11話 村人転生 最弱のスローライフ3
ガゴオオン!ドオオオン。
地竜の頭にハンマーがめり込み倒れる。目の前には息絶えた3体の地竜。はぁはぁ、思った以上に手こづってしまった。アンデッドになると感覚が無くなるらしい。足を潰しても向かって来るなんて。
魔力を半分以上使ってしまった。
「オオオオオオオ・・・」
穴の奥の方からモンスターの声が聞こえる。リッチの配下だろうか?
ここは危険だ。場所を移さないと・・・。
ガラガラッ
バッ!
岩が崩れる音の方を見る。
!!モニカ!?
「無事だった・・・の・・・ウッ。」
ボロボロの神官服に崩れた顔・・・。所々骨が剥き出しになっている。アンデッドになった仲間がそこにいた。綺麗で整った美しい顔は今や見る影もない。
モニカの後ろの闇から5体のゴブリン。全員死体だ。気配が無かったのはモニカが隠蔽魔法をつかっていたせいか。こちらを睨みつけるアンデッドたち。生者に対する憎悪が凄まじい。モニカを中心に前に3体、後ろに2体が移動する。
通常アンデッドは意志を持たず個々で徘徊するだけだが、こいつらの統率の取れた行動・・・リッチが操っているのだろう。
どうする!?まずはナッシュを壁面まで・・・!?
ガキィン!
斧を持ったゴブリンが間髪入れず襲って来た!盾で防いだが、重い!武器に魔法が込められているのか!?肉体も強化されている。モニカ?いやリッチの仕業か。モンスターの癖に優秀なのがイラつくわね。
「トールハンマー!」
ゴブリンの頭を思いっ切り叩く。グシャっと頭が潰れちぎれ飛ぶ。
ナッシュを守りながら戦うのはキツい。一気に叩いて終わらせる!
距離を一気に詰めハンマーを振りかぶる。
! ゴブリン共の周囲に薄い幕。これはモニカの障壁!
ガキィン!やはり弾かれた!
モニカの後方から炎の矢が飛んでくる。しまった!狙いは私じゃなくナッシュか!
くっ間に合わない!
「トールハンマー!」
地面を思いっ切り叩き加速!ギリギリで間に合った!盾で弾く!危なかったー!
!!? 矢の後方から剣を構えたゴブリンが突っ込んで来た!二段構えの攻撃!?小癪な!
盾で剣を弾きハンマーでゴブリンの肩をぶん殴る。吹き飛ばされて壁に激突した。ふぅ。
ザシュ ザシュ ザシュ
後ろから聞こえる音・・・。
「うそ・・・いやああああ!」
頭の無いゴブリンが剣でナッシュを・・・
「どけえええ!」
背中をハンマーでぶっ叩くと奥の壁まで吹き飛んで肉塊になった。
ナッシュ!
体に複数の刺傷があり絶命している。油断した!私のミスだ!
ナッシュ・・・貴族ではねっかえりの私をギルドに迎えてくれた恩人・・・。
ビュオオオ
火矢が次々飛んで来る。悲しむ間も与えてくれない。化け物共絶対に倒してやる!
ハンマーを頭上にかざす。
「サンダー・ボルト!」
カッ! ドオオオオオン!
ハンマーからイナズマが走り火矢をかき消しゴブリンとモニカに直撃する。
モニカの物理無効の障壁は魔法には効果が無いはず!
「どうだ、やったか!?」
私の使える最高火力の魔法だ。骨すら残らないだろう。煙が消えていく。
!!?
モニカの周囲に魔法障壁!?二重で張っていたのか!ゴブリンは排除出来たがモニカはノーダメージだ。
ズアッ
天井一面に現れる魔法陣。
マズイ!この魔法陣は!
