12話 村人転生 最弱のスローライフ4
「まおう?マオーちゃん?」
シューベルト的な?お父さん魔王がいるよ怖いよ的な?
この子はかわいいけど
「ふふふ、わらわをちゃん付けで呼ぶやつは初めてじゃ。面白いのう。もぐもぐ」
変な話し方する子だね。
「村の皆は?さっきまで居たはずだけど。」
寄り合い所みたいになってうるさいくらいだったのに今は静まり返っている。
「ああ、人払いの結界張ったから家に帰ったんじゃろ。」
結界?陰陽師?魔法の障壁みたいなやつかな。
「ヌシは転生者じゃろ?」
「!・・・・・・はい?・・・テンセイシャ?分からないなあ。」
怖っ。知らんぷりしましょ。
「すっとぼけても無駄じゃよ。もぐもぐ。色で分かるからの。もぐもぐ」
色!?毛並みの事かな?
「あなた何者なの?」
「魔王って言うとるじゃろ。知らんのか?この世界のラスボスじゃぞ。」
ドヤ顔で言われても・・・。でもマオーってやっぱり魔王の事かい。転生勇者の最終目標は魔王討伐。いやそんな事もないな。孫の読んでた小説だと魔王様はバイトしてたり学校行ったり、その辺の兄ちゃんと変わらない感じだったし。悪いイメージはあまり無いんだけど。
「黙りこくってどうした?ビビったか?くくく、わらわを倒せばダンジョンクリアじゃぞ。やってみるか?」
目を細めてニヤニヤ笑ってる。
「やるわけないでしょ。私勇者じゃないんだから。ただの村人。見れば分かるでしょ?」
「かっかっかっ、自分のスキルに気付いとらんのか!本当に面白いのう。」
スキル【Realis Fleuze】
願いに魔力に乗せることで叶える能力。願いの大きさ?難易度?で必要な魔力量は変動する。空を飛ぼうとして死にかけたのは苦い思い出だ。以来スキルを使う事は封印してきた。
「し、知ってるわよ!でも魔力が無ければ意味ないから・・・」
今回だって数回使って魔力切れしたし。
「・・・マジで言うとるのか!かっかっかっ、阿呆じゃの。」
アホ?どゆこと?
「ヌシには争いは向いとらんのかもな。まあ、良いわ。それより飯はもう無いのか?」
皿が全て空になっている。凄い食欲だね。私が言えた事じゃないけど。
「それだけ食べてまだお腹空いてるの?」
「美味い飯はいくらでも食べられるのじゃ。」
ふうん。
「じゃあ私の家来る?何か作ってあげる。」
「マジか!?異世界飯ええのう。じゅるり。頼むのじゃ!」
ふふ、こういうとこは普通の子供と一緒だね。
ザーッ
あっ、雨音が戻った。結界を解いたのかな。
「早く行くのじゃ!」
「はいはい、今用意するから待っててね。」
上着を着て外套を羽織る。
「魔王さん・・・あなた名前はあるの?あっ私はチャムって言うんだ。よろしくね。」
「チャムか。弱そうな名じゃの。くくく、妾はシスティーナじゃ!魔王システィーナ様と呼ぶ事を特別に許可してやろう!」
カッコいい名前だけど、ちょっと長いかな。
「ふーん、じゃあ、シーちゃんね。」
「なっ!?なんじゃと!シーちゃん!?」
「雨凄いけどカッパ着なくて大丈夫?」
「シーちゃんで決定か・・・大丈夫じゃ。障壁があるからの。」
そう言うと外に出る。体の表面に透明な膜が雨を弾いてる。あら便利。
「私にもそれやってよ。」
「ん、ほれ。」
凄い足裏までコーティングされている。
はー、こりゃ良いね。
「何が食べたい?」
「甘いやつ!」
甘いやつか。確かりんごがあったね。
「それじゃあアップルパイでも作ろうかな。」
「アップルパイ!分からんがそれでいいのじゃ!」
ふふっ。
ザーッ
家の前の通りを歩いていると、
「あっ!いた!チャム、あんた何出歩いてるの!探したんだからね!」
ペトラだ。慌ててるけどどしたの?
「大変よ!例のリッチが村に近づいてるの!」
へ?退治したんじゃないの?
