもぐ。」
・・・軽い。
「あなた冒険者ならランクとかあるはずよね?教えて貰ってもいいかしら?」
一応どの程度の強さなの確認しといた方がいいだろう。
「ランク?ランクかあ。もぐもぐ、何だったかなあ、神話級?とか?」
何いってるのこいつ。
「違うわよAからFのランクがあるでしょ?カードに記載されているはずよ。」
「カードね、はい。」
渡されたカードを見る。こんなギルド聞いた事無いけど、アルルは外から来たみたいだし。ランクの欄にヒヨコ冒険者とある。
何なのヒヨコって。
星マークが10個並んでいるが塗られているのは1つ。
「何よこれ?あなた新米冒険者なの?」
「んー、ああ、クエストとかやった事ないからなあ。もぐもぐ、飼い猫探したくらいだし。もぐもぐ。」
大丈夫なのかしら。胃が痛くなって来たわ。
「とにかく不審者がいればすぐ教えて。」
「分かってる。安心して、シャロには指一本触れさせないから。ニヤッ。」
ゾクッ、また邪悪な笑み。
「た、頼んだわよ。それと学園内では敬語を使ってちょうだい。侍女なんだから。」
「オッケー、もぐもぐもぐもぐ」
・・・軽い。てかいつまで食べてるの。
─── 教室内 ───
「シャーロット様、昨日の探索はどうでした?」
「もちろん成功したわ。ほら。」
バッグからホワイトスナップを取り出し見せつける。
「すっごーい!あのドラゴンの巣を抜けるなんて!」
「信じられません、実物見たの初めてです。キレイ・・・」
「流石シャーロット様!私たちに出来ない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる、あこがれるゥ!」
取り巻きの連中が一斉にはやし立てる。
一方、
「どうせ、冒険者に取ってこさせたんだろ?ヒソヒソ」
最終的にはそうね。
「買ったんじゃない?ヒソヒソ」
売ってなかったわ。
「別にC級D級の依頼でも良かったのに。見栄を張っちゃって馬鹿みたい。」
悪い?羽虫共の嫉妬が最高に気持ちいいわ!
「ドラゴンに食べられちゃえば良かったのに・・・ヒソヒソ」
!!?
『アルル!今私の陰口叩いた奴覚えておいてね。怪しいわ。』
『えー、教室内の半数は良く思ってないみたいですよ。』
嘘?なんで?私って人気無いの?この薬草は万病に効くのよ?英雄の様に崇めるのが当然でしょ。
ざわ...ざわ...
通路がざわついている。来た!!
ローレンス殿下が教室に入ると女子たちが取り囲み色めき立つ。
私の取り巻きが人混みを掻き分ける。
「退きなさい!シャーロット様が通られるわ。あなたたち邪魔よ。」
空いたスペースを優雅に歩き殿下の前へ。
「ごきげんよう。ローレンス殿下。昨日は害獣討伐に行ってらしたと聞き御身を案じておりました。御無事で何よりでございます。」
私と同じBランクのクエストを受けたと聞いた。怪我が無くて良かったわ。あら?渋い表情。
「ああ、クエストは失敗したがな。」
えっ、失敗?腕利きの冒険者と一緒だと聞いたけど。
「巣穴の近くまで行ったが逃げられた。いやそれより標的どころかシスガウ山脈に生息する魔物や生物が一斉に消えたのだ。夜中に起きた黒い稲妻と何か関連があるのかもしれないな。」
シスガウ山脈って私の探索ルートの近くだけど・・・まさかね。
昨晩の爆発も被害が皆無だった為政府が動く気配はない。
「あっ!それ俺も見ました!空に向かって光が走ったと思ったら爆発して一瞬昼間のように明るくなって・・・あれは何だったのでしょう?」
「私も見たよ。あんな凄い爆発なのに被害が無かったんだよねー。ホント不思議!」
「戦略級の集団魔法でもあんな威力無いぜ。街に落ちてたら大惨事だったよな。」
口々に昨晩の現象について話し始める生徒たち。
チラリ
教室の隅にいるアルルを見る。あっ目を逸らした。
ガラガラガラ
先生が来たわ。皆席に着く。
