結婚式
①私の(お互いの)プライバシー・プライベートに侵害する事は許さない
②白い結婚とする
③アグネスを虐めてはならない
④侯爵家の夫人として務めよ(侯爵家当主に相応しい行動を望む)
⑤私の(お互いの)金の使い道に異論は唱えない
⑥王家主催のパーティー以外出席はしない
ちゃんと書類を理解する事は出来たのだな。私のところがお互いになっているだけだ。
ルーナ自身に決めさせ、サインを書かせる。これで周りが知る事がないだろう。
この件に関して二部用意してある事から、私とルーナが持っている書類となった。
結婚式はもうすぐだ。ルーナに会うのも久しぶりだ。最低である事は理解しているが、子供の機嫌を取るのは面倒なんだ。
ルーナは私の顔を見る度怯えた顔をしていたな……
子供は手が掛かり、機嫌を取るのが面倒で時間の無駄。そんな子供との子を作ろうとは全く思わない。
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【ルーナ視点】
とうとうこの日がやってきた。結婚式の半年ほど前にジョゼフから来た手紙を見て、私は泣いた。
ジョゼフは私と違って大人の男性だ。頻繁に会う事もなかったし、そう言った類の女の人がいてもおかしくはない。そう思っていた。貴族の結婚は恋愛ではない、家の為。
結婚後、後継が生まれてから愛人がいると言う男の人の話は聞いた事がある。
お茶会などでも耳年増な私たちはそう言った話も話題に上がるし、政略結婚であっても結婚に憧れる年代。
両親が仲良くしている姿を見ているとそうありたい。なんて淡い期待があってもおかしくはないでしょう?
でも例の手紙で私の心は冷えていった……愛されたいと思わない事ですって……
悲しくて泣いた。
辛い現実に泣いた。
情けなくて泣いた。
夫婦であっても夫婦にはなれない関係。
愛情を求めない冷えた結婚生活。
私はジョゼフを愛する事は出来ないと思った。
こんな恥ずかしい事、誰にも相談出来ない。悲しくて悲しくて一人静かに泣く日々……侍女にもメイドにも知られたくない。私は愛されない存在のお飾りの妻になるのだ。それを事前に知らされて今日ジョゼフと結婚する。
そして私は一年後に離縁を申し出る事になる。離縁後は両親にも兄にも迷惑をかけずに一人で暮らしていけるようにしなくてはならない。
ベルモンド伯爵家は実業家で私も商売をさせてもらっている。父が輸入している食材でスイーツを考案し、職人に作らせていた。そこには友人のフェルナンドの助けもある。
お茶会で人気が出て、注文を貰い届けていたが、貴族街にショップをオープンさせた。今のところはとても好評で人気店。
その後は庶民向けにも安価で美味しいお菓子を提供する予定で、フェルナンドが手伝ってくれた。結婚すると今のように頻繁に会う事は出来なくなるだろう。
でもお互いのプライベートには口を出さない約束となっているから、ジョゼフは私が何をしても誰と会っていても何も思わないだろう。
私にはタイムリミットがある。一年で一億リルを稼がなくてはいけない。正確に言うとあと五千万リル。私の個人的な蓄えが五千万リルある。
両親が一億リル持参金として持たせてくれたから、そのお金を両親に返す為だ。お金ではない。お父様は受け取らないと思う。でもこれは私の決心。
家族に愛されて来たけれど夫には愛されない娘でした。ごめんなさい。
一年後そう伝えよう……
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結婚式はたくさんの人が参列してくれて、たくさんの祝辞を貰った。
一番困った事は、神様に嘘をついた事。
【生涯愛する事を誓いますか?】
呪いの言葉に思えてしょうがなかった。返事が出来ないでいるとジョゼフは私にしか聞こえない様に小さく舌打ちをした。
私は小さな声ではい。とだけ返事をした。
それから誓いのキスをすると言う時に、ベールを上げられた、そしてなぜかジョゼフは私の顔を見て固まった。
何かおかしなところがあったのだろうか……? 身長差がありジョゼフを見上げる様な形になる。何年振りかにジョゼフと目が合った。
花嫁のベールは胸元までしっかりと下りているし、結婚式当日はベールを上げるまで花嫁の顔を見る事は禁じられている事から、ここで久しぶりの対面となった。
ニヤリと薄気味悪く笑ったジョゼフの顔が近づいてきて、私は気持ちが悪くて咄嗟に膝を折った。その為ジョゼフの唇が触れた場所は私の額だった。
この事は初々しい花嫁が恥ずかしがったからだ。と言われ多くの人に語られる事になった。