結婚式(ジョゼフ視点)
「行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。私たちが一緒になるにはあのガキと仮初めの結婚をしなくてはいけないのでしょう? それなら喜ばしい事じゃないの」
「……面倒なだけだ」
キスをしてアグネスの家を出た。明日は結婚式だ。また邸に戻れば説教されるのだろうか……私は二十四歳で侯爵家の当主だ。執事もメイド長もネチネチと煩い。
今日も説教だった。明日は結婚式だから部屋で休む。と言って二人を撒いた。
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結婚式をもって両親は領地へ引っ込む事になり、明日アグネスは侯爵家へと引越ししてくる。
と言ってもアグネスの生活家具はすでに、邸に用意してある。身一つで引越してきても生活はできる。
結婚後の契約があるからルーナはこの事に関して異論はないだろう。明日とうとうあの五歳だったルーナと結婚式だ。ままごとの様な結婚生活は真っ平御免だ。私はロリコンではないし大人の成熟した女の魅力にしか興味はないのだ!
…………そう思っていた。
教会で誓いの言葉を言えずにいるルーナに舌打ちをして、その後誓いのキスをする予定。頬にでも軽くすればいい。そう思い花嫁のベールを上げた。
…………するとそこには、女神かと思う様な美少女がいた。胸まで隠されたベールを取ると張りのある触り心地の良さそうな胸の膨らみ……
コレがあのルーナなのか……絶句した。
誓いのキスを……と言われルーナの小さな艶のあるピンクの唇に吸い込まれる様に顔を近づけると、ルーナは膝を折り額にキスをする事になった。
初々しいその仕草は式に参列していた男達を虜にした。
その後は結婚披露パーティーだ。白いレースのドレスに身を包むルーナははっきり言って美しかった。
レースに隠れたその体のラインは隠れる事なく若々しく、ハリがあり特に胸の膨らみも魅力的だった。
「おい! ジョゼフ若くてあんな美しい嫁さんを貰うなんて羨ましいぞ!」
「ベールを取った瞬間に息を呑んでしまった!」
「いいな、羨ましい……あんな可愛い嫁さんと今日から毎日楽しめるなんて……」
髪をアップにしている後ろ姿にさえ気品と色気が漂う。開いている背中のラインに目を奪われ、他の男に見られたくないとさえ思った。
「あんな可愛くて若い嫁さんなんてどうやったらゲット出来るんだよ! 二十四なんて十六歳から見たらおっさんだろ!」
……私は今までルーナの事をガキだと思っていたがルーナから見たらおっさんなのか?
「おい、アグネスとは別れたんだろうな! 嫁さんを泣かせる様な事はするなよ!」
「まぁ、ルーナちゃんなら仮に離縁をしたとしても、次の相手は引く手数多だろ。俺も立候補したい!」
バカな事を言う友人達を置いて、ダンスの披露の時間が来たからルーナを迎えに行った。
友人の令嬢達と話しているルーナは花が綻ぶ様に可憐で、私がルーナの名を呼ぶと一瞬にして表情をなくし
「侯爵様、なにかありまして?」
他人を呼ぶ様に私にそう言った。以前は名前で呼んでいたと思うのだが……私が侯爵を継いだ事によりそう呼んでいるのだろうか……
「友人達との会話中に申し訳ない。ダンスの時間なんだ。私たちが踊らないと他の人たちが踊れないから誘いに来たんだ」
なぜ説明口調なんだ……ルーナと話すのに緊張するなんて。
「それは申し訳ございませんでした。話に花が咲いておりましたわ」
「いや、構わないよ」
「皆さん、ごめんなさい。一曲だけ踊ってきますわね。それでは楽しんで行ってくださいね」
と言って友人達と別れた様だ。一曲だけって念を押す必要があるか?
それからルーナとダンスを踊った。天女の羽衣でも纏っているのではないかと思われるような軽いルーナとのダンスはとても楽しかった。もう一曲……と思っていたら手が離された。
周りから拍手されたので二人で揃って礼をする。
「少し疲れた様ですわ、休憩して参りますわね」
周りに人がいるからか笑顔でそう答えた。その笑顔は貼り付けた様な笑顔で友人達と話していた時の可愛らしい笑顔とはまるで違った。
名残惜しくルーナを見ていると友人たちが冷やかしに来た。
「ジョゼフ、今夜はこれからお楽しみだろ? あまり飲みすぎるなよ?」
……お楽しみ? あぁ初夜か。そうだな飲み過ぎは……って私はルーナを抱く事ができない!! 契約について話し合いが必要だ!
休憩中のルーナを迎えに行き、今日の披露パーティーに来てくれた人たちに挨拶をする。
皆が口を揃えてルーナを美しいと絶賛した。ルーナは別名ベルモンド家の至宝とまで言われていたようだ。
知らなかった……
なんとこの場には王太子夫妻も来ていて、ルーナと挨拶に行った。
「ルーナ様ご結婚おめでとう。いつもお世話になっているから祝辞が言いたくて来ちゃったの」
王太子妃が来ちゃった! と言う関係なのか?
「まぁ。畏れ多い事でございます。この度はこの様な場所に来ていただき誠に光栄ですわ。ありがとうございます」
そして王太子夫妻に優雅にカーテシーをするルーナに見惚れてしまった。
「おや? バルビエ卿はルーナに見惚れているのか? ルーナは美しく賢い、仕方がない事だな」
ははは……と笑う王太子にルーナは
「まぁ! それはあり得ませんわよ。侯爵様から見たらわたくしは子供ですもの」
「年齢差が気になるのか? 夫婦になったのであろう? 仲良くしろよ?」
「助言いただき光栄な事ですわ」
ルーナが当たり障りのない返答をした。見惚れていたのは確かなんだけど……
その後パーティーの途中で私たちは抜ける事になり、初夜を迎える事になる。