「えー、昨日は社会学科で冒険者のクエストを体験する日を設けた訳だが、どうだったかな。成功した者挙手を。」
私と難易度の低い依頼を受けた生徒数名が手を上げる。
「・・・6、7人か。26名中、成功したのは7名と言う結果です。どうかな、冒険者の大変さが実感出来たかな?一部では冒険者の事をならず者だと呼び蔑む者も居る様だが王国の為に尽力してくれているのを肝に銘じるように。えー、では、クエストが成功した者は結果を第四演習場にいるギルドの方へ報告して来て下さい。報酬が貰えますよ。」
私と生徒数人が席を立つ。
はぁ、ローレンス様と御一緒したかったわ。
悪目立ちみたいな感じになってるし。
─── 演習場 控え室 ───
部屋へ入るとノッポのおじさんと妙齢の女性が椅子に座っている。あれがギルドの人か。
「腰を下ろして楽にしてくれ。私はギルドの鑑定員のホッブスだ。まずはクエスト達成おめでとう。君たちの様な若者が冒険者になってくれれば我がギルドも安泰なのだがな。ハッハッハ。ギルドは今人手不足なんだ。どうだ、お試して入ってみんか?今なら支度金として金貨が・・・」
「ホッブス、勧誘は後。先に鑑定を。」
職員の女性にたしなめられた。
「あ、ああ。そうだったな。すまん、ついな。ゴホンッ、それじゃあ成果を見せて貰えるかな。」
生徒たちが薬草や鉱石、モンスターの爪や角などをテーブルに広げる。
「ふむふむ、いいじゃないか、いいじゃないか。こう言うのでいいんだよ。」
おじさんが鑑定のスキル?で調べているみたい。
「これを取って来たのは?」
あれは獣の牙かしら。
「俺だ。立派な牙だろう。」
「残念ながら認められんな。これを採取したのは5年以上前だ。依頼書には今現在暴れているモンスターの討伐とある。不正はいかんぞ。」
「う、嘘だ!討伐したと冒険者の奴が!はっ。」
「ふむ、どうやら騙されたようだな。その冒険者の名前を教えてくれるか?おそらく盗賊、野党の類いだろうが念の為にな。」
生徒はガックリと肩を落として退出して行った。
「さて、お次は・・・おいおい、こいつぁホワイトスナップかい?ここまで状態のいい物は滅多に入ってこないぞ。良くやった!すぐ薬品局に納入しよう。」
「ありがとうございます。」
ふふ、褒めらちゃった。
『シャロ様、その薬草もう少しありますが出しましょうか?』
後ろに控えているアルルから念話が入る。
『そうなの?早く言ってよ。この薬草は薬品局が喉から手が出るほど欲しがっているの。構わないから全部出して。』
『了解。出しました。演習場までお願いします。』
ここに出せっての。
「あの、薬草もう少しありますがご覧になりますか?」
「そうなのか!?勿体ぶらず見せてくれ!」
ギルドの2人と演習場へ。
扉を開けると。
「な、なんじゃこりゃああああ!!」
ギルドのおじさんが叫ぶ。そりゃ叫びたくもなるわ。そこには演習場の床が見えないほど高く積まれた薬草の山が・・・。
アルルを睨みつける。あっまた目を逸らした。
「ぱっ、パメラ。鑑定して貰えるか。」
「は、はい。・・・ホワイトスナップ、23681本確認しました!信じられません」
「有り得ない。これは神の奇跡か。シャーロット嬢、本当に君が集めたのか?」
「ええ、従者の力も借りましたが。」
「とんでもない偉業だぞ、これは!すぐに薬品局と学園長に連絡だ!」
「お、お待ち下さい!ホッブス様!あまり大事になると困ります。内密にお願いしたいのですが。」
「いや、隠す事はあるまい。胸を張って・・・」
「う、うそよ。そんな事有り得ない!」
もう1人の鑑定員パメラが何やら叫んでいる。
「どうした?何かあったか?」
「は、花の一部にフォレストドラゴンの血液が付着していたので調べていたら・・・もう1種類別の血液を確認しまして。その・・・天災級という鑑定が出ました。。」
もう1つの血液?