エナジードレインだ!障壁を張ろうとするが間に合わない。
ドッ
光の柱が空間を飲み込む。ぐぅ!体から力が、魔力が抜けていく。
ガクッと片膝を付いてしまう。
モニカだったモノが近づいてくる。口角が上がり頬の肉がボトリと落ちる。笑っているのか?くっ!ここまでなのか。何か手は無いのか。バッグを探る。この小瓶は!?
モニカに向かって投げると手で払った際に瓶が割れ中の液体が飛び散る。
ジュウウウウ
中に入っていたのは聖水だ。顔に掛かり歩みが止まった。今のうちに
ズルズル
這って魔法の範囲外に出ようと試みる。無様だ。でもどんな手をつかってでも生き残ってやる!
ズルズル
あと少し。魔力の欠乏で目眩がする。頭が痛い。もうちょっと・・・。
その時目の前に漆黒の闇が広がった。この気配・・・リッチだ!
「ガハッ!」
首を掴まれ引き上げられる。
く、苦しい・・・。
終わりだ。もう力は残っていない。意識が薄れていく。死ぬ覚悟は出来ているがアンデッドになるのは嫌だな。自爆魔法でも覚えておけば良かったか。
目の前が暗くなり酷く寒い。
これが、死・・・。
チャム、ごめん。
─── side チャム ───
ドオオオオオン!
今の音、近い!
「いいか、戦闘は無しだ!俺が目眩ししてる間に仲間を連れて直ぐに離脱する!」
戦わないんだ。そりゃそうか、一度やられてるわけだし連れて来たのが私だし・・・ドーン(落ち込みー)
ゴアアアアアアア
ノアールの速度が上がる。
ドキドキ。緊張感が一段上がる。
ヤバイヤバイ魔力の無い私でも感じる悪寒。
先行しているポンテが弓を構える。
「行くぞ!チャム目をつぶれ!」
目をギュッと瞑る。
ビュッ、カッ!
ポンテの閃光弾で洞窟内が明るくなる。目を開けると、うっ。血溜まりの中、傷だらけで絶命しているナッシュさん。奥にいるのは神官服を来たアンデッドとフードを被った骸骨。あれが例のリッチか!?
「ペトラ!」
フードを被った骸骨がペトラの首を掴んで締め上げている。
ペトラと目が合った!まだ生きてる!
『ノアール突っ込んで!』
『・・・ムリ・・・』
『何でよ!?』
『・・・障・・・壁・・・』
障壁・・・魔法の壁か!
どうする!?
バシュン!バシュン!
ポンテが魔法の矢を放っているが見えない壁に当たってしまう。あれが障壁。
アンデッドにダメージを与えるには神官の使う聖魔法が有効なのだが、こちらに使い手はいない。聖水などのアイテムも無い。
やるか?迷ってる暇は無い!ペトラが死ぬ!
【Realis Fleuze】
能力を発動させる。
「ペトラを離せ!この化け物!」
ズァッ
リッチと神官服を着たアンデッドの足元に現れる魔法陣。
「チャム!お前、聖魔法が使えるのか!?」
使えるって言うか使わざるを得ないのよ!
死霊に効く魔法は、えーと、確か
「ターン・アンデッド?」
ドンッ!
魔法陣から清らかな光が溢れリッチたちを包み込む。私の魔法じゃ倒せないのは分かってるけど、どうだ!?聖魔法は魔法障壁を抜けダメージを与えている!手をバタつかせて嫌がってるみたい。
ポロッと
ペトラを離した!ヨシっ!
『ノアール!チャンスは一度だ!すり抜けながらかっさらえ!』
ポンテの檄が飛ぶ。
『おう!任せとけ!』
リッチに突進して行くノアール。
途中で聖魔法の効果が切れる。もう一発行っとくか?いやダメだ。魔力が尽きてしまう。
ドオオオン!
ポンテの爆炎魔法がリッチに着弾した!ナイスタイミング!ダメージは無いが気が逸れた。今だ!
