幼馴染が口ぐせのように『童貞』と煽ってくるので「お前で卒業してやるぞ」と冗談で言ってみた結果
頭の悪いラブコメです。
何も考えずに勢いでガーっと読んでください。
「ねえ、童貞。この漫画の続き、買ってないの?」
「金欠なんだよ、てか童貞呼びやめろ」
「えーだって事実じゃん」
「それはそうだけども!」
「じゃ、良くない?」
そう言って俺の幼馴染──萩村澪はケラケラと笑う。
明るめのグレージュの髪はくるりと内巻きに。
ぱっちりした目を強調するような男ウケ抜群のナチュラルメイク。
出るところは出て、締まるところは引き締まった抜群のスタイル。
うちの高校でカワイイと思う女子ランキング不動の一位。
そんな澪が俺の部屋の、俺のベッドで寝そべっている。
男だか女だか分らなかった昔の澪はどこへやら、あれよあれよと成長し高校デビューも大成功させたことも相まって、すっかり大人の女性になってしまった。
……だというのに、澪は昔と変わらず俺の部屋に入り浸っている。
あのさ、外聞とか気にしないワケ?
このことが澪が普段仲良くしてるような、教室の中心でキャイキャイしてるような女子たちに知られてみ?
「男の趣味わる~」とか言われて軽蔑されるからな?
でも真にダメージを受けるのは趣味の悪い男扱いされた俺なんですけどね~、アハハ。
って笑いごとちゃうわ。
「ねえ、童貞。ジュース飲みたい」
「それが人にモノを頼む態度か」
「ダメ?」
「冷蔵庫に入ってるから勝手に取ってこい」
「ちぇ~」
そう言って、俺のベッドから立ち上がって慣れた様子でキッチンへと向かって行った。
「はぁ~……」
ようやく一人になったところで大きくため息をつく。
ここ最近、どこかで覚えてきたのか、仲間内で流行っているのか、事あるごとに俺のことを『童貞』と煽ってくるようになりやがった。
誰だよ、澪に変な煽り方教えたの。
事実だけど! 事実だけども!
とは言え高三で卒業してるやつの方が少ないっつーの。
俺みたいな陰キャに限定すれば、その率は一桁を記録するはず……。
そしてその一桁の連中は裏切り者だ、エセ陰キャやめろ。
「は~い、可愛い幼馴染が帰ってきましたよ~っと」
自分で可愛い言うな。
可愛いけども。
「何ジロジロ見てんの?」
「見られる格好してる方が悪い」
「うわ、キモ。さすが童貞」
「だったら男の部屋でそんな隙だらけの恰好してるお前はビッチだな」
「うわ~、乙女に言っていい言葉じゃないんですけど」
でも実際隙だらけの恰好で目のやり場に困る、困っている──現在進行形で。
第二ボタンまで緩く開け放たれたYシャツ。
膝上何センチだよって感じの太ももまで剥き出しのミニスカート。
色々見えそうになってんだよ、直せよ。
相手は童貞なんだぞ? 勘違いしちゃうぞ?
それからも澪の『童貞』コールは続いた。
童貞……童貞……童貞……。
そして、
「ねえ、童貞。今日の宿題……」
と澪が言った瞬間、俺の中の何かが弾けた。
おそらく弾けたモノの名前は『理性』。
口を開けば童貞童貞童貞童貞……
──そんなに童貞って言うなら……
「そんなに童貞って言うならお前で卒業してやるぞ!?」
あ。
やっべ。
完全にライン越えだ。
セクハラで訴えられたら負ける。
訴えられなくてもクラスの連中に広められたら人生詰む。
「あの違うんだ……これは……冗談で……」
慌てて訂正しようと試みたのだが……あれ?
どうも澪の様子がおかしい。
顔を真っ赤にして──まるで恥じらっているような?
「は、はぁ……!?」
上ずった声、耳まで顔を真っ赤に沸騰させてしゅぽしゅぽと蒸気を噴き出している。
てっきり罵倒されるかと思ったんだけど……?
そして澪は少し裏がえった声で、
「わわ、私のことそんな目で見てるの!?」
と聞いてきた。
──いや、そんなの。
「見てないワケないだろ! こちとら童貞だぞ!? そんなに綺麗になりやがって……!」
「綺麗……」
「昔みたいに無防備にしてんじゃねえよ! たまにパンツとかブラとかが見えてるんだよ!」
もう理性なんてしーらない。
これが無敵の人、というわけだ。
「お前で卒業するぞ」とかいうド畜生な発言をした手前、今更取り繕ったところで無駄だろう。
この際思ってること全部ぶちまけてやる!