『あー、それアスの返り血かも。キレイな花だったから花束作ってアスにあげようとしたんだけど、やっちゃったかな。』
アルル?何の話よ。
「どういう事だ。ドラゴンとその正体不明の魔物が戦って付着したのか?」
「分かりません、分かりませんがこの血液が魔物だった場合の討伐難度はトリプルSを軽く超えるかもしれません。」
難度SSのドラゴンよりヤバいのがいるって言うの?恐ろしい。
「災害級か!?国王に連絡だ!」
えっ、何かとんでもない事になってない?
『シャロ様、血ぃ飛ばしたからもう1回鑑定やらせてみて。』
『それってどう言う・・・』
『いいからいいから。』
何なのよもう
「パメラ様もう一度鑑定していただけないでしょうか。」
「え、ええ。・・・!?あれっ!?そんなさっきは確かにあったはずなのに。」
「どうした?今度は何だ?」
「それが先程あった血液が・・・消えました。そんな確かに見たのに。」
「ふむ、最近鑑定が立て込んでいたからな。疲れが溜まっていたのかもしれん。あとは私と薬品局のスタッフに任せて家に帰って休みなさい。」
「いえ、ですが、確かにみたんです!あれは確かに天災級の・・・」
「分かった、分かったから。誰も疑ってなんていないから。少し外の風に当たって落ち着こう。」
ホッブスさんがパメラを連れて行く。
「あ、あの!薬草の件はくれぐれも御内密にお願いいたします!」
「ああ。君がそれを望むならそうしよう。だが誇っていいぞ。君のおかげで沢山の人々が救われるのだからね。では失礼するよ。」
バタン。
アルルと2人きりになる。
「どういう事か説明してもらうわよ!この馬鹿げた量の薬草は何なの!?」
アルルに詰め寄る。
「何か竜の巣にいっぱい生えててさあ。くれるって言うから貰って来ました。」
巣?
「ドラゴンと交渉したの!?でも確か寝てたって・・・」
「あ、ごめんアレ嘘。いっぱいあったから分けて貰おうとしたら喧嘩売って来てさあ。半殺しにしたら薬草あげるから命だけはとか言って泣きついてやんの。マジウケますよねー。」
何がウケるの?フォレストドラゴンを半殺し?気が遠くなって来た。
うん、この話はもういいや。
「さっきのパメラさんの言ってた血液って言うのは?」
「アタシの下僕の血だね。昨日うっかり殺しちゃってさあ。その時血が付いちゃたみたい。てへぺろっ」
下僕を殺した?サラッととんでもない事言ったわよね?奴隷の事かしら。まぁ、奴隷なら・・・いいのかな?
「天災級とか言ってたけど・・・」
「ああ、ポンコツだけどこの世界壊すくらいは出来るって事かな。安心して!復活してまた悪さしたらアタシが容赦なくシバくから。パチッ」
何そのウインク。
えーっと、まとめると、アルルには天災級の下僕がいて、昨日うっかり殺しちゃった、と。私とんでもない奴従者にしてない?
・・・・・・・・・
うん、忘れよう!
「それよりシャロ様、目立ちたくないなら最初に言って下さいよー。」
「これ以上敵は作りたくないの。ギルドのおじさんが話の分かる人で助かったわ。」
「もうバレてますけど?」
ふぇっ!?
「なんで!?秘密にするって言ってたのに!」
あのクソジジイ!
「最初に一緒にいた生徒が扉の傍で聞き耳立てて聞いてましたよ。今クラスで話しまくってるからすぐ学園中に広まるんじゃないですかねえ。」
はあ?
「ちょ!マズイじゃない!あんたのせいなんだから何とかしなさいよ!」
「えっ?ヤッちゃていいんですか。でもこれだけ広まってるとこの箱ごと消す事になりますけど。いいのかなぁ。」
ちょ、まてまてまて!箱って学園!?
「ダメに決まってるでしょ!もう何もしないでいいから大人しくしてて!」
「はあい。」
何なのこいつ
「あはっ、わかりやしー」
「どうしたの?」
「早速獲物が掛かりましたよ、お嬢様!」
獲物?