ノアールがペトラを口で咥えそのまま奥へと走り抜ける。あんな化け物と戦闘したって勝ち目は無い。逃げの一択!後方は煙で充満している。ポンテが煙幕で撹乱しているようだ。
「やるじゃないか!見直したぜ!」
追いついて来たポンテが話しかけてくる。
「魔法が使えるなら言ってくれよ。」
余裕かましてる場合?追って来てるじゃん。
闇が迫って来る!
「話はあと!それより飛ぶよ!村までは無理だと思うけど。」
「飛ぶ?何を言って・・・」
「転移!」
ヒュン
ザーッ ビュオオオ
雨風が強く吹いている。
草原まで転移出来た。村まで目と鼻の先だ。私凄いじゃん。
「転移したのか!?」
ポンテが驚いている。
『ノアール、あとは・・・お願い。』
『ああ!良くやってくれた。やはり私の目に狂いは無かったな!』
ドヤ顔のワンコの声が遠くに聞こえる。もうダメだ。あぁ。そこで私の意識は切れた。
─── 都内某病院 ───
「おばあちゃん!おばあちゃん!」
なんだい、なんだい騒がしいねえ。私を取り囲む親族一同が必死に呼びかけている。
病院のベットで寝ている私を見下ろす私。幽体離脱?今際の際ってやつか。
「母さん、今までありがとうね。」
娘が泣いている。すっかりババアになっちゃったね。ははっ。
「ばあちゃん、おきないねえ?」
曾孫の路未央も来てんのかい。
「ばあちゃん、やっぱ異世界転生するんかなあ。」
髪を真っ赤に染めているのは孫の淳弥だ。ファンタジー小説が好きで良く読んでいたっけ。
「職業は回復役かな?」
「看護師してたからって安直すぎない?」
「怒ると怖かったからバーサーカーじゃね?」
「はははっ、それ職業かよ?ウケる。」
「正義感凄かったし普通に勇者だよ。」
「浮気しまくってたのはセーフ?」
止めな。それ以上はいけない。
「マジで?やるじゃん。」
「ばあちゃん若い時は凄かったらしいからね。」
昔の話さ。
「じゃあ、遊び人かw」
嫌だよ、そんな職業。
「僕プリン食べられたよ。」
「まさかの盗人www」
あの時はちょっとボケ入ってたからね。わざとじゃないんだよ。
孫たちが盛り上がっている。
湿っぽい雰囲気よりこっちの方が私らしくていいね。
子供たちが泣いたり笑ったりしてるのを見ると長生きして良かったと思うよ。
「シロちゃん(犬)生きてる時、毎日散歩行ってたから魔物使いかもねぇ。」
「それ絵的にありかもw」
「あー、可愛がってたよなあ。」
シロ・・・私が古希(70歳)を過ぎた頃家の近くの車道で車に轢かれ死にかけていた子犬だ。
直ぐに近くの動物病院に連れていき手術をした事で一命を取りとめる事が出来た。その後はみるみる回復して散歩が出来るまでになった。雑種だけど白い毛並みはフワフワで可愛いらしい顔した子だったね。
シロみたいな可愛い子に生まれ変わるのもいいかも知れない。
「お母さん、お疲れ様。ありがとう。」
娘の声を聞き意識が薄れていく。
ああ、後は頼んだよ。
「今!ばあちゃん笑った!」
「おばあちゃん!」
ふふ、仲良くやんな。
────────────────
「・・・厶・・・チャ・・・厶・・・チャム!」
私を呼ぶ声がする。チャム?誰だい?
・・・私か!
ガバッ
起き上がる。痛った!身体中が痛い。
「!!チャム!」
抱きしめられる。痛いから!
