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アルバという男

日が暮れ始めるとともに、一日の終わりを告げる鐘の音が帝都中にこだまする。


今日も今日とて、あまり鍛練の成果を残せずに終わってしまった。


 「はぁ......」


レベルとスキルの数は順調に増えていっているはずなのに、ベルトランにはどうしても勝てない。

と言うか、シルバ、強いては、神楽代や道又ともドッコイドッコイの良い勝負をする始末だ。


いや、別にそれが悪いと思ってる訳じゃない。


イキリボッチの俺がSランク指定の、それも、神器2つ持ちの爽やかイケメンと良い勝負をしているなどと誰が予想できただろうか。


この事実だけを考えるとまさに、日々の鍛練と努力の勝利と言えるだろう。

俺に神器をくれなかった女神様とやらに腹躍りをしながら、全力の『ざまぁみろ』を見せ付けてやりたいところだ。


だが、あのダンジョンの一件を目の当たりにして浮かれていられるほど俺は能天気な奴ではない。


駆け出しだったとは言え、だった一人の魔族に20人を超える勇者パーティーが、ほぼ壊滅状態まで追い込まれたのだ。


勿論、あの時よりも格段に強くなっている自信はある。


それでいて、まだ足りない。

まだ、魔王軍には勝てない。

それだけは、ハッキリと分かるのだ。


それは、俺だけじゃなく他の全員が実感していることだろう。

最近の皆の表情を見ていれば分かる。


だからこそ、俺は今より更に強くならないといけない。

神器を待たない俺がいざという時に皆の足を引っ張らない為には、もっと努力して逆に小花代を助けてやれるくらいにならないと。


焦りが重い圧となって俺にのし掛かる。


 もう二度と大切な人を奪わせない。

 二度とあんな状況にはさせない。


俺は力の籠った手をほどき、訓練所を後にした。


ーーーー


食堂で夕食をとったあと俺は一人、夜の王城探索をしていた。

別段これといった理由が在るわけではないが、長年ボッチ生活を謳歌していた人間にとってこういう一人になれる時間は中々に落ち着くものなのだ。


こちらの世界はそろそろ梅雨に入ろうかとしている所で、今までは聞こえなかった蝉と蛙の声が混じって響いていた。


そう言えば、元の世界では外国に生息する奇妙な形や色をした蛙の仲間がよくテレビ番組で放送されていたが、はたして、蝉の仲間も日本以外に生息していたのだろうか。

この国は中世ヨーロッパって感じがあるからな。


うーん、俺の中では何となく、蝉は日本ならではって意識があったのだか今となっては知りようがないな。



しばらく歩くと王城の中庭にでて、立ち止まる。


元の世界といえば、帰還者組の皆は今頃何をしているだろうか。

確か、委員長と初めて話したのもこの場所だったな。


ついこの間のことがやけに遠く思いだせれる。


 委員長、俺の伝言は伝えてくれたかな。

 いや、テレビや新しい家族のことでそれどころじゃ無かったりして。

 まぁ、なんだかんだ彼女はしっかり者だし心配する必要もないか。


それでありながら、とうとう、話しすことが無かった帰還者たちの顔でさえ、ありありと脳裏に浮かんでくる。


一つ深く呼吸をして空を見上げて、光々しく輝く月に向かって手を伸ばす。



相変わらずどんなに力を込めても、我が相棒(ファントム·アビス)は発現してくれる気配がない。


 相棒おまえが発現してくれるだけで俺はかなり楽になるんだがな、

 いい加減、姿を表してくれないだろうか。


今度は深く溜め息を吐いて前に向き直る。

ハッキリ言って、現状俺の立場は中々に危うい。

魔族にしか扱えない『闇』を扱い、しかしながら、ほぼ一人の力で勇者パーティーを壊滅状態まで追い詰めた魔族を倒す実力を持つ、前代未聞の勇者。

国としても、あまり俺を重宝したくないが、現実俺が一番の戦力だから捨てがたいってとこだろう。


そんなこともあって、当初は周囲から訝しげな視線を送られることに抵抗があり、相棒が発現したとしても、はたして相棒あいつを手にして良いのか不安に思った時もあったが、今となってはそんな些細なこと最早どうでもよく思えている。 


所詮俺をよく知らない人々の畏怖や、同じく俺に手柄をとられたと思っているクラスメイトの嫉妬なのだ。一々気にしている方がバカみたいだ。

そんなことしている時間があったなら、俺のことを気にかけてくれている小花代や綾崎を守れる実力を、少しでも早く身につける方法を考えている方が良い。


そう思うと、身体の中で渦巻いていた黒い靄がスッキリと晴れて気が楽になった。


俺は再び歩き始める。


足音がコツンコツンと廊下の石に反響してゆっくり夜の闇に消えていく。


しかし、その足音と虫の音色を聞きながら暫く歩いていたとき、俺以外の廊下を歩く音が混じっていることに気がついた。


 こんな夜中に誰だろう。

 見回りの兵士だろうか。


そんなことを考えながら音のなる方へ静かに歩み寄っていく。

廊下の先の暗闇のなかにうっすらと人影が写る。


 「あれは......」


その男のシルエットはこの城にすみ始めて何度か見たことがあった。

廊下にコツンコツンと鳴っていたのは足音ではなく杖をつく音だった。

男は低身で薄汚れたローブと大きな帽子を被っている。全体的に暗い色な為かやけに、その長く伸びきった白い髭が目立った。


 アルバだ...


前にクリスと話したときに話題に上がった王宮魔術師団長の老人だ。

まだ数回程度しか顔を合わせたことしかないが、この世界に着て彼の悪い噂は何度か耳にしたことがある。

人間を実験台にして黒魔術師の研究をしているだとか、国家転覆を目論んでるとかどれも突拍子もないものばかりで、正直あまり良い印象を持たない。

人を上部だけで判断てはいけないと神楽代の件で嫌なほど学んだか、やはり、気になってしまう。


そんなことを考えている間にもアルバは薄気味悪いオーラを放ちながら、よたよたと廊下の曲がり角を曲がって行ってしまった。


 いつもなら、何事も無かったかのように立ち去る俺だが、今日の俺は何を血迷ったか、何やら嫌な予感がしてこっそりアルバの後を着けて行くのだった。

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