「えーっと、薬草を狙っている生徒が3人いて今従者と奪う為の算段を付けてます。」
!頭の中に3人の生徒のプロフィールと顔写真が浮かび上がる。これ昨日アルルに見せた生徒名簿だ。本当だろうか?
「それ本当なら阻止しないと。とりあえず演習場に戻って薬草を回収しなくちゃ。」
「薬草なら薬品局の倉庫に送っときました。手紙を添えてね。」
手際良過ぎじゃない?
「よ、よし。それじゃあ三人に事情を聞いて・・・」
スパァン!
「きゃんっ!・・・痛った!何すんのよ!」
またお尻を叩かれた。
「奴らは所詮小物。大物が釣れるまで泳がせましょう。」
なっ、なんて邪悪な笑顔。どっちが悪人か分からないわ。てか何でお尻叩いたの!?
教室に戻ると質問責めに合う。
「大量の薬草を採取して来たって本当ですか!?」
「ええ。」
「フォレストドラゴンと戦ったって聞きましたけど流石に冗談ですよね?」
「そうね。ふふっ。」
半分?本当。
「ホワイトスナップを無償で提供するなんて流石ですシャーロット様!」
「?え、ええ当然の事をしたまでよ。」
無償で?どゆこと?
『アルル!どういう事よ!』
『どうどう、落ち着いて。』
『落ち着いてられないわ!あの薬草1本で金貨3枚なのよ!それが2万本・・・とんでもない損失よ!どうしてくれるのよ!』
『せこいなー。金に縛られて周りが見えなくなってますね。損して得取れって言葉知りません?』
損したら駄目じゃない!
ん?頭に何か浮かんで来た。
これ薬品局に送った薬草に添えたとかって言ってた手紙かな?手紙を読む。
何なに・・・
拝啓 皆様におかれましては医療活動に多大な尽力を賜り厚く御礼申し上げます。この薬草は全て魔術薬品局に無償で寄贈いたしますので医薬品等の開発にお使いください。一人でも多くの方が救われる事を心より願っております。
末筆ではございますが、皆様のご健勝とご多幸をお祈り申し上げ、お礼かたがたご挨拶申し上げます。敬具 シャーロット・グレイス・マーチ
私の筆跡で書かれた手紙。
『どういう事よ!』
『どお?ぐっときたでしょ?』
『こないわよ!』
『そうですか?評判いいみたいですけど・・・』
ん?生徒たちの話に聞き耳を立てる。
「俺、シャロ嬢の事少し見直したわ。なかなか出来る事じゃないよ。」
「シャーロット様マジ天使。」
「Bランクの依頼受けたのは単なる見栄じゃなかったんだね。病に苦しむ人々に向けられた慈愛の心に感動したよ。」
「私は騙されないわよ。今までの行いが許されるわけないんだから。・・・でも、今回に限っては悔しいけど認めざるを得ないわね。」
えっ、何?私褒められてる!?
「シャーロット!噂は本当なのか?貴重な薬草を無償で提供したと聞いたが。」
ローレンス様!?
「は、はい。一人でも多くの国民の救いになれば、と。」
「利他的な行いに敬服した。私は君の事を見誤っていたのかもしれないな・・・
大義であった!シャーロット・グレイス・マーチ!ギルドに変わり私が褒美をやろう。何でもいいぞ無論私の出来る範囲でならな。考えておいてくれ。ニコッ」
ふええええええええええええ!?ローレンス様が私に笑顔を!?あのクールな騎士様が私に笑顔を!!
