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奈落の悪魔


男が不敵に笑う。

見た目は人族の青年のようだが、体に巻き付く黒い粒子と頭から伸びた禍々しい二本の角がアイビスが人族でないことを証明していた。


 こいつどっから入ってきたんだ!?

 しっかり気配探知を発動していたはずなのに察知出来なかった!


 「全員やつから離れろっ!!」


それまで勇者達の後ろで待機していた数人の騎士と魔術士が俺達を守るように前に出た。

しかし、兵の誰もが表情が険しく、緊張と言うよりもとてつもない恐怖を感じているようだった。


 「ハハハハハッ、そんなに怖がらないで下さいよ。私はただ任務を遂行しにきただけなんデスから。」


 「任務というのはお前達の危険となる前に勇者を殺してしまうことか?」


 「任務と言えばそれしかないでしょう?」


 「話しにならんな。それを俺達が容認するとでも?」


ベルトランが背中に背負っていた大剣を抜き、アイビスに向かって剣を構える。


 「そんなまさか。...しかし、実際に試してみなければ結果は分からないものデスからね。」


なおも、アイビスは余裕そうに答えた。


 「っ...!俺も舐められたものだな。たとえ魔族といえどもこの戦力差を覆す事は出来ないと思うがな。」


ベルトランの放った『魔族』という言葉が頭の中を木霊する。


 あいつが.....魔族なのか?


いや、アイビスが魔族だということはベルトランが言わなくても容姿や体からわき出るオーラで薄々感ずいてはいた。

だが、そう思いたくなかったのだ。

身体がそう思うことを拒んだのだ。

それ程までにアイビスがら滲み出るそれは今まで遭遇してきた魔物とは絶対的な実力差があった。


 「確かにそうデスね。現実的に考えて私一人で何人もの仲間を葬り去ってきた騎士団長や魔術士団長を相手にするのはさすがに無理がありますね。」


そこまで言ったところで、またアイビスは不敵に笑った。


 「しかし、貴方達さえ無力化してしまえばどうという事はありません。」


帝国兵達の立っている下に大きな魔法陣が浮かび上がる。


 「...なんだこの魔法陣は!?」


クリスが異変に気づき防御系の魔法を唱え始めるが少し遅かった。

瞬く間に魔法陣から溢れ出す黒い粒子が檻と鎖に変化し、ベルトラン達帝国兵を包み込んだ。

おそらく、アイビスの体に巻き付くあの黒い粒子がベルトラン達が言っていた『闇』なのだろう。


 「ハハハハハッ!本当に愚かな人間達デスね。どうして私がダンジョンボスを倒してまで先回りしたのか少しも疑問に思わなかったのデスか?」


目の前の光景に場が騒然とする。


 ...ダメだ。魔法操作のレベルが違いすぎる!

 少しもこいつに勝てる気がしない。


俺達が一斉にかかって行っても勝てなかったベルトランをいとも簡単に無力化されてしまった。

それにここまで強力な魔力をまとっているやつに俺達の持つどんな攻撃を放ったところで傷一つ付けられないだろう。


 こんな化け物とどう戦っても結果は動かない。

 なら、第一にどうしたらこの場から全員で逃げられるかを...


 「おや?もう逃げる算段をお考えデスか?残念ながらそのお考えには賛同出来ませんね。貴方達にはこの場で死んでいただかなければなりませんから。」


 「な...っ!?」


アイビスが俺の方を向いて言った。


 今俺の心を読まれたのか!?


不敵に笑ったアイビスの表情が重く重くのしかかって金縛りにあったかのようにピクリとも体を動かせなくなる。


 「いいデスねぇ。その絶望に打ちひしがれた表情はとても美味デス。」


アイビスが放つ言葉の一言一言が鋭い刃となって何度も何度も心に突き刺ってくる。

俺は圧倒的なまでの力の差に逃げ出すことも叶わず、ただ助けを待つしか出来なかった。


 呼吸ができない。息が苦しい。逃げたい。怖い。帰りたい。

 まだ生きていたい。死にたくない。死にたくない。

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない...


『絶望』の二文字に精神を支配されていく。

絶望と恐怖を感じる度にアイビスの笑顔がどんどん歪さを増していく。


 「そうデス、もっと絶望し、恐怖しなさい。そして、殺される最後の最後まで必死に私に命乞いをするのです!あぁ、想像するだけで身体中から喜びが溢れてくる!!」


両手を広げて天を仰ぐアイビス。

誰も動くことも叶わないままアイビスの笑い声だけが響く中、突然彼の背後に人影が現れた。


 「ごちゃごちゃ気持ちワリィこと言ってんじゃねぇぇええ!!」


巨大な甲鎧がアイビスに殴りかかる。


 「....佐藤っ!!」


惜しくもかわされた拳は地面に落ち、大きな地割れを作った。


 「てめぇらもてめぇらだっ!こんな貧相な魔族一匹に何びびってやがるっ!さっさと武器を取って戦いやがれっ!」


佐藤が血管がブチ切れそうな勢いで叫んだ。

いつもは目障りなだけなその叫びが何故か今だけは固く拘束された身体の自由を取り戻させてくれた。


 ...そうだっ!何を恐れることがあるってんだ。魔族が強いことぐらい前から知っていたことじゃないか。俺達はその魔族を倒すために召喚されたんだ。今こそ目的を果たすときだ!