「うわあああん!生きてるなら早く起きないよ!バカ!」
ペトラ・・・無事で良かった。しかし酷い言い草だね。
「無茶言わないで。死ぬとこだったんだから。それと・・・痛い。」
ごめんといって離れるペトラ。
本当にあれだけ魔法使って良く生きてるわ。
「チャム!大丈夫、なのか?痛い所は無いか?」
お父さん・・・顔が真っ青だ。
「うん、平気。まだちょっと体痛いけどね。心配かけてごめんなさい。」
ぺこり。
「怪我がないならいいんだ。良く無事で帰って来てくれた。」
涙ぐんでいる。本当にすまなかったね。
ザーッ
まだ雨降ってるんだ。
聞いたところ治療を受けながら半日程眠っていたらしい。
辺りを見るとここは集会所のようだ。村の住民や冒険者の人たちの姿が見える。
「チャム!ありがとう。君は命の恩人だ。この恩は必ず返す!困った事があれば何でも言ってくれ!」
ポンテが興奮して手を握ってくる。ちょ、恥ずかしい。テレテレ
ん?今何でもするっていったよね?
「危ないところだったんだよ。魔力切れを起こして生命エネルギーも微弱だったんだ。もう無茶をしてはいけないよ。」
神官服を来た老人。この方が助けてくれたのか。ギルドからの応援かな?
「神官様、お救い頂きありがとうございました。」
ぺこり
「チャム、あんた転移の魔法使えたのね!超高等呪文じゃない!なんで黙ってたのよ!」
気軽に使えるわけじゃないからね。
「そうだ、チャム、そんな凄い魔法が使えるなら父さんに言ってくれても。」
「ごめん、魔法は使えるけど使った事は無かったんだ。私魔力が貧弱で・・・」
「私が話そう。」
神官様。
「チャムさんの魔力量は非常に少なく魔力を使うと直ぐに底を尽きます。その為足りない魔力を生命エネルギーで補っていたようです。」
そうなのだ。魔法使うのは割と命懸けなのだ。
「生命エネルギー?それじゃあ命を削ってたって事か!?だ、大丈夫なのか。」
父がアワアワしてる。
「治癒魔法を施したので心配要りませんよ。ですが魔法を使いすぎると・・・分かりますよね?諸刃の剣と言うわけです。気を付けて下さいね。まだ完治はしていないので栄養のある物をしっかりと食べて静養してください。」
「分かりました!神官様ありがとうございます。チャム!食べたい物があれば言ってくれ。俺が作ってやる。」
プリン。
は無理だよね。お父さん料理下手なんだよな。
「うん、分かった。ありがとう。あの、神官様、モンスターはどうなったのですか?」
「今ギルドの混成チームで討伐に出ています。腕利きを集めましたので何も心配はいりませんよ。」
そうなんだ。でもあのモンスターかなり強そうだったけど・・・。
それから村の皆や街から来てる冒険者から質問攻めに。転移ってやっぱり凄い魔法なんだな。王国でも使える魔術師はいないんだって、それを私みたいな小娘が使ったもんだからエラい騒ぎになってるらしい。次々と運ばれる豪華な料理。あたしゃ大食いの選手じゃないんだけどねえ。
ザーッ
1日経って体の痛みも大分和らいで来た。食事で取った栄養が生命エネルギーに変換されてるらしい。大食いの選手かってくらい、めっちゃ食べたからね。食事って大事なんだな。
うたた寝していると、
ガツガツ もぐもぐ
なんか音がする。誰かが私の食事を食べている様子。チラリ
ムシャムシャ パクパク
女の子だ。小学生くらいの少女が鹿肉にかぶりついている。あんな子この村にはいなかったよね?角と羽が生えている。
魔族の子だ。
「ここの飯は美味いのう。ぬしもそう思うじゃろ?もぐもぐ」
私が起きてるの気づいてる?
起き上がり少女を見る。・・・魔力は感じないが毛が逆立つ。
「・・・あなたこの村の子じゃないよね?冒険者の子供?」
「妾か?通りすがりの魔王じゃよ。もぐもぐ」
えっ、何て?