『ついに、ついに!王妃にしてもらえるのね!』
『なれないから。シャロ様現実に戻って来てー。しかしあいつ偉そうね。王子だから当然なんだろうけどムカつくわ。』
『アルル!私の旦那様に危害を加えたら許さないわよ!』
『だから現実に帰って来てください。ほら、また誰か来ましたよ。』
ポーリンか。私はこいつが嫌いだ。
「シャーロット様!わ、私、すっごく感動しました。なんて言うか胸の奥がポカポカするような・・・よく分からないんですけど私もシャーロット様みたいなカッコイイ女性になりたいです!」
『わお!モテモテですね。』
黙ってて。
「別に、ただの気まぐれよ。あんた私の事嫌いなんでしょ?無理しなくても良いのよ。」
「そ、そんな事ないです。本当に尊敬していて・・・。」
「もういいから、授業始まるから席に戻りなさい。」
「は、はい・・・。」
『シャロ様冷たくないですか?彼女慕ってくれてるみたいでしたよ?』
『あいつは誰にでもああなのよ。だから男子生徒にも人気がある。きっとローレンス様もたぶらかすつもりなんだわ。』
『うわー、醜い。マジ引くわー。おや?』
「あ、あのシャーロット様の新しい侍女の方ですか?私ポーリン・カートライトって言います。よろしくお願いします!」
「ご丁寧にどうも。アルルだよ。呼び捨てで構わないから。シャロ様と仲良くしてあげてね、ポーリンさん。ニコッ」
「はっ、はい!」
何余計な事言ってるのよ。握手なんてしてデレデレしちゃって!
先生が入って来て授業が始まる。
『ポーリンさん、可愛い子ですねー。』
『あなた、もうたぶらかされたの?』
『んー、興味は持ちましたよ。』
『いやらしい。』
『違うから。私に気づくなんてあの子なかなかやりますねえ。』
あっ、そう言えばアルルの奴、目立たないように黒子になって幻のシックスマンがどうのこうのって意味不明な事言ってたわね。私以外には存在が希薄になるとか。
『優秀なのは間違いないわ。平民出の癖に入試でトップ合格。ローレンス様を差し置いて新入生代表の挨拶なんてしたもんだから女生徒の8割は敵視してるんじゃない?今でもローレンス様に次ぐ成績だし、魔力のセンスもズバ抜けて良いのよね。ムカつく。』
『へぇ、だから嫌がらせしてたと。』
!!?
『あなた、なんでそれを!?あっ、いや別に。してないわよ!嫌がらせなんて!』
『隠さなくてもいいですよ。』
『ぐぬぬ・・・どうして分かったの?』
『ここの生徒さんはお話好きが多いみたいですからね。黙っていても情報は入って来るんですよ。』
地獄耳的な?
『取り巻きと組んで結構派手にやってたみたいですね。服を脱がせて男子更衣室に放り込んだりチンピラ雇って襲わせたり。公爵家の令嬢とは思えない悪行の数々。ポーリンさん可哀そう。』
『・・・そうよ、悪い?私は私で必死なのよ。ローレンス様に見初められなければ私はマーチ家の選んだキモいおっさんと政略結婚しなくちゃイケないんだから!』
絶対に嫌よ!どんな手を使ってでも回避しなくちゃ。
『ようやく本音が聞けましたね。人は見た目じゃなくて中身、なんて事シャロ様に言ってもわからないか。今までやってた悪行が自分に倍返しで戻って来てるって気づきません?そう言えば異世界の本にシャロ様みたいな人が出て来る小説があったな。何て言ったっけ?』
『何をごちゃごちゃ・・・』
「それではこの問題を・・・今日は16日だから、出席番号16番・・・シャーロットさん。前に出て解いて下さい。」
げっ、何も聞いて無かった。魔術方程式?意味不明なんですけど!
『連立魔術方程式を解いて平面魔術方程式に代入すれば解けますよー。』
『分かるわけないでしょ!何の呪文なのそれ?』
『やれやれ、まあ、アタシと話してたってのもあるし今回は特別ですよ?』
あっ、これ手紙の時と同じだ!回答のイメージが頭に浮かび上がる。
スラスラスラ~。どうよ!
「正解です。よく出来ました。」
花丸貰っちゃった!
『アルル、あなた頭良いのね。』
『暇つぶしに色々な本を読んでいたので。』
「はぁ・・・強くて可愛くて頭も良い・・・あの、おっさんがあんたなら良かったのに・・・ボソッ」
『何の話です?』
地獄耳!
