婚約者がいるの
「え? ルーナに婚約者がいるの?」
ルーナは十五歳になっていた。
「うん。言わなかったかしら? パドルさんに聞いてない?」
パドルさんって名前は商人の時に使っている名前なんですって。本来はデュポン伯爵って呼ばなければいけないみたいだけど、パドルさんって呼ばれる方が良いみたいでそのまま呼んでいる。因みにパドルさんはこの国の子爵位を持っていてフェルナンドが継ぐ予定だって聞いた。
「……知らなかった。だって婚約者を見た事ないし、ルーナくらい可愛かったら放っておかないだろう?」
「相手は大人だもん。八歳歳上で最後に会ったのは三年前だったの。誕生日にカードが届くくらいしか交流がないもん」
「伯爵は知っているの? ルーナはそれで良いの?」
「貴族の結婚は家同士の話だから。結婚したら仲良く出来るのかな……分かんないけどお父様やお母様の様に仲良い夫婦には憧れる」
沈んだ顔を見せるルーナ。
ルーナはフェルナンドが言った通り可愛い容姿の令嬢。ピンクの大きな瞳にプラチナブロンドのフワッとした柔らかい髪の毛が印象的だ。
「ごめん、変な事を聞いてしまって」
「良いの。別に隠していた訳ではないから気にしないで。それよりもまた外国のお話聞かせて! シルビア様とは相変わらず仲がいいの? また遊びに来てほしいって伝えてね」
フェルナンドは十七歳。国で既に成人を迎えていて数々の国を渡り、面白かった事や危なかった事、その国にしかいない動物や食べ物の話を面白おかしく話して聞かせた。シルビアとはフェルナンドの婚約者で、この国の子爵家の令嬢だ。
「良いなぁ~。お父様やお母様も外国に買い付けに行ったりするけれど、私も行ってみたい! お兄様ばっかりズルいわ」
ルーナは花嫁修行の為家庭教師が付いている。マナーはもちろん、刺繍や編み物に至るまで花嫁修行の一環だった。
ルーナは十六歳になるとジョゼフと結婚式を挙げる事が決まっていた。この家で娘として過ごせるのはあと一年。ただルーナの希望で経営学も学んでいる。そしてルーナには経営をしている店もある。ルーナの両親はルーナがやりたいという事に反対はしないが、赤字が出たらすぐ撤退! とその辺はシビアだ。
「早く大人になりたい」
これがルーナの口癖。会う度ジョゼフに子供だとバカにされる事に傷ついているようだ。
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「ジョゼフ! 良い加減にしろ! お前、まだあの女と切れていないのか!」
ここは侯爵家の一室だった。
「切れるだなんて彼女に失礼ですよ! 彼女はもう二十五歳です。いき遅れた理由は私ですからちゃんと責任を取るつもりです」
「……責任だと? おまえはバカな事を言うな! 慰謝料でもなんでも払って別れろ! それくらいの金なら出してやる!! ちょっと歳は食っているが婚家の世話もしてやるから別れろ!」
もうすぐルーナとの結婚を控えている。婚約者に会わずに昔から付き合いのある女に入れ上げているジョゼフ。婚約者の家は伯爵家だが王家からの信頼も厚いベルモンド家。
「父上は私の結婚と共に爵位を譲って領地に戻られるのでしょう? すでに書類上では私が当主の様なものです。私には私の考えがありますので放っておいてください」
結婚まであと半年か……そろそろ動く時が来たか。ルーナに手紙を書く事にした。
私には愛する女性アグネスがいる。昔から情を交わしている間柄でアグネスと別れるつもりはない。
ルーナとは家同士のつながりで結婚する事にするが、私から愛される事を望むな。私の愛情はアグネスにだけ向ける事になる。
だがルーナと言う存在がいる限り、アグネスとは正式に結婚する事ができない。
結婚後一年妊娠の気配がないと第二夫人を迎える事ができる。貴族にとって後継は必要不可欠だからだ。
私はルーナと夫婦になるが深い関係になる事は望んでいない。一年後に離縁するか第二夫人を迎えるかはルーナの判断に委ねる。
ルーナと結婚後は、アグネスも侯爵家に住まわせる事になる。結婚後他の女性の元に通っている事がバレると外聞が悪いからだ。この件についてはルーナ自身が決めルーナがサインをするように。
結婚後の条件は下に書いておく。それを守るように。
・私のプライバシー・プライベートを侵害する事は許さない
・白い結婚とする
・アグネスを虐めてはならない
・侯爵家の夫人として務めよ
・私の金の使い道に異論は唱えない
・王家主催のパーティー以外出席はしない
以上。
まぁこんなものだろう。ルーナはガキだから意味も分からずにサインをしてくるだろう。
その後返ってきた返事は私が思っている事とは若干の違いはあれど、私は快くサインをした。