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勇者の称号と戦い

 昔からあたしは人一倍強い使命感をもっていて、自分が悪だと思ったものがとことん許せなかった。

 その行き過ぎた使命感が空回りするときもあって、最近も学校のお嬢様である親友の女の子が、クラスの陰気な男子生徒に関係を迫られていると勘違いして、パーティ会場から二人でいるところを連れ出したら、その女の子に怒られてしまうことがあった。

 それでも、自分なりに正義を貫いてきたつもりだった。

 周りからは自分が女だというだけで無駄に正義感がある変な奴と言われ、まともに相手にされい時期もあった。

 あたしは、そんな扱いに嫌気がさして格闘技を始めた。

 誰に頼らずともあたし一人の力で悪を撲滅できるように限界まで自分を鍛え上げた。

 そのおかげもあってか、あたしが中学に入学するころには女番長というあだ名で周りから畏怖ようになり、女子生徒から相談を受けることも増えた。

 あたしは他人から頼られることにそれなりに達成感を感じていたし、自分の使命を果たしていたと満足もしていた。

 

 だからこそ、かつて下品だ、糞野郎だと見下いしていた男に土下座をして頼み込むしかない今の状況は、あたし史上最悪に屈辱的だった。

 ニタニタと笑う奴の顔を思い出すだけで、悲しさとこんな奴にあたしは負けたのかという恥ずかしさで涙が出てくる。

 早くしろと奴が催促する。

 ああ、もうどうでもいいか。あたしがこんな下らない使命感と正義なんて捨てて、一言謝罪の言葉を言えば万事うまく終わる話じゃないか。

 ただそれだけじゃないか...

 そうあきらめかけて口を開きかけた時、彼の声があたしの中に響き渡った。


 「それ以上言うなっ綾崎!!」



―――・―――



 俺が待ったをかけたとき綾崎は無気力にうるんだ瞳を向けてきた。


 「もういい、大丈夫だ綾崎。お前はもう充分頑張った。後は俺に任せてゆっくり休んでろ。」


そう言って、ボロボロに破けた服の上に、俺の上着を一枚かけてやる。

その瞬間無気力だった綾崎の瞳の奥に光が戻り、大粒の涙が溢れだす。


 「おいてめぇ、今から面白いとこだったのに何してくれんだよ!」


楽しみを台無しにされた佐藤が、後ろから怒鳴る。


 「お前こそ何やってんだ、クラスメイトに対する仕打ちがこれかよ。」


恐怖でまだ少し手が震えている。


 「仕打ちだぁ?その女が勝手に偽善者気取って返り討ちにあっただけだろ?俺は当然の行いをしただけだぜ?」


 本当にいい趣味してるぜ、お前。


 「お前はこの世界において害悪でしかない。明後日完成する帰還用魔方陣に乗って元の世界に帰れ。」


その言葉に佐藤の顔から気持ち悪い笑顔がなくなった。


 「なんだてめぇ、こっちが優しく接していればずかずかと。適当なことぬかしてると痛い目見るぞ。」


 こういう相手は挑発して判断を鈍らせるに限る。


 「そりゃ楽しみだ。お前程度がこの俺に何かできるとは思えないが、まあ、期待はしといてやるよ。」


 「っ!...俺を怒らせたこと後悔させてやるっ!」


佐藤みたいなバカは一度負けた相手には過剰に警戒するが、それ以外の奴に対しては基本的にNOプランで突っ込んできてくれるため扱いやすい。

現に佐藤はちゃんと挑発に乗ってきてくれた。

しかし、佐藤を倒すには問題を一つ解決しないといけない。

 

 「うらぁぁぁ!」


佐藤が突っ込んできたと思った瞬間、佐藤の拳が目の前に突如として現れた。

ギリギリのところで避けるが佐藤のパンチが俺の頬をかすめ、顔に傷を付ける。


ある問題とはそう、この常人離れした佐藤の移動速度である。

おそらくこれは、綾崎が後ろからの攻撃を避けれたのと同じように運動能力値の特徴だろう。

先ほどシルバが説明していたように人の運動能力には偏りがある。

佐藤の場合、運動能力値が両足の瞬発力と筋力が極端に成長しており、さらに勇者という称号で基礎能力が一回り上昇したことで、今のような常人離れした力を発揮できているのだろう。

幸い腕の振り自体は遅く、バカ真っ直ぐに突っ込んできてくれるおかげでいつ来るか予想しやすいので今は何とか回避できるが、あと少しでも早くなられるとさすがに全部は避けきれる気がしない。