『な、何でもないから!そこは引っ掛からなくていい!』
『あっ、シャロ様、演習場に獲物が接近してますよ。賊は2人か。1人は盗賊。もう1人は生徒と一緒にいた従者ですね。どうします捕まえますか?』
『・・・あなたの考えに乗ってあげる。大物を釣り上げましょう。演習場に入った時点で不審者と見なし監視対象にするわ。』
『了解。』
─── 夜 マーチ家別邸シャーロット私室
───
「雑魚ですね。薬草を横流しして小遣い稼ぎを考えていたみたいです。」
アルルの報告を聞く。万病に効く薬草は裏社会での需要も高い。麻薬、毒薬に変えることが可能だからだ。
反社と組んでなり上がろうなんて落ち目の貴族が考えそうな事ね。
「横の繋がりは無し。どちらも単独で動いていてシャロ様を貶めようとする感じではないですね。一応拷問しておきましょうか?」
拷問!?
「必要ないわ。そんな雑魚は放っておきなさい。それより私の命を狙っている奴らの情報は無いの?」
モンスターに殺されたはずの私が普通に登校したんだ。何らかのリアクションがあったはず。
「それなんですがねえ。・・・うーん。言っていいのかな。」
「何よ。勿体ぶらずに言いなさいよ。」
「お嬢様・・・嫌われ過ぎ。」
へ?
「クエスト失敗して死ねば良かったのにって話を皆してましたよ。薬草の寄付で一部の者たちは見直してくれましたが大多数は依然として嫌っているようですね。これじゃあ暗殺者を絞るのは困難かと。」
そんな。何で・・・
「中にはさらって乱暴するとか言ってる生徒もいますし、何をしたらここまで嫌われるんだか、恨みを買い過ぎちゃいましたね。」
「・・・そこまで恨まれる覚えは無いわ。」
「ポーリンさん虐めてたじゃないですか?」
「あの子は!・・・皆がムカついてたから私が変わりに教育してあげただけよ。」
「教育ですか・・・知ってます?ポーリンさん一部の女子には嫌われてますが、その他の生徒や先生方には好印象を持たれてますよ。シャロ様とは正反対。」
「知ってるわ。あいつ媚びをうるのが上手いのよ。みんな騙されているんだわ。」
「ひねくれてるなあ。」
ちっ。
「シャロ様も目指しましょうよ。」
「何を?」
「愛され女子。」
くだらない。
「私はローレンス様と婚約出来ればそれでいいの。有象無象の好意なんて意味無いわ。」
「分かってないなー。学園一の嫌われ者をローレンス様が好きになるとでも?」
言い方!
「・・・私そんなに嫌われてるの?」
「ボロクソですよ。休み時間の度にシャロ様の悪口があちこちから聞こえてくるんですから。イキリビッチとか権力者には誰彼構わず腰を振る恥知らずのメス犬とかねwもう笑いをこらえるのが大変で・・・あっ。すみません・・・。」
・・・・・・・・・。
「シャロ様?・・・泣いてます?」
「泣いてないわよ!」
「ごめんなさい。」
目に涙を溜めてそれでも強がる。けどやっぱり悔しい!!
「あんたが焚き付けたんだから責任取って最後まで付き合ってもらうわよ。」
「なんの話しです?」
「さっき言ってたでしょ。皆に好かれる、その、あ、愛され女子?ってやつに・・・私なるわ!」
「・・・ぷっ、そ、そうですね。魅力的な女性を目指しましょう・・・ぷっ、あはははは。」
「何で笑うの!?」
「だって、恥知らずのメス犬令嬢が急に愛され女子とか言うから・・・顔真っ赤ですよ?ぷふぅ、あはははは。ごめんなさい。」
「最っ低!もういい!寝るから出て行って!」
「あらー怒っちゃいました?ふふ、怒ったシャロ様も可愛いです。明日からビシビシ行きますからね?」
コトッ
アルルが窓際に薬草を生けた花瓶を置く。
「シャロ様この花の花言葉知ってます?」
「・・・・・・。」
「ふふっ、ではまた明日。おやすみなさい。」
バタン
アルルが出ていく。
知ってるわよそれくらい。
ホワイトスナップの花言葉は
謙虚、誠実
窓際に置かれたその花は星明かりに照らされ白い花びらが淡く光っている。
見ているだけでも癒されるわね。
この花のように変われるかな。
いや変わるんだ。皆に好かれれば命を狙われる事だって無くなるはず・・・。
そうだ!私今狙われてるんだ。急に不安になる。
はぁ、今夜も眠れなさそう。
・・・・・・。
─── 使用人の部屋 ───
ガチャ
ギィギィ
静かに、静かに。寝ているアルルを起こさないように。
窓際を向いて寝ているアルル。
布団を上げ入ろうとすると
「シャロ様寝ぼけてるんですか?部屋間違ってますよ?」
「はぅ!!?」
ビックリしたー!起きてたの?
