表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/27

女はこわいよ


 「ですから、魔方陣による魔法と詠唱による魔法は....」


 異世界生活開始二日目


どうやら学生は勉強という運命からは逃れられないことを知った。


 午後から座学をするとは聞いていたが、まさかこの国の歴史から始まり魔法の構築方法まで全て覚えさせられるとは...元の世界よりも地獄かもしれない。


昼食を摂った俺たちは世界についていろいろと教わるため広いホールに集められた。

数分後、自身を王帝魔術士団長と名乗るクリスが入ってきて笑顔で告げた。


 「勇者様の知識、魔法の指南役を任されましたクリス・ア・ボアリンです。早速ですが皆さんには時間がありません、明日行われる『召喚の儀』までに今から配る教材の内容全てを覚えていただきます。」


俺自身暗記力には結構自信があったから、いくら時間がないと言っても、クリスが明日の召喚の儀とやらまでに覚えれると判断した量なら大丈夫だろうと内心なめていた。


渡された教材を目にするまでは···


 「皆さん行き渡りましたか?では今から私が解説をしますので覚えていってください。」


クリスがそう言って渡したのは広辞○ほどはある、それはそれは分厚い教材様だった。


その場にいる全員が絶句した。

 「帰るからって私だけ遊んでいるわけにはいかないよっ!」と意気込んでいた委員長も今では「私帰るからこれ覚える必要無いよね。」って顔をしている。


そこで一人が質問した。


 「これって全部覚えなくても大丈夫ですか?」


 「えぇ、勿論覚えなかったら罰せられるとかはありませんよ。しかし、そこに書いてあるこの国の金融単位を覚えなければあなたはものを買うことすら出来ませんし、世界の地理と魔法構築論を覚えなければ戦場に出たときなにもできずに死んでしまうことになるでしょう。それでも覚えなくても良いと言う方はどうぞ明日までおくつろぎください。」


沈黙が数秒続いた後、質問した生徒は無言で教材を開き始めた。


 魔女め、まるであの質問を待っていたかのように完璧な脅しで全員をやる気にさせやがった。


クリスと目が合い笑顔で小さく手を振ってきたが、俺はこれっぽっちも笑えなかった。




10時間後


 「や、やっと...ぜん..ぶ、覚えた....ぞ。」


俺は力なく机に倒れた。


 地獄だった...本当に死ぬかと思った。

 早く飯食べたい。ブドウ糖が欲しい。


クリスが解説し終わった後は各自暗記時間だった。

それが終わった人はクリスの所に行き確認テストを行い、100点中90点以上を採れば合格でようやく自由の身になる。

しかし、テストの内容が毎回毎回変わるからたちが悪い。

俺はテストをクリスの所へ持っていく。


 「素晴らしいです悠馬様。90点ぴったりで合格です。」


採点し終えたクリスが俺に言った。

その瞬間、背後に多数の冷たい視線が突き刺さる。


 悪いな皆。俺は遅いやつに合わせてやるほど、できた男じゃないんでな。


俺は優越感に浸った。


 だが、少し位は自由な時間を与えてやろう。


 「すみません。クリスさん。」


 「どうしましたか?」


 「二人きりで話したいことがあります。一緒に付いてきてくれませんか?」


そう言って俺はクリスをホールの外に連れ出した。


 「それで、話とはなんでしょう?」


ホールをで出て少し廊下を進んだ所でクリスが聞いてきた。

俺は振り返りクリスのほうを向く。


 「そうですね、ここまで来れば大丈夫ですかね。」


今頃ホールではクリスへの愚痴大会が開催されていることだろう。


 「話というよりも、クリスさんに聞きたいことがあってここまで付いてきてもらいました。」


しばらく時間稼ぎになるような適当なことを聞いておこう。


 「さっきの教材で魔法について凡そは理解しました。しかし、それでは説明が出来ないものがありました。例えばステータス画面です。ステータス画面は魔法の類だと思っていましたが、画面表示は別に詠唱を唱えている訳でもないし、魔方陣を描いている訳でもない。何より表示したとき残存魔力が減っていません。」


それを聞いたクリスが笑う。


 「さすが悠馬様ですね。目の付け所が他の方々とは違う。」


俺もとりあえず笑い返す。


 さすがクリスのさんですね。あなたが笑うと恐怖を感じてしまう。


 「現在の魔法論学ではステータス画面の表示条件は説明できません。中には、神からの贈り物だという説もあるぐらいです。そして、そういうことを本格的に研究しているのが王宮魔術士団です。」


 「王宮魔術士団?」


俺は首をかしげた。


クリスが団長を勤めているのとは少しニュアンスが違う。


 「はい。アルバ殿が団長をしている魔術士団です。彼らの仕事は主に魔法の研究、開発です。」


さらに続けてクリスが話す。


 「対する私たち王帝魔術士団は戦地へ赴き騎士団と共に魔族どもを打ち倒し、国民を守る役目があります。」


 アルバ、アルバ...思い出したっ、最初にシャルル王と面会したとき神楽代の提案を断ったローブの男だ。


 「そういえば、帰還用魔方陣を準備しているのもそのアルバという男ですよね。」


俺はクリスに再度尋ねた。


 「えぇ、確かに帰還用魔方陣の構築にあたっているのは王宮魔術士団ですが...」


が、クリスは少し戸惑った。


 「ここだけの話、悠馬様達を召喚したのは私達王帝魔術士団だったのですが、

召喚するための魔方陣が書いてあった書物には帰還用の魔方陣など記されていなかったのです。」


 「...は?」


一瞬クリスが何を言っているのか分からなかった。

時間を置いて理解が追い付いてきた時には俺は驚きを隠せなかった。


 「それは、本当は帰る手段などないということですか!?」


そんな俺をみてクリスがなだめる。


 「決してそんなことはございません!私達だって元々一人用のものに手を加えて皆様を召喚したのですからっ!...ただ、たとえ研究に特化した王宮魔術士団でも王帝魔術士団が何ヵ月もの時間を費やしてした行程をたったの二日でできるとは思えないのです。」


 「そうですか...すみません、俺としたことが取り乱してしまいました。」


いえいえ、こちらこそ余計なことを。とクリスが手を振る。


 「それで、そのアルバという男は信用できるのでしょうか?」


あのとき、どうもアルバからは怪しい匂いがした。人が人を騙すときに近い感じ。

神楽代の件で人を上っ面だけで判断するのは止めようと思っていたがここに来て心配になる。


 「ああ見えてアルバ殿はこの国唯一の博士号をお持ちの方です。期日内に完成させることも、もしかしたらできるかもしれません。」


 「なら良いのですが...」


話は

「不安にさせてしまい、申し訳ございません。この話はなかったことにしてください。」

というクリスの言葉で終了した。


クリスが戻っていき、ホールの方から「魔女だっ!」「鬼女だっ!」という声が聞こえてきたが、俺は胸の奥に何かがつっかえたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