佐藤が単細胞のおかげで助かっているが、さすがにこいつも何故当たらないのかをそろそろ考え始めるだろう。

だから、その答えを出す前に決着をつけたい。


 試してみるか。


俺は佐藤が突っ込んでくる直前、腰を低く構えちょうど佐藤のみぞおちの位置に腕を伸ばした。


 完璧な位置だ。


そのすぐあと佐藤が嗚咽を上げて俺の前で倒れた。


 「グハッ...!」


急激な加速で俺に近づいたときに俺の腕の前で止まることができずにそのままみぞおちに拳が食い込んだのだ。

いくら早く移動できたって、それを制御できる目がなければ意味ない。


 手痛ったぁ。腕ごと吹き飛ばされるかと思った。


佐藤の衝突により真っ赤になった手の甲をなでる。


 ピロリーン

 『スキル 身体強化・小を取得しました。』


ナレーションのような音が俺の頭の中に響いた。


 ..ん?何だ?スキル?身体強化・小?どういうこと??


俺はいきなりのことに困惑する。

 「ステータス表示」

顔の前にステータス画面がパッと映し出される。


 うーん、これはいつやってもなれる気がしないなぁ。


画面の右下、体の状態が映されている隣に新しく『スキル』と書かれた枠がでいきていた。枠のなかには『身体強化・小』という文字が収まっていた。


 まあ、いいか。佐藤も倒したことだし後で考えよう。


そんなことを思っていたとき、背後から誰かが立ち上がるおとがした。


 「...てめぇ、よくもやってくれたなあっ!」


 「おいおい、さすがにタフすぎやしませんか。」


後ろを振り返ると今にも血管ぶち切れそうな顔の佐藤が立ってた。


 「てめぇの名前は確か悠馬とかいったなぁ、ランクは?」


 「Aだ。」


それを聞いた佐藤は不気味に笑いだす。


 「アハハハハ、そうか、てめぇが五人のうちの一人だったのかぁ!」


 「もしれぇじゃねぇか!悠馬ぁ!それじゃあ俺がてめぇのいけすかない顔をぶん殴れれば俺はAランクの奴よりもつえぇことが証明される訳だっ!」


 俺はもう充分証明されていると思うんだけどな。


 「いくぜっ!」


そうしてまた佐藤が突っ込んできた。

佐藤が踏み込んだ地面がひび割れる。


 「おらぁぁああっ!!」


さっきまでのスピードよりも数段早くなっている。


 「うおっ...!」


避けきれず腕で防ぐもかなりの衝撃波が伝わってくる。

俺は数メートル吹き飛ばされた。


 ヤバいな。さっきよりも全然速いじゃないか。


どうにか、打開策を考えるが戦闘中ではうまく判断がまとまらない。


 何か、何かしら策はねぇのかっ!このままじゃじり貧だ。


そこにまたナレーションが鳴り響く。


 『スキル身体強化・小を使用可能です。使用しますか?』


 ついさっき取得したスキルのことか。もうこの際何でもいい。

 使えそうなやつは全部使ってやる。


 「スキルを使用っ!」


 声に出して叫ぶ。


 『スキル身体強化・小を使用します。』


 その瞬間体が軽くなり、周りの動きが少し遅く見えるようになる。


 おぉっ!佐藤の動きを目で追えるようになった。

 これだったら、なんとかなるぞ。

 よく知らせてくれたナレーション。


二発目の佐藤の攻撃を難なくかわす。

そして、攻撃が終わり佐藤が振り返ったところをぶん殴る。


 「まだまだぁ!」


佐藤も負けじと殴り返し、拳と拳がぶつかり合う。

周囲の空気が震えた。


勢いが死んだままの佐藤の攻撃と俺の攻撃は相殺された。


 『レベルが2アップしました。全ての能力値が上昇します。』


新しくナレーションが頭の中に響く。


それを聞いて俺はもう一度同じことを繰り返す。

今度は佐藤の攻撃が弾き返された。


 「なにっ!?」


状況を理解できない佐藤。

そこへ顔面に俺の二発目が入る。


 「...がは..っ!」


佐藤はそのまま壁にぶつかって動かなくなった。


 「終わりだ佐藤。潔く気絶してろ。」


その時、誰かから呼ばれたのか神楽代やシルバたちが戻ってきた。


 「これは何事ですかっ!」


シルバが、荒れ果てた訓練場に驚いて叫ぶ。

誰も答えようとはしない。


そんな静寂の中、訓練場の中心には俺だけが一人立っていた。

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