「わ、私の家なんだからどこで寝たっていいじゃない。それにあんたは私のボディガードなんだから一緒にいた方が安全だしね。」
「ふーん。」
ベッドに入り込みアルルの後頭部に顔を近づける。クンクン。
はあぁ、この匂い好きー。癖になるわあ。
・・・何だかモヤモヤして来ちゃった。
アルルの背中をさすり前の方に手を伸ばす。
はぁはぁ。
「やっぱりビッチじゃないですか。使用人に手を出すなんて。」
「スキンシップよ。嫌がられた事無いし。」
「拒絶したら首にされるからでは?」
「いいから、黙って私に任せなさい。気持ち良くしてあげる。」
髪を掻き上げ首筋を舐める。はぁぁ、たまらないわ。
「アルル・・・言ってなかったけど私、吸血鬼よ。」
「知ってます。ステータスに書いてありますし。」
「なあんだ、知ってたんだ。じゃあ・・・いいよね?」
「・・・・・・。」
沈黙。肯定と取っていいのよね。
いただくわ。
カプッ チュー
!!?
な、な、何!?魔力が身体中を駆け巡ってフットーしそうだよ!
「はぁはぁ、やだっ!?あっ、あっ、しゅごい、これしゅごいのおおお、はぁはぁ、来ちゃう、しゅごいの来ちゃうううう、だめええええ!」
何度か絶頂して少し落ち着く。
「こんな濃いジュース(血)飲んだの初めて。なんだか変な気分になってきちゃった。アルルゥいいよね?」
「・・・・・・。」
興奮してるのかしら。今気持ち良くしてあげる。
耳をぺろぺろ舐めながら左手を胸に。あら意外と筋肉質なのね。冒険者だから鍛えているのかしら。胸をまさぐった後下の方へ手を伸ばす。もうビショビショになってたりして・・・
ん?
ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛???
な、何これ股の間に、硬い棒?ヌルヌルしてて凄くおっき・・・
「シャロ様が耳元で息荒くするからこんなになっちゃっいましたよ。」
「アルル!あなた男だったの!!?」
「言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないわ!」
「細かい事はどうでもいいじゃないですか。それよりこれの責任取ってもらいますからね?」
ガバッと馬乗りにされ手を押さえつけられる。
「きゃっ!何するの!?」
「大丈夫アタシに任せて。痛くしないから。」
「わ、私まだ経験ないの!だから止めて!お願い!」
「夜這いしておいてどの口が言いますか。」
「叫んで人を呼ぶわよ!いいの!?」
「いいですよ。部屋に防音障壁張ったのでどうぞ好きなだけ叫んでください。」
「くっ!・・・わ、悪かったわよ。不安と寂しさからつい・・・出来心なの!許して!」
「その割には手馴れてましたけど使用人の女の子何人襲ったんですか?」
「・・・・・・3人くらい?」
「あーこれ余裕で3桁超えてるわー。ビッチの称号は伊達じゃなかったと言う事ですか。」
「ち、違う!さ、10人くらいよ!本当よ!」
「・・・分かりました。もういいです。」
アルルが首にキスをしてくる。あっいい匂い。いや違うから!
「全く、愛され女子宣言したその日に従者を襲うなんて良い根性してますね。」
「ち、ちがっあん!わ、私はただアルルと一緒にいたくて、はぁはぁ。」
「その性根を叩き直してあげます。アタシ拷問大好きなんですよ。ニヤリ」
「いやあああああああああああああ!」
夜は更けていく。