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初夜には間違いないけれど……

(ジョゼフ視点)




「ルーナ話がある」


「明日にしてくださいませ」


「いや、今話しておきたい事がある」


「どうぞ」


「……二人でゆっくり話し合いたい」


「サロンの準備を頼みましょう」




「夫婦の寝室があるだろう。そこで話し合おう」


「遠慮いたします。わたくし疲れましたので先に休ませてもらいますわ」


 そう言って自室に戻ろうとするルーナの手を掴んだ。



「悪かった……私が全面的に悪い! 今まで本当に申し訳ない事をした」


 使用人が目を大きく開きささっとその場を去っていく。結婚式を終えたばかりの夫が妻に平謝りしている。何かあったと普通は思うだろう。




「例の事でしたら気にしていませんわ。それより手を離してください。痛いです」


 顔を顰めるルーナは痛そうな表情をしていた。つい力が入ってしまった。細い白い腕だ……捻ったら折れてしまいそうなくらい細い。



「……すまない」



「お話はそれだけですか? わたくしは先ほども言った様に疲れています」


 パッと手を離すと掴まれていた腕をさすりながらそう言った。




「……明日アグネスが、引っ越してくる予定だ」


「分かりましたわ。それは聞いていた事ですので理解しております。もちろん虐めなど卑劣な事は致しませんからご安心を……それでは失礼します」



 ……あっ、行ってしまった。振り向きもしない。



 今日はルーナとの初夜。念の為湯浴みをし夫婦の寝室へと行ったが、朝までルーナが来る事はなかった。冷たいままの寝具を見て後悔した。


 来るわけ……ないか。




 その日の朝ルーナは執事長とメイド長に挨拶をしたようだ。


 それから使用人が全員ホールに集まった。私は突然その事を聞き慌ててホールへと向かった。



「本日からこちらでお世話になる事になりました。ルーナと申します、どうぞよろしくお願い致します。奥様などと畏まった言い方は結構ですので気軽に名前で呼んでくださいます様にお願い致します」


 にこりと微笑み挨拶をすると、若くて美しいルーナに使用人が虜になっているようだ。



「しかし奥様……お名前でと言うには」


 執事長が言うと



「わたくしはまだ年若いので()()と呼ばれる事が恥ずかしいのですわ。皆さんそう言う事ですのでわたくしの事は名前でお呼びくださいませね」




 奥様と呼ばれる事に抵抗があるのだろう……夫婦なんだからそれはダメだ。


 ルーナは私の妻になったんだ! 後で話し合いたいと思った。



「おく、いえ、ルーナ様朝食の用意が整いました。旦那様をお呼び致しますので、」


「私はここにいる。ルーナ朝食にしようか」


 メイドがルーナの事を名前で呼び始めた! これはいかん。妻としての自覚を持って貰わねば!



「えぇ、そうですわね。わたくし侯爵様にお話がありましたの」


 にこっとこちらを見て笑うルーナ。嫌な予感しかない……



 ルーナをエスコートしようと腕を出そうとしたら、メイドにこちらです。と言われそのままスタスタと歩いてついて行ってしまった。新婚なのに……



 食堂に着いて離れて食事をする。せめてもう少し近くに……



「侯爵様、わたくし実家では仕事をしておりましたので、結婚後も続けたいと思っております。もちろんよろしいですわよね?」


 プライベートは口を出さない……約束だ。それに仕事なんだから悪いわけがない。



「あぁ、もちろん許可する」



「ありがとうございます。それでは実家から数人わたくしの使用人を呼びたいと思っていますのでよろしくお願いしますわね」


「もちろん、許可するよ。それよりも私たちの契約について今一度話し合いたいと思っているんだが、時間はいいかな?」



 ルーナを抱きたいし、以前の様に名前で呼ばれたい。侯爵様と言われると寂しい。

 ルーナもさっき使用人に名前で呼んでほしいと言っていたから、それを真似しようか……



「契約ですか? 一年更新となっておりますので、見直しは一年後となっておりますわ」




 なんだ……それ? 聞いていない。




「一年更新……?」



「えぇ。書類にそう書いておきましたの。顧問弁護士に相談して作成し直しましたので法律的には有効ですわよ? 侯爵様も例の書類を作る際には顧問弁護士からの助言を受けたのではなくて?」


「……そうか、一年更新」



 書いてあったか? あの括弧の部分だけ書き換えられたと思っていた。


 嘘だろ……ルーナが考えてルーナにサインする様に……



 ……ルーナが考えて顧問弁護士に相談して作成してサインをしたのか! やられた!




「お話は以上ですわ、わたくしはお先に失礼致しますわね。それと食事は別で構いませんので、お好きな時にお召し上がりください」



 有無も言わさず、にこりと笑顔を貼り付け席を立ち出て行ってしまった……




「旦那様、失礼ですが契約とはなんの話でしょうか? 私は執事として聞く権利があります」


 



 結婚前に出した手紙の事を口にした。それは約束というか契約となって法律の元でも有効なのだそうだ。




「バカな事を! なんて事を……」



「今更ながら後悔をしている。そして今日アグネスが引っ越してくるんだ……」


「なっ、まさかあの離れの家具を新調されていたのは……奥様のための準備ではないと? あそこは、あの離れは歴代の奥様の癒しの場になる為に作られた建物ですぞ!」


 執事が怒り更に呆れているようだ。



「困った……困ったぞ! どうする。まさかルーナがあんなに美しく成長しているとは思わなかった。最後に見た時はまだ子供で……」


「バカですか! 女性の成長は早いのです! しかも奥様も同意をしているとか……まさかあの結婚式の誓いの口付けは……」



「言うな! 拒否されたんだ……恐らく」


 何も言わない(言えない)執事と呆れ返ったメイド長とがっくり肩を落とすジョゼフだった。バカだった。私はバカだ!


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