「童貞……キモ」
「ああそうだよ、童貞はキモいんだよ!」
「で、でも卒業って私じゃなくてもいいんでしょ? ヤらせてくれるなら」
「いいワケあるか……」
「え?」
わなわなと声が震えていたけど俺は構わずに続けた。
「いいワケあるかボケェ! 童貞は初めてに夢を見るんだよ! そんなさせ子ちゃんじゃなくてちゃんと好きな人に童貞を捧げたいって思うのは当然じゃい!」
あ、やべえ。
流れで告白してないか、これ?
……こんな最低な告白の仕方あるか? 俺は知らない。
正直ぶん殴られてもおかしくないのだが、澪にその気配はない。
それどころか顔を真っ赤にしたまま、口をパクパクとさせている。
それでも何とか強気な姿勢を、俺を童貞だと見下したスタンスでいるらしい。
「好きな人……あ、私がちょっと可愛くなったからって急に下心出したパターンだ。いたわー、そんな人。高校デビューしたら急に見る目変えて挙句の果てに告ってくる人」
「そんじょそこらのヤリチンと一緒にすんなぁ!? こっちはな、お前がまだオシャレのオの字も知らないガキのころからずっと好きだったんだよ!」
そう、澪は俺の初恋の相手。
まだ蕾が花開く前だった小学生のころから──一緒になってヤンチャしてたあの頃から俺はずっと澪のことが好きだった。
「どうせ後付けでしょ? 今だったらどうとでも言えるもん!」
確かにそう思われるのも無理はない。
でもなぁ……俺は一回、澪に告白してんだよ!
「覚えてるか! 中三の花火大会。二人で一緒に行ったやつ!」
「覚えてるわよ!」
「あの時お前に告白したんだけどなぁ……花火の音がデカすぎてお前は俺の告白を『え、何?』って──聞き逃しやがったんだよ! それ以来すっかり臆病になっちまった! この鈍感!」
そう、告白するつもりで誘って──いい雰囲気にまで持っていって告白──ってプランが台無しになってしまった俺の黒歴史だ。
それ以来また失敗するんじゃないか──って臆病になった上に、澪が高校デビューを成功させて一気に別世界の人になっちまって……あれから三年間、もう一度の告白ができずにいた。
「それ私が悪い!?」
「ああ、悪いよ、どこの鈍感主人公だよ!」
そこからはもう悪い悪くないの罵り合いだ。
ギャーギャーギャーギャーと騒ぎ倒して、ふと訪れた沈黙。
気まずい沈黙。
その沈黙を終わらせたのは澪だった。
「バカ、もっと早く言ってよ。私も、──だったのに……ずっと」
震える吐息交じりの声が密やかに空気を揺らす。
──あれ……なんか……雰囲気よくね?
※ ※ ※
「なあ、その……澪も俺が好きってことで良いんだよな? 学校とかでさ、どうする? 俺ら全然グループも違うし、何なら幼馴染ってことも知ってるやつ少ないし」
勢いって怖いね。
お互い若かったってことですな。
友人とおふざけで買った童貞の必需品があってよかったよ、ほんと。
俺の言葉に隣にいる澪が分かりやすく不満げな顔をした。
「一回ヤったくらいでもう彼氏面? これだから童貞は……」
「澪だって……初めてだったじゃん」
「うるさい! バカ……」
ちょい、口と鼻を同時に塞ぐな。
マジで息できなくなるからっ……!
なんとか澪の手を払いのけると、澪は背中を向けた。
「じゃあ、俺とは遊びだったってこと?」
「バカ、そんなこと言ってない」
「じゃあ、どうなの?」
「──好き……」
(卒業した主人公は自分に自信がついて見事大学デビューを果たし、キャンパス内でも屈指の美男美女カップルとして名を馳せたそうな……)
ありがとうございました。
デュウェッチィ文章は書けないので、こっちに供養することにしました。
怒られるかもしれません。
別ベクトルで頭の悪い新作短編を投稿しましたので、下のリンクから合わせて読んでいただけると嬉しいです。