 「...ああ、やってやろうじゃねぇか。あたし達を見下したこと後悔させてやるよ。」


 「俺もやるぜ!佐藤だけにいい思いはさせるかよっ!」


 「私もやります。ここで逃げるのだけは嫌なので。」


佐藤の叫び声をきっかけに一瞬で場の空気感が変わる。


 「よし、これまで通り俺が指示を出す。まずは落ち着いて皆で協力し合って確実にあの魔族の体力を削っていくぞ!!」


神楽代の指示で生徒達が戦闘態勢についた。


 「前衛、中衛は攻撃の準備!」


 「「よしっ!」」


 「後衛は前衛に強力魔法を!」


 「「よしっ!」」


 「一気に攻めるぞ!」


攻撃の合図と共に攻撃隊がアイビスに向かって一斉に攻撃を仕掛ける。

それぞれの神器から繰り出される技の数々は全てアイビスに直撃する。

しかし、全ての攻撃はことごとく闇に遮られた。


 「チッ!余計な手間をっ...」


アイビスも何とか技をしのぐがそれで手一杯みたいだった。


 「その調子だ!相手も攻撃を防ぐのに必死になっている。このまま押し切るぞ!」


神楽代の掛け声で更に技の精度が上がっていく。

俺もなんとか食らいついていくがいとも簡単に跳ね返される。


 クソがっ!これじゃ何の役にも立てない!


少しずつ焦りが積み重なっていく。

身体強化のスキルと剣技だけでは絶対に届かない。


 せめてやつの隙を作るくらいはっ...


その時、アイビスの周囲を覆う闇が一部分薄くなっている事に気がついた。


 あの中に入り込めればもしかして...


迷わず駆け出した。


 「剣技!!剣聖のイカヅチ!!」


黄色い斬撃が黒い壁を切り裂いた。

その斬撃の隙間から直接アイビスに切りかかる。


 「ぐっ...!?」


神器から放たれる技の対処に気を取られていたアイビスに奇跡的に一撃をくらわせる。

その瞬間囲っていた闇が崩れ去った。


 「今だっ!たたみかけろ!!」


それに気づいた神楽代が指示をとばす。

他の勇者達が放った技はアイビスにクリーンヒットした。


 「ガハ....ッ!!」


さすがにダメージを負ったであろうアイビスは口から血を吐いてその場にしゃがみこんだ。

辺りからは勝閧の声が上がる。

その後、生徒の集団の中から神楽代が出てきてアイビスの方へと歩き出す。


 「勝負は着いた。観念して騎士団長達を解放してもらおうか。」


神楽代が剣先を突き立ててアイビスに言った。


 「...」


だが、アイビスは返事どころか少しも動かない。


 「おい!聞いているのか!?」


 「...」


異変に気づいた生徒達も勝利を仰ぐのをやめ様子を伺う。


 「死んでいるのか?おい!聞いて...」


 「ゆ...さん。」


黙秘を続けていたアイビスがボソッと何か呟いた。


 「...なんだ?」


神楽代がアイビスの肩に手をかける。

が、肩に触れる寸前アイビスの体から出てきた闇に阻まれた。


 「...許さん、許さんぞ貴様ら!!!」


アイビスの雄叫びと同時に闇が急流のように溢れ出た。


 「うっ....!!」


小さな黒い粒子の流れに視界を遮られる。


闇の放出が止まり視界が晴れた瞬間突如目の前に現れたアイビスが神楽代を蹴り飛ばした。


 「っ....ゴホッ!!」


壁に打ち付けられた神楽代はそのまま気絶したのか動かない。


 何が起こった!?


一瞬の出来事に処理が追いつかない。

体は考えることよりも先に防御態勢を取っていた。


 「...許しませんよ勇者共。私に傷を負わせた愚行をその命で支払って貰いましょうか。」


周辺に散らばっていた闇の粒子がアイビスの両足と両手だけに集められていく。

そしてその形は鋭い魔物の手と鉤爪の形に変化した。


 なんだよ、この膨大な魔力量は!?

 こんなのに勝てる訳ないだろ!?


アイビスはまた不敵に笑った。


 「さあ、蹂躙の始まりデス。」

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