「近づいてるって、討伐に行った冒険者さんたちは?」
「やられたわ。リッチの配下になってここに向かって来てる!あんたの父さんや村の人たちは先に避難させたわ。私たちも早く逃げなきゃ!」
あちゃー。そりゃマズいね。それで私を探してたのか。
「村には結界が張ってあるんだから大丈夫じゃないかな。」
私が生まれてから一度として魔物が侵入したなんて話聞いた事がない。
「今回はダメなんだ。・・・地竜が、あの子たちが脚に付けていたリング、あれは結界を無効化させるアイテムなの。それを使われた。ごめんなさい。私たちのミスよ。」
そうか、地竜は魔物だから村に入れない。だからアイテムを使ってたわけか。
「向かって来ているのはリッチとアンデッドになった上級冒険者4人。勝ち目は無いわ。村の近くにある避難所に急ぐわよ!」
「う、うん。わか・・・」
「アップルパイ!早く食べたいのじゃ!じゅるり。アップルパイ!アップルパイ!きゃっほー!アップルパイ!」
あっ、この子がいるの忘れてた。
「ちょっとチャムその子は?村の子?時間が無いから一緒ににげるわ・・・よ。え、それ障壁?」
んー、どうしよ。
「この子は・・・」
【Realis Fleuze】
「眠くなあれ!」
「はにゃ!?ふあぁ、スヤァzzz」
倒れ掛けたペトラを支える。
「何しとるんじゃ?」
「説明すんの面倒だから眠らせたの。」
ペトラを背負って家に向かう。
「ねえ、シーちゃん、あなたが魔王なら1番偉いんでしょ?」
「ったり前じゃろ。この世でわらわに意見出来る者なぞおらんからな!かっかっかっ!」
マジで?
「じゃあ今村に向かってるリッチに来ないでって伝えてくれないかな?」
「リッチ?ああ、あれか。どれ、ふむふむ。」
何か話してる。テレパシー魔法かな。
「断られた。先に手を出したのはそっちだ。死を持って償わせる。じゃと。」
ええええええええダメじゃん。
「1番偉いんじゃなかったの?魔王って話は嘘だったの?」
「妾は独裁者じゃないからの。話の筋は通ってるし別にええじゃろ。虎穴の虎にちょっかい出したヌシらが悪い。それより早くアップルパイじゃ!」
良くないよ!
「私が死んだらアップルパイ作れないよ!」
「ヌシの家だけは守ってやるから安心せい。」
ぐぬぬ。
「材料のりんごやハチミツは村で作ってるんだから村が襲われたら作れないよ!」
「そうなのか?」
本当は家に材料揃ってるけど言わない方が良さそうだ。
「・・・・・・よし!畑や家屋には手を出さない様に言っておいたぞ。村人は皆殺しにするそうじゃが問題あるまい。」
「問題しかないよ!」
仕方ない搦手を使おうか。
「あっ、そうか。ホントはリッチが怖いんだよね?ごめんね察する事が出来なくて。」
「はあ?あんな骨怖いわけないじゃろ?何を言っとるんじゃ。」
「うんうん、そう言う事にしとくよ。怖かったよね?ごめんね。」
「謝る意味が分からんのじゃけど!?チャムよヌシ何か勘違いをしてるようじゃの。」
おっ。
「くくく、少し力を見せてやろう。」
空に向けて右手を上げるシーちゃん。少し魔王っぽい。
ドンッッッッ!!!
ゴォアアアアアアアア!!!
「きゃっ!?」
空に黒い光が走り上空で爆発した。
ドオオオオオオオオオン
空が眩しく光って辺り一面真っ白に。
一瞬遅れて空震と爆風が吹き荒れる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「きゃああああああああああ!」
背中から叫び声。ペトラが半狂乱で泣き叫んでいる。
尋常じゃない取り乱しよう。カナミリ怖かった?あ、気絶した。
「かっかっかっ、妾の気に当てられたか。障壁がなかったらヌシも発狂、下手すれば死んでおったかもな?かっかっか。」
シーちゃんそんなに邪悪なの!?
パァァァ
あっ!光が!眩しっ!
あっ!!あれって太陽?
嘘でしょ!?凄い!雨雲を吹き飛ばしちゃったよ!
数日ぶりに見る雲一つない真っ青な空。
キレイ・・・。
雨の日も嫌いじゃないけどやっぱり晴れた空って良いね!
「どうじゃ?わらわの凄さが分かったじゃろ?」
「凄すぎるよ!あれならリッチなんて一発で撃沈だよ。」
この辺一帯の大地が消し飛ぶ不安はあるけど。
あれ前世の爆弾よりも威力あるんじゃない?
「だから魔物はムリじゃと・・・おや、リッチの奴洞窟に戻っとる。彼奴は日光が苦手なようじゃの。」
え、じゃあ、戦わずして勝ったって事?
「冒険者のなれ果ても蒸発してただの骨になったようじゃし、ちっ、間接的じゃが助けてしまったか。」
ここから見えるんだ。凄っ。なぜ苦々しい顔をする?
