10話 村人転生 最弱のスローライフ2
ザーッ
雨止まないねえ。
編み物をしながら外を見る。
ザーッ
昨日は冒険者の人たち帰って来なかったな。遠出して野営でもしたのかな。今までも何度かあったし大丈夫だよね?
バンッ
扉が開き隣に住むディーンさんが駆け込んで来た。
「おい!ガッシュはいるか!」
「ああん?どしたあ?」
内職をしていた父が奥から出てくる。
「た、大変だ!冒険者の奴ら全滅したらしいぞ!」
!!?えっ?
「どう言う事だ?落ち着いて話せ。」
ディーンさんに麦茶をだす。
「おお、チャム悪りぃな。いただくぜ。ゴクゴクッ、ぷはぁ!うめぇ!もう一杯!」
あいよ!
「さっき冒険者の飼ってた狼がフラフラになって帰って来てよ、見たら血だらけじゃねえか。で、首輪に手紙が入っててよ。ゴクゴク、はぁ、化け物に追い詰められてヤバいからギルドに応援要請を出してくれとかなんとか書かれてたんだよ!」
何てこった。
「でもでも、それならまだ死んだわけじゃないよね!?」
ディーンさんに詰め寄る。
「あ、ああ、まぁそうだけどよ・・・。詳しい状況が分かればいいんだがな。狼と話せる奴なんてこの村にはいないからな。」
確かに。動物と話す魔法は存在するが街まで行かないと使い手はいない。魔法を使わなくても会話する手段もあるらしいのだが・・・。
くっ、あれやるか?いや、やるしかないだろう。
「おじさん!そのワンコ今どこ!?」
「あ?狼か?広場の天幕で治療を受けてるぜ。」
「お父さん、ちょっと出てくる!」
「あ?おい、ちょっ!」
外套を引っつかみ駆け出す。ペトラ!
ザーッ
雨足が強くなって来たにもかかわらず広場には人が大勢集まっている。
間をすり抜け狼の元へ。こういう時小さい体は楽ね。
村長に回復魔法を掛けられている狼がいる。
「はぁはぁ、村長、ちょっとそのワンコとお話させてもらって、はぁはぁ、いいですか?」
「チャムか?お前さん会話魔法なんて使えたんか?」
「いや、まあ、はい。」
周囲にどよめき。目立ちたくないのにぃ!
ワンコの目を見て能力を発動させる。
【 Realis Fleuze!(リアリス・フレーゼ) 】
ワンコの心に訴える。
『ワンコ!ペトラたちは無事なの!?』
『・・・・・・ノ・・・アール・・・』
『なんだって!?私の能力は微力なんだからハッキリしゃべんな!』
声が聞き取り辛いのはワンコが弱っているからでは無く私の能力(魔力)が弱いせいだ。
『・・・・・・我が・・・名・・・ノ・・・アー・・・ル・・・』
『あんたの名前なんて今はどうでもいい!ペトラは無事なのかい!?』
『・・・ノ・・・アー・・・』
『わかったよ!ノアール!ノアールね!あんたの主人やペトラは無事なのかい!?』
『・・・・・・無・・・事・・・』
良かったー!
『・・・た・・・ぶん・・・』
!?
