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闘後と日常

あれから数日が経過し、帝都では戦時中とは思えない程平和な時間が続いていた。

あの後、俺はダンジョンでの活躍が認められ、名誉なことに王から純金のメダルを授与された。

俺はてっきり城に眠る秘宝とかかなと思っていたのだが、存外大したものではなくて少しだけ期待はずれではあった。



相変わらずベルトランとシルバーによる訓練は行われているが、ダンジョンで死闘を繰り広げた後の訓練は最初ほどの鬼畜感は感じなくなっていた。


最近では各々の神器を使った模擬戦もメニューに加えられ、お互いの力量差がハッキリと分かるようになっていた。

俺は積極的に試合を申し込んで、出来るだけ沢山の人と対戦を行った。

そして、それらの模擬戦を通して自分が手にした魔属性の力は他の勇者とは比べ物にならない程の代物だということに気づいた。


 「...っ!」


キンッ!と音を立てて相手の剣が宙を舞う。

俺はすかさず相手の首元に剣を突き立て、相手は勢いに圧倒され地面に腰をついた。


 「まいった...」


相手が悔しそうに降参の意を表明する。


 「ふぅ···」


審判役の兵士が手を上げて俺の勝利を宣言したのを確認した後俺はゆっくりと剣を下ろした。

現時点で俺は8勝1敗という圧倒的なまでの戦績をのこしていた。


 今回は結構危なかったな······


しかし、一見順調そうに見える俺にも二つだけ悩みの種があった。

それは、俺の愛剣ファントム・アビスがダンジョン攻略以来、一度も発現してくれなくなったことだ。


アイビスとの戦いの後、我が愛剣は音もなく空間を歪ませながら消えていった。その時は、「まぁ、必要になった時にはまた出てくるでしょ。」くらいに思っていたのだが、数日経ってどんなに念じても俺の前に姿を現してくれないのだ。


幸いにも闇は意識すれば扱えるので、模擬戦では騎士団の適当な武器を借りてファントム・アビス代わりに使用しているのだが、やはりどこか手に馴染まない。

故に、充分に実力を発揮出来ていないのを鮮明に感じる。


 もどかしいな。俺はもっとやれるはずなのに...


俺は小さくため息をついて握っていた剣を放り投げた。


 「大丈夫か?いい勝負だった。またよろしく頼む。」


地面に座ったままの相手に手を差し伸べて言った。

しかし、彼は憎たらしく俺を睨むと、俺の手を振り払い一人で立ち上がり訓練所の外に出ていってしまった。


 クソっ!俺が何したってんだよ!


俺は振り払われた右の手のひらを眺めて、強く握りこんだ。



そう、二つ目の悩みとは周りの俺に対する態度についてだ。

元々神器を召喚できなかった俺はそれなりに周囲から浮いていた存在だったのだが、ダンジョンから帰ってきてからというもの、俺に向けられる疎外感は更に強くなっていた。


その理由の一つとして、俺が魔族と同じ闇を扱えてしまうと言うことがある。

闇は魔族が扱うものであり、その圧倒的な力への対処法として勇者が召喚された訳であって、召喚された勇者本人が闇を扱うというのは前代未聞で、国としては扱いに困るのだろう。

王城内で暮らしていても侍女たちとすれ違う度に、あからさまに非難の視線を向けられる。


だが、それは所詮王城にいる貴族や侍女たちの話であって俺の評価を下げる要因の一つでしかない。

俺がほかの勇者にまで嫌われてしまったのには別な理由がある。


それは、俺が対アイビスとの戦いで目立ちすぎたということだ。

アイビス戦において、自分より格下で使えないゴミだと見下していた奴が、全員でかかっても倒せなかった相手を、ほぼ一人の力で倒してしまったのだ。

やけに自尊心が強い彼らにとって、それはそれはプライドが深く傷ついたことだろう。

その結果だけで、他の勇者に恨まれる理由としては十分すぎだのだ。


自分達の並ぶ列から少しでも外れた行いをしたり、遅れることは許されず、もし目立ってしまったならば徹底的にその対象を排除する。


結局のところ、元の世界でもこっちの世界でも若干17才の少年少女達の考えることは何一つ変わっていないのだ。

今回はたまたま標的にしやすかったのが俺だったってだけの話。


だからこういうのは、無視して馴れてしまうのが一番いいのだと俺は無理矢理納得することにした。

諦めが着くし、何より自分の心が砕かれずに済む。


それに、勇者達の全員から嫌われている訳ではない。

何やら噂によると、桜羽や綾崎が頑張って俺の弁明をして回ってくれているらしいのだ。

らしいというのは、人づてに二人が俺のために誤解を解いて回っていると聞かされたからだ。


俺は実際その現場を目撃したことはなかったが初めて聞かされた時は充分気分が楽になれたし、何より、今まで一人で過ごしてきた俺にとって、俺を守ろうとしてくれる存在がいるという事実は大きな支えになった。


 アイツらが頑張ってくれてるのに俺が挫折する訳にはいかないよな!


そう思うと想像以上にスッキリとした気持ちで鍛錬に集中することが出来るのだった。


 とにかく今は修練に集中だ。模擬戦もベルトランには手も足もでなかったんだから······


そこまで、考えが至った俺は閉じていた目を開け地面に突き刺さったままの剣をもう一度強く握り直した。

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