「でも日光が弱点ならまた夜になったら襲ってくるかも!」
「ふむ、どうやらリッチの奴め、わらわの逆鱗に触れたと勘違いしたようじゃの。巣で震えておるわ。かっかっかっ」
よっし!シーちゃんのおかげで助かったわ。でもこの子マジで魔王だったんだね。
「問題は片付いた、次はアップルパイじゃ!」
はいはい。
「分かってる、追っ払ってくれたお礼をしないとね。」
「ん、むにゃむにゃ・・・はっ!?チャム!早く逃げなきゃ!恐ろしい程の殺意の波動を感じたわ!リッチよ!リッチが来たんだわ!」
おんぶしてるから暴れないで。
【Realis Fleuze】
「ぬんねんころりよ おころりよ ペトラはよい子だ ねんねしな♪」
おんぶしたペトラを軽く揺らし呪文を唱える。
「何言ってるの!チャム!早く逃げ・・・スヤァ」
ふぅ。よし!
「まーた、ミソロジークラスのスキルをくだらない事に使いおって。」
味噌?いやそれより
「あれ?そう言えばスキルを使った反動が全く無い。むしろ魔力が溢れて来るような。」
ペトラを背負っているのに疲れも無く体が軽い。
「くくく、わらわと魔力パスを繋げたからのう。いくら使っても魔力切れになる事はもうあるまい。」
「えっ、そうなの?でも何で?」
「色々とメリットがあるからの・・・ほれ!早よいくぞ!そうじゃ、試しに転移でも使ってみるが良い。」
「転移使えるの私!?えっと・・・転移!」
ヒュン
転移した。広い空間に豪華な家具?
「ちょっ!?ヌシどこに転移しとるんじゃ!ここわらわの城なんじゃけど!?」
「ホントに!?わあーい成功だあ!一度も来たた事ない場所にも転移出来たよ!」
高そうな絨毯に高い天井からぶら下がってる宝石のようなシャンデリア。
「階層跨いでの転移・・・しかも幾重もの結界が張り巡らされている最終ステージ謁見の間にダイレクトでダイブとは、なんて奴じゃ。」
「シス様?お戻りになられるなら事前に連絡をお願いいたします。出迎えの用意が・・・おや、客人ですか?」
男前の兄ちゃんが現れた。
「ちょっと寄っただけじゃ。じゃあの。」
ヒュン
居間に転移した。
私の家の。
「あーあ、シーちゃんの家もっと見たかったのに。」
「ダメに決まっとるじゃろ!あの城は勇者や冒険者が目指す最終地点じゃぞ!気軽に飛ぶんじゃないわ!たわけが!」
「友達の家なのに行ったら駄目なの?」
「と、とも、友達じゃと!?」
「違うの?」
「・・・・・・ふん、まあ、良いわ。ヌシがどうしてもと言うならなってやっても」
「どうしても!だよ!」にぱぁ。
「くっ、調子が狂うのう。分かったから早くアップルパイじゃ!」
顔が赤い。照れてるのかな。
ペトラを布団に寝かせて台所に。材料は・・・あっ、これ転移のスキルで出せるのかな?
りんご!ぽんっ
あっ!出た!
どれどれ、シャクッ。!!美味っ!
これ青○産ふじりんご!?蜜凄いな。シャクシャクもぐもぐ。美味すぎて止まらないわ。
「ちょっ、何一人で食べてるんじゃ!わらわにもよこすのじゃ!」
りんごを奪われる。
シャクシャクもぐもぐ
「はわわああ、なんじゃこの果実は。甘くてジューシー。シャクシャクもぐもぐ」
あっと言う間に平らげた。
「今の赤い果実をもっと出すのじゃ!」
「待って、今それ使って料理作るから。」
材料をテーブルに出す。転移でアップルパイも取り寄せ出来そうだけど止めとこう。料理は作っている時が楽しいしアレンジもしたいからね。
「なんじゃこれ!めっちゃ甘いんじゃけど!?」
ビンに指を入れて舐めている。
「やだちょっと、スプーン使ってよ、もう。それはハチミツだよ。蜂が花から取ってきた蜜。」
スプーンを渡すと無心で食べ始めた。いや、だから今からそれ使って料理作るから。
シーちゃんに手伝ってもらい二人で料理を作る。この子意外と筋がいいね。
シナモンやナツメグなどここに無い食材は転移でとりよせ。この魔法便利過ぎる。
かまどに入れて、と。
飲み物は・・・そうだな。炭酸水を取り寄せ蜂蜜とレモンを入れる。
「手伝ってくれてありがとう。はいレスカ。」
レモンスカッシュを渡す。
「なんじゃこれ!シュワシュワじゃあ!」
ふふっ。
炭酸美味っ!
「ヌシよ、異世界から転移させるのも良いが程々にな。膨大な魔力が必要じゃからのう。ゴクゴク・・・ケプッ」
バレバレだよ。あまり多様しない方がいいね。細目で見られてるし。怖っ。
生地が焼けていい匂いがしてきた。
「まだ?ねえ、まだ?」
「もう少しかな。」
子供たちの事を思い出す。よくこうして急かされていたっけ。
「待ちきれないのじゃ。はぁはぁ・・・ん?」
『魔王様、お久しぶりでございます!アスモデウスでございます。』
えっ、何!?頭に声が響く。
『おお、アスか元気しとったか?』
シーちゃんの声。あっ、これ魔力の通話なんだ。って、何で私にも聞こえるんだろ?
さっき言ってた魔力のパスを繋げたせい?
ピコピコ、聞き耳を立てる。と言っても勝手に頭に響いてくるわけだが。
どうやら通話の相手はシーちゃんの子分みたいな人らしい。何やら頼み事があって連絡してきたみたい。(絶望の果て 24話参照)
あっ、断られた。
ワルプルギスの夜?トーナメント?八柱?最強を決める・・・なんだろ、下克上かな?
通話の相手が変わる。
『俺はアル・ディライト。人間だ。』
人間?私みたいな転生者かな?シーちゃんと戦いたいみたいだけど・・・ブルブルッ。
さっきの天に向かって放った一撃を思い出し震える。絶対コロされるよ。
『分かった分かったテストしてやるわ。今から側近向かわせるからそいつとヤりあって勝てたら考えてやる。』
側近なんているんだ。通話相手が変わる。
『ヨル、おるかあ?シスじゃが。』
『ま、魔王様!?』
『お楽しみの最中に済まないんじゃが頼みたい事があってのう。少し時間もらえるか?』
お楽しみ?
『も、勿論構いません。ゴルァ!淫魔てめぇいつまで乗っかってんだ!出てけや!』
・・・最悪のタイミングね。
シーちゃんが先程の話をして、
『・・・と言う風にわらわの事を使えないポンコツ悪魔とか抜かしおってのう。』
言ったのシーちゃんだよね?しかも部下に。
『ちょと行って懲らしめてやろうと思うんじゃが・・・わらわラスボスじゃし、今丁度重要な案件を抱えていてのう・・・時間が無いのじゃ・・・』
アップルパイ食べるのが重要な案件?
『魔王様がそんなカス相手に出ていく事は無えぜ!俺が行ってよぅ、キッチリ始末してやっからよお!』
コロす気満々なんですけど!?アルさん逃げて!
『そうか?何かすまんのう。こんな話信頼する者にしか出来んし、ヨル、やはりお主に念話して良かったわい。』
『ま、魔王様・・・。そいつの首、手土産に持って行くからよぉ楽しみにしててくれ!』
そんな物持って来ないでー!
『うむ!頼んだのじゃ!場所は・・・』
部下を送り込むのに成功したらしい。
「シーちゃんて策士だったのね。」
「は?何を言っとる。部下のヤル気を引き出すのは上司の仕事じゃぞ。」
物は言いようね。あっ、焼きあがったみたい。
取り分けてアイスクリーム(お取り寄せ)を添えた皿を置く。
「熱いから気をつけてね。」
「熱耐性あるから心配無用。では、いだだくのじゃ!」
パクッ もぐもぐ
「んんんー!!?」
目を見開いている。
「ちゃんと焼けてるかな?甘さは控えめにしてあるんだけど・・・どうかな?」
微動だにしないんだが大丈夫?
「ん美味ーいーぞー!!何じゃこの料理は!?美味しいぃぃぃぃのじあああああ!」
味皇様かな?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
何これ!?地震!?
シーちゃんの体から魔力が湧き上がる。
「さっき食べた果物の味をさらに上のランクへと昇華させておる!料理人の腕と心が極上の逸品を生み出したのじゃあああ!感動じゃああああああああ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「落ち着いて!普通に食べて!」
「きゃあああああああ!リッチよ!リッチが来たんだわ!チャム!逃げてえええええ!」
「ペトラ!スリープ!」
「スヤァ。」
「チャム!お代わりじゃ!!」
もう食べちゃったの!?私の分も食べてるし!
何なのこの人たち・・・やれやれ。
それにしてもアルさんだっけ?大丈夫かな。同じ転生者なら話してみたいな。
この数日後アル・ディライトと魔王側近ヨルムンガンドの戦いは決着を迎えるのだが、そこから事態は大きく動き出し私のスローライフは音を立てて崩れて行くのだけれど・・・
それはまた別のお話。
「早よう!アップルパイを作るのじゃ!」