『多分てどう言う事だい!詳しく話なワンコ!』
『・・・ノ・・・アー・・・』
『わーかった!ノアール!ノアールだろ!面倒な奴だね。あんたらは東の洞窟?へ行った。そこでリッチと会って戦いになったが苦戦して逃げた。これであってるかい!?』
『・・・だい・・・たい・・・あって・・・る・・・』
『よし!その洞窟までの道を詳しくかつ簡潔に説明しな!』
『・・・ガキ・・・が・・・えら・・・そう・・・に・・・』
『黙りなワンコ!』
鼻をギュッとつまむ。
「キャン!」
『早くしないとお前さんの主が死んじまうよ!』
『・・・わ・・・かった。・・・す・・・まな・・・い・・・』
ワンコから洞窟までの道順を聞く。ほぼほぼ一本道だが崖などがあり迂回すると時間が掛かりそうだ。
はぁはぁ、疲れた。この能力、弱いくせに酷く燃費も悪い。だから使いたくないんだ。
「チャム大丈夫かい?何か聞き出せたのかい?」
肩で息をしている私に村長が話掛けてくる。
「か、彼らはまだ生きています。はぁはぁ」
おおーっ、と歓声。
「ですが洞窟に追い詰められ逃げているので、はぁはぁ、じ、時間がありません!は、早く助けにいかないと!」
静まり返る天幕内。
「チャム落ち着くんだ。冒険者でも勝てない相手だ。私らが行ったところで殺されるだけさ。」
ぐっ、その通りだ。感情に振り回されてしまった。慌てると精神が体に引っ張られてしまうな。
「ギルドに救援要請をしよう。今そこの狼から聞いた事も詳しく書いてね。」
「は、はい!お願いします。・・・あと、この子の名前はノアールです!」
ザーッ
書類を首に掛けた鷹が街へ向け飛んで行くのを見送る。
「チャム、あんた動物と話す事が出来たんだね?」
「あっ、はい。知性ある者なら話せます。ただ凄く疲れるし時間が掛かるのでこういう時しか使いませんが・・・。」
「いやいや、大したものだ!よくやってくれた!」わしゃわしゃと村長から頭を撫でられる。
「あ、ありがとうございます。」
シッポがブンブン止まらない。
称賛の声を聞きながら天幕を出ると
「帰ろうか。」
父が傘を持って立っている。あの能力の事突っ込まれるかな。
ザーッ
家に戻ると内職をする部屋へと入っていく父。何も聞かれなかったな。大した能力でも無いからね。
心配事は尽きないが、悩んでいても仕方ない。夕飯の準備でもしようかね。
ぐっ、うっ。
父の部屋から声がする。
隙間の空いた戸から除くと顔に腕を当てて泣いてる・・・。娘に能力があって嬉しかったのかな。ウッ。もらい泣きしてしまった・・・。
夕飯の準備をしよう。
ザーッ
ガリガリッ ガリガリッ
夜寝ていると戸が音を立てて揺れている。まさか!泥棒!?・・・いやウチに価値のあるものなんて無い。
ガリガリッ ガリガリッ
怖いよう。お父さん呼んで来ようかな。
『・・・チャ・・・厶!・・・』
えっ?今頭の中に声が、
『・・・お・・・れ・・・・・・だ。・・・ノアー・・・』
「ノアール!?」
飛び起きて戸を開ける。
そこにはずぶ濡れの犬、いや狼がお座りしている。
タオルを持って行くと、ブルブルッと体を震わせて雨を弾いている。
「わっぷっ!ちょっ!今拭いてあげるから大人しくしてて!」
ゴシゴシ
タオルで拭きながら聞いてみる。
『ケガは治ったみたいだけど何しに来たのよ。安静にしてなきゃダメじゃない。』
『・・・来・・・い・・・・・・一緒・・・・・・に・・・。』
『はあ?どこに?』
『・・・・・・洞・・・窟・・・。』
洞窟ってペトラたちがいる?
『私が行ってどうすんのよ。すぐヤられちゃうよ。そもそも洞窟へ行くまでに死ぬ可能性の方が高いから。街から来る冒険者に任せよう。』
『・・・こ・・・ろさ・・・れ・・・る・・・。奴・・・つよ・・・い・・・。』
『そんな事言ったって!じゃあ、誰が・・・。』
『・・・チャ・・・厶・・・なら・・・。』
無理に決まってるでしょ!村で一番弱いのよ私。
『・・・力を・・・おか・・・し・・・くだ・・・さ・・・ぃ!』
仰向けになり服従のポーズを決めるノアール。
やめて。私に何が出来るって言うの・・・。
『・・・ペ・・・トラ・・・が・・・また・・・釣り・・・・・・した・・・い・・・と・・・。』
一緒に釣りをした記憶が蘇る。あの子ヘタっぴで一匹も釣れなかったっけ。
「今日はダメだったけど次は絶対釣ってやる!だから・・・また来よう!」
ああ、あの笑顔を思い出したら・・・。
ノアールがなぜ私を頼るのかは分からない。けど、
「友達が困っていたら手を差し伸べてやるんだよ。話を聞いてあげるだけでもいいんだ。辛い時に寄り添ってあげるのが友達ってやつさ。」
前世、娘が小さい頃に偉そうに私が言った言葉だ。何でこんな時に思い出すかなあ。
『分かったよ。』
父のイビキが聞こえる。
最後になるかも知れないってのに別れの挨拶も出来ないなんてね。書置きでもするか?いや止めとこう。
必ず帰って来るからね!
バッグを取り食料や薬草を適当に突っ込む。
外套を羽織りロープで自分とノアールを固定する。
『ノアール行こう!』
『・・・ああ!・・・』
ザーッ
雨の中の暗闇を狼が疾走する。
ビュオオオオオオオ!
速い速い!あっという間に林を抜け田畑を超え結界を通り過ぎる!初めて外界に出た!
ノアールはさらに加速。
わああああああああああ
凄い!何が凄いって風が無い。前を見ると雨がノアールを避けて脇へ流れて行く。障壁を張っているのだろうか。
暗さに目が慣れてきた。景色が凄まじい勢いで流れていく。ジェットコースターみたいだね。段違いの速さだけど。私アレ苦手なんだよ!
ん?アレって崖?前の大地が途切れている。
ギュオン!
加速した!?
「えっえっえっ!?ちょ!待って!待って!待って!」
ピョーン!
「きゃあああああああああああ!!」
ビュオオオオオオオ
フワッ 無重力。からの 落下。
「ぎゃああああああああああああ!!」
『・・・うる・・・せ・・・ぇ。』
この犬っコロがあああ!
その後も飛んだり跳ねたりを繰り返し、
『・・・つ・・・い・・・た。』
洞窟に辿り着いた。私はグッタリしていて動けない。途中魔物に出くわさなくて良かったが、ノアールが回避してくれたんだろうけど、この様で本当に助ける事が出来るのだろうか・・・。
『・・・い・・・くぞ・・・。』
私が回復するのも待ってくれないか。主人の事が心配なんだろう。
『うん。』
暗闇の中に入っていく。
ペトラ今助けにいくからね。
─── side ペトラ ───
「はぁはぁ。」
ナッシュ(ギルマス)を背負い歩を進める。
ズルズル
ナッシュの意識は無くその巨体が重くのしかかる。筋力強化魔法を掛けているが効果が切れてきたようだ。掛け直す魔力は残っていない。
「もう少し痩せなさいよ。まったく。」
ナッシュの体には包帯が巻いてある。アンデッドの一撃を食らい毒をもらってしまったのだ。解毒して回復薬を掛けたが効果は薄い。最低限の応急処置をして逃げるので精一杯。
パーティーは随分前に分断されてしまった。
ここで死ぬのかな・・・いやまだ死ぬわけにはいかない。
死にたくない。
貴族の派閥争いに破れ家は没落。友達は直ぐにいなくなり家族も喧嘩が耐えなくなってバラバラに。
魔法の才能があった私はギルドに入り冒険者として生きる道を選んだ。今までそつ無く依頼をこなして上手くやれてたんだけど・・・厳しい世界だ。知ってて入ったんだから悔いはない、が。
あの骸骨、村を襲うとか言っていた。それだけは阻止しなきゃ!
チャム・・・。
!!
アンデッドの気配!
ドガガッ!パリンッ
ザシュッ!
「きゃあ!」
障壁を破壊され攻撃を受けてしまった。毒の効果で目が回り大地が揺れる。
「グガガガ。」
アンデッドが笑っている、様な気がした。何でこんなことに・・・。
そこには胸や顔が一部白骨化した地竜が3体。私たちの相棒だ。嗅いを嗅いで追跡してきたんだ。
くっ!酷過ぎる。この子たちはもう死んでいるのに・・・もう一度殺さなきゃいけないなんて。
ナッシュを下ろし解毒薬を飲む。地竜は襲い掛かって来ない。仲間を待っているのか?
あのボス骸骨が来たら終わりだ。ここで地竜を倒すしかない!
とっておきを使う時が来たようだ。
バッグから青い液体の入ったビンを取り飲み干す。エーテル・・・魔力を回復させるアイテムだ。実家がまだ貴族だった頃宝物庫から拝借しておいたのが役に立った。これ一本で屋敷が買える程のお値段なのだ!魔力が漲って来る!
「悪霊共、元の世界に帰してあげる。地獄にね!」
─── side チャム ───
洞窟内を疾走するノアール。途中モンスターに遭遇するも華麗に躱していく。走りに迷いが無い。匂いを追跡しているのか?
『・・・ち・・・か・・・い・・・・・・。』
もう着いちゃうの!?はぁはぁ、呼吸が乱れる。凄いプレッシャーだ。魔力が微弱が私にも分かる。
ノアールの動きが遅く、いや慎重になり気配を消し近づいていく。ウッ、何この匂い・・・。
「グルルルルル・・・クチャクチャ」
二足歩行するトカゲのアンデッドを発見する。あの鞍と鐙・・・冒険者が乗っていた地竜?
・・・待って、あの地竜が食べてるのって・・・。
『・・・ガ・・・ディ・・・厶・・・。』
やっぱり冒険者か。
『あんたの飼い主、じゃあないわよね?』
『・・・ちが・・・う・・・。』
あの大柄な筋肉質の男は僧侶だったかな。
『助ける?いや、もう手遅れだけど・・・』
『・・・さ・・・き・・・へ・・・・・・。』
オーケー先を急ごう。生存者を探すんだ。
ひんやりとした空気の中先へと進む。再びノアールの速度が上がる。周囲に脅威はないらしい。
巨石が密集する広い空間に出る。ノアールが岩の上をピョンピョン飛んでいると、
「ノアール!」
ノアールを呼ぶ声がする。岩の上に獣人の少年が現れた。ノアールの飼い主?のポンテだ。
「何で戻って来たんだ!ギルドからの応援は!?」
「ワオーン!」
「何ぃ!?間に合わないから助っ人呼んで来たって!?」
普通に話してるんだけど。
「クゥーン。」
「役に立つって言われてもなあ。」
えっ?そう言えば私なんでここにいるんだっけ?なんかその場のノリで来ちゃったけど。
「お嬢ちゃん魔法とか使えるのか?」
「動物とお話したり出来ます。」
「他には?」
「それ以外は特に・・・。」
魔力がほとんど無いので。グスン。
「特技は?剣術とか使えんのか?」
「えっ、剣術は使えないけど野菜を作ったり料理をするのは、得意です・・・。」
食材は集まって来た、後は調味料があればもっと幅が広がるんのだけれど。って今はどうでもいいか。
「・・・おい、コラ!ノアール!どう言う事だ!」
「クゥーン。」
「俺は戦士を呼んで来いっていったんだ!料理好きなガキ連れてきてどうすんだ!」
的確な突っ込みが入る。そりゃそうだ。
「ガウガウガウ。」
「秘めた力?本当か?」
は?ないないない!やめて!
「ノアールが来て欲しいって言うから来ただけで特別な力とかはありません!」
誤解無きよう断言する。
「だそうだが?」
「クゥーン。」
しょんぼりワンコ。
「あ、あのペトラや他の冒険者の方は!?」
話題を変えよう。
「ここにはいるのは俺だけだ。ペトラはリーダーのナッシュといるはずだが・・・はぐれてしまって無事かは分からない。」
そんな。ペトラ・・・。
「神官のモニカや地竜たちは奴らに殺されアンデッドになってしまった。僧侶のガディムは・・・生きていればいいが。」
あの神官さんもやられたのか。ガディムさん・・・。
「クゥーン。」
ノアールがさっき見た光景を話してるようだ。
「!!・・・そうか。」
拳をギュッと握りしめている。
「2人を探して合流しよう!」
ぐうううううう。
「あっ・・・。」
お腹が鳴った。こんなとこに何日もいたんだ。腹も減るだろうよ。
「急だったから大したもの持って来れなかったけど・・・。」
バッグから大麦パンとトマトを取り出す。
「いいのか?すまない!」
ガツガツッ
凄い勢いで食べとる。
「硬いけど、モグモグ、美味いなこれ。」
「これパンに塗るともっと美味しいよ。」
バターをスプレッダーでパンに塗りたくる。
「はい、どうぞ。」
ガツガツッ
「んー!?美味ええ!何これ!?」
「牛の乳から作ったんだよー。」
「凄いな。料理が得意だと言い張るだけあるな。」
言い張ってないよ!
それに美味しく感じるのはお腹が空いてるからだよ。
「ふうー、生き返ったぜ。ありがとうな。」
どういたしまして。
「ノアール、ペトラとナッシュの匂い追えるか?」
「ワォーン!」
「よし!出発だ!」
私がノアールに乗り、ポンテは後方を警戒しながら付いてくる。狼のスピードに付いてくるとか凄いなあ。
ペトラ、私たちが行